ぐー ぐー ぐー  
放課前のHR、教室中に消化準備完了と体の叫びが響く。この訴えは朝から続いていた。  
今日は身体測定がある日で、しかしいつかと違い午後からのスケジュール。大部分の女子生徒は、  
朝食はおろか、昼食で己が空腹を満たすことをせずに測定に臨んでいた。きっとこのHRが  
終われば、昼休みの争奪戦を生き延びた(売れ残ったとも言う)数少ない食料を求めて、  
食事抜き組みの生徒が購買に跋扈することだろう。  
だが戌井榊はそのことを見抜き、前日の内に喫茶店「HatchPotch」の広告を校内中に張り出して  
いた。しかもご丁寧にサービスデーなどと称しケーキの割引をうたって。  
 
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「それでは御庭さん、お願いしますの」  
 
HR終了後、つみきは先生から用事を頼まれた。伊御は今日バイトだがまだ時間は余裕、ちょうど  
ジュースを買って戻ってきた伊御も待っていてくれるというので快諾。  
今日のいつもの一緒の下校に思いを馳せてとりかかる。  
 
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榊の作戦は見事成功。広告を目にした飢えた女子生徒は、空腹のほか、女性の甘いもの好きが  
手伝って、くだんの喫茶店になだれ込むように集まった。さすがに行列までは出来なかったが、  
それでもこの一日で数日分の稼ぎが出せそうだ。みいこは嬉しい悲鳴を上げつつ、この機会に  
少しでもリピーターを増やすべく、携帯電話の電話帳からイ行の彼を呼び出す。  
訪れた女性客に甘いフェイスで微笑みかけはちみつのような囁きで語りかけてくれる伊御君  
(真宵談)なら、今いる女子生徒達を長く引き止めてくれるに違いない。彼の近くには姫ちゃんと  
我が弟もいるだろうし、一緒に来てもらおう。  
「バイト代はずむから、至急ね!」と念を押す。三人とも来てくれる。もうひと頑張りだ。  
 
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単純な作業内容だったにもかかわらず、先生お得意のドジで無駄に長引いてしまった。それでも  
かかった時間は許容範囲内。駆け出しそうな気持ちを抑えて早歩きに留める。  
教室に入ると、すでにほとんど生徒がいなくなっていた。待ってくれているはずの伊御達の姿も  
ない。そしてなぜかつみきの席には真宵がいて、机には紙切れが一枚と、半分ほど中身のある  
500mlペットボトルジュース。後者はたしか伊御が飲んでいたものだ。紙切れには走り書きで、  
《 つみきへ  ごめん 先に行くね  イオ 》と書いてある。わざわざ律儀だ。  
真宵はつみきの両肩に手をがっしと置き、  
「つみきさん、落ち着いて聞くんじゃよ?」と、今の状況に至る顛末を語る。  
 
結果、つみきは三人がいない理由に納得したものの、一緒の下校がパーになりへんにゃり。  
その様子を見て真宵は慰めようとするが…  
 
「榊さんも前に言ってたけど、みいこさんは伊御さんの数少ない弱点らしいから、きっと  
 断りきれなかったんじゃろうね。でもほら、その代わり伊御さんの飲みかけジュースが手に  
 入ったから、これで思う存分、間チューをすぅげハッ!!」  
 
消沈気味のつみきを慰めることこそ成功だったが、不要な発言でつみきに吹っ飛ばされるという、  
お約束に発展させてしまうのは一生治らないのかもしれない。  
 
********************  
 
「HatchPotch」は大盛況。つみきと真宵はなんとか二人分の座席を確保することが出来た。  
伊御を探してみると、ちょうど客からオーダーを取っているところ。その席の女性客達は赤らんだ  
顔をしていて、妙にキラキラした目で伊御を見つめている。また天然でアレをやらかしたのかも  
しれない。近くを通った、同じようにホールに入っていた姫が鼻を両手で押さえている様子  
からして間違いないだろう。  
 
「伊御さん、あいかわらずじゃね…  
「………(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ)」 ってつみきさん抑えて抑えて!」  
 
つみきは、普段からべったりの自分の気持ちに気づかない伊御のことだ。と、この場の自分以外の  
誰かが今日一日で伊御と結ばれることは毛ほどもありえないと思っている。思ってはいるが、  
理性と感情はもちろん別のものだった。  
 
「……帰る」  
「ちょ、つみきさん!?」  
 
居た堪れなくなったのだろう、注文すらすることなく店を出て行く。  
その姿は運よく伊御の視界に捕らえられた。用意してあったケーキの入った箱を二つ持って、  
すばやく出入り口に向かう。  
 
「二人とも、待て」  
 
そして、つみきには「ごめんね」。真宵には「ありがとう」と付け足してケーキを渡す。  
しかしそれでもまだつみきはご機嫌ナナメで、ぽかぽかと伊御を叩く。  
 
「…あんなたくさんの女の子に囲まれて、でれでれしてっ……」  
 
「? でれでれなんてしてないよ?」  
 
「(はぁ…)ちょっと伊御さん、耳貸してねん」  
 
ぼそぼそ  
(何だ?)  
(つみきさんは、え〜〜っと、そう! 待ってる約束までしたのに自分でご飯を食べなかった、  
 いわゆる、自業自得の生徒を伊御さんは選んだと思って怒ってるんじゃよ!)  
(だけどこれは仕事だし、仕方な)  
(いいから早くつみきさんと今いるお客さんとどっちが友達として好きか言ってあげるんじゃよ!)  
 
ふむ。と少し考えて、いまだ伊御を叩き続けているつみきの頭をやさしく撫でてささやく。  
「つみき、聞いて。俺はつみきが(友達として)好きだから安心して」  
 
………  
ぷしゅう  
ブ―――ッ  
 
「あいかわらずの破壊力じゃね☆」  
伊御の腕でくたりとしたつみきを見つめながらガッツポーズ。  
つみきは至福の表情で気絶していた。  
 
********************  
 
そして今夜もつみきは股間に手を伸ばす。  
想うのは伊御のこと。その証拠につみきの視界には、伊御のレアブロマイド、羽根つき勝負で  
勝ち取った伊御の生着替え写真と、『夏服サービス☆』の際に手に入れた伊御の照れ顔写真が  
ある。そして、今日手に入れた『伊御の飲みかけジュース』も。  
 
気絶から目を覚ましてよく考えてみると、好きだと告げられる直前に伊御は真宵から耳打ちされて  
いたし、そもそも伊御は朴念仁なのだ。きっと好きの前には友達云々が付いていたのだろう、  
『安心して』とまで言われたし、とまで思い至る。しかしやはり理性と感情は別のもので、  
『俺はつみきが好きだ』の部分だけ脳内で何度も再生して、自分を慰めてしまう。  
 
おもむろにペットボトルのキャップを開ける。ペットボトルのラベルには、  
『Fanta もぉ〜もぉ〜ミルク』とある。歴とした炭酸飲料だが、気にせず口付ける。微炭酸でも  
酔うことが出来るつみきは、表情にこそ変化はないが、簡単に酔ってしまった。  
酔った思考は、酔って熱くなった体は伊御に抱きしめられているからだという答えを導き出す。  
間接キスだったはずのジュースを飲む行為は、いつしかディープキスのように、小さな舌を懸命に  
使い、飲み口の内部を嘗め回すものに変わっていた。告白の言葉が脳内でリフレーンするたびに  
秘所は潤いを増し、そこを弄る左手の動きも次第に激しくなっていく。そしてついに。  
 
「―――っっ」  
 
絶頂を迎える。一瞬体が硬直し、さらに愛液が溢れ出る。蕩けきった瞳は、いるはずのない伊御を  
見る。好きと言われ、キスをしながらの愛撫でイってしまったのが嬉しくも恥ずかしく、興奮と  
ないまぜになり結果、数滴の鼻血が出てしまう。流れ出た鼻血は秘所に落ちて、そのまま愛液で  
濡れたシーツに滲み広がっていく。それはまるで破瓜の血のよう。  
 
いつもなら眠る時間だが自慰は終わらない。  
自身の鼻血による染みを処女喪失の証とまたも勘違いしたつみきは、さらに激しい行為へと移る。  
中身のほとんど残っていないペットボトルの飲み口をを秘所にあてがう。その際に、わずかに  
残っていたジュースがつみきの体にこぼれる。粘性は無いに等しいが、女の体に垂れた白い液体は  
精液にも似ていた。  
愛液で濡れた左手は、つみきの慎ましやかな胸へ。右手はペットボトルを前後にスライドさせる。  
つみきの指よりも当然太く、そのうえキャップは外したまま。キャップ用の凹凸のある飲み口は、  
いつも指でする時とはまるで違って、つみきはますます伊御と性交しているという実感を強めて  
いく。つみき自身は伊御に抱かれているつもりでも、手はしっかりと慰めるために動くのは  
ある種の本能だったのかもしれない。  
 
(『俺はつみきが好きだ』『つみきが好き』『好き』)  
「っ、はぁ、あっ、いっ、伊御っ、伊御伊御いおっ――――!!」  
 
二度目の絶頂。  
 
「―――伊御、私も、だい、す、き………」  
 
今日は夕方の鼻血噴出が堪えたのか。二回で力尽き、伊御に抱かれたと思い込んだまま眠りに  
落ちる。その顔は幸せそうで、もしかしたらピロートークの夢でも見ているのかもしれない。  
日を跨ぎはしたものの朝はまだ遠く、その頃、つみきを乱れさせたペットボトルは転げ落ち、  
ベッドの下に身を潜めていた。  
 
__________  
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朝起きると伊御がいなかった。  
もしかして、夢だった?好きと言われたのも、キスをしたのも、せ、セックスで伊御にはじめてを  
捧げたのも、その後の、あんなに幸せだった語らいも、全部?  
 
(――嫌だ)  
 
せっかく両想いになれたと思ったのに、それが全て夢でした、なんてこと、あってたまるか。  
 
幸せから一転、絶望へ。全裸で寝ていたこともあり、寒さに震え、ふと下腹部に触れる。  
なんとなくべたつく。これはもしや。  
 
(…精液の、跡?)  
 
シーツを見れば、ほんの少し黒ずみ始めた紅い染み。痛みは全くなかったが伊御のことだ、何か  
すごいテクニックで痛くないようにしてくれたのだろう。  
 
(…だからやっぱり)  
 
光明が見えて、ごくりと喉が鳴る。飲み込んだ唾液はほんのりと甘かった。伊御は普段からあんな  
甘い台詞を吐いているのだから、キスが甘くても何ら不思議はない…と思う。  
 
そして、机には《 つみきへ  ごめん 先に行くね  イオ 》と書いてあるメモが!  
今日は平日で、もちろん学校がある。時計を見れば、そろそろ急がなくてはいけない時間だ。  
もう間違いない。  
 
「夢じゃない!!」  
 
昨日あった全てが現実にあったこと。嬉しくて涙が出る。いっそ部屋中を転げ回りたいぐらい  
だが、こんなことをしている場合ではない。急いで身支度を済ませないと、伊御の登校時間に  
合わせられない。まずはシャワーを浴びよう。  
 
********************  
 
「俺はずっと厨房にいたから見てはいないんだが、昨日の姫は凄かったよな」  
「そういえばいつもより多く転んだりしてたよね。何でだい?」  
「そ、それはですね…あまりにも、その、おなかがすいて」  
「――商品をつまみ食いしたい本能と理性のせめぎ合いで、足にまで注意がいかなかった  
 んじゃね。姫っち、朝も昼も抜いてたもんね」  
「お恥ずかしいかぎりです…。あ、つみきさん、おはようございます」  
 
「おはよう、姫。真宵も、榊も、おはよう」  
 
なんとかみんなに追いつく。挨拶を返すが、伊御には恥ずかしくて、そして昨日のことをほんの  
少しでも夢と思ってしまったことが申し訳なくて、なかなかおはようと言えない。  
 
「つみき、おはよう」  
伊御はいつもどおりだ。せめて普通にしなければ。  
 
「…おはよう」  
 
普通にできた?鏡が無いからわからない。でもやっぱりいつもと違うらしく。  
 
「なんかつみきさんの様子が変じゃね。くまが出てる割には妙に嬉しそうというか…ニヤニヤ?」  
「夜更かしでもしたんでしょうか?」  
 
普通どころか全く隠せていないらしい。みんなに心配をかけるのも悪いし、どうせ隠せないなら  
いっそ見せ付けるつもりで。祝福してくれるだろうか?今までなかなか進展していなかったから、  
伊御以外の三人はとても驚くことだろう。たぶん死ぬほど恥ずかしいだろうけど、言う。  
 
「伊御が…なかなか寝かせてくれなかったから……」  
 
「「「「 !? 」」」」  
 
 
おわり  
 

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