「ひぁ…っ、あ、あっあっ、ああっ――!!」  
高みに達した篤姫の中に、どくどくと熱いものが注がれる。  
吐精の快感に酔う家定の首筋に、同じく恍惚の表情を浮かべた篤姫が顔を埋めた。  
汗ばむ肌に掛かる吐息の熱さと、力の抜けた妻の体の重さが心地よい。  
しなだれる篤姫を抱き締めた家定の口許には、満ち足りた笑みが浮かんでいた。  
 
気を失うように眠り込んだ篤姫が目を覚ましたのは、辺りが白み始めた頃だった。  
二人分の夜着と一つの上掛けを乱雑に掛けただけの中で、家定の肌の温もりに篤姫の口許が自然と綻ぶ。  
「…ん、朝、か…?」  
身じろぎして呟く家定の息がこめかみに掛かるくすぐったさに、篤姫は目を細めた。  
「夜明けまでは、まだ早うございます」  
「そうか。……あ」  
とろりと目を閉じかけた家定が、急に目を見開いた。  
「いかがなさいました?」  
「いや、その…」  
急に覚醒した訳の見当がつかず、首を傾げる篤姫は、首の辺りから胸元へと家定が凝視する視線を  
追って、自らの胸元に目をやった。  
「ああっ!」  
赤い痕が幾つも散る有様に目を丸くしながら、指先で先ほどの家定の視線を逆に辿っていく。  
「…上様、あの…首の辺りや、耳元が…心なしかじんじんと致しますが」  
「…さもあろうのう…」  
「こんな…! は、恥ずかしくて人前に出られませぬ!」  
気まずい笑みを浮かべる家定の胸元に顔を埋めて、篤姫は悲鳴染みた声を上げた。  
「だ、大丈夫じゃ。化粧で幾らか目立たなく…」  
「それをされるのも恥ずかしゅうございますっ!」  
首まで赤くして頬を膨らませた篤姫は、夫に向ける目を鋭くする。  
「わたくしばかり、狡うございます」  
「うわっ、これ、何をする!」  
制止するのを昨夜のお返しとばかりに聞き流して、篤姫は家定の耳朶をぱくりと食んだ。  
「止めよ、これ、みだ…っ」  
夫からの施しを真似て吸いついた耳朶から唇を離して、ついたささやかな痕に満足する。  
 
そのまま家定の首筋に幾つも唇を落としては離し、赤い痕をつけ、やがて広い胸元に辿り着いた。  
頬を摺り寄せて、白い手と赤い唇が素肌を擽るように撫ぜる。  
「…っ、御台」  
小さな胸の飾りを啄んでいたところに聞こえた掠れ声で、篤姫をじとりと睨む眼差しに漸く気がついた。  
思わず固まった隙を突かれて、あっという間に圧し掛かられてしまい、形勢ははかなく逆転する。  
「満足そうじゃのう」  
「あー、ええと」  
咄嗟に誤魔化し笑いをしてみた篤姫だが、息を乱した家定には何の効果も与えられず。  
そればかりか、下腹部に当たる何かが、篤姫にこれから降りかかる事態を悟らせてくれた。  
「あっ、いけません上様…!」  
「誰の所為じゃ。ん?」  
「あん…だ、って。…やぁっ…」  
昨夜の余韻が残る体を容赦なくまさぐる手を、篤姫が弱弱しく掴む。  
だがそれも、甘い声と表情のせいで、制止というよりは家定を煽る要素にしかならない。  
「安ずるな、今日はもう痕は付けぬ故な」  
「そ、そうではなくて、人がっ」  
間もなく起こしに参ります、と必死に訴えたが、家定はそんなもの知るかと突き放す。  
むしろ諸々の後ろめたさが、却って家定の欲情に火をつけているくらいだ。  
「だ、め……もうすぐ、誰か、あぁっ!」  
数刻前まで散々に弄られて熟れた胸の突起は、軽く突かれただけで篤姫の体に鋭い痺れを齎した。  
くいと背が反って胸を差し出すようになってしまい、にやりと笑んだ家定の舌が疼く頂を舐め上げる。  
続けざまに、焦らすように柔肌を撫でていた手が、篤姫の茂みの奥を性急に暴く。  
「あっ、そこは…ゃあぁん!」  
「ここもとろとろになっておるぞ…?」  
「はぁん、いけま、せ……お口でそんな、ああん」  
再び熱を帯びた寝所に、次第に明るくなっていく時刻に似合わぬ乱れた音が響いて――。  
 
 
「何をぐずぐずしておるのじゃ? 刻限はとうに…」  
「…むっ、無理にございます! とても行けませぬっ」  
「はぁ?」  
寝所の遥か手前で、瀧山と幾島に泣き付く奥女中の悲鳴が響き渡るまで、もう少し。  
 
 

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