何故か、逆らえなかった。  
きっとあの瞳のせいだ。ローザは思う。  
あの冷たい目が、きっと魔法をかけたのだ。  
二人の関係は、誰にも言えない。  
   
「も……許して……」  
聞き入れて貰えない事は判り切っていたが、ローザはそんな事を言った。  
思った通り、アリューシャの返答は素っ気無い。と言うか、声すら出さない。ただ僅かに、首を横に振 
るだけだ。  
足元に跪いたローザにちらりと視線を落し、その首に繋がれた鎖を乱暴に引き寄せる。  
「まだ、口の聞き方がなっていないようだな」  
「ご、ごめんなさいっ、ごめんなさい……っ!」  
怯えた様子を見せるローザに、アリューシャはサディスティックな笑みを浮かべた。  
じゃらり、彼の手に握られた鎖が音をたてる。  
きつめの革製首輪に繋がれたそれに引き摺られるようにして、ローザはアリューシャの股間に顔を埋め 
た。  
「許して欲しければどうすればいいのか……判っているな?」  
「……は、い……」  
じゃらり、手首にも巻き付けられた鎖が音をたてる。  
不自由な手を必死に動かし、ローザはアリューシャの服を丁寧に緩めていった。  
コートの前を完全にはだけさせてから、口を使ってズボンのジッパーを降ろす。  
教え込まれた通りに喉の奥まで一気に飲み込むと、アリューシャは満足げに息を吐いた。  
「こっちの覚えはいいんだな、淫乱な女だ」  
アリューシャが、喉の奥で笑う。ローザはかぁっと頬を赤らめた。  
それでも、奉仕を止める事はない。歯を立てないように注意を払いながら幹に舌を絡め、雁首や鈴口を 
刺激する。  
「………」  
 
ちらり、とアリューシャを見上げる。彼はいつもの通り、どこかつまらなそうな表情のまま、遠くを見 
ている。  
しかし、それが彼なりの肉欲の堪え方だと知っているローザは、特に気にもしなかった。  
口の中で徐々に体積を増していく男根が、彼の表情よりも雄弁に、快楽を感じている事を物語っている。  
いつものように奉仕を続けて、やがて排泄される彼の精液を飲み干して。  
そしてそれから、たくさん苛めてもらうんだ。  
「……………気に入らんな」  
しかし、ふいに浴びせられたアリューシャの言葉に、ローザの思考は中断される。  
慌てて上を見上げると、アリューシャが険しい顔でローザを見下ろしていた。  
「何を考えている?」  
乱暴にローザの頭を上に向かせると、アリューシャは言った。  
無理矢理引き離されたローザの唇と肉棒の間に、つぅっと唾液が糸になって橋を作る。  
「何、も……」  
「嘘をつくな」  
冷たく言い放ち、アリューシャはローザを突き飛ばした。  
バランスを崩したローザを押し倒すと、アリューシャはローザの髪を掴み、頬を一度叩く。  
痛みに目を閉じたローザの耳元に顔を寄せ、アリューシャは言う。  
「まだ、奴隷の心がわかっていないようだな。調教の仕直しだ」  
びくりと背を震わせたローザを見て、アリューシャの瞳が嬉しそうに歪む。  
ローザの服を乱暴に剥ぎ取りながら、アリューシャは楽し気に続けた。  
「縛るか?それとも、蝋を垂らしてやろうか。いや、甘いな……便器にでもなるか?」  
言いながらローザを丸裸にしたアリューシャは、ちっと一度舌打ちをする。  
どうやら、ローザの秘所が既に湿っていた事が気に食わないらしい。  
前戯なしで突っ込んでやろうと思ったのに、とアリューシャは不機嫌そうにローザの身体をひっくり返 
す。  
獣のように四つん這いにされ、足を大きく開かされて、ローザは羞恥心に唇を噛んだ。  
「そうだな、尻穴でも犯してやるか」  
 
言い放ち、アリューシャはローザの尻にぐっと性器を押し当てた。  
ローザの絡めた唾液に助けられ、強引なアリューシャがずぶずぶとローザの中に沈んでいく。  
声にならない声で悲鳴を上げ、ローザは大きく背をしならせた。  
無意識のうちに苦痛から逃げようとした身体は、アリューシャの意外な程強い腕に押さえ込まれてしま 
う。  
「暴れるな!」  
アリューシャの強い声が、ローザの抵抗を一瞬で封じる。  
強い痛みと、ぬめる感触。血の匂い。  
およそ甘いとは言えないそれらを五感で感じながら、ローザは激しい衝動を感じていた。  
マイナスなそれらの感覚を上回る程の激情。いや寧ろ、マイナスの感覚すらもプラスに感じてしまうよ 
うな。  
「ああ……いいぞ、ローザ。御褒美に、中に出してやるからな」  
満足したようなアリューシャの声を聞き、ローザもそれだけで軽い絶頂を迎えてしまう。  
これは愛だ。そう確信しながら、ローザは身を震わせてアリューシャの熱を受け止める。  
これは愛なのだ。誰に何と言われても、これは間違いなく、愛の形なのだ。  
 
「……あ……、時間……」  
碌に余韻を味わう事も身を浄める余裕もなく、気怠い身体を起こすとローザはのろのろと服を身に着け 
始めた。  
今日の修行の開始時間が間近に迫っている。遅れれば順番を抜かされるので、待ち時間が増えてしまう。  
鎖の跡を隠すように服に袖を通すと、今まで黙ってローザを見ていたアリューシャの目が腹立たし気に 
歪む。  
咎められるような視線に、ローザは思わず目を伏せた。  
「何で、こんな服を着るんだ?」  
「でもこれは……いつもの、服……」  
「言い訳をしても無駄だ」  
ローザの服の袖口を掴み、アリューシャが冷たく言う。  
ローザは、ちらりとアリューシャの瞳を覗いた。  
熱く感じてしまう程、冷たい瞳。  
「鎖……の、跡が……見えちゃう、から……」  
「ほぅ、私の付けた跡を隠すというのか?」  
アリューシャの手に力が篭り、ローザの両袖が乱暴に引き千切られた。  
首に付けていた装飾品も無理矢理外され、赤いラインがくっきりと晒されてしまう。  
ローザの白い肌にはあまりに目立つ、いくつもの赤い跡。  
アリューシャは小さく笑うと、千切った袖を無造作に床に放った。  
「お仕置きだ。今日はその姿で修行を受けるんだな」  
冷たく言い放つアリューシャの言葉に、ローザは頷く。  
本当は跡など気にしていないのだが、ローザはわざとそんな事を言ったのだ。  
そうすれば、もっとお仕置きしてもらえる。恥ずかしい目に合わせてもらえる。  
自分がアリューシャのものだと、実感させてもらえる。  
「おまえは、私の奴隷なのだからな」  
アリューシャの言葉に笑顔を噛殺して、ローザはわざと怯えた表情で頷いてみせた。  
冷たくされて、嬲られて。虐げられて、毒づかれて。身も心も、全て彼のものになって。  
その奥にあるアリューシャの真意を感じ、ローザの身体は熱くなる。  
自分は恋の奴隷だ。そんな事を考えて、ローザはほんの少しだけ笑った。  
 

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