そう、あれは、一人の少女によって世界が救われた数ヶ月後の出来事だった。  
 
空に満月が宿る夜、ある一人の青年が、自宅近くの桟橋で眠れぬ時を過ごしていた。  
彼―レクスの心の中にいるのは、自分がかつて妹のように思っていた少女。  
今はもう遠い存在のように感じざるをえない。彼女は英雄だ。  
「へっ………。今まで対等だと思ってたのによ。もう手が届かなくなっちまって……」  
宴の夜、たっぷりの皮肉を込めて言ったつもりだったのに、彼女は出会った時と同じように笑って、優しく手を握る。  
「何言ってるの。今ここにいるでしょう? …ほら」  
自分の皮肉すら笑顔で受け止めてくれる。そんなティアに、恋をした。  
 
恋をした男はなんて不憫なんだろう。  
どんなに純粋な気持ちでいたとしても、愛する人を邪まな目でしか見れない。  
愛する人の体を貪り、ひとつになり、己の欲望をぶちまける事を秘かに思い、股間に手を伸ばす。毎日それのくりかえしだ。  
そんなことしか今のレクスには出来ない。つくづく煩悩というものは恐ろしい。  
 
「ならば想いを伝えればいいのに」そう思う者も少なくはないだろう。  
しかし、その言葉を口にする者に、彼はぶっきらぼうにこう返す。  
「うるせぇな。……そう易々と口に出せるなら、こんな苦労はしてねーよ。」  
まったく、その通りである。  
自称硬派の彼だ。どこかの色好みの爺さんのように、愛の言葉をほいほい口に出したりなどできやしない。  
それに、幼なじみで兄貴分という、異性の中では最もティアに近いポジションが、彼に余裕を持たせているようなのだ。  
 
だが今日、レクスは痛感した。もはや彼に、余裕など残されていないことを。  
 
まず初めに、広場の隅で奇妙な光景を見た。  
「この花のように可憐な君だけの勇者になりたいんだ!」  
その正体は、ティアの写真を幹に貼り、何やら予行演習をしているデュランだ。  
歯の浮きそうな臭い台詞に、作っているのがバレバレの勇ましい表情もどき。なぜか痙攣を起こしている足。極めつけはプレゼントには最も適さないと言われているジャジャバナの花束だ。  
さすがにこんなのに危機感を覚えるほど、レクスの頭は弱くない。問題はここからだ。  
 
街へ向かうと、噴水の前で何やら婦人たちが談笑しているではないか。  
「ねぇ御存じ? 英雄様を狙ってる殿方がたくさんいらっしゃるそうよ。」  
「いくら世界を救ったとはいえ、年頃のお嬢さんですもの。浮いた噂の一つや二つ。」  
「小説家のカムイ氏や商人のロマイオーニ様、グスタフ道場のご子息、サミアドの青年やダンディーな将軍様など」  
「まあそんなに!」  
「驚くのはまだ早くてよ。噂によれば、帝国のヴァルド皇子が求婚すると」  
聞き耳なんか立てるんじゃなかったと後悔すると同時に、危機感が芽生えだした。  
小説家、商人エトセトラは大目に見たとしても、王族が出てしまえば勝ち目はない。  
しかも相手は容姿端麗、頭脳明晰、性格優良と名高いヴァルド皇子とは。あまりにも分が悪すぎる。  
レクスが眠れない夜を過ごしている一番の要因はそれである。  
 
「先手必勝で告白すれば万事解決」大半がそう思うだろう。  
しかし、彼はやはりぶっきらぼうにこう返す。  
「うるせぇな。……そう易々と口に出せるなら、こんな苦労はしてねーよ。」  
まったく、その通りである。だが、そんなことは言っていられない。  
「先手必勝」。もはやこれしか残されていなかった。  
 
後のことや失敗した時のことなど、細かいことは一切気にせず、足早にティアの家へと向かった。  
 
レクスは今、勢いだけでここへ来てしまったことを若干後悔していた。  
まずは様子を見ようと家の裏に回ったことも失敗だった。  
淡い色の光が漏れ出る窓の内側では、水音と鼻歌が聞こえる。  
レクスが必死に顔を背けようとするそこには、ティアの滑らかな裸体がある。  
覗いたのはほんの一瞬だけだったのに、それはレクスの脳裏にくっきりと焼き付き、離れようとしない。  
白い肌にほんのり赤みががかり、しかも水で濡れているためかやけに艶っぽい。  
優美な腰のライン、ほっそりとした四肢、形の好い膨らみかけの胸、ほとんど生えていない下の毛……それらすべてが彼女がれっきとした女であることを示していた。  
見つかっては洒落にならない、と、反対側に回り、頭を掻き毟る。  
喜び半分、後悔半分―いや、喜びの方が勝るか、あまりにも衝撃的過ぎて、しばらく立ち尽くしていた。  
そして冷静になり、見つかってはまずい、と、息を殺して、茂みのなかに潜んだ。  
ティアはもちろんのこと、誰か一人に見つかってしまえば、間違いなくあの気紛れな王に投獄されてしまうだろう。  
何を出歯亀ひとつで、と、思うだろうが、忘れないでいただきたい。彼女がこの世界の救世主であることを。  
 
どれくらい経っただろうか、いい加減あきらめようと思い、立ち上がったその瞬間。  
「んっ……ん……!!!」  
くぐもった嬌声に、衣擦れの音が耳に飛び込んできた。  
そっと近づき、中を用心深く覗き込む。  
そこにあった光景にレクスは思わず目を疑う。  
脳裏に焼き付いてしまったあのティアの裸体が、目の前で月明かりに照らされ、浮かび上がっていたのだ。  
その体には雷のようなものが這っており、それが動くたびに彼女は同じように嬌声をあげる。  
「う…ウルっ! ああ」  
それはティアの体に触手のように巻き付き、彼女をベッドへと押し倒した。  
 
これがもし、通常のティアだったらば、真っ先にあの雷のようなものの正体を疑うだろう。  
だが、それはあくまでも、「通常のティア」だったら、だ。  
現にこれを覗いているレクスの視線は、あの雷に犯されようとしているティアに釘付けなのである。  
 
「無防備ですねぇ。精霊とはいえ、私は男なのですよ? タオル一枚で居たら、欲情するじゃないですか。」  
雷の正体である精霊は、まず、その登頂にある薄紅の蕾を指の腹で転がし、程よく刺激し始めた。  
「ひゃうっ! あ、だめぇっ……!!」  
「嘘はダメですよ、ティア」  
拒絶の言葉をかけてはいるものの、それに反してぴんと立つ蕾は、体が悦んでいる証だ。  
ウルは、胸への愛撫を続ける。今度は片方を口に含み、舌で転がしだすと、一層ティアの抵抗が強くなった。  
彼女が右へ左へ身を捩る度、スプリングの淫猥な音がリズムに合わせて鳴り、上辺の白いシーツを愛液で濡らす。  
「あん! やめっ、やぁ…あ…めてぇっ!」  
「おや、ここの感度は抜群のようですね?」  
嬉しそうに微笑むウルは、左手で胸を愛撫しつつ、空いたもう片方の手を下へ伸ばしかけた。  
が、ふと止め、ティアの片手を取り、腹や腰に這わせながら、彼女自身の秘口へと導く。  
「ほら……、ティアのここ、濡れてますよ。」  
「し、知らない、知らないぃっ…!」  
「これは往生際が悪い。そんないけない子には……」  
薄ら笑いを浮かべ、微量の電流を指先にのみ流した。痺れてまっすぐ伸びるその指を、秘口へ押しやり、腕を揺すって掻き回す。  
「ひあぁっ! やぁぁ……!」  
ティアの鳴き声に切なさが交じり、涙目になるのを見ると、一層そそられた。  
ティアの体を舐め回しながら、唇は下へ下へと向かう。  
とろとろと愛液に溢れた秘口に辿り着き、ついと一舐めすると、少女の小さな体がびくんと跳ねた。  
「そっ、そ、そこは、ひゃ…だめぇっ!」  
「ふふっ、かわいい子だ」  
己のエクスタシーもはや限界に達していた。  
窮屈なくらいパンパンに膨れ上がった自分のものを解放しようと、ズボンのファスナーにてをかけた。  
 
 
 
その時、勢い良く扉が開いた。  
 
 
 
茂みの中から生唾を飲んでそれを見ていたレクス。  
ティアの声が、肢体が、動きがまた彼を興奮させ、もはや限界だった。  
 
「あ…、れ、くす?」  
乱暴な音に驚き、上体を起こすと、飛び込んできた幼なじみの姿。  
レクスはつかつかと自分のもとへ近づいてくる。  
冷静になり、やっと状況を把握したティアは、小さな悲鳴をあげ、慌ててシーツにくるまった。  
同じく状況を把握した雷が、「お楽しみを邪魔した罰」と言わんばかりに彼目がけて飛び掛かってきた。  
「あめーな。」  
彼はにやりと笑った。  
そして、後ろ手に握っていた花瓶を、勢い良く棚に振り掛けた。  
油断した。雷はそう思っただろう。  
彼は知っていたのだ。予言書が水に弱いことを。  
今は落ち着いているとはいえ、彼は以前、クレルヴォに唆され、予言書を盗んだ不届き者である。  
その事実をすっかり忘れていた。  
 
雷が消え去ったのを確認し、今度はティアへ視線を移すと、彼女は耳まで真っ赤になっていた。  
「こ、これは、え、と…その」  
まさか「精霊に襲われてました」なんて言えるはずもない。  
しかし、弁明しようとすればするほどしどろもどろになる。  
それでも必死に言葉を探していると、レクスのほうが口を開いた。  
「そんなに溜まってたのかよ。」  
「へ?」  
彼はティアをおおっていたシーツを引き剥がすと、彼女を組み臥し、返事を待たずに、彼女に口付ける。  
攻撃的なキスだった。歯の隙間を無理矢理こじ開け、口内に侵入すると、自分の物のように舐め回す。  
容赦ない攻めのあと、ようやく離れた舌先には銀の糸がてらてらと光っていた。  
そして、また唇を貪る行為の繰り返し。  
三回目に唇が離れた頃に、ようやく彼が自分を犯そうとしていることに気がついた。  
時すでに遅し、抵抗しようにも、がっちりと組み敷かれているせいで抵抗することができない。  
右手が、彼女の腰を撫で回していた。  
「抵抗しないのか。いい子だ」  
レクスは小さい子にするようにてぃあの頭を撫でたあと、今度は膨らみかけの胸の先端を摘み、指で弾き始めた。  
同時に、腰をさすっていた右手を秘口に下ろし、ほどよく濡れたそこを同じように指で刺激する。  
「ひゃあんっ! あぅ……あ、あんっら、めぇっ」  
「嘘はダメだぜ。ほら、こんなに溢れてる」  
そこからはくちゅくちゅといやらしい水音がたつ。ティアにも聞こえるように、徐々に激しく掻き回す。  
相手が幼なじみのレクスてあるせいか、先ほどのウルの時よりも快楽の度合いが違っていた。  
その事実は秘口にも反映され、十分に濡れていたはずのそこは、更に蜜にまみれていた。  
「それに、ここも。可愛いな。」  
ぴんと立った蕾を、今度は口に含んで転がすと、彼女はまた甘美な声で鳴いた。  
 
「あっちぃ……」  
興奮し、汗ばんできたレクスは上着に手をかける。  
一瞬だけ止まった愛撫に余裕ができたのか、眼下の彼女は切なげに訴えかけた。  
「レクスぅっ、や、めよう…? こんな……やらしいコト……」  
「まだそんな余裕あんのか。」  
トップスを脱ぎ捨て、意外にがっしりとした体付きを露にしたレクスは、ティアのお尻と足を持ち上げ、好転させるような格好にした。  
「いやあぁぁ、は、恥ずかし、よぉぉ!」  
みるみる顔は紅潮し、潤んだ瞳はおぼろげにこちらを見ている。  
「いい眺めだ」無意識にレクスはそう呟く。  
眼下には涙を浮かべ羞恥と必死に戦う少女。  
顔のすぐ近くにある秘口からは、愛液が絶えず溢れ、ひくついている。  
そろそろ少女を女にしてやるか。窮屈なくらい膨張仕切った自身のものを解放した。  
それは赤黒く変色し、何ともグロテスクである。  
「何……それ」  
彼女は怯えた表情でそれを見た。  
「お前が欲しがってるもんだよ。……しゃぶってみるか?」  
「いやっ、いやぁ……!」  
涙目になり、必死にかぶりを振るティア。  
そんな彼女を、レクスは心底可愛いと思った。  
すると、自身のものは更に硬直し、先端から先走りが漏れ始める。  
もはや限界だった。  
先端を秘口の入り口にあてがい、こすりつけ、ティアの喘ぎ声を誘う。  
「だめっ! そんなのだめぇっ! は、入らないよおおぉ!!」  
計画通り、切なげな声を上げたティアに、笑顔を向け、  
「ほら、挿れるぞ!」  
腰を押し出し、一気に突き抜いた。  
ティアが悲鳴に近い声を上げる。  
「いやあああぁぁ! いっ、いたぁぁっんあっ、あぁぁ…!」  
まだ異物に慣れない彼女の中は、レクスの一物を締め付け、押し出そうとする。  
負けぬまいと腰を突きだしては、また押し出され、また突き出す行為を続けると、一物はまた膨らんだ。  
「あっあっレ、クスぅっ! だめ……大き過ぎるよぉ…!」  
「くっ…ティアっ……」  
肉のぶつかり合う音と、粘着質な水音。このふたつがぴったり調和し、二人を興奮状態へ導く。  
レクスのものをずっぽりくわえこんだティアの秘口。二人は一つになった。  
「ティア……見えるか? 俺たち、ひとつに……っく……! 気持ちいか?」  
引き裂かれるような痛みが、異物に慣れたせいか落ち着き、徐々にエクスタシーに変わる。  
それを上手く制御できないティアは、漏れ出る喘ぎ声の合間から、今の自分を素直に伝えた。  
「あ、ふぁ、あぁっあっ…き、きもち、い、はあぁ、気持ちいいよ、レクス……、あぁぁん  
でもぉ、だめっ、そ、そのま、までいて……おかしく、な、りそ、なのっ!」  
「ダメだ…う、動くぞ」  
耐えきれなくなり、レクスは腰を激しく揺り動かす。  
ぐちゃぐちゃと中で暴れ回る音と共に、落ち着いていた痛みが再び襲い掛かる。  
ティアの切ない声が部屋中に響きわたっていく。  
「痛い、痛いよぉ! レクスッレクスぅ!! あぁぁっうあぁ…」  
もはや、レクスの耳には何も届かない。無我夢中で腰を振り続け、ティアと繋がっていることの悦びで、自分を満たしていった。  
「ティア、好きだ、好きだ!」  
「レクス、私も、私もぉっあぁん、あっあぁぁっ!」  
自身がどくんと脈打った。ティアの中に熱い楔を流し込んだあと、二人同時にベッドの上で果てた。  
 
「なぁ、さっきのは…ホントか?  
お前は俺のことを……」  
激しい行為が終わり、余韻が抜け切った頃。  
レクスの問いかけに、ティアはくしゃりと笑って頷く。  
「本当だよ。でも、ひどいな。突然入ってきて、エッチなこと、しだすだもん。  
私にだって、心の準備ってものがあるんだよ。」  
「先にやってたのはお前のほうだろーが。」  
「ち、違うもん! あれは――」  
顔を真っ赤にして否定する。  
やはりあれを見られていたのかと思うと、顔に火がつきそうだ。  
レクスは可愛らしいティアを胸元へ抱き寄せ、髪を指で梳かす。  
「お前って、やっぱ可愛いな」  
「……馬鹿」  
お互い笑い合ったあと、今宵最高の口付けを交わす。  
事後の二人の甘い雰囲気を妬んでいるのか、濡れた予言書が床へ落ちた。  
 
 
 
END  
 

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