何気ない繰り返すだけの日常は、着実に家定の時間を奪っていった。  
そんな中、奥泊まりをしたときだけは、五つ並べに興じ、時には政治を  
絡めた小難しい話(およそ夫婦らしからぬ会話ではあれど)などをして、  
唯一不安も焦りもない安らかな時間だった。  
そんな積み重ねに幸せを感じていた二人に、決定的なことが起こった。  
 
もともと、次期将軍の座を巡っての争いがあって、夫婦ともに翻弄されて  
きたが、薩摩が建白書を出したことで、互いの立ち位置の違いから、  
溝ができてしまったのだ。  
むろん、家定としては、篤姫の置かれている立場は重々承知しており、  
彼女が一橋を押すのはわかっていた。  
大奥が紀伊を押し、さらに家定自身が一橋を嫌っていて、それを知りつつ  
も密命のため一橋を押さねばならない篤姫の苦悩をわからないわけでは  
なかった。  
だが、篤姫が「一橋を将軍に」と言ったときに、嘘を感じた。  
これまで全てにおいてまっすぐな言葉を向けていた篤姫に嘘を感じたとき、  
それを許せなくなっている自分がいた。  
薩摩を大切にしていることへの嫉妬心なのか、篤姫に感じた嘘への  
拒絶心なのか・・・それはわからない。  
だが、不信を募らせ、関係を終わらせてもかまわない立場であるはず  
なのに、篤姫に会えない時間の方が狂おしく、耐えられないように  
家定には思えた。  
 
家定は篤姫を御座の間に呼び出し、火鉢を挟んで対峙し、素直に意地を  
張った自分を詫びた。  
篤姫は篤姫で、自分自身の嘘が許せずにいたらしく、正直な思いを述べ  
始めた。  
彼女の苦悩をが自分の苦悩とつながる思いにかられ、ふと「共に悩み  
時を過ごすのも一興かもしれぬ」と、喜びに似たものを感じずには  
いられなかった。  
こうなると、あれほどまでに面倒で仕方の無かった政務も跡目のことも、  
今では自分たちの将来の事としてとらえられる。  
真剣に考えることで、自分の証が得られるような思いがあり、力を注い  
でも苦にならなくなってきていた。  
家臣に全てを任せきっていて怠惰に過ごしてきていた時とは違い、  
自分に残された時間が少ないと感じれば感じるほどに、篤姫の笑顔が  
浮かび、これを守りたいという思いが強くなっていった。  
 
そんな折も折、政務の休憩中に、外が騒がしくなった。  
普段は聞こえるはずのない女人の甲高い声が響いていた。  
そして、障子が勢いよくあけられ、目の前に現れたのは血相を変えた  
篤姫だった。  
 
「ようもまぁ、ここまで来られたものじゃ」  
 
半ばあきれていると、篤姫は跪き、両の手をついて申し訳ありませぬと  
詫びだした。  
篤姫は、徳川に嫁ぎながら徳川の人間になりきっていなかった、これから  
は将軍継承も大老任命も家定の意にそうのだと勢いよく述べた。  
夫とともに家をもり立てることが、妻たるもののつとめなのだと語る篤姫の  
口ぶりには、全くの迷いがなかった。  
家定の意に沿う・・・そのこと以上に、篤姫が家定と共にあることを選んだ  
決意に、自ずと顔がほころんだ。  
後ろに控えていた幾島の表情が無念にゆがむのが見え、このあと篤姫が  
強く責められることは容易に察せられた。  
しかし、篤姫はそれを承知で自分のもとに来たのだ。全て覚悟の上なのだ。  
その覚悟を目にした家定もまた、全てに対しての覚悟を決めた。  
 
奥泊まりを言い渡し、その夜、家定は篤姫の元へ渡った。  
日頃の疲れは、日に日にとれにくくなり、顔にも出ていたのだろう、  
篤姫はすぐにやすむようにと家定を床にのべた。  
 
しかし、今日は言わねばならない、篤姫の覚悟に答えるつもりでここに  
きたのだから。  
まず、次期将軍を慶福に決めたこと、そして若年の慶福を篤姫の手で  
補佐してほしい、ひいては、徳川の将来を篤姫に託したいのだと伝えた。  
篤姫は驚き、女の自分にそのようなことを・・・と怪訝な顔をしたが、  
自分が見込んでのたっての願いであると伝え、承知させた。  
だが、篤姫には不吉に思えたのだろう、「まだまだ先の話だ」と、  
そのような不吉なことを言うなと言わんばかりに不機嫌な顔をして  
そっぽを向いた。  
その不機嫌な様子が、いとおしく思え、まじまじと見つめているうちに、  
全てを伝えるならば今だという思いに駆られた。  
篤姫の背を抱え、 日頃の不安をぶつけた。  
体が弱く、力もない自分、夫として頼りない自分のもとに嫁ぎ、後悔は  
ないか・・・・と。  
篤姫は即座に、家定が篤姫にとっての日本一の男であると、それは  
将軍であるからと言うのではなく、彼女の中での一番なのだと答えた。  
家定は安堵のみならず深い喜びに心も体も支配されるのを感じた。  
それと同時に、これまで不信感をあらわにし心を開かず、体に対する  
不安から妻としての扱いすらしなかったことへの後悔がわき起こるのをも  
感じずにいられなかった。  
 
抱きしめた腕をゆるめ、ゆっくりと篤姫を正面に据え、その顔を焼き付ける  
ように眺めているうちに、家定はもう一つ心に抱いていた覚悟をここで  
見せることにした。  
 
篤姫の顔を両の手で触れ、訝しがったところを不意に抱きしめた。  
幸せな空気に浸り、互いの高ぶりをおさめたところで、家定は、抱きしめた  
腕に力をこめ、篤姫の体を横たえさせた。  
 
夫婦となって一年数ヶ月。  
一度も夫婦の契りとなるようなことをしなかった。  
子供を作りたくなかったということ以上に、夫婦の営みが自分の体力を  
奪い、寿命が縮むことがわかっていたから、どうせ幸薄い自分故に  
無駄なことをすまいと決めていたのだ。  
 
だが、今は違う。  
この女人は確かに自分の妻なのだという実感がある。  
自分自身に篤姫のことを覚え込ませ、さらには篤姫にも自分のことを  
忘れずにいてほしいという欲が、心に体にとわき上がる。  
 
今しかない。  
 
篤姫の潤んだ目元に口づけをし、流れ落ちる涙を追いかけるように  
ついばんだ。  
口元にたどり着くと、ぷっくりと柔らかなその唇を吸い、互いの呼吸を  
混ぜ合わせるように舌を絡めた。  
篤姫は次第に体を硬直させ、そのかたくなさ故に、他の男を知らないと  
いう事実を家定に教え、それが家定の喜びに変わった。  
口吸いをしながら、家定のその手は篤姫の寝間着の帯をほどき、襟もとを  
開くと、そろそろと胸元へと伸ばした。  
やわやわと触れられる度に、初めての感覚がよぎるのだろう、家定の腕に  
添えられた篤姫の手に力がこもった。  
ふさがれた口元からもれる声に羞恥があるのだろう、必死にこらえる様子が、  
また家定をそそった。  
 
「小鳥のようにさえずるが良い・・・」  
 
家定は篤姫の唇をはなし、首筋をつたい、鎖骨を舐め、ツンととがる胸の  
高みをころがした。  
篤姫はさらなる感覚になすすべもなく、身をくねくねとよじらせた。  
胸元からはずした手は、下の方に伸び、茂みにたどり着くと、そろそろと  
女の秘めたる場所を探り当てた。  
男の指を初めて迎えるそこは蜜をあふれさせていたが、初めてなるが故に  
堅く絞るように閉じていた。  
家定はゆっくりと緊張をほぐすように触れ、それはだんだんに大胆な動きへ  
とかわり、それに呼応するように篤姫の体が跳ねた。  
熱く吐かれる篤姫の息が、家定の体にも伝わり、それはさらなる男の性を  
否応なしに盛り上げた。  
 
家定は、着物の帯を自分でほどき、篤姫の体に許可を求めるように猛る体を  
すりつけた。  
篤姫は、春画で夫婦の秘め事がどう進むかはおぼろげに知ってはいても、  
生身の男のそれがそそり立つのを感じると、来るべき事が来る恐怖に  
おののいた。  
 
「もう、耐えられぬ」  
 
こうなると、許可も何もない。  
まっすぐに相手を求め、体を割り、中に入り込むだけ。  
 
篤姫の中の狭さと熱さをその身で受け、己の猛りと熱さとを交わらせた。  
自分の全てを受け止めて欲しい・・・それが根付き実りとなり命繋がれば  
幸い、たとえ、そうならずともこの女人であれば全てを飲み込んで我が物と  
してくれるはず・・・  
家定の思いは、やがて律動となり、激しさを増していった。  
荒々しい互いの息づかいが、部屋いっぱいに広がった。  
息から漏れる声が、痛みに耐えるものと快感とのない交ぜで、初々しい。  
全てを忘れぬように、全てを心と体で覚え込んでいてほしい。  
篤姫はそれに応じるように体を合わせていた。  
 
たとえ、この命縮めようと、それが自分の証。  
最初で最後になるやもしれぬ交わり、それでも、篤姫と共に生きたという証。  
夫婦であるという証。  
篤姫を愛したという証。  
刻み込め。  
 
 
「儂とそなたは一つじゃ」  
 
 
頭が白くなり、家定は全てを放った。  
篤姫はそれを全て受け止めた。  
 
 
疲れから、家定はドサリと体を篤姫の上に落とした。  
息を荒く吐きながらも、汗ばんだ体を寄せ、互いの顔を見やった。  
篤姫は顔を赤らめ、すぐにうつむいたが、家定がそのあごをくいっと上げて、  
口づけた。  
心も体も一つになれた満足からか、篤姫の目から涙がひとしずく伝った。  
家定はその涙を、夫婦の証として、味わうようにすすった。  
 
何とはない互いの気恥ずかしさを振り払いたくて、塩っぱいのぅ・・・と、  
つい、いつもの癖で冗談めかして言えば、頬をふくらす篤姫にこの上ない  
愛しさがわき起こった。  
含み笑いをしながら、体を抱き寄せ、互いの肌の温もりを感じながら、  
いつしか共にまどろみの中へと滑り込んでいった。  
 
 

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