「……無理、だな」  
涙目のティアが、しゅんとして俯いた。  
ティアと恋人同士になって、ようやくたどり着いた夜の寝台の上、  
互いに生まれたままの姿を晒した二人の間に、気まずい空気が流れる。  
話は単純だ。  
二人の体格差が大きく、かつヒースが人並み以上で、  
ティアが初めてであることを考えれば答えはひとつだ。  
はいらないのである。  
そんな事実に、ヒースは頬を掻いた。  
できれば今すぐにでもひとつになりたいところだが、ティアを傷つけるのは本意ではない。  
しょうがない、と眉を下げてヒースは小さく笑う。  
「まあ、なんだ。無理せずに少しずつ慣らしていくしかないな」  
「……ごめんなさい。ヒースさん……」  
ぐす、と鼻を慣らすティアを安心させるように、ヒースはそっと抱きしめる。  
「なに、気にするな。そのうち、な」  
「……はい」  
ここまで耐えてくれたことに感謝しつつも、この高ぶった熱をどうしたものかと、  
ティアに知られぬように息をつく。  
ティアが寝静まるまで、どこまで我慢できるのか、試練の始まりだった。  
 
 
そんな初めての夜をすごし、どうにかこうにか結ばれたのがそれから約一ヶ月後。  
ティアには非常に辛い思いをさせたのだが、それでも幸せだと笑ってくれた。  
そして二ヶ月がたった今日、帝国へと皇子からの書状を届け、  
ローアンへと向かう道すがら、ヒースは木陰でわずかな休憩をとりつつ、  
傍らの荷物を引っ張り寄せる。  
ごそごそと中身を漁り、取り出したのは淡い紅色の硝子でできた小瓶だ。  
木漏れ日を浴びて、きらきらと輝く様はとても可愛らしく美しい。  
年頃の女の子がみたら喜びそうな品だ。  
帝国に戻り、気の置けない友人と酒を飲み、酔った勢いで話したことに対して、  
「選別だ、もっていけ」と渡されたものだが、中身はとんでもないものがはいっている。  
「媚薬……か」  
どこか気の抜けた声があたりに響く。  
あのにやけた顔を思い出せば、冗談のような気もする。  
かといって、本物である可能性も否定できない。  
確かに、幾度身体を重ねても、ティアはただ辛そうなばかりで、  
自分だけが気持ちよくて申し訳ないやらなんやらいってしまったような気がするが、  
それに対しての応えがこれ。  
快感、というものをよくわかってないから、余計辛いのだと悪友に説得され、  
ついつい受け取った自分はどうかしている。  
応援されているのか、からわかれているのか、よくわからない。  
かといって捨てることもできない自分の浅ましさに、ヒースは乾いた笑いを浮かべた。  
「ま、使うと決まったわけでもなし……」  
いそいそと、ほんの少しの期待と一緒にそれを再びしまいこむと、荷物を担ぎ上げる。  
ローアンまではもう少しだ、さっさと愛しいティアに会いに行こう。  
そう考えて、ヒースは足を踏み出した。  
 
 
「ヒースさんっ!」  
帰る日を伝えてあったせいか、世界の十字路の真ん中で、ティアが手を振っている。  
二週間程度とはいえ、久しぶりの恋人の姿に自然とヒースの頬が緩んだ。  
「ティア、待っていてくれたのか?」  
「はいっ、お帰りなさい!」  
零れんばかりの満面の笑みで、ティアがヒースを出迎えてくれる。  
「お帰りなさい、か……」  
遠慮なしに抱きついてきたティアを受け止め、ヒースは繰り返す。  
「どうかしましたか?」  
「いいや? ただいま、ティア」  
そういってくれる者がいることがどれだけ嬉しいことか、  
わからぬうちに成し遂げた恋人の頭を、遠慮なしに撫で回す。  
きゃあと歓声をあげたティアを愛しく思いながら抱き上げて、  
ヒースはひとまず恋人の家へと向かった。  
 
皇子への挨拶やらを済ませ、ティアの手料理を堪能して、すでに夜。  
小さな寝台の上には、途切れ途切れに肩で息をするティアがいる。  
衣服は取り去られ、美しい肌の上ではランプの明かりが揺れている。  
それなりに経験があり、わりと自信があるほうだが、ティアを相手にすると  
上手くいかない。  
相変わらず辛そうなだけで、ティアの中心がすぐに潤うこともない。  
二週間離れていたせいで、ほぐれかけていた身体が戻ってしまったのかもしれない。  
「うーん……」  
むむむ、とヒースは眉を顰めた。  
やはり体格差はいかんともしがたい。かといって自分の欲を制御できるかというと、  
はっきりいって無理だ。しかし、ティアに無理をさせたくもない。  
ぎゅ、と目を閉じ、本人に自覚はないだろうが強張ってしまっている身体が、痛々しい。  
脳裏に、あの小瓶の影が過ぎる。  
ティアの辛さを少しでも和らげることができるなら、使ってみるかべきかもしれない。  
効いたらそれでよし、効かなければいつもどおりにやるだけだ。  
組み敷いたティアの上からどいて、寝台を降りようとしたところで急に腕が捕まれる。  
「ヒースさん、どこにいくんですか……!?」  
「いや、ちょっと……」  
媚薬をとりに、とは言えずに口ごもる。  
それを悪いほうにとらえたらしいティアが、その瞳にさきほどとは違う涙を滲ませる。  
「わ、私がちゃんとできないから……やめちゃうんですか……!?」  
「は?」  
「私、大丈夫ですから……! だから……っ!」  
どうやら、やめないで、といいたいらしい。  
その必死な様子に面くらい、次いでそのいじらしさに  
思わずティアをそのまま押し倒したくなった。  
そこをなんとかこらえて、腕にはりついたティアをそっと引き剥がす。  
「少し、待っててくれ」  
そう言って、ヒースは床に下ろしてある自分の荷物に向かうと、小瓶を取り出した。  
ベッドの上でシーツにくるまり、不安げに瞳を揺らすティアの傍らに腰掛けて、  
その顔を覗き込む。  
 
「これ、なにかわかるか?」  
「……いいえ?」  
「なに、ちょっとしたおまじないの品だ」  
「おまじない?」  
「そう、お互いが気持ちよく過ごすための、な」  
嘘はついていないが、若干の罪悪感が込み上げる。  
だが、それはこの際無視することにする。  
ヒースが小瓶の蓋をあけると、花のような香りが広がった。  
どれくらい効力のあるものかわからない以上、あまり口にさせるわけにもいかないので、  
ヒースは自分の指先に一滴だけ中身を乗せる。  
蜜のようにとろりとしたそれを、ティアの鼻先に差し出す。  
「ほら、なめてみろ」  
「ええっ」  
いきなりのことに戸惑うティアへと、さらに指をだす。  
「こぼれるぞ?」  
「あ……!」  
そう急かせば、慌ててティアがヒースの指先に吸い付いた。  
柔らかな唇の感覚がくすぐったい。指の腹を撫でるティアの舌先の動きに、  
ヒースは堪えるように目を細めて息をついた。  
自分でやらせておいてなんだが、これはくる。  
ちゅ、と小さな音をたて、ティアの唇が離れる。  
「あまくて、おいしい……」  
そんな素直な感想に笑いながら、小瓶の蓋を閉めて、張り出した窓枠にそれを置く。  
「ヒースさんは、おまじないしないんですか?」  
「ん、オレか? オレはいいんだ」  
いつだって、欲望のままにティアを求めているヒースには、媚薬なんて必要なかった。  
「さて、続きといこう」  
「ひゃっ」  
ティアの上半身を優しくベッドへと押し戻して、ヒースは笑う。  
頬を染めていくティアに口付けながら、その肢体を隠すシーツを引きずり落とした。  
 
会えなかった時間を埋めるようなキスを交わしながら、  
ヒースはティアの肌を先ほど以上に、優しく辿っていく。  
どのくらいで効力が現れるかもわからない以上、様子を見る必要があった。  
細い首に鼻先を寄せ、膨らみかけの胸に、指をじっくりと這わせていく。  
「や、ぁぅ!」  
そしてその肌の感触をたっぷりと楽しんだ後、  
つん、と立ち上がって震えている蕾をいたずらにひっかくと、  
鼻にかかった甘い声が上がった。  
その様子に、ヒースは思わず顔を上げた。  
「あ、ヒースさん、や、だ……私、今……」  
自分でも驚いたらしいティアが、首筋までも真っ赤にして、顔を覆って小さく頭を振る。  
もう一度確かめるように、指先で刺激を与えてみる。  
「んっ、んんっ、あんっ!」  
幼さの残る体が、それにあわせて跳ねる。  
「や、やだぁ……!」  
いつもとは違う感覚に混乱しているティアに、ヒースは目を瞬かせる。  
どうやら、媚薬が効いてきたらしい。  
「本物だったのか……」  
白い肌を上気させ、少しずつ官能に酔っていく様をまざまざとみせつけられて、  
思わず呟いた。  
「……ふぇ?」  
不思議そうに、熱っぽく潤んだ瞳でティアがヒースをみあげてくる。  
なんでもないと告げたヒースは、躊躇うことなくティアを崩しにかかる。  
今のティアならば、辛さは快楽にすり替わるはず。  
「や、やぁん!」  
赤く色づいた頂を口に含み、舌で転がし押しつぶす。  
ヒースの頭をどかそうとティアの手が伸びてくるが、まったく力がはいっていない。  
もう片方を、少し強めに指の腹ですりあげる。  
幾度も幾度も、しつこいくらいに両胸の飾りを弄る。  
「あ、あぁっ、ヒースさん、やだ、やだぁっ」  
そんな嫌がる声もなんだか心地よい。  
自分はそんな趣味があっただろうかと自問しつつ、  
ヒースはティアの足の間へと手を差し込んだ。  
 
手の甲で滑らかな感触をさすりあげ、指先を伸ばす。  
その動きに気付いたティアが、身を捩った。  
「あ、だめ、だめです、ヒースさん……!  
わ、わたしなんだかおかしくて……だから、っ……!」  
足の付け根に到達した指に、熱く粘着質のものがまとわりついてくる。  
いつもなら、この一本でさえ進入を拒む場所の入り口が、  
すでに柔らかく潤んでいる証拠だ。  
遠慮なしに指を捻じ込むと、ティアが仰け反った。  
「ひぁ、あんっ!!」  
「ティア、」  
くす、と小さく声を零して笑い、羞恥に顔を背けているティアの晒された耳に  
口を近づけて囁く。  
「濡れてる」  
「っ!」  
きゅうと締まった中の感触を楽しむように、指を動かす。  
くちゅくちゅと部屋に広がるいやらしい水音と、  
それを嫌がり恥ずかしがるティアの痴態に当てられたように、  
ヒースの興奮も高まっていく。  
さきほどから熱が集まりだしていた中心が、ひどく疼いて仕方がない。  
だが、まだティアの可愛らしさを楽しみたいヒースは、そこから必死に気を逸らした。  
「すごいな、まだ触ってもいなかったのに」  
「ふ、ぁ……や、そ、そんなこと……!」  
「違わないだろう?」  
「んんっ!」  
指を収めている場所よりやや上の、敏感なそこを親指の腹で撫でた後、  
押しつぶすように刺激してやると、ティアが身体を大きく震わせた。  
「あ、ああっ……!」  
そのまま、さらに蕩けていくようにヒースは指を巧みに動かしつつ、  
ティアの感じるとこところをじっくりと探していく。  
もうひとつ犯す指を増やしても、ティアは甘い声をあげるだけだった。  
そして、ある箇所を指が掠めたとき、ひときわ大きくティアの腰が跳ねた。  
大きく見開かれた次の瞬間、ぎゅうと閉じられた瞳とその表情に、ヒースは唇をなめた。  
「ここか」  
「〜〜〜っ!!」  
声にならない嬌声をさらに引き出すように、  
ヒースは激しくときに優しくそこを攻め立てていく。  
「は、あ、あああっ……! いやぁっ、ひー、す、さ……ふあっ!」  
小刻みに痙攣を起こし、締め付けるその心地よさに、ヒースは熱い息をこぼした。  
これならいける。  
指を引き抜くと、ヒースは下穿きに手をかけた。  
 
「っ!」  
晒されたものに、ティアが息をのむ。  
「あ、うそぉ……! きゃ、やぁ!」  
いつもと違う大きさに、反射的に逃げようとする身体を引き寄せ、  
ティアの膝裏に手をかけ大きく広げさせる。  
さらけ出された場所は赤く柔らかに綻び、男を誘うように震えていた。  
ごくり、と喉が勝手に上下する。  
そこに、ヒースは自分の欲望をぐいと押し付けた。  
二週間ぶりということもあって一際逞しいそれをぬるぬると擦れ合わせるたび、  
駄々をこねる子供のように頭を振って快楽と不安の涙を零すティアに、劣情が募る。  
今すぐにでも、ぐちゃくちゃにしてやりたい衝動に駆られる。  
「大丈夫だ……できるだけ、力を抜いていろ」  
「はぅ……っ!」  
返事を待つことができず、ヒースはぐいと腰を押し出した。  
いつまでも処女のように固く閉ざされていた入り口が、  
さらに奥へといざなうようにヒースの先端を飲み込んでいく。  
どこまでも深く沈みこむような感覚に、ヒースの肌が粟立つ。  
すべておさまったことを教えるように、ゆるゆると突き上げると、  
ティアが甘く鳴いた。  
その表情に、いつもの苦痛は微塵もない。  
「ティア……どうだ?」  
「あ、あっ、やぅ……ん、そんなの、わかり、ませ……んぁっ!」  
「そうか、じゃあ、ちゃんと確かめるんだ」  
今与えられているものが快楽だと教え込むために、ヒースは腰を動かしはじめた。  
「はっ、あ、そんなに、うごいちゃ……だめっ……いやぁんっ」  
互いの荒い息遣いと、ぶつかる肌の音、そして繋がった場所から途切れることなく  
触れ合う音が部屋中に響く。  
「だめ、じゃ、なくて……ふ、気持ちいい、だろう?」  
額に汗を浮かべ、ヒースはティアの中を乱していく。  
ティアの台詞とは裏腹に、内部はうねってヒースに蕩けるような快楽を与えてくれる。  
滴る蜜が、互いの下半身を濡らしていく。  
さきほど探りあてたティアのいい場所を、抉るように幾度も突く。  
そのたびに絡みつくティアの熱く柔らかな内壁に、ヒースも追い上げられていく。  
「ふっ、くぅ……あぁ、や、おかしく……なっちゃう……!」  
「は……く、ティア、ティア……!」  
ぐいと身体を折り曲げ、口の端に唾液を光らせながら甘い声を零し続けるティアに、  
噛み付くように口付ける。  
深く舌を差し込めば、ティアのほうから舌を絡めてきた。  
そのたどたどしい動きが、たまらない。  
上も下も、ふたつがひとつと錯覚するくらいに溶け合っていく。  
意識が白み、酸欠になる前にヒースが唇を離すと、酸素を求めながらティアが声をあげる。  
「きもち、いい……! あふっ、きもち……いいようっ……!」  
その言葉に、己の熱がさらに増すのを感じ、ヒースはティアに覆いかぶさった。  
「ティア……!」  
深く浅く、快楽を高めるためだけに動き始めたヒースに対し、  
ティアはがくがくと全身を震わせ、それでもさらにその先を夢中で求めている。  
「くっ……!」  
やがて、堪えられなくなったヒースは、ティアの一番奥を押し上げるようにして、  
熱い精を放った。  
打ち込まれた楔の脈打つ感覚に、ティアの身体が、びくんと大きく震えた。  
「んぅ! あっ、あぁぁっ!」  
細く白い足を男の腰に淫らに絡ませ、  
内壁を今まで以上に痙攣させてヒースを締め付けながら、  
ティアも同時に頂点へと登りつめた。  
 
媚薬を含み、いままでにない快楽に翻弄されるティアと、  
初めての心身ともに満足いく交わりにおさまりのつかないヒースが、  
一度で終わるわけもなく。  
しかし、体力の限界に差はあるもので、幾度か互いに達した後、  
ティアはぷつりと意識を飛ばしてしまった。  
無理をさせた恋人の髪を撫でながら、ヒースは息をついて視線を動かす。  
その先で、あの小瓶がランプの光を浴びて、妖しげに光っていた。  
まるで、たちの悪い店の主に、またどうぞと誘われているようだ。  
がしがしと頭を掻いて、煩悩塗れの意識をなんとか飛ばしたヒースは、  
明かりを消すと、身を清めてやったティアの隣にもぐりこむ。  
すやすやと眠るティアを抱きしめ、瞳を閉じる。  
瞼の裏を過ぎるのは、ティアの痴態と媚薬の小瓶。  
癖になりそうで困るな、と思いながら、ヒースはティアの寝息に連れられて、  
眠りの世界に落ちていった。  
 
 

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