島津の分家の娘に生まれ、父母から自由に育てられ、
奥女中や下働きの女たちが密やかに語る男と女のむつみごとを耳にしたこともあった。
公方様との婚儀の前、幾島に見せられた枕絵には、あまりの恥ずかしさに目を覆ってしまったけれど
夫婦なれば必ずや通る道、子をなすためと、覚悟は決めていた。
だが、緊張でふるえながら臨んだ婚礼の夜も、その後も、「そのようなこと」は起こらなかった。
「子をなすことはできぬ」との公方様の哀しい言葉。
世継ぎを授かるという、御台としても役目を全うできぬのは辛かったけれど、公方様の本当のお心を知るにつれ、
体のふれあいは望めずとも、いつしか公方様を誰よりも愛しく思うようになっていた。
お渡りいただき、五つ並べをしながら語らい、枕を並べて眠る幸せ。
それ以上は何も望んでいなかった。
今宵も、いつも通り、眠りについたはずだったのに、人の温かさを体に感じて、ふと目を覚ました。
いつも隣で背を向けてお休みの公方様が、私に寄り添い、髪や頬をなでてくださっている。
気づくと、白い夜着がはだけられ、肩も胸もあらわになっていた。
公方様の優しい瞳の奥に、いつもと違う激しさが見え隠れする。
公方様は、羞恥で体を固くする私を優しくいたわりながら、耳たぶ、首筋、乳房にまでも唇を滑らせる。
体の奥からわき上がるような熱に、思わず声が漏れる。
「うえさま・・・」