「本日、公方さまは奥泊まりにございます。」  
その日、家定を待っていたのはお志賀の方であった。  
最近、御台のところにばかりお渡りがあることに不満をもったお志賀が  
御台に毒を盛るのではないかという噂が大奥にまことしやかに囁かれ始めた。  
そのようなことがあるはずがないとは思っていても、  
御台の身の安全が今は何よりも大事になっている家定にとっては  
お志賀の噂が無視出来ないものとなっていた。  
 
そこで、お志賀が何よりも今望んでいる「お渡り」をすることが  
御台を守る方法と家定は考えた。  
もちろん、御台のもとに今すぐにでも飛んでいきたい。  
毎晩でもあの可愛らしい、自分に向けられる笑顔を見つめていたい。  
家定が眠りに落ちるのを見守ってから自分の床につく御台。  
その柔らかな眼差しのなかで眠ったふりをしつつ愛されている幸せを  
噛み締める家定を御台は知らなかった。御台が眠りについた後、  
その無邪気な寝顔を飽く事なく見つめている家定のことも。  
 
しかし今隣にいるのはお志賀である。  
唯一の側室。うつけのふりを気付いてはいても口にはださぬその思慮深さに  
感謝と情の念はあるだろう。  
しかし本当の愛情を知った今となってはこうしてお志賀と過ごす時間が  
空虚に感じて仕方がないのだ。  
「これで御台にお志賀が毒を盛るなどという噂など取り越し苦労となれば  
よいのじゃが...」  
家定は瞼の裏に御台の笑顔を思い浮かべながら、今すぐ会いにいきたい気持ちを  
押さえつつ眠りについた。  
 
篤姫は朝からいつもの元気がなかった。  
その理由は幾島はじめ御台所付きのものたち全員が悟っていた。  
久しくなかった上様のお志賀へのお渡りが昨晩行われた為であった。  
「上様にお会いしたいのう...」そう呟くと下を向くばかりであった。  
篤姫はなぜ上様がお志賀のところに行ったのか、  
そればかりが頭を巡っていた。  
「きっと、慶喜の推挙の件で気を悪くされたのじゃ...」  
中立の立場をとるといってもまだ迷いのある篤姫を信頼出来なくなったのでは、  
と篤姫は考えていた。  
 
「もうお渡りはないやもしれぬ...」  
家定と過ごしたあの時間は篤姫にとって至福のときであった。  
家定にとってもそうであってほしいと願っていた篤姫には  
お志賀へのお渡りは残酷な現実を突きつけられたようで  
心も体も冷えきってしまう心持ちになった。  
 
その頃家定は公務に追われていた。  
心身ともに疲れ果てた日の最後に思う事は御台に会いたいということ。  
しかし思うように御台のもとに渡れないまま日にちだけが過ぎていった。  
 
そんななか、ようやく奥泊まりの日がやってきた。  
篤姫のもとにその知らせがもたらされたとき、  
「私で良いのか?」と瀧山に問い、「何を仰せです。」と返された。  
(お志賀のところで休みたいのでは...?)  
そう思うくらい気持ちは、なるたけ皆の前では出さぬよう努めた。  
そうして胸が締め付けられるような思いで、家定を待った。  
鈴が鳴り、暫くして家定が篤姫の前に座った。  
「よう顔を見せてくれ。そちの顔が見たいのじゃ。」  
「上様...お疲れでは?」  
顔色の優れない家定に気付き、篤姫は心配になった。  
「案ずるな、そちの笑顔を見ればすぐに良くなる。」  
家定はようやく会えた喜びに満面の笑みを浮かべた。  
 
家定のずっと求めていた自分への眼差しを身にうけて篤姫は胸が苦しくなった。  
涙ぐんでしまうのを堪えて思わず視線を外してしまう。  
家定は篤姫があまり嬉しそうにしていない事に気付き表情を曇らせた。  
やっと会えた喜びに浸っているのは自分だけなのかと思い、  
寂しさと同時にもどかしいような感情の波が押し寄せた。  
逃げるように身を引いた篤姫の細く白い手首をつかんで引き寄せた。  
「あっ...上様...」  
篤姫は驚きで声がつまる。家定は顔を今までにないくらい近くに寄せた。  
「儂に会いたくなかったか。」鋭い家定の眼光に、篤姫は橋のうえで家定に  
助けられたことを思い出していた。  
(あの時の目じゃ...)思えば、あの時から家定の虜になったのかもしれない。  
篤姫は胸が跳ねるような感覚に浮かされながら、家定の言葉に応えた。  
「お..お会いしたくなかったのは上様の方ではございませんか?」  
家定は思いもかけぬ返答に一瞬戸惑いながらも篤姫をより引き寄せた。  
 
「儂はそちに会えない日が続いて死んでいるようじゃった。会いたくない筈がないじゃろう。」  
家定はいつもと様子が違う篤姫の心を探りたくて、懸命に心のままに自分の気持ちを吐き出した。  
篤姫はその言葉を嬉しく感じつつもお志賀のことを思い出し、うつむいてしまった。  
その瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。  
「私も、上様に会えない日々は苦しゅうございました。  
お志賀のところにお渡りがあったと聞いた日はこの世の終わりのようでございました。」  
家定は、ああそうであったかと合点がいった。  
お志賀のことがあったから御台の様子がおかしかったのだと。  
合点がいくと同時にこんなにも御台を寵愛しているのに、まだお志賀のことを気にしている  
目の前の若い姫が愛おしくてたまらなかった。  
 
家定は篤姫の細い手首を離した。力を入れて掴んだせいかほんのり赤くなっていた。  
「すまぬ」家定はそっと赤くなった部分に唇をつけた。  
「!....っ、い、けません上様そのようなことをされてはこちらの申し訳がたちませぬ。  
私の手は平気です。どうか...」  
篤姫は自分の手首が熱くて、恥ずかしいような嬉しいような気持ちを抑えつつ  
家定から手をひいた。  
篤姫は今までにないくらい熱い家定の視線に体が熱くなる感覚を覚えながら  
なんとか平静を保とうと言葉を紡いだ。  
「わ、私は上様に嫌われたと思っていたのでございます。慶喜公を推挙したことで  
もう信頼して頂けなくなったのではないかと...」  
家定は先ほど味わった白くやわらかくか細い御台の手首の感触に感動を覚えながら、  
目の前で狼狽えながら自分に向かって話している御台がどうしようもなく愛おしくなった。  
 
多分男に触れられるのは初めてなのだろう。少し震えている。  
「慶喜のことなどどうでもよい。儂がいま御台に感じているのは信頼よりも愛情じゃ。  
そちを、儂のものにしたいという感情じゃ。」  
篤姫は家定の言葉に感動しつつも、どんどん熱くなる自分の体に戸惑っていた。  
(上様に見つめられたところがどんどん熱うなるようじゃ...)  
家定は篤姫の白く透けるようなうなじ、首、可愛らしく震える唇を見つめていた。  
(困ったものじゃ...子はつくらぬと、出来るようなことなせぬと決めておったのに)  
お志賀とはそういうことはあった。あったがこれほどに心が熱くなるものではなかった。  
自分の体の押さえきれぬ衝動など感じる事もなかった。  
されど今、まだ着物すら脱いでおらぬ男を知らぬ年若い姫に今まで感じた事のない昂りを押さえられぬ自分に自分自身が一番驚いていた。  
(御台の肌をもっと感じたい。手首などではまだ足りぬ。)  
唇でその熱さを感じたい。篤姫は家定の男としての視線に射すくめられて動く事が出来ずにいた。  
 
(どうしたらよいのじゃ...)  
先ほど家定に唇で吸われた手首が熱くて、たまらない。  
こんな感覚は男を知らぬ篤姫には初めての経験だった。  
「こんなに儂は御台を求めておるのにお志賀のことなどきにするでない」  
そういって家定は篤姫を抱き寄せた。  
篤姫は目眩がするほどの幸福感に包まれた。  
(夢をみているようじゃ....)ゆっくり目を閉じた篤姫の瞼に家定の唇が触れる。  
それからゆっくり先ほどの涙のあとを辿るように唇を滑らせていった。  
何もかも初めての篤姫は家定のなすがままに委ねていた。  
頬に口づけした後また瞼をたどる。そうしてうっとりとして少し開いた可愛らしい桃色の唇を  
最初は触れるだけで、でもすこしずつ角度をかえてついばむように味わっていった。  
 
「んっ...う、えさ...ま....」  
鼻にかかった甘えるような声色に家定はもう何も考えられなくなっていった。  
(もうどうでもよい。いまはこうして御台の喜ぶ様をみていたいのじゃ)  
そんなことをかんがえながら口づけを繰り返して、気がつけば白く細い首筋に舌を這わせていた。  
「あ...ん、や....上様、そのようなところ...を...んっ...」  
首にかかる家定の吐息と味わうようにうごめく舌のあたたかいぬめりに  
いやらしい声が出てしまうことが篤姫は恥ずかしかった。  
 
「上様.....っ、私はもう....」  
はあはあと息が荒く体を震わせている篤姫に気付き、家定は白い首筋から襟元に  
降りていた唇を離して腕の中の篤姫を気遣った。  
「すまぬ、少し早急にすぎたな。そちには初めてのことじゃというのに....  
息が苦しいか。大事ないか。」  
先ほどの鋭い目ではなく、愛おしいものを包み込むような目で  
見つめられた篤姫は先ほどまでの動悸が治まり、家定の腕の中で守られている  
安心感に包まれていた。  
「はい....上様、取り乱してしまい申し訳ありません。  
お気遣いありがとうございます。」  
いつも自分に向けられている柔らかな笑顔を見て家定は安堵した。  
(熱に浮かされて御台を怖がらせてしまったか....)  
篤姫を何よりも大切に感じている家定にとって、自分に恐怖感を抱かれることは  
何よりも避けたい事態であった。  
 
「今日はもう休め。儂もそちに久方ぶりに会えて気が昂り疲れた。  
今日はこのまま寝る。そちも寝よ。」  
そういって家定は布団に横になった。  
篤姫は家定の優しい心遣いに感謝しつつも、  
先ほどの熱いひとときを思い出し顔を赤らめた。  
(もう、上様にであれば身を任せても良いと思っておったのに  
体がいう事をきかなかった....)  
自分を求めてくれた家定に申し訳ないような気持ちになる。また、  
自分に背を向けて床についた背中をみて寂しいような気持ちにもなった。  
先ほどまでこの身全体で受けていた家定の熱さがいまは遠い。  
寒々しい気持ちになり、篤姫は両腕で自分の身を抱きしめた。  
(寒い......上様の腕の中で眠りたい......)そっと起こさないように  
家定の布団に体を滑り込ませ、寝息を立てるその背中に頬をよせた。  
「とても暖かいです。上様.....」  
そう呟くと、家定の暖かさを感じ安堵のなか  
篤姫は眠りに落ちていった。  
 
ふと背中に人のぬくもりを感じ、家定は目を覚ました。  
「ん......御台?」  
自分と同じ布団で安らかな寝息を立てて眠る篤姫に驚き身を起こした。  
「なぜそのような所で寝ておるのじゃ.....」  
眠い目をこすりながら一人用の掛け布団がほとんどかかっていない篤姫を見下ろした。  
(体が冷えてしまうではないか)  
そう案ずると篤姫の細く小さな体を軽く抱き上げて隣の布団に移動させた。  
「まったく....天下の将軍にこのようなことをさせるのはおぬしくらいのものじゃ」  
少し笑みを浮かべながらそう呟き、掛け布団をかけようとした。  
その家定の目に映ったのは、抱き上げたときに少し裾がはだけてあらわになった  
白く細い足首、視線を動かすと垣間見えるすべすべとした太ももであった。  
 
先刻必死で押さえた自分の衝動、昂りが再び蘇ってくる。  
「これは目の毒じゃ....」  
そういいつつも、いつまでも掛け布団をかけてやることができない。  
もっとその白くすらりとのびた足を眺めていたい。  
篤姫はそんな家定の射るような視線に気付く筈もなく、すやすやと可愛い寝息をたてて眠っている。  
家定は手に持っていた掛け布団を横にやり、眠る篤姫の横に身を横たえた。  
顔を近づけ、耳に唇をよせる。  
「目を覚ませ、御台」  
そういうと手を篤姫の白い太ももに伸ばした。  
「早う目を覚ませ.....もう先刻のようには途中でやめる事はできぬぞ....」  
目を覚まして一言、なりませぬ上様と。  
そういって獣のごとく篤姫を求める自分をいさめてほしかった。  
しかし聞こえてくるのは欲情を余計に煽るような可愛らしい寝息だけだった。  
 
「御台....そちは良い匂いがする。これは何の匂いじゃ....」  
先刻も自分を虜にした、篤姫の白い首筋に鼻先をつけて囁いた。  
甘い香り。お志賀との時には感じた事はなかった香りだった。  
その香りを逃すまいとするように、家定は滑らかなその首筋に舌を這わせた。  
「......ん、んん.....」篤姫の寝息にかすかに混じる色づいた声に  
家定は更に煽られる。首筋の滑らかな曲線に唇をすべらせ上に上がり、  
再び篤姫の耳元に口付けた。  
「儂は、そなたに引き付けられる。  
初めて会うた時は何の関わりも持たぬと決めておったのに.....  
そちの、この香りに引き付けられるのやもしれぬ。」  
眠っている篤姫には届かない言葉だが、  
家定は少しでもこの熱い想いを伝えようと言葉を紡いだ。  
 
すでに人生を憂いただ生きるのみだった家定の心に、  
あの時履物もはかず庭に飛び出してきて家鴨を共に追いかけると  
無邪気な笑顔で言い放った時の如く裸足で踏み込んできた年若い姫。  
最初はお渡りを願いでる破天荒さやお志賀のことを問い詰めてくるまっすぐさに  
恐れを感じ一歩ひいて自分に近寄らせまいと抗った。  
 
でも今は本当の自分を心から求めてくれる篤姫に誰にも感じた事のない  
比類なき愛情を感じる。それは同時に、今まで縁のなかった揺れ動く心や  
会えないときの曇る心、また御台を独占したいと思う欲まで味わう事になり、  
狂おしくもあった。  
 
「......罪なおなごじゃのう、将軍の儂をこのような心持ちにさせるとは」  
 
もっと、篤姫のすべてを自分のものにしたい。  
臆する事なく自分に自由な意見をぶつけてくる、このおなごを  
今にも大空に飛んでいきそうなこの体を自分のもとに縛り付けておきたい。  
自由な篤姫を望んでいるのにそのような独占欲を感じる自分がなんとも  
浅ましく、もどかしかった。  
 
やわらかく可愛らしい耳朶を唇ではさみながら  
「そちの全てを愛したいのじゃ.....」と愛の言葉を囁く。  
篤姫がくすぐったそうに体を動かした。  
「ん.....上様......」寝言を言う篤姫を目を細めて見つめると、  
体を動かした時に更にはだけた夜着からのぞく白いももに目をやる。  
そのなめらかな肌を感じたくてそっと片方の手を伸ばし、  
大切な宝に触れるがごとくに手のひらを滑らせた。  
「まるで赤子のような肌じゃ.......」  
すべすべと滑らかな感触が自分の手のひらに感じられて、家定は深く感動していた。  
篤姫のいたいけな白く細いももをまさぐる自分の手がいつもより大きく感じられて  
篤姫の全てを独占している心持ちになった。  
そうして暫くなめらかなももの感触を楽しんでいると、もうそれだけでは  
足りなくなってきてしまっていた。  
(もっと、もっと御台を自分のものに.....)  
ろうそくの灯りで白く浮かび上がる篤姫のももに顔を近づける。  
(どのような菓子よりも甘そうじゃ)  
そのまま、そのやわらかそうなももに歯をたてないように噛み付いた。  
 
そこからはもう止まらなかった。唇に感じるやわらかさは官能的で。  
家定はすっかり夢中で篤姫のももに舌を這わせ、唇を滑らせた。  
いつもは碁石をうつ音が響くのみの部屋に、卑猥な水音が響いた。  
「......ん......っあ.......は......っ」  
眠りの深い篤姫も、さすがに自分のももを愛撫されている官能的な感覚に  
ゆっくりと目を覚ました。  
ぬめる舌の感覚、かかる荒い息づかい。ちゅっ...と音をたてて自分のももに唇を這わせられ、  
今まで聞いた事のないいやらしい吐息まじりのあえぎが  
自分の声と知った時恥ずかしさで体全体が真っ赤になった。  
何よりも天下の将軍が自分の足下で無防備にももに食らいついている。  
その状況に体が震え、動揺した。  
「......っ、いけませ...ん、上様、そのようなところで、何をしておいでなのです」  
やっとの思いで言葉を発し、先ほどのいやらしい吐息がもれないように  
両手で口を覆った。  
篤姫が目を覚ました事を知っても、家定は愛撫を止めなかった。  
恥ずかしさでほんのり赤く色づいた篤姫のももを、  
更に愛おしそうにその長い指で撫でた。  
「......すまぬ。しかしそちも悪い。儂に隙をみせるな。」  
篤姫を足下から見上げながらいたずらっぽく笑みを浮かべる。  
その鋭い視線とぶつかり、篤姫はさらに赤くなった。  
「私はそのようなつもりは......」  
そう反論しつつ必死で夜着の裾を直そうとする篤姫の華奢な手首を掴み、  
そのまま愛撫を続ける家定だった。  
 
先ほどまでは眠っている篤姫に少しの躊躇を感じ、控えめだったももへの愛撫も  
いまでは大胆に舌を這わせていた。  
「......っあ、いけませぬ......上様、や.....っんん.....は....っ」  
篤姫も、もう自分の口から上がる嬌声を押さえる事ができない。  
いつもは碁石をもち考え事をしてる時はあごに添えられているその家定の  
長くきれいな指が、篤姫は大好きだった。  
その家定の大きな手、長い指が今は自分のももをまさぐっている。  
そう思うだけで意識がどこかへ飛んでいきそうであった。  
「御台.....そちのそのような声は初めて聞くな。もっと聞かせよ」  
わき上がる快感を必死で堪えながらひかえめにあげられる篤姫の可愛らしい声は  
家定を更に昂らせるには充分すぎた。  
震える篤姫の細い足首を掴み、膝を折らせる。  
両足を少し開き、その間に自分の頭を滑り込ませ内ももに唇を這わせた。  
「あ.....あっ、や.....っ上様、おやめくださ.....」  
ささやかな抵抗を見せる篤姫の声を聞きつつも、  
その長い指は篤姫の白くなめらかなももを撫でる事を止めなかった。  
家定の唇がどんどん上に上がり、篤姫の大事な箇所に届きそうになった時、  
篤姫のすすり泣く声が部屋に響いた。  
 
家定は、はっとして顔を上げた。  
あまりにも篤姫を求める心が強すぎて、暴走してしまった。  
篤姫の赤子の如き泣き顔を見て、胸がいたくなった。  
(何よりも大切な御台を泣かせてしまった.....)  
家定は泣きじゃくる篤姫の横に身を横たえ、腕を伸ばしてそっと篤姫の  
震える体を抱きしめた。  
「すまぬ......」精一杯の懺悔をこめて呟いた。  
しばらく篤姫は家定の胸で泣いていたが、  
自分の背中でなだめるように優しく手を動かす家定の優しさに平静を取り戻していった。  
(また取り乱してしまった......)  
初めてとはいえ自分のいたらなさが口惜しかった。  
しかし泣いてしまったとはいえ、自分の体を激しく求める家定の愛撫は  
決していやではなかったのだ。  
むしろ恥ずかしさに身を悶えさせながらも、快感は体の底からわき上がってきていた。  
その感覚は、まだ幼い篤姫を大人の女性へと目覚めさせるには充分だった。  
「上様......」  
「なんじゃ」家定が優しい声で応える。  
「今宵、私を上様のものにしてください。」  
篤姫は覚悟を決めた。  
 
「よいのか、もう泣いても止まらぬぞ。」  
家定は本当にもう止める自信がなかった。  
「かまいませぬ。私も....私も上様が欲しいのです。」  
言って顔を赤らめる篤姫を心底愛おしく感じながら顔を近づける。  
瞳をとじ、薄く開かれた可愛らしい唇を家定はゆっくりと奪った。  
篤姫は優しく触れてくる柔らかい唇の感覚にうっとりした。  
だんだん角度を変えてはさむように唇を重ねてくる家定。  
いつも碁盤をはさみいたずらっぽく少年のように笑う家定とはまるで別人のように思えた。  
少しだけまた不安になる篤姫。  
長く優しく続けられていた口付けが終わり、家定は少し顔を離して篤姫を愛おしそうに見つめた。  
その優しい眼差しを受けながら、篤姫は小さな声で問うた。  
「........お志賀ともこのようにされたのですか?」  
そういった後、いま発した言葉を悔いるように下を向いた篤姫をいじらしく思いながらこう答えた。  
「儂をこのような気持ちにさせるのはそなただけじゃ」  
優しい目で自分をまっすぐ見つめてくる家定に、篤姫はかつてないほどの愛情を感じて嬉しくて仕方がなかった。  
極上の笑顔を見せた篤姫に家定はもう耐えられないというように  
今度は先ほどとは違い、激しく唇を奪った。  
 
 
 

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