「幸せにします…妻として」  
 
 
そっと手と手が重なる。和宮は拒まなかった。そのまま引き寄せる。  
自分とは違う、折れてしまいそうなくらい細くて柔らかい肢体。  
甘い香りがした。家茂は体が熱くなるのを感じた。  
 
 
しかし、ふと和宮の肩が微かに震えていることに気がついてしまった。  
女人の破瓜の痛みは相当なものだと聞く。  
ましてや、異性との触れ合いなどほとんどなかったであろう内親王たる妻が、不安や恐怖を感じるのは当然のことだ。  
家茂は、少し冷静になった。  
今なによりも考えなければならないのは、和宮がこれから感じるであろう痛みや苦しみを少しでも取り除くことだ。  
 
 
そっと、艶やかな黒髪をすく。同時に、華奢な肩も撫でさする。  
和宮は予想に反した夫の優しい仕種に、不思議そうに顔を上げた。  
 
 
「公方さん…?」  
「宮、私は…そなたと真の夫婦になりたいと願っています。  
夫婦の交合は、お互いを慈しみ合い、幸せを分かち合うものと教わりました。  
ですから、その…お辛く感じましたらすぐにおっしゃってください。私はそなたと幸せを分かち合いたい」  
 
 
和宮の目をまっすぐに見つめながら言うと、和宮は頬を赤く染め、小さい声で「はい」と囁いた。  
家茂は、彼女の柔らかい唇を指で撫で、ゆっくりとそこに己の唇を押し当てた。  
 
 
そこは、まるで綿菓子のように甘かった。  
 
 
何度も何度も、押しては離しを繰り返す。  
やがて、少し開いた唇の隙間に舌をさし入れてみる。  
びくっと和宮の体が震えた。  
家茂は無理をせず一度唇を離すと、彼女を強く抱きしめ、そのままゆっくりと布団の上に倒した。  
 
 
和宮は頬を真っ赤に染めて決して目を合わせようとしないが、そこに嫌悪の表情がないことを見てとると、家茂は再び唇を合わせた。  
ちゅっ、ちゅっ、と啄むようにくちづけると、強張っていた和宮の体から力が抜ける。  
家茂は、夜着の上から小さな胸の膨らみに手を置いた。  
反射的に、和宮はその手を掴んだ。  
 
 
「お嫌ですか…?」  
 
 
和宮の頬を優しく撫でながら、そっと尋ねる。  
 
 
「わ、わかりません、わたくし…そ、そのようなところ、恥ずかしくて…」  
 
 
そう小さな声でつぶやきながら、和宮は初めて家茂と目を合わせた。  
涙で潤んだ瞳と真っ向からかちあって、家茂の体の熱は一層高まったが、  
同時になんとかして和宮の不安を取り除いてさしあげたいとの思いもわきあがってきた。  
 
 
「恥ずかしいことなどない。私はそなたの全てが知りたい」  
「け、けれど…」  
「………では、触れるだけ。見ませんから、触れることだけはお許しください」  
 
 
首筋にくちづけながらそう言われ、熱さで朦朧とした中、和宮は恥じらいながらもうなづいた。  
それを見遣ると、家茂は夜着の間からそっと手を差し入れ、胸の膨らみを掴んだ。  
その頂点にある果実を、ゆっくりと撫でる。  
未知の感覚にびくびくと震える妻を見守りながら、家茂は固くなったその果実をそっと摘む。  
 
 
「あっ」  
 
 
思わず漏れた甘い声に、和宮は信じられないと言った表情で己の口をふさいだ。  
そんな妻をうれしそうに見つめながら、家茂は開いた胸元から果実を口に含んだ。  
 
 
「きゃああああ!」  
 
 
甘い痺れと驚きに思わず和宮は声をあげ、家茂を止めた。  
 
 
「み、見ないとおっしゃったではないですか…!」  
「見てはおりません。目をつむっていますから」  
 
 
大まじめにそう返すと、再び家茂は果実を口に含み、舐めあげる。  
 
 
「そんな…ああっ」  
 
 
和宮は背をしならせて喘いだ。  
妻のそんな艶やかな姿を見せられて、家茂は己の下半身が痛むほどに反応していることに気がついていた。  
家茂とて、十六の健康な男子。愛らしい妻がよがる姿を見て感じないはずがない。  
しかし、ここからが肝要と、家茂は唇を噛んで耐えた。  
房中術の指南役から教わったことによれば、生娘が男を受け入れるには、下の口をいくら慣らしても鳴らしすぎることはないということだった。  
和宮の苦しみをすこしでも和らげるためには、よくよく慣らしておく必要がある。  
家茂は、和宮の帯をそっとほどいて夜着を完全にはだけさせた。  
 
まばゆいばかりに白い裸体があらわになる。家茂は、知らずのうちに唾を飲み込んでいた。  
夫の視線に気付いたのだろう、和宮は恥ずかしそうに身をよじる。  
そんな妻の唇にくちづけ、家茂は、そっと股の間に手を這わした。濡れた感触がする。家茂は安堵した。  
男も女も感じると濡れるというから、少なくとも妻にとって苦痛だけの行為ではなかったということだ。  
そのことに勇気づけられ、家茂はそっと、指を一本差し入れた。  
 
 
「…………っ!」  
 
 
瞬間、和宮の眉根が寄せられる。  
慌てて抱きしめて、髪を撫でる。  
 
 
「大丈夫ですか!?痛みますか…?」  
「少し…けれど、大丈夫です」  
 
 
弱々しくも、二人の結合のために痛みをこらえて微笑む妻を見て愛しさが募る。  
けれど、同時に不安も覚えた。今現在指一本しか入ってないにもかかわらず、そこは恐ろしく狭かった。  
――――ここに、本当に入るのか?――――  
未知の経験にとまどうのは、和宮だけではなかった。  
 
 
指を出し入れしていくうちに、蜜が溢れ、動きやすくなった。  
和宮に苦悶の表情がないことを確かめ、そっと二本目を入れる。存外、すんなり入って安堵した。  
和宮の表情にも甘いものが混じり始めた。しかし、恥ずかしいのか口に手を当て声が漏れないようにしている。  
そっと、その手を外させた。  
 
 
「そなたの声を聞かせてくれ。私だけに…」  
「だ、だめです…!…ん、あんっ」  
 
 
指を広げて内壁に擦りつけるようにすると、和宮は一際高い声を上げた。  
 
 
「ああっ!…あ!ぅぅん、あっ」  
 
 
ぐちゅ、ちゅぷ…  
 
 
そして、ついに三本目の指を入れたとき、和宮はたまらず家茂の首にすがりついた。  
 
 
「…っ!」  
「公方さん…!ああ、公方さんっ、はあんっ」  
 
 
無意識に白い体を己に擦りつけてくる妻を見て、家茂はもう耐え切れず、  
自ら夜着を全て脱ぎ和宮をかき抱き、その唇に吸い付いて舌を絡めた。  
 
舌を舌で愛撫されぼうっとしていると、ふと、己のふとももに熱くて硬いものが当たっているのに気がついた。なんだろうと思い、それに手を伸ばす。  
「………っっ!み、宮っ!!!」  
「!」  
触れた途端家茂の体がびくつき、辛そうに眉を寄せる。  
そのことで和宮は己が触れたものが夫の象徴であることに気付き、羞恥で真っ赤になった。  
堪らず家茂は和宮の足の間に己の体を挟み、切っ先を入口に触れさせた。  
これから起こることを察知し、和宮の体が強張る。  
家茂は荒く息を吐きながらも、和宮に優しくくちづけた。  
「宮………幸せにします」「公方さん……」  
夫の暖かな想いに触れた和宮は、ふっと体の力を抜く。  
そして家茂は、彼女の腰を押さえて、己のもので妻を貫いた。  
 
 
「っくう…!」  
「あ、ああああああああ!!!!!」  
 
 
ぐっと和宮の中に押し入った。何かを突き破る感触がした。  
初めて味わう女人の体に頭がどうかしそうだったが、和宮が慣れるまではと必死に体を留める。  
「あ、あ…」  
破瓜の痛みに呆然としながら、和宮の頬を一筋の涙が流れた。  
 
 
「は、宮…」  
「公方さん…」  
己の涙を唇で拭う家茂に、和宮はすがりついた。  
きついぐらいに己を締め付ける和宮の内部に家茂は限界を迎え、掠れた声で動く許可を求めた。  
それに和宮がうなづくのを見るやいなや、家茂は激しく腰を動かし出した。  
 
 
「あ、あああ!」  
「く、はっ、」  
 
 
若い本能に従うまま、妻の体を貪る。  
 
 
ぐちゃ、ぐちゅ、ちゅ、くちゅ ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ  
 
 
「あっあっあっあっは、ああああ!あ、いや!だめ!」  
「宮、みやっ!くっ、も、もう…」  
 
 
激しい絶頂が家茂を襲い、腰を三度強く打ち付けた。  
 
 
「う、う、くっっっ………………!!!!!」  
「あ………!」  
 
 
内に家茂の欲が激しく吐き出されるのを感じ、和宮は震えた。  
そのまま己の上に倒れ込んできた家茂をそっと抱きしめながら、和宮は茫然と初めての情交の余韻を味わっていた。  
 
ずっと、交合など汚らわしいと思っていた。  
異物を体の内に招き入れ、そのうえ欲情を放たれるなど、自らを汚す行為だと。  
公家の者は性に開放的だったけれど、年頃の女官たちがそういうことで騒いでるのを軽蔑していたわたくしなのに。なのに。  
 
 
今のこの、充足感はなんだろう。  
欠けていたものが補われたような、この満ち足りた気持ちは。  
 
 
 
 
息を整えた家茂がそっと体を抜くと、放たれた白いものと共に赤い処女の証が流れでてきた。  
真っ白な妻の肌にその血はあまりに生々しく、まるで彼女を汚したようで家茂は眉を寄せた。  
しかし、女の本能に目覚めた和宮にとってはそれすら喜びであった。  
「公方さん…」  
和宮が呼ぶと、血を拭っていた家茂はすぐに彼女を抱きしめ、額にくちづけた。  
 
 
「体につらいとこはないか…?いや、つらくないはずがないな。すまない」  
「大丈夫です。痛かったけれど…わたくし、幸せやった気がします」  
 
 
驚いたように和宮を見る家茂を、じっと見つめた。  
…さきほどよりも、ずっと近づいた気がする。わたくしの夫…わたくしの伴侶。  
 
 
「不思議なものですね。千の言葉よりも、肌を合わせて伝わることの方が多い気がします」  
「宮…!」  
 
 
家茂は和宮を強く抱いた。  
 
 
「私もだ。どれほど幸せだったことか…!どれほど、そなたを愛しく思ったことか…」  
 
 
再び見つめ合ったふたりは、互いの瞳の中に互いへの深い愛情を見出だしていた。  
自然と顔が近づく。和宮はそっと目を閉じた。  
 
 
 
 
END  
 
 
 

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