「ああっ……ヴェルナー!」
泣くような、嗚咽するような声が口を突いてでる。彼に抱かれるときはいつも。
リリーは己の胸に埋めてられている頭をきゅっと抱きしめる。かすれた呼気が口から漏れて震えた。
「ヴェルナー、ヴェルナー、好きよ! 好き! 愛してる!」
「……今日はどうしたんだ、お前」
ヴェルナーが顔を起こす。その顔をリリーが手で挟んだ。
「いや! 愛してるっていって! 私を愛してるっていって!」
「バカ、決まってるだろ」
ヴェルナーの腰が突きこまれる。
「はあっ!」
リリーの体が跳ね上がった。
「――愛してるぜ、他のだれよりも」
ヴェルナーの口がリリーの口を塞いだ。
「ん?」
ヴェルナーは少し照れたように鼻をこすった。
「ちょうど良いところに来たな。お前に頼みたいものが――」
「ごめんなさい――」
「あ?」
「ごめんなさい……ヴェルナー……」
「オ、オイ!」
それだけいうと、リリーはヴェルナー雑貨から飛び出していった。
それから、リリーを見ることはなくなった。店を訪ねることも。自分から訪ねてみることも。
はじめは、風邪でも引いているのか、そうでなければどこか遠くへ採取にでも出たのだと思った。
そのまま、十日が過ぎ、二十日が過ぎて、それでも現れなかった。
……月が何度か変わり、季節が替わるころになっても、リリーは現れなかった。
ようやく、おかしいと気づいた。今日もアトリエの扉を激しく叩く。
もはや、叩き割るほどの力で打ちつけていた。――だが、やはり彼女は出てこなかった。
(なぜなんだ……リリー……なぜ……)
近所の人間が遠慮のない好奇の視線を向けてくるなか、肩を落としながら引き返していった。
そのとき――
「お前ら……!」
目の前にオッド・アイの少女たちがいた。彼の姿を認めると、さっと踵を返そうとする。
「おい、待て!!」
「いやっ、離して!」
青紫の髪の少女が、掴まれた手首を振りほどこうとする。
だが、ヴぇルナーは相手が子供だということも忘れてきつく掴みあげていた。
「リリーはどこにいった!? どこなんだ!? 答えろ!!」
「痛い! 離してぇ!」
「よしなさいよ!」
緑の髪の少女がその腕にしがみついた。見上げた瞳は涙に潤んでいる。
「先生は……先生は……もう帰ってこないのよおっ!!」
「なん……だと……」
そのとき、馬車が通り過ぎた。紋章からして貴族の馬車である。
――擦れ違う瞬間、目と目が合わさった。
馬車に乗って、俯いていた少女と。
少女は一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐにそらした。
外からは見えなかったが、大粒の、涙を、落としながら。
工事現場はとみに賑わっていた。
停滞し、中止寸前の作業に再び息が吹き込まれたのだ。
――ドルニエはにやけた顔でそれを督していた。
「オイ」
不意に後ろから声がかかる。振り向いたドルニエの顔に拳がめり込んだ。
「ぶぐうぉっ!」
ドルニエの体は軽く2メートルは吹っ飛ばされる。
その襟首をヴェルナーが掴み上げた。
「この外道! リリーを売りやがったな!」
「仕方がなかったんだ!」
土ぼこりにまみれた顔が醜く蠢く。
「アカデミー建設を中止するわけにはいかんのだ!」
「……この糞野郎」
ヴェルナーが拳を振り上げ、二度、三度打ち下ろす。
しかし、すぐに工事の労働者が飛んできて取り押さえられた。
ヴェルナーは無理やり引きずられて、追い出されていく……。
「畜生! 畜生おおおぉぉ――――――っ!」
思い出していた。はじめて、リリーと過ごした夜を。
「なぁ? 本当にいいのか?」
いつもとうって変わった、臆病で繊細な表情が、ヴェルナーの顔に浮かんでいた。
「……だってよ、俺なんかよりずっと身分の高い騎士のお偉方や、
俺よりも若い冒険者の小僧なんかがお前に惚れていたじゃないか。
本当に、俺みたいな無愛想なだけの男なんかでよか――――っ!」
リリーの舌が、それ以上の言葉を押しとどめようとするように、ヴェルナーの口をふさぐ。
「――…好きよ、ヴェルナー」
潤んだ瞳がヴェルナーを見上げた。
「無愛想で、飾らない」
まっすぐ、みつめて。
「そんな、あなたが好きよ――」
「ああっ!!」
リリーの、解いて下ろされた髪が、ベッドに波打つ。
その布地には、純潔の赤い跡、その上に、ぽたぽたとこぼれる雫――
「好きよ、ヴェルナー! もっと抱いて! 抱きしめてぇっ! 強く、強く抱いてぇっ!」
二人の心は一つになって、あふれ返り、ますます滑らかになっていく……。
「ああ! ヴェルナー! ヴェルナー! ヴェル……ナ……ァ……」
二人はきつく、きつく抱きしめあっていた。二人が、二人が、決して離れることなどないように――
「――待ってろよ、リリー」
ヴェルナーはメガフラムを手に立ち上がった。
厚い玻璃の奥深く。栗色の髪の少女が窓辺に向かって俯いている。
大きな瞳は翳り、切なげに潤んでいる。
思い出したようにつく溜息の度に華奢な体に不釣合いな乳房が揺れた。
――リリーである。
「お嬢さん、どうしたのかね。今日も悲しげだ」
「……カスパール様」
いつの間にか、リリーの後ろに男が立っていた。
でっぷりと太った体の上に一見温厚そうな顔を載せた、中年の男である。
リリーは貴族カスパールの妾として囲われていたのだ。
「この部屋は眺めがよくないかね。何だったら別の部屋に代えようか」
カスパールがリリーに歩み寄りながらにこやかに話しかける。
「いえ……」
「では、食べ物がよくないのかな。何か好きなものがあれば言いなさい。料理人に命じて用意させよう」
「いえ、結構です」
「そうか……」
カスパールは何やら考え事をするように黙った。すっと目を細めた。
「では、まだあの男の事が気になるのだな」
「! はあっ」
肉厚の掌がリリーの乳房を鷲掴みにする。
「どうなんだ、言ってみろ」
「お許しください、カスパール様……ああっ!」
そのまま強すぎる力で揉みしだき、こねくり回す。
カスパールの野太い指に握りつぶされ、リリーの豊満な乳房は何度も何度も形を変えた。
「困ったことだな。君にはいいかげん私の玩具に過ぎないという身の程を理解してもらわねばならん。少し躾けが必要だな」
カスパールは腰から何やらを取り出した。一本の縄である。
「な、何を……ああっ!」
縄はリリーの体に被さると、独りでに絡まり、リリーを椅子に縛り付けていく。
「錬金術とやらの道具だよ。君の先生から譲ってもらってね。いや、元先生というべきか」
生きている縄は泣き叫ぶリリーを弄ぶかのように、熟れた体を淫らに締め上げた。
リリーの股は大きく開かれ、そのまま椅子に固定される。
優美な太ももの曲線が露になり、その奥に純白の布切れを覗かせた。
上体は両の乳房を絞るように付け根で締められ、両手は後ろ手にされた。
「美しい! 実に美しいよ、リリーくん」
「はあっ……」
顔を背け涙を流すリリーの頬にカスパールが舌を這わせる。
そうしながら片手で胸をまさぐると、服を掴んで無理やり引き裂いた。
白い乳房がぷるんとこぼれ出て、大きな乳輪が剥き出しになった。
「いやあああっ! 誰かああああっ!」
叫んでも無駄なのにリリーはいつもの様に助けを求めて悲鳴を上げる。
カスパールは意に介さず、まるで母の乳を飲む赤子のように一心にリリーの乳首に吸い付いていた。
「あはァ! やぁ、やだやだやがああっ!」
長い髪を揺らし、必死に首を振って泣き叫ぶが、乳首からはくすぐったいような、
耐え難い刺激がつき上げてきた。カスパールの責めは執拗であった。
たっぷり十分は乳首だけをしゃぶり続けた。ただしゃぶるのみではない。
片方の乳首に吸い付きながらもう片方を指で摘んだり、弾いたりする。
あるいは交互に口に含んで吸い上げ、あるいは乳房をぎゅっと手で押し挟んで、
両方の乳首を一度に舐め、啄ばむ。意に反してリリーの悲鳴に次第甘いものが混じっていく……。
「はァ……あふぅ……」
「くっくっくっ、おっぱいが感じてきたのか? それとも縄に酔ってきたのかな」
カスパールが手をリリーの股に差し込んだ。
「はあっ!」
カスパールの指はいきなりクリトリスに触れ、押しつぶしている。
「ここが一番いいんだろ。焦らさずに責めてやるよ」
「ひいっ! あひぃ! ひああっ!」
リリーは体を九の字に曲げ、咆哮するように喘いだ。
太ももに内奥から染み出てきた蜜液がつたわって、滴り垂れた。
縄がよりいっそう強くリリーの乳房を圧迫する。
「駄目ぇ、そんなに強く……ひいっ! 駄目ぇ、駄目ぇ、あっあっあっ!」
「そら、もう一丁!」
「あひぃ! 駄目ぇ、駄目ぇ、駄……目ぇぇぇぇぇぇぇ――――っ!!」
ビクンビクンとリリーの体が痙攣した。
あまりの激しさに椅子ごとゆれ、ガタゴトと床に倒れそうなくらいになる。
そのまま、リリーは息苦しそうに喘いでいたが、やがて痙攣が弱くなるにつれ力が抜けていき、
代わって縄が椅子に縛りなおすようにぐったりした体を締め付けた。
美しい顔は弛緩しきって、瞳孔が開き、だらしなく開いた口からは涎が垂れている。
そして、頬をつたっては涙が……。
それは、あまりにも淫らで惨たらしい光景だった。
「くっくっくっ、素晴らしい姿だ、リリーくん」
「あ……はぁ……」
「では、そろそろこっちも使おうか」
ズボンのベルトをガチャガチャとはずすと、カスパールは己の逸物をさらけ出した。
抗うことも出来ないリリーの髪を掴み、乱暴に面を向けさせる。
そうして、いきなり肉棒をリリーの口に突っ込んだ。
「ぶぐう! ふぶぅ!」
臭気がリリーの鼻をつく。
吐きそうな衝動に駆られるが、彼女には物理的にも、また社会的にも抵抗することは出来ない。
カスパールはそのまま乱暴に髪を手繰り寄せると、荒々しくイマラチオを始めた。
リリーの顔が激しく前後に揺れ、赤い、ふっくらし唇を毒々しい肉棒が何度も何度も擦って往復する。
リリーの口内で屹立はますます怒張を強めていた。
(ヴェルナー……ヴェルナー……助けて……)
リリーは肉棒を咥えさせられ、涙を流しながら、愛しい人を心の中で呼び続けていた。
無限に続くのではないかと思われた口淫。
だが、やがて数十往復した程になって、腕でも疲れたのか、カスパールは己が怒張を口から引き抜いた。
「ぷはぁ!」
ぬめった音を立てて肉棒が引き抜かれる。
栓を抜かれたリリーの赤い肉厚の唇からは唾液が糸を引いてカスパールの男根につながっている。
「ようし、それじゃあ今日のメインディッシュだ」
カスパールは、何度かぺしぺしと男根でリリーの頬をぶってから、正面にまわって腰を落とした。
荒々しくそこを蔽う最後の布を引き裂く。
「や……ぁ……」
(ヴェルナー……ヴェルナー……!)
その濡れそぼった瞳に満ちた悲しみを見て、カスパールはにいっと口の端を吊り上げた。
一気に男根を突き込んだ。
「んああああああああああっ!」
跳ね上がる体に覆いかぶさるようにカスパールがリリーの上にのしかかる。
そうして激しくピストン運動をはじめた。
「いやああっ! ああっ、はああっ!」
暴れる度に縄がリリーの体に食い込んでくる。
生きている縄はカスパールの挿入に都合がよい様に巧みに結節をずらし、再結合した。
カスパールの黒ずんだ陰茎がリリーの柔肉を何度も蹂躙した。
「あああああっ! あたし、あたしィ!」
「いいよ、一緒にイコう!」
カスパールが汚い腰遣いを一気に加速させた。同時に、リリーの体が弾けた。
「あっ、あっ、あっ、ああああ――――っ!」
吊り上げられた魚のように反りあがり、体を突っ張らせるリリーの顔面に、
立ち上がったカスパールが精液を浴びせかける。
異臭を放つ粘液がリリーの綺麗な顔をベトベトに汚していく。
少女がか細く震えた。
(ヴェ……ル……ナ……ぁ)
「ふう。気持ち良かったよ、お嬢さん。次は友達を何人か連れてこよう」
カスパールが身づくろいをはじめる。リリーは椅子の上で縛られたまま放心したようにぐったりとして、
ただ唖のように黙して聞いていた。
「そうそう。ところで、今日は窓から煙が見えただろう」
カスパールは急に話題を転じる。
「ここからだと王宮の方角だ。あれが何だったか分かるかい?」
「…………」
「感心なさげだね。では、直ぐ教えてあげよう。あれは王宮前広場で処刑があったんだよ。
火炙りだ。この屋敷に乱入しようとした、ヴェルナー・グレーテンタールとかいう下種のね」
リリーの体がビクンと跳ねた。
「まったく、ふざけた奴だよ。この屋敷に乗り込んで君を取り戻そうとしたのさ。平民が貴族に準ずる私を襲撃するのは大罪だ。
念入りな拷問の末、公開処刑にしてやったよ。火を点けられたときなんか、生きたまま焼かれて、
あついよおあついよおと泣き叫んでいたそうだよ。ウッヒッヒ!」
さも、面白そうにそれだけ語ると、カスパールは高笑いしながら部屋からでていった。
リリーが隠し持っていた毒キノコの粉で自ら命を絶ったのはその夜のことである。
<了>