「……今日は、暑い……」
「「「……はぁ?」」」
何の前触れもなしに、ネアキが突然そう呟く。
その意図が読み取れずに、僕と他の精霊達は首を傾げた。
ミエリとウルならばともかく、炎の精霊であるレンポと氷の精霊であるネアキは
よっぽどのことがない限り暑さを感じることはない。
それに何より、今日はぽかぽかした快晴なので暑く感じるということはまずありえない。
「レンポが近づきすぎたのかなー?」
「んなワケねーだろ!お前……熱でもあんのか?」
「精霊は風邪なんてひかない……そんなことも知らないの?」
うん、レンポに対する冷たい言葉もいつも通りだし、どこか悪いということはないだろう。
枷が外れてからというもの、積極的に話しかけようとしている彼女だが
今回ばかりはどう返したものかと頭を悩ませる。ギャグ……ということはないよね、流石に。
チラッと横目に見るとウルと目があった、が首を横に振っている。
『あなたの恋人なのですからあなたにしかわからないでしょう』
ウルの目はそう言っていた。
枷を外してからというもの、彼とのアイコンタクトは日に日に上達している。
「み、ミエリ……」
「……わかるけど、これはユミルが自分で気づくべきじゃないかなー」
誰にでも優しいと評判の森の精霊直々のお叱りを受けるが、
僕にはさっぱり心当たりがない。
頭を抱えていると、ネアキが申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい、ユミルを困らせようとしたわけじゃないの。」
「で、でも……」
「ううん、なんでもないの。さぁ、ローアンへ行きましょう
ローアンで用事を済ませた後、僕は一人陽だまりの丘に来ていた。
天気の良い昼下がり、寝転びながら先ほどのことを考える。
ネアキは気にしなくていいとは言ったけれど、恋人の事が気にならないワケがない。
「暑い……かぁ。」
暑いといえば砂漠の町に連れていかれた時のことを思い出すなぁ。
あの時はまだネアキの枷は外れてなかったけど、暑くても平気そうだったっけ。
(……ん?そういえば確かあの時……)
「……ユミル。」
寝ている僕の頭の上から声をかけられる。
誰かなんて、見なくても声だけですぐにわかった。
伊達に毎晩毎晩声を当てているワケじゃない。
「ネアキ。暑いのに預言書の外に出て大丈夫なの?」
「あ、うん。それはその……だ、大丈夫。」
うっすらと顔を赤く染めてネアキはうつむいた。
何故ネアキが赤くなるのか、僕にはもうわかっている。
そして同時にたまらなく可愛く思えて、
僕は気付いたらネアキを胸の中に閉じ込めていた。
「……ふぇっ?」
突然のことに、普段は絶対に出さない素っ頓狂な声を上げるネアキ。
ああもうどこまで可愛いんだろうか。
「今日は暑いから、もう少しこのまま涼ませてくれないかな?」
笑いながら僕が言うと、ネアキは顔をリンゴのように真っ赤にし、
やっとのことで「は……はぃ。」とだけ呟いた。
抱いて欲しいと遠まわしにしか言えない可愛い恋人のそんな様子に
「理性」のコードを取り外された僕が、すぐに家に帰ってネアキに
更に暑い思いをさせてしまったのはまた別のお話。
「きゃー、ユミルだいたーん!何だかんだ言ってやっぱりネアキも女の子よねー。」
「おい、いつまで隠れてればいいんだよ?」
「……少なくとも明日の朝までは家には入れないと思ったほうがいいでしょうね……」