「リリー、これを」  
ヴェルナーはリリーの胸元を隠している服を引っ張った。  
「う、うん」  
先ほど、服を脱いだ後に、このブラウスだけはもう一度手に取ってしまっていた。  
彼と、直接抱き合うのが怖い。汚れてしまった自分を見られるのが怖くて、  
一度彼の前に裸を晒した後、無意識に胸元を服で覆ってしまっていたのだった。  
しかし、ヴェルナーはリリーの気持ちを知ってか知らずか、そのブラウスを  
彼女の手から奪い去り、床に落とした。  
「や……っ!」  
ぷるん、とこぼれた胸にヴェルナーが口付ける。  
「ヴェル、ナ……、んんっ」  
くちびるで乳房を柔らかく愛撫され、舌で乳首をなめ回される。だんだんと  
胸の頂点が硬くなっていくのを感じ、それと共に甘い声が漏れそうになる。  
リリーは思わず口元を手で覆った。  
「いいから、声聞かせろよ」  
しかし、ヴェルナーはそれを許さずに彼女の手をどけさせる。  
「我慢しなくていいから」  
その一言を聞いて、今までリリーが抱えてきた辛い思いが一気に弾けた。  
 
「ヴェルナー、ヴェルナー」  
胸を吸っている彼の頭を抱き、泣きながら何度も名前を繰り返す。  
「あたし……、ずっと、ヴェルナーの事を」  
それから先の言葉を彼に告げる資格は、今の自分には、もう無い。  
そう思ってリリーは口を閉ざす。  
「俺、を?」  
「……」  
言葉の代わりに、ただ涙だけがこぼれて行った。  
ヴェルナーは小さく舌打ちをすると、リリーの股間にいきなり指を滑らせる。  
「やっ、やあっ」  
先ほどの胸への刺激だけで、そこはすでにしっとりと濡れてきている。  
何人もの男に抱かれ、快楽を憶えてしまった身体。  
「あ、ん」  
割れ目に沿ってヴェルナーが指を動かすだけで、いやらしい声が出てしまう。  
「やっ、ヴェルナー、やめ……」  
「我慢するな、そう言ったろう?」  
指が動くたび、くちゅくちゅ、と濡れた音が響く。  
「だって、私、もうこんな事言えな……、私、汚れ……て」  
涙はあふれ続けているのに、ヴェルナーの指に応えて腰が勝手にくねってしまう。  
 
「いいか、お前は」  
真っ直ぐリリーの目を見つめると、たまらずに視線を外す。そんなリリーを  
感じさせている指は止めずに、反対の手で優しくリリーの頬を包んで  
正面を向かせた。  
「お前は、汚れちゃいない。お前が清めて欲しい、と言うなら、それでお前の  
 気が済むならいくらでもそうしてやる。でも、お前は汚れちゃいないんだ」  
「ヴェルナー……」  
消えそうなリリーの声を飲み込むように深く口付ける。  
「んくっ……、ん、ん」  
リリーの手がゆっくりと持ち上がる。ためらいがちにヴェルナーの肩に触れ、  
そして彼にしっかりとしがみつく。  
「ヴェルナー、私」  
長いキスの後、今度はリリーの方からしっかりと彼の目を見据えて。  
「ヴェルナーが」  
ヴェルナーは優しくリリーの脚を広げさせた。充分に濡れた秘所に  
自分の硬くなった肉棒の先端を当てる。  
「ヴェルナーが、……好き」  
「ああ、俺もお前が好きだぜ、リリー」  
一番聞きたかった言葉と共に、一番愛している男が身体の中に入ってくる。  
「ん……っ!」  
がくがく、とリリーの身体が震える。熱い気持ちが喉に詰まって、声が出せない。  
「はあ……、っ」  
「すげ……、気持ち、い」  
腰を揺らしながら、ヴェルナーが奥へ、奥へと侵入してくる。  
 
見知らぬ男に抱かれる時、固く、固く目をつぶって考えていたのは、いつでも  
彼の事だった。  
自分は、今ヴェルナーに抱かれている。ヴェルナーに身体を任せている、  
無理矢理にそう考え、そんな妄想にすがって辛い夜を何度もやり過ごしてきた。  
快楽を感じると、彼の名を呼びそうになる。もちろんそんな事をしては  
いけないのは分かり切っていたので、くちびるを噛んでこらえていた。  
熟れた肉体を持った清楚な少女が、抱かれる時にはまるで処女のように  
儚く身体を震わせ、嗚咽をこらえて涙を流す。その姿はひとときの欲望を満足させる為に  
目をぎらつかせている男達の情欲をそそった。  
経験も、テクニックも持ち合わせていない彼女が夜の街で客に不自由しなかったのは  
そんな理由からだった。  
 
「ううっ、あ」  
それでも、今は目を開ける事ができる。  
「ヴェルナー……」  
思い続けていた彼の姿を見ながら、彼の名を呼ぶ事ができる。  
「リリー、リリー」  
そして、彼のくちびるから何度もこぼれるのは、リリーの耳に聞こえてくるのは  
愛おしそうに彼女を呼ぶ声。  
 
「ヴェルナー、私、私、っ」  
ゆっくりと、探るようだったヴェルナーの動きが、徐々に大胆に、大きいものへと  
変わっていく。  
「気持ち、いいか?リリー」  
こくこく、と何度も頷く。  
絶頂、へと導かれた事はある。それでも、今彼に全身で与えられている快楽とは  
全然違ったものだった。  
「こんな……、の、初めて、私」  
自分から首をあげ、キスをねだるとヴェルナーはすぐにそれに応えてくれる。  
ヴェルナーの動きに合わせて、自分からも腰を振る。お尻がほんの少し浮き上がり、  
そして落ちるとシーツにたっぷりと染みこんだ自分の愛液の存在を改めて感じてしまい  
身体が熱くなる。  
「気持ち、いい……好き、ヴェルナー、私、いくっ!い、っちゃう」  
「いいぜ、来い、俺の所へ来い、リリー」  
「キス……」  
くちびるを合わせる、ほんの一瞬前。  
「愛してるぜ、リリー」  
ヴェルナーがそうつぶやき、それを聞いたリリーが登り詰める。  
「く、っ」  
びくびく、ときつく締め付けてくる粘膜に搾り取られるように、その後すぐにヴェルナーも精を放った。  
 
 
数日後、アトリエでもう一度最初から錬金術のレシピを見直しているリリーに、  
「あの〜、先生、これ」  
イングリドとヘルミーナの二人がずっしりと中身の入った袋を差し出した。  
「何?えっ、こ、これは」  
中にはかなりの額の銀貨が入っていた。  
「あなた達、これ」  
「イングリドがランドージャムの調合する時、配合を間違えたんです。本当にガサツなんだから」  
「うるさいわね。それで、すごく甘く濃くなっちゃったから、あのいつも甘いもの欲しがる  
 冒険者の人いるじゃないですか、あの人の所に持って行ったら高く買ってもらえて」  
同時にぺこり、と頭を下げる。  
「先生、ごめんなさい!それで、バッチ依頼、って言うんですか?それ、受けちゃって」  
「勝手にレシピ書き換えて、先生に内緒で依頼受けてごめんなさい!」  
「あなた……達」  
驚いているリリーの前で、二人はぼろぼろ、と涙を流した。  
「でも、せんせ、お金無くて、元気も無い……から、元気になって欲しくて」  
「私達、なんでも先生の言う事聞きます。お手伝いももっと一生懸命するから!」  
二人はリリーに抱きつき、わあわあ、と大声で泣き出した。  
「うん……、ありがとう、ごめんね、ごめんね。私、頑張るから。もう大丈夫だから」  
イングリドとヘルミーナをしっかりと抱きしめ、にっこりと笑って見せた。  
「良かった……、せんせぇ、笑って……る」  
 
「リリー、いる?」  
アトリエのドアを開け、入って来たのはイルマだった。  
「ねえリリー、あなた病気だったんだって?」  
リリーの顔を見るなり、心配そうな顔で駆け寄ってくる。  
「はあ?」  
「ヴェルナーさんに聞いたのよ。体調が悪くて、錬金術も失敗……、あ、ごめんなさい。  
 錬金術も上手くいってなかったって」  
「あ、ええ」  
もごもご、とごまかすように口の中でつぶやく。  
「でも、もう良くなったんでしょ?それで早速だけど、依頼をお願いしたいの。  
 オニワライタケと、マッシュルーム、三十個ずつ。期限は早い程いいわ」  
「ね、ねえイルマ、いつも思うんだけど、キノコなら雑貨屋さんで売って……」  
イルマはリリーに歩み寄ると、彼女をしっかりと抱きしめた。  
「あたしは、リリーの用意してくれたアイテムが欲しいの。どうしてもリリーじゃなきゃ、  
 イヤなのよ。分かる?」  
そう言っていたずらっぽくウィンクする。  
「イルマ……、ありがとう」  
少しずつ、自分の方から距離を置くようになってしまった人々。  
それでも、相手の方から自分の元へと戻って来てくれる。  
「本当にありがとう、イルマ」  
 
「お邪魔するわよ」  
レシピの書き換えも大分進んだ頃。シスカがアトリエを訪れた。  
「リリー、ルージュの制作を依頼したいんだけど、いいかしら?」  
「は、はい、でも」  
以前作ったルージュを渡した時、シスカは不満そうな顔をしていた。  
それを思い出してリリーは口ごもってしまう。  
「それで、差し出がましいようなんだけど、調合をしている所を見せて欲しいの」  
「えっ?……は、はぁ」  
突然どうしたのだろう、と思ったが、言われるままに材料、機材を準備する。  
「はっきり言わせてもらうけど、あなたの作るルージュは、色と伸びが悪いの」  
「は、はぁ」  
いきなり品質の悪さを指摘されたリリーは肩を落とした。  
そんなリリーを安心させるようにシスカが微笑む。  
「ごめんなさい、差し出がましいとは思ったんだけど。錬金術は分からないけど、  
 化粧品の事なら少しお手伝いができるかもしれないと思って」  
テーブルの上に用意された材料を指さす。  
「多分、宝石草のタネの砕き方が足りないんだと思うわ。使用感がザラついているから。  
 肌に乗せるものは粒子が細かければ細かい程いいのよ」  
言われた通りに、いつもより丁寧にタネをすり潰すと、いつものくすんだ赤ではなく  
深みのある紅色へと変化していく。  
「そうね……、この色なら合格」  
シスカはまだ水分を飛ばしていないルージュの元を薬指に取った。  
「これくらい薄付きだったら、あなたにも似合うわね」  
その指でリリーのくちびるをそっと撫でた。  
 
自分用に作ってみた、薄付きのルージュ。それを塗って、ドキドキしながら  
ヴェルナーの店へと向かう。  
「よう」  
階段を上がると、いつものぶっきらぼうな挨拶。  
「ありがとう」  
「あん?」  
「いろんな人に、私の工房の宣伝してくれてるから」  
「ああ」  
少し照れたような表情を隠すように、ぽりぽり、と頬をかく。  
「まあ、宣伝するだけはしてやったけど、品質の悪いモン作って泣きを見るのはお前だ。  
 せいぜい頑張るんだな」  
「そんな事言われなくても、頑張ってるわよ」  
ふっ、とヴェルナーがリリーの顔を見る。  
「……ちょっと、こっちへ来い」  
「何よ」  
ちょいちょい、と手招きをされ、誘われるままにカウンターへ向かう。  
「……何よ」  
まじまじ、と顔を見つめられ、照れ隠しに怒ったような声でつぶやく。  
「何だか、いつもと感じが違うか?まあ、同じ、って言えば同じだが」  
「だから、何だって言うのよ……!」  
ヴェルナーは椅子から立ち上がり、カウンター越しにリリーの肩に手をかけた。  
「いつも、いつでも。ずっと、お前はお前だ」  
そう言って、カウンターに身を乗り出してリリーに甘いキスをした。  
 

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