パラレルです。結婚10年目の夜...の会話です。エロなし。
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徳川家定(とくがわいえさだ)
篤姫の夫。徳川第13代将軍。このパラレルワールドでは最後の将軍として知られている。
大政奉還を行い、江戸城を無血開城した。
以後、政治には携わらず、篤姫(のちに篤子)と共に家鴨を追いかけたり、花を愛でたりして
隠居生活をおくり、明治時代まで生きた。
「御台......いや、篤子よ」
「上様......その呼び方は恥ずかしゅうございます。」
「そなたは、いつになったら儂を旦那さまと呼ぶのかのう。」
「では......旦那さま。
今日は私どもの結婚の儀からちょうど10年でございます。
時の経つのは早いものですね......」
「そうじゃのう......」
「上様も、見違えるほど、お元気になられまして。
今思うと、上様の英断がすべてだったのですね......」
「いや、そうではない。篤子が、後継者選びに迷うた折に、
迷うくらいなら、どちらもふさわしいとは言えぬ、
これからは日本という国はもはや徳川だけのものではない、
と助言してくれたからこそ、儂は江戸城を去ることができたのじゃ」
「私はそこまでは......。
江戸城を出るときには、だいぶ反対して、上様を困らせたものでしたね。
私は上様のお体が心配だったのです。食べるものにも困るのではないかと......。
幸い、薩摩からだいぶご援助いただきましたが、それでも玄米ばかりの日々で......」
「そうじゃ、その玄米がよかったのじゃな〜〜」
(注:ほんとに玄米で治っちゃうかどうかは知りませんw)
「はい。粗食ばかりでしたのに、上様がみるみるお元気になられたのが、
不思議でなりませんでしたが......。」
「晴れて儂も、ただ人となり、そなたと毎日、面白おかしく過ごすことができるようになったのじゃから、
運命とはわからぬものよのう」
「はい。三でございます。(←まだやってる)
上様、......上様は、これから先、何か叶えたい望みはございますか?」
「なんじゃ、いきなり。
儂は......そうじゃな、
さしあたっての望みは、今宵の篤子を思いきり可愛がりたいというところかのう。
今宵のそなたは妙に艶やかじゃ」
家定はにやりとして言った。
「上様!」
「旦那さま、じゃ。儂も三じゃぞ。」
「旦那さま......そのことでございますが、しばらくその望みはお預けにございます......」
「なんじゃと?」
篤子の口調が急に改まった。
「......実は......ややが、できましてございます......」
家定は呆然とし、無言で指先の碁石をぽろりと落とした。
10年の間、夫婦として過ごしてきたが、これが初めてのことであったのだ。
「......喜んでくださいますか......?」
篤子の顔に不安な表情が浮かんでいる。
「......御台」
気がつくと、篤子は家定の腕の中にいた。
「そちは、城にいた頃、儂が言ったことをまだ覚えていたのじゃな......
案ずるな......もはや、儂らの子は世継ぎなどではない。誰も気にかけぬのじゃ。
そうじゃ、儂らは、ねずみの夫婦になろう」
「ねずみの?」
「そうじゃ、その昔、結婚の儀の夜に、そなたの話した......あのねずみの夫婦のように、
これから10人でも子を作ろう。」
「上様......」
家定は、溢れる篤子の涙をぬぐってやり、それでもなお目をつむったままの妻に、一つ口づけを落とした。
篤子も、10年経つと、これくらいのおねだりはできるようになっていたのである。
「楽しみじゃのう〜。おなごであればさぞかしお転婆であろうのう〜。
それはそうと、御台、いや篤子よ」
「はい。」
「今ので思い出してしまったぞ。
儂はまだ、ねずみの夫婦に子が10匹いる、ということしか知らぬ。
今日は五つ並べはもう終いじゃ。ねずみの夫婦の話をせい。」
「......はい。」
篤子は10年前の初めての夜を思い出し、また、今ある幸せに胸を熱くしながら、話をはじめた。