寝間に行くと、白い夜着に身を包んだ、愛しい妻が待っていた。
嬉しくて、そっと抱き寄せる。
「やっと二人だけになれましたね」
昼の政務の間も折を見ては大奥の彼女の元へ逢いに行くが、周りの公家の方々の視線がどうにも落ち着かない。
だけれどここにいる彼女は、自分だけのもの。夫である自分だけのものだ。
抱き寄せる力を強めると、彼女も白い頬を桃色に染めながら、おずおずと私の背に細い腕をまわしてくれた。
初めて結ばれた夜以降、少なくはない回数夜を共にしてきたのに、いつまでも初々しい妻の仕種が可愛くてならなかった。
髪を撫で、想いのままにくちづける。
「上さん…」
甘い吐息まじりに潤んだ瞳でそのように呼ばれたら、抑えることなど出来るわけないでしょう?
和宮目線
上さんがわたくしの体に触れるたびに、甘い刺激が体中をかけめぐる。
声が抑えられない。
京におるころのわたくしだったら、恥ずかしくて自ら命を絶つに違いないくらいはしたない今の自分。
でも、不思議と嫌ではなかった。
上さんと夫婦になってから、わたくしは変わった。いや、世界が変わった。
あの方と会えない日は、どんなに晴れ渡った日も薄暗く見えるし、あの方に笑顔を向けられたときは、どんなにお天道さんのご機嫌が悪い日でも、わたくしの目には輝いてみえる。
わたくしは夫に、恋、をしていた。
母や、仕えてくれる者たちや、なにより兄を裏切っているような気がして、最初はつらかった。
でも、もう止められない。攘夷などどうでもいい。公武合体など関係ない。ただ、この方のぬくもりをずっと感じていたかった。
「宮…」
わたくしの内部に、この方がいる。愛しい方の体の一部が。昔だったら卒倒しそうなことだけれど、ただただ嬉しくて、愛しくてたまらない。
「つらくはないですか?」「大丈夫です…」
いつもわたくしのことを心配して、慈しんでくださる。優しい方。
そっと彼の首にまわしていた腕を外し、愛しい人の頬を撫ぜてみた。いつも貴方がしてくださるように。
そうしたら、本当にうれしそうに笑うから。心の臓が破裂しそうだったけれど、初めて自分から唇を合わせた。
「宮…!」
瞬間、わたくしの内にあるものが大きくなった気がして、びくりと体が震える。
そんなわたくしを申し訳なさそうに見遣ってから、掠れた声で
「動いても…?」
と貴方はおっしゃる。
その言葉に弱々しくうなづくことしかできないわたくしだけれど。本当は。
もっともっと貴方が欲しい。貴方の全てが。わたくし無しでは生きていられないようにしてしまいたい。
わたくしは、帝の血を引く皇女なのに。そんな浅ましい想いを抱くなんて。
そう自分を咎める声が聞こえるけれど、貴方の律動に身を任せているこのときだけは、ただの女でいさせて。
徐々に動きが激しくなってくる。わたくしを求めてくれていると思うと、なおさら気持ちが高まった。
「宮っ…!」
「っぁ…………!」
一際強く打ち付けられ、体の奥に夫の気が放たれた。
びくびくと震えるわたくしの体を、貴方は荒い息のまま強く抱きしめてくれる。なによりも安心できる、暖かい腕の中。
そっと体を離すと、先程内に放たれたものが股を伝い出てくる。夫は懐紙でそれを拭ってくれた。
さすがに恥ずかしかったけれど、もともと頑強ではないわたくしの体は、先ほどの甘い行為に疲れきっていて指一本動かすのさえ億劫だったので黙ってそれを見守った。
始末を終えたあとご自分とわたくしの夜着を整え、再びわたくしを抱きしめて二人で横になった。
「お体は平気ですか?」
「はい…」
わたくしを労ってくれる貴方の声が聞こえたけれど、わたくしはすでにまどろんでいた。
髪をすいてくださる手が心地良い。
このまま朝など来なければ良いのに。日が昇れば貴方は表へ帰ってしまう。
せめて今だけは、貴方がどこにも行かないようにぎゅっと夫の夜着をにぎりしめながら、わたくしは眠りについた。
抱きしめれば折れてしまいそうなほど細い体。青く光り透き通る白い肌。
自分の欲望をそのままぶつければ本当に壊れてしまうかもしれない。そう分かっていながらも、貴女を前にすると自分を抑えることができない。
情事のあと、疲れきったように眠りに落ちる高貴な妻を見るたびに自責の念に駆られる。しかし、それでも次の夜はまた彼女の体を貪るのだ。
こんな自分は初めてで、戸惑うことばかり。けれど、心地よかった。
彼女はわたしのものだ。わたしが、彼女に囚われているように。
「愛しています…」
眠りの世界に漂う彼女にそっと囁いて、わたしもまた、眠りについた。
<END>