事情を察して次々に部屋を退出していく侍女たち。
そんなことにも気づかぬような幸せな表情で家定の寝顔を見つめる篤姫。
(表のお仕事がお辛かったのかしら。よほどお疲れになられていたんだわ…)
春の花が咲き誇る庭からは二人を祝福するかのように小鳥がさえずる声が聞こえる。
母親が息子を慈しむような優しい視線が家定に注がれる。
家定が気づかないようにそっと、再びその無防備な左手に自らの右手を重ね合わせる。
(温かい…)
(ふふ…赤子のようにすやすやと…)
その家定の安らかな顔を見ていると、朝廷や幕府やとあれこれ悩むのが馬鹿らしく思えてくる。
(私は公方様の妻。政治向きのことなど忘れ、こうして公方様と一緒に時をすごすことだけ考えていれば良いのならどれほど…)
書に再び目を通すことも忘れ、四半時も家定の手を優しく握りしめる篤姫。
(あ…)
ふと我に返り、正座した両足に全く感覚が無いのに気づく。
(どうしよう…痺れてる…)
もぞもぞと腰や足の指先を動かしてどうにか痺れを消そうとするが何の効果もない。
(ああ…どうしよう。誰かに助けでも求めようか…?)
しかし二人の睦まじい姿を邪魔するわけにもいかず誰ひとり周囲に侍女はいない。
(痛い…もう耐えられない…)
眉間に皺を寄せて更にもぞもぞと動く。
「…ん。御台…どうした…のじゃ? さきほどからもぞもぞと…」
「あ、公方様…も、申し訳ありません…その…」
手を離して急に上半身を起こし、篤姫を振り返ってニヤリと笑みを浮かべる家定。
「ははぁ〜ん。そち、もしかして足が痺れているのではないか?」
言い当てられて一瞬驚いた表情を見せつつも意地を張る篤姫。
「そ、そのようなこと御座いません。公方様のお一人やお二人、膝に何刻お乗せ致しましても…」
「ほれ!」
悪戯っぽくわらった家定が指で篤姫の足の先をつつく。
「きゃあっ!」
「ふははははは…。やっぱり図星ではないか! ほれ!」
「く、公方様、おやめ下さい…」
足に走る痛みに体を支えきれず上体をぐらぐらと揺らしてしまう。
「将軍の嫁ともあろう者が不甲斐ないのぉ…。母上が聞けばまたお怒りになるぞ」
ふざけて更に篤姫の足に悪戯をする家定。
「だめ…いけません…ああ、きゃああ!!!」
逃れようともがき立ち上がろうとするが痺れた足がいうことをきかず…
「あ、御台…!」
バタンと大きな音を立ててその場に転等してしまう。
着物の裾が大きくまくれあがり、白い太ももが露になる。
「す、すまぬ…」
と言いつつも、家定の視線はその着物の奥へと注がれたまま動かない。
「えっ、きゃああ!!」
自分の状態にやっと気づいた篤姫は大声をあげて裾を直そうと体を起き上がらせる。
「ああ…!!」
しかし痺れが更に激しく篤姫の足を貫く。
バタン!!先ほど以上の大きな音をたてて再び転んでしまう。
そして着物の裾は更に大きくめくれ上がり…。
「姫様!!」
篤姫の悲鳴を聞きつけて侍女たちが部屋へと駆け込んでくる。
「あ…これは…きゃあ!」
侍女たちの視線が篤姫の下半身に注がれる。
「も、申し訳ございません…」
家定と篤姫の秘め事を覗いてしまったと勘違いし、足早に去っていく侍女たち。
「皆、違う…違うのじゃ…」
慌てふためく家定。
あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして何も言えず狼狽する篤姫。
父親にも見せたことのない秘部の黒い茂みが完全に露になっている…。
「み、み、御台…その、あの…」
しかしその視線はどうしても篤姫のその部分をとらえて離さない。
「ええ〜い! 御台、さらば…じゃ…」
布団を跳ねのけて庭へと逃げ出す家定。
春の花々の向こうへと着物を翻しつつ走り去っていく。
痺れが治まり、ゆっくりと着物の裾を直す篤姫。
(ふう…一生の不覚…。それも侍女たちにまで…)
ひとり部屋に残り顔を真っ赤にさせたまま息を整える。
(しかしいくらなんでもお逃げになることなど…)
唇を噛み締め、頬を膨らませて夫の行動をなじる。
(それよりも侍女たちじゃ…どういう表情をして顔を合わせればよいのか…)
「はぁ…」
庭からは先ほどと変わらずに小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。
「おまえたちまで私のことを笑って折るのであろう…」
頬を膨らませて庭へと恨めしい視線を注ぐ篤姫…。
その日の夕刻、家定から篤姫方へお渡りがある旨が伝えられた。
その報告を伝える侍女の口元がかすかに笑っていることを篤姫は見逃さなかった。
「わ、わかった…」
(恥ずかしい…どうせ昼の続きでもするのだろうと笑っておるのであろう…)
顔を真っ赤にして応じる篤姫。
そしてその晩…。