風呂上り、油断していたヒースの手を縛り、えいやと寝台に転がし押し倒した後。
その腰にまたがったまま、ティアは固まっていた。
たっぷりの沈黙のあと、ティアは困り果てて眉を下げた。
「えっと、ヒースさん……」
「……なんだ」
情けないような、諦めたような、どうにでもしてくれといわんばかりの、
なんともいえない顔をしたヒースがティアを見上げる。
「これから、どうしたら……」
「……好きにすればいいだろう」
確かに、押し倒したのはこちら。ヒースの手を縛ったのもこちら。
好きにするのは、ティアだけしかできない。
自分だけ。
その事実を噛み締めた瞬間、ぶわっと羞恥が込み上げた。
はしたないかもしれないけれど、でも、ナナイだってこうしてみたらいいわよ、
といっていた。きっと喜ぶと、助言をくれた。
それにこの前だって、ヒースは喜んでくれたし。次は自分の番で間違いないはず。
意を決し、ティアは震える指先を伸ばした。ヒースのシャツに手をかける。
人の服を脱がせるのが、こんなにも難しいなんて。
いつもヒースさんはすぐに私のこと裸にしちゃうのに……。
ほんのりと頬を染め、そんなことを考えながら、
なんとかボタンをすべて外し終えたティアは、ゆっくりとシャツをひらいた。
「あ……」
逞しい筋肉に覆われた身体を見下ろし、ティアはさらにもう一段階頬を染めた。
いつも見慣れているだろうといわれればそうなのだけれど、
やはり照れる。
するり、その肌に手を添える。自分とは違う、堅い体。
しっかりとついた筋肉が、ティアの指先の下、ぴくりと動く。
肌の香りや皮膚越しの熱と鼓動は、ティアをいつも包み込んでくれるもの。
そっとティアは上半身を傾けて、ヒースの首筋に顔を埋めた。
いつもヒースがしてくれるように、するすると唇をすべらせ、
左右に伸びる鎖骨の窪みを舌先でくすぐる。
厚い胸板をたどたどしく撫で、顔をあげる。
じっと、ティアの一挙手一投足をみつめる男の瞳と視線が絡む。
自分のしていることが、とんでもなく恥ずかしい。
だが、いまさら後には引けない。ぼうっと熱に浮かされたような心地のまま、
ティアは再び顔を傾けた。
ちゅ、ちゅ、と小さな口付けを残しながら、胸からゆっくりと割れた腹筋へ、
そしてさらなるその先へと顔を移動させていく。
長い足の間にすっぽりと収まったティアは、ゆっくりとヒースのズボンに手をあてた。
そこはすでに膨らみかけていて、ティアは小さく息をのむ。
「ティア……」
「ふぁ、はいっ」
急に声をかけられて、ティアは肩を跳ねさせた。
「体を起こしていいか? 手首が痛い」
「わ、わかりました」
この前の自分とは違い、後ろで手を結ぶヒースは、仰向けでいるのが辛いらしい。
ティアが承諾すると、腹筋が締まり、ヒースの体が勢いよく起きる。
ちょうど足の間にいるせいで、ティアはヒースに見下ろされる形になって、
慌てて顔を伏せた。
ちりちりと降り注ぐ視線にいたたまれなさを感じつつ、
ティアはそっとヒースのベルトに手をかけた。
「……わ、っ!」
ズボンの前をくつろがせ下着をずらすと、それ単体で生き物であるかのように、
ヒース自身が頭をもたげてティアの前に立ち上がった。
こうやって間近でみるのは初めてのことだった。
ティアは目を丸くして、まじまじとそれをみつめた。
いつも、これが自分の中に収まり、あんなにも乱してくる熱なのだと思うと
身体が勝手に火照った。
そっと指を絡め、さすってみる。
「ん、」
ヒースの唇から吐息とともに漏れた声。ぴく、と小さく震えたものに、
ティアは愛しさを募らせる。
自分でも、気持ちよくさせてあげられる。いつもはしてもらってばかりだけれど、
今日はしてあげられる。
ティアは、ゆっくりと手を動かしながら、ヒースを見上げた。
「ヒースさん……あの、どこが、気持ちいいんですか……?」
「っ! そういう、ことを……きくのか、君は……!」
息を荒げながら、ヒースが頬を引きつらせる。
「だ、だって、いつもヒースさん、きいてくるじゃないですか……!」
ヒースがしてくれるときは、いつもそうだ。
どこがいいのか、ここがいいのか、とか。ここが好きだったな、とか。
だが、口を引き結んだままで、どうして欲しいとはいつまでも言おうとしないヒースに、
ティアはむっと眉を顰めた。
こっちにはいつも言わせるくせに。
「もう! いいです! 好きにしますから……!」
そういえば最初に、好きにしろといわれていた。
だったら、何をしたってどうこういわれる筋合いはない。
えーと、声を漏らし、硬さを増していくヒースを撫でながら、
ティアはナナイの言葉を思い出す。
確か、こうしたらいいといっていたような。
つ、と顔を近づけると、ヒースがぎょっと目を見開いた。
「待て、ティア、……っ!」
焦るヒースの制止を聞かず、くぷ、とティアはその先端を口に含む。
そのまま、舌先を押し当てて形をなぞる。
小さなティアの口には、ヒースは大きすぎて、すべてを包むことなど
到底出来ない。
雄の匂いにむせかえりそうになりながら、だが、ティアは懸命に
今の自分が出来る最大の行為で、ヒースを愛していく。
唾液が滴るくらいに先端を嘗め回したあと、ティアは口を離し、顔を傾ける。
筋を辿るように舌を動かし、先端をそっと撫でながら、根元部分に口付ける。
ティアがそんな行動にでるたびに、ヒースの体が脈打つ。
あまりにも素直なその反応に、ティアは蕩けるように微笑んで、ヒースを見上げた。
「ヒースさん、可愛い……」
「……っ!」
息を荒げ、眉根を寄せたヒースが、耐えるように目を伏せる。
その表情に確かな快楽が見え隠れしている。
ヒースが、自分の行為に感じてくれている。
漂う男の色香に、ティアはくらくらと眩暈を覚えた。
じんわりと体の奥が、熱く潤んでいく。
もじ、とティアは膝をすり合わせた。
そういえば、するということは、してもらえないということなのだと気付く。
いつもなら、ヒースの指を食べさせられている場所が、刺激を求めて蠢く。
いつの間にこんないやらしい子になっちゃったんだろう……。
ヒースと愛し合うことで作り変えられた自分の身体に戸惑いながら、
ティアは物欲しそうに潤む瞳をみられぬよう顔を伏せ
愛撫する指と舌先に神経を集中させた。
「ティア……もう、いい……く、うっ」
やがて切羽詰ったヒースの声が、降ってくる。
「ん、ん……ひーす、さん、すき……」
しかし、ティアは手を離さず、むしろ追い上げるように強めに擦り上げ
その先端に吸い付いた。
「あ、く、ティ、ア……!」
「……ふぁっ!」
びくり、ヒースが震える。
次の瞬間、弾けるように、熱く白いものが噴出した。
ティアは思わず口を離して、ぎゅうっと目を閉じた。
ぽたぽたと、髪に頬にかかるものがやがて静まると、ティアはそろそろと瞼を持ち上げた。
ゆっくりと肩と胸を上下させたヒースが、どこか呆然とティアを見下ろしている。
視線が絡むと、ヒースは表情を崩して、深く息を吐き出した。
「ヒースさん……?」
なにかまずかっただろうかと、ティアが身体を起こすとヒースが無言で背を向けた。
「……外してくれ」
感情の伺えない言葉に、びくっとティアは肩を震わせた。
怒っちゃったのかな……、そう思いつつ、そろそろとヒースの手首の縄を解く。
開放された手首を回し、ヒースが寝台から降りる。
しなやかな筋肉に覆われたその背が遠ざかり揺れるのをみつめながら、
ティアは目頭に火をともした。
「ふ、ふぇ……う、ひっく……」
ひくつく喉が押さえられず、ティアが声を漏らすと、ヒースがゆっくりと近づいてくる。
「なぜ、泣くんだ」
ティアの傍らに腰掛けて、ヒースが息をついてそう問いかけてくる。
「だ、だって、う……怒っちゃったんじゃ、ないんですか?」
ついついナナイの言動に踊らされたけれど、ヒースに気持ちよくなってほしいという
願いは、本物だった。怒らせるつもりなんて、なかったのに。
「……怒ってはいない」
小さなため息とともに、否定の言葉をヒースは呟いた。
ぱ、とティアは顔をあげる。
「じゃあ……?」
どうしてと言う前に、ヒースの手が伸びてくる。
「ちょっと自分が、情けなくなっただけだ」
ベッドからおりて、とりにいったタオルで優しくティアの顔を拭いながら、
ヒースはそう伝えてくる。
「君にいかせられるとは、思わなかった」
「……じゃあ、怒ってないんですか?」
「ああ」
今一度の確認に、すぐさま頷いてもらえたことに、
ほ、とティアは息をついた。
その穏やかな顔をみて、ヒースがゆっくりと唇を寄せてくる。
「だが、なんだ……あまり外で聞かされた内容を、そう素直に試そうとしないでくれ」
「だめ、でしたか?」
しゅん、と頭を下げると
「いや」
く、とヒースが互いの吐息が交じり合う位置で笑う。
「そういうことは、なるべくというか……全部、オレが教えてやりたいだけだ」
「あ……」
そういうことですか……、とティアは頬を染め上げ、睫を下ろす。
うつむいたせいでさらす事になったティアの額に、口付けが降る。
「……ヒースさんの、えっち」
暖かな唇が離れてすぐに、ティアはそういって軽く睨んだ。
「男ってのは、そういうもんだ」
精一杯の視線も、にやりと笑うヒースには、効果がなかったようだ。
しかし、自分の体はすでにヒースしか受け入れられないようになっているというのに
これ以上何を教えられるというのだろう。
そんな期待に、また体の奥底がじんわりと熱を持った。
それを見透かしたように、ころり、寝台に転がされる。
「あ、ヒースさん……」
ゆっくりとヒースに覆いかぶさられて、ティアはうっとりと声を漏らした。
自分が乱したあのヒースも素敵だけど、こうして自分を見下ろす獲物をみつけた
獣のような瞳のヒースの方がやはり格好いい。
するり、足の間に長く骨ばった指が滑り込んでくる。
「ん、んぁっ……」
くちゅくちゅと泡立てるようにされて、ティアは待ち望んだ感覚に
身をくねらせた。
「慣らす必要は、ないみたいだな」
「……はい……」
目元を赤く染め、ティアはゆっくりとヒースの首に手を回す。
「して、くれますか……?」
「ああ、もちろん。オレがひとつになりたいのは、君だけだからな」
額を触れ合わせそう言葉を交わし、二人は笑い合いながら互いに溺れていく。
満たし満たされ、ともに上り詰めて果てる。
その幸福は何ものにもかえがたい。
「ヒースさん、愛してる……」
そう告げると同時に、熱く潤む場所へと愛しい男から楔を打ち込まれ、
脳天へと駆け上がった快感に、
ティアは顎を仰け反らせて艶やかな鳴き声をひとつ、あげた。
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