決まり悪そうに頬などを掻いていた家定は、居住まいを正して篤姫を見据えた。
「昼間はその…済まぬことをした」
「……はい」
先程から昼間の醜態ばかりが頭を回っている状態の篤姫は、顔中を赤く染めて
俯いている。
居心地の悪い沈黙が続いて、家定はもう一度済まぬと呟いた。
「そんな、もう良いのです」
篤姫は、慌てて僅かに上げた顔を横に振った。
将軍職にある身分の人間にこれ以上謝罪を重ねさせる訳にはいかない。
何とか笑い話に出来るまで胸に抱えて耐えるしかあるまい。
「ですが…」
あの場に居た侍女たちは、そうはいくまい。お渡りを告げに来た侍女の笑みを
思い出して、篤姫は消え入りそうな声を辛うじて紡いだ。
「きっと勘違いをしておりましょう…」
再び俯いてしまった篤姫の顔を、家定は真剣な面持ちで覗き込んだ。
「何とかせねばなるまい」
「誤解を解いてくださいますか」
「そのためには、先ず侍女たちの誤解が何であるか知らねばのう」
安堵した笑みを浮かべた篤姫の表情が、家定の言葉で一変した。
「そなたは何であると考える?」
「そ、それは…」
「遠慮は要らぬ、そなたの考えを申せ」
口をぱくぱくさせたまま、言葉が継げなくなる篤姫。
その様を楽しげに見詰める家定の口許に笑みが浮かぶ。
「構わぬ。ゆっくり聞かせよ、御台」