あの日、あの出来事は預言書の隅に記されることもなく今でも僕の心の奥に沈んだままである。  
 
 きっかけは顔も見たくないというドロテアの言葉。恐れと侮蔑が混ざった表情。  
 街の人の罵倒と精霊たちがいない喪失感と――僕の胸の内に溜まっていた言い様もない憤りが爆ぜるには充分過ぎる  
条件が揃っていた。しかも相手は僕を捨てたこの国の王女。都合がいいことにいつも傍にいた侍女は何やら彼女の我侭に  
うんざりしたとやらで城にはいない。  
 条件は揃い、行動を躊躇わす者もいない。  
 迷う必要はなかった。気がつけば僕はドロテアの腕を取り、近くにあったベッドに組み伏せていた。短い悲鳴と共に彼女の  
体がシーツに沈む。  
「何をする!」  
 当然ながらドロテアは僕の下で激しく抵抗した。大声をあげられると面倒になるだろうから僕のスカーフで彼女の口を防ぎ、  
巻いていたベルトを解くとさっと彼女の表情が歪んだ。ようやく自身がこれから何をされようとするのか気づいたのだろうか、  
体をあちこちともがいて僕の腕から逃れようとした。だけどもう遅い。遅すぎた。全てを失ったあの日から僕の心はささくれ、  
この怒りをぶつける日だけを待っていたのだから。  
 
 ――小さな女の子の体を拘束することは簡単なことだった。預言書の力を借りるまでもない。僕だけの力でも充分だった。  
ドロテアはそれでも諦めず抵抗は止まない。体が動かないと今度は瞳で僕に告げる。僕への恐れと、侮蔑を。  
 それが却って僕のふつふつと湧き上がる黒い衝動を煽ることに彼女は気づかないのだろうか。僕は踏みにじってしまいたかった。  
王女の傲慢な自尊心を。国の象徴とやらを汚してしまいたい。反逆者の僕には相応しいではないか。  
 衝動のままドロテアの身を包む豪奢なドレスを引き千切る。散らばる宝石類。絹は裂かれ、彼女の真っ白な真珠のような  
肌があらわになる。  
僕の手は吸い寄せられるように彼女の胸が覗き見える裂け目に向かう。中に手をしのばせるとドロテアは顔を真っ赤にし、  
抵抗を強くするも構わず彼女の膨らみを手で包み、揉み始めた。柔らかで暖かい彼女の胸は僕の手の中で形を変える。  
手のひらの中心に硬い突起の感触が伝わった。指でそれを摘み、擦り、捻るとドロテアの口を包んだ布の奥から密かな声が  
漏れてきた。  
「ふん……くっ…はぁ……」甘く溶けそうな声に僕は気を良くし、もう片方も続けて愛撫する。ついでに耳たぶも甘噛みすると  
声はよりはっきりと聞こえてきた。  
 一国の王女が僕の下で喘いでいるという事実が僕の興奮を強くする。しかしこのままでは足りなかった。もっと傷つけるには、  
もっと悲しませるには?答えは決まっている。手を下に下ろし、スカートをたくしあげて足を開かせようとすると今までとは比べようもない  
抵抗が始まった。しかし強引に足の間に僕の体を潜り込ませ、下着も破るると途端に抵抗はみるみると弱まる。諦めたのだろうか。  
見下ろすと綺麗に結い上げられていた髪はいつしか乱れており、瞳の中の自尊心は消え、代わりに涙が溜まっていた。  
 その姿に一瞬胸が痛むのを自覚するも、頭を振り払って忘れようとした。今になって止められる訳がない。僕はこれから本当の  
罪人になるのだ。  
 
 初めての行為に対する不安はドロテアの中に性器を挿し入れた瞬間、消える。後は本能に従って体が勝手に動いた。  
レクスがそっと耳打ちしてくれたように女の子の中は暖かで、僕を包み込み離そうとしない。快感で背筋がぞくぞくする。夢中に  
なってますます彼女の中に僕を押しつける。僕たちの距離が狭まるごとにドロテアの顔は痛みと絶望で歪んでいった。涙が零れ、  
落ちる。彼女の救いを求める声と共に。「ヴァルド様……」  
 僕はその名で嵐の日を思い出した。吹き飛ぶ家屋。悲鳴――そして、そして届かなかった手。  
 再び怒りが込みあがる。どうしてファナだったのだろう?どうしてあんなにも優しい彼女が不幸にあい、自分勝手なあいつらばかりが  
生き残り僕を責めるのだろう?どうしてヴァルドなんかを慕う少女が残って……  
 耳の端に呻き声がちらつく。僕の腰が打ちつけるごとにドロテアの全身が波打ち、喉の奥から搾り出される呻きが。彼女の体を  
労わる余裕も意志もなく僕は衝動のまま動いた。奥へと奥へと向かい、引いてはまた奥へと。何度も、何度も。彼女の中は既に濡れ、  
動きやすくなっていた。ドロテアは抵抗もなく人形のように僕の動きにともない体を揺らす。  
 そしてまた声が聞こえてきた。最初はヒース将軍の言葉が――力の正しい使い方を説く彼の言葉が聞こえてきた後に、  
今度はファナの声が――好きだと言ってくれた言葉が聞こえ、やがて熱っぽい息と共に吐き出される声が。「ファナ……ファナ……」  
僕の、声が。  
 ――結局声は途切れず、果てた瞬間を思い出すことは出来なかった。  
 
 そして今、僕は精霊が閉じ込められているという城の塔に登り続けている。あの後、気を失ったドロテアを置いて本来の目的である  
この場所に向かった。戦いで心のわだかまりを忘れたかったのもあった。  
 しかし体は億劫でもう限界だった。疲れを癒そうと階段の隅に身を寄せ、預言書を開く。ふと無意識にファナのページをめくっていた。  
嵐の日から何も書かれていないそのページの端に見慣れない染みが見つかる。真新しい濡れた跡。僕はすぐにそれがドロテアの  
涙だと気づいた。預言書がめくれた状態で彼女の涙が零れたのだろうか。  
 今日の日をドロテアが誰かに告げるかどうかはわからない。しかし、もし彼女が言わないのだとしたら、この涙の跡だけを僕の罪を  
告げる印になるのだろうか。  
 だが、それすらもいずれは乾き、消える。人の心のように。  
 僕は涙の跡を指でなぞりその濡れた感触を感じた。そしてそっと預言書を閉じ、終わりの見えない螺旋階段を再び昇り始める。  
 
 それからあの出来事は僕の心の奥に涙の感触と共に沈んだままである。  
 
 

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