帝の御妹君和宮様のご降嫁が決まり、大奥入りも近くなった頃
瀧山が密かに御台所の元を訪れた
「公方様のご婚礼まであとわずかとなりました。
大奥では、ご婚儀を控えた公方様に、お母上様から、夫婦和合のお心得をご伝授なさる習わしがございます
義理の間柄であらせられる御台様には誠に申し上げにくきことなれど、公方様たってのお望みにございます
今宵遅く、公方様お渡りとのこと、よろしくお願い申し上げまする」
さて、夫婦和合の心得とな、ああ、五つ並べのことであろう、公方様もまだまだ子供ということか。
可愛らしいことよのう。
「わかった。楽しみにしておりますと伝えよ」
お小座敷には、上段に、真っ白な夜具が二組、並べられ、下段には碁盤が用意されている。
家定公ご存命のころのように、お付きのものも人払いされていた。
家茂公は、白い夜着に身をつつみ、密かな決意を胸に秘め、奥へ渡った。
「母上様も楽しみにしてくださるとの仰せ。これが最後の機会であろう。今宵こそ、思いを遂げてみせまする」
御台は、家茂の下心など思いもよらず、平伏して迎えた。
「私のようなものでお役にたてますかどうか」
家茂を迎えた御台が柔らかくほほえみながら顔を上げる。
(いつも凛として隙をお見せにならない御台様だが、今宵は白い夜着のなんとまぶしいことか。
淡い紅色の薄化粧、そこはかとなく漂う湯上がりの香り、美しくそろえられた切り髪。
瀧山を丸め込んだ甲斐があった。大奥の総取締役のお役目、終生保証してやらねばなるまい)
「母上様、本日は私の願いをおききくださり、この家茂、天にも昇る心地にございます」
「まあ、何をもったいなきお言葉。(五つ並べでよければ)いくらでもお相手いたしまする。
前の公方様、家定様も(負けずきらいなのか)もう一番、もう一番と夜毎ご所望になりました。
なかなか眠らせてくださらなかったほどにございます。今宵は私も久々に楽しみましょう。
ところで、家茂様は(五つ並べが)お強いのですか」
(何と大胆なお言葉。これは話が早い。家定公といえば、体がお弱く、あちらの方はさっぱりとの噂であったのに。
寝かせぬほどお求めであったとは。夫婦の営みごとはわからぬものじゃ)
「これはこれは。私も家定様に負けぬよう、がんばらねばなりませぬな」
「すぐに上達なさいます。宮様にもお優しくお教えくださいませ」
「もちろんにございます」
高ぶる心を抑えつつ、家茂は、上段へと御台を誘う。
(え?碁盤は下段だけれど。まあよい、何か改まっての挨拶でもあるのであろう)
御台は、何の疑いも抱かず、上段へ上がった。
「御台様・・・」
家茂は、我慢の限界であったのだろう。
ためらうことなく御台を抱き寄せ、覆い被さるように横たえる。
「何をなさいます」
あまりのことにとまどい、精一杯あらがう御台だが、若い家茂の力は強い。
身動きできぬほど押さえつけられ、たちまちのうちに口を吸われ、舌をからめとられる。
夜着のあわせから差し入れられた家茂の手が、そっと御台の胸を包み込む。
「夜毎夢にみておりました。何とお美しい。家定様亡き後、さぞかしお寂しい思いをなさったことでしょう。おいたわしい」
家茂が耳元でささやく。
何もかもが初めての御台にも、これから何が起ころうとしているかくらいは想像できる。
だが、助けを呼ぼうにもお付きの者は人払いされ、御殿に近づくことも許されていない。
何より、公方様と前の御台所の間に何かあったとわかれば大きな騒動を呼ぶ。
ようやく整ったご婚儀にも差し支える。
とても人を呼ぶことなどできぬ。
(いったい私はどうなるのじゃ。この先どうすればよいのじゃ)
御台が必死で頭を巡らせている間にも、家茂の動きは止まらない。
合わせ目からのぞく御台の白い肌が、家茂をせき立てる。
あらがう手を片身で押え、夜着の紐を解き、はぎ取るように脱がせる。
夢にまで見た御台の裸身。
あらわになったその肌は白く、うっすらと色づいた頂をもつ乳房は固く、幼ささえ思わせる初々しさであった。
背中をはいのぼるような常ならぬ感覚、羞恥、屈辱、様々な思いに耐えながら、御台が声を絞る。
「何故このような・・・。私は家定様の妻にございます。そして貴方様の母にございます」
「ずっとお慕い申しておりました。母上とも姉上とも思おうとしましたが、この思いを止めることはできませぬ。
一度でいい、私のものにしたい。将軍職など失ってもかまいませぬ。私が欲しいのは御台様だけなのです」
御台の脳裏に、やさしかった家定の面影が浮かぶ。
(上様・・・。私も上様からこのように一途に求められたかったのかもしれぬ・・・)
知らず知らずのうちに、御台の目から涙がこぼれていた。
「家定様は、私を慈しんでくださいましたが、私をお求めになられたことはございませんでした。
このようにお求めになられたのは、貴方様が初めてにございます」
「さきほど、何度も何度もご所望になられたとの仰せではございませぬか」
「あれは五つ並べのこと。上様と私は、五つ並べをしながら、いろいろなことを語り合いました。
お優しい方でいらっしゃいました」
(むすめごのような御台様と思うていたが、まさか本当に清らかな乙女であったとは・・・。
決して焦ってはならぬ。たとえ家定公の身代わりでもかまわぬ)
「御台様・・・」
家茂は、やさしく御台の頬をつつみ、涙を吸い取る。
うなじ、鎖骨と舌をすべらせ、そっと胸を含み、ころがす。
陶磁器のような白い肌に手を滑らせ、細い腰に手をまわす。
固く緊張していた御台の体が、次第にほぐれ、薄い紅色に染まっていく。
(なんとお美しい。私が初めて触れるのだ)
家茂は、感動にうちふるえながら、そっと茂みに手を伸ばした。
幼い少年のころから知っていて、弟のように思っていた家茂が、そのような目で自分を見ていたとは。
驚きとまどいながらも、御台は覚悟を決めた。
(一度だけ、一度だけじゃ。公方様となった家茂様に恥をかかせるわけにはゆかぬ。
亡き家定様も必ずやお許しくださるであろう)
気づかぬうちに夜着を脱ぎ捨てた家茂が体を重ね、手と舌で御台の全身を慈しむ。
御台が充分に心を開いたことを感じ取った家茂は、やさしく御台の膝をわり、体をすべりこませ、茂みに舌を這わせた。
えもいわれぬ感覚に体が宙に浮きそうになる。我がものとは思えぬ声が漏れそうになる。
「そのようなところを・・・」
「お声をお聞かせくださいませ。今宵、御台様は私だけのものにございます」
(公方様がいかような振る舞いに及ばれましても、すべてをおまかせになり、決してはしたなき声などあげず・・・。
婚礼前夜の幾島の言葉がよみがえる)
人の体とはかように温かいものか。家定様ともこのようにふれあいたかった・・・。
家定公を思うと、愛しさに涙がこみ上げてくる。
「御台様・・・」
家茂が茂みに指を忍ばせた。
充分に潤っているとはいえ、乙女のこと、痛みと快感に眉根を寄せる様は、妖艶でさえある。
(焦ってはならぬ。御台様におつらい思いをさせてはならぬ)
忍ばせた指をそっと動かし、中をほぐす。
御台の痛みが和らぎ、体の力が抜けたのを見て取った家茂は、ずいっと身をすすめた。
身を裂かれるような痛みと違和感に思わず身をよじって逃れようとするが、腰を絡め取られて動くことができない。
少しでも痛みを和らげようと、家茂はやさしく胸をもみしだき、耳をはみ、口を吸う。
「御台様・・・」限界を迎えた家茂は必死の思いで御台から我が身を抜き、思いの全てを放った。
御台は、かすかにほほえみを浮かべ、意識を飛ばした。
御台の身を清め、そっと抱き寄せる。
「上様・・・。いつものように御台とおよびくださいませ」
前の公方様のことであろう。
(御台様はそこまで家定様をお思いであったのか)
「御台・・・」
「うれしゅうございます」
夜はまだまだ長い。