「クラーラさん。今回もファスビンダーまで一緒についてきてもらっちゃって、ありがとうございました!」  
ヴィオラートが嬉しそうな笑顔で言った。  
「いいのよ、私もヴィオの村おこしに協力できるのが、うれしいから」  
宿屋の一室で、ベッドに腰掛けて髪をとかしながらクラーラも微笑む。  
二人の泊まっているところはファスビンダーの、ザヴィットが経営する酒場兼宿屋で、  
それほど広くない部屋の左右対称にベッドがしつらえられており、  
クラーラの向かい側のベッドではヴィオラートがスプリングで遊んでいる。  
子供好きなクラーラは、そんな彼女が微笑ましくてたまらない。  
「ヴィオ、いるかい?」  
ノックの音がして、ドアの外から今回の彼女たちの護衛役であるロードフリードの声がした。  
「あ、ロードフリードさん!」  
ヴィオラートがベッドから飛び起きると、ドアを開けに行った。  
ドアの向こうには、いつもの紳士的な笑みを浮かべた青年が立っていた。  
「やあ、ヴィオ。下の酒場でザヴィットさんがいい酒をご馳走してくれるそうなんだ。  
よかったら君も一緒にどうだい?あ、クラーラさんも、どうですか?ご一緒に」  
「いいえ、私はあんまりお酒は好きではないし、今日は疲れましたからもう先にお休みします」  
夜更けて出歩くことに慣れていないクラーラが、すまなそうに応える。  
「じゃあ、いってきますね」  
部屋の鍵を持ったヴィオラートがロードフリードの後ろについていったのを見届けて、  
クラーラも部屋の内鍵をかけると、眠るための準備を始めた。  
 
すっかり暗くなった部屋で、クラーラは誰かのうめくような物音に、目を覚ました。  
体を起こして向こう側のヴィオラートのベッドを見ると、彼女の姿はまだなかった。  
「まだ酒場にいるのかしら…」  
少し心配になりながら、クラーラが寝返りを打つと、目の前の壁の方から誰かの声がするのに気づいた。  
よくよく耳を澄ますと、それがよく知っている人物の声なのに気づいて、驚きをあらたにする。  
ーあっ…ん、や…やだぁ…  
ーどうして嫌なんだい?ヴィオ…こんなになってるのに…  
ーい、いや…、恥ずかしいよ…  
ー可愛いよ、ヴィオ…もっとよく見せて…  
ーだ、駄目です、だめ…あ、ああああぁっ…  
静まり返った夜中だからだろうか、隣室の睦言が、  
まるで耳元で囁かれているかのようにはっきり響いてくる。  
しかも、それがよく見知った人物たちのものだとわかって、  
二人が睦みあっている光景まではっきりと脳裏に描き出された。  
ーヴィオはとっても感じやすいんだね…うれしいよ…  
ーや、やだ…そんなこと言わないで…あっ…あうぅ…っ  
ヴィオラートの涙声が、切ない喘ぎ声に変わっていく。  
いつも子供っぽい彼女の、意外すぎる一面を垣間見てしまい、クラーラの鼓動は早鐘を打っていた。  
ファスビンダーまでの道のりでも、ロードフリードのヴィオラートへの愛情あふれる気配りは、  
礼儀正しい自分へのものとは一線を画しており、同行しているのが、  
ヴィオラートの兄バルトロメウスだったならと、ついうらやましく感じてしまっていた。  
しかし、まさか二人の関係がここまで進んでいたとは、少なからず衝撃であった。  
ーはぁ、はぁ、も、もう…  
ーもう、どうしたいのかな?  
ーもう…やめて…んっ…うぅ…  
ー本当に、やめて欲しいのかい?  
ーっ…あっ…う…ん…  
ーヴィオは普段はあんなに素直なのに、どうしてこんなときだけ意固地になるのかな?  
ーい、やぁっ…そこ、だめぇ…っ  
ー体のほうは、こんなに正直なのにね…  
ーあっ…んくっ…ううっ  
ーほら、こんなに溢れて、気持ちいいって言ってる…  
ーロ、ロードフリードさんこそ、こういうとき、どうして意地悪なんですかぁ…昼間はあんなに優しいのに…っ  
ーヴィオが素直になってくれないから…  
ーそんな…  
ーいいのに、駄目って言ったり、欲しいのにいらないって言ったり、どうしてだい?  
ーだだって、は、恥ずかしい…んっんんっ…んー…っ  
会話が途切れて、断続的なヴィオラートのくぐもった呻きだけがしばらく続いた。  
どうしてだろうと考えかけて、クラーラは二人が口付けをしているのだと思い当たり頬を上気させた。  
時折ヴィオラートの甲高い悲鳴のような声が混ざり、  
長いキスの合間にも絶え間なく愛撫を受けているのだと思われた。  
ーんっ…あっああああぁーーーっ!!  
ー…っ…はぁ…ヴィオ……ッ  
切羽詰った二人の声がひときわ大きく響き、二人が同時に上り詰めたのだと知った。  
ーはぁ、はぁ…もう、あたし…  
ーまだ、だよ…  
ーやっ…これ以上は、もう無理だよぅ…っ  
ー久しぶりだからね、もっとヴィオが感じてるところが見たいんだ…  
ーこ、これ以上されたら、あたし、どうにかなっちゃう…  
ーいいんだよ、もっと乱れているところ、俺に見せて…  
ーんんっ…あ、いやああぁっ…ああーーっ!  
ーヴィオ…あんまり大きな声を出すと、隣の部屋のクラーラさんが起きるかもしれないよ?  
ーはぁ、はぁ…ひ、ひどいです…ロードフリードさん…  
ーごめん…じゃあ、こうすれば、いいかな?  
ーんんっ…んーーっ…  
再び言葉にならない声だけが、壁の向こう側から響いてくる。  
自分の存在が意識されていると知って、クラーラは体中が熱くなり、  
下腹部にじんわりした痺れが這い登ってくる感覚を覚えた。  
何度も何度も、ヴィオラートの上り詰めた嬌声が聞こえる度に、  
クラーラも体の中心が疼くような感覚に襲われて、毛布の中で自分の体を抱きしめた。  
どのくらいの時間が経ったのか、隣室の物音が途切れてしばらくすると、  
ロードフリードの声が聞こえた。  
ーヴィオ…もう眠ってしまったのかい?無理をさせてしまったね…ごめんよ…  
優しく恋人に語り掛けている声に、クラーラの胸も熱くなる。  
自分にも、こんな恋人がいてくれたなら……  
ー…クラーラさん、俺の声が聞こえていますか?  
 
突然の語り掛けに、クラーラは大きな衝撃を受けた。  
ー突然のことで驚いたでしょう?けっこう以前から、ヴィオとはこういう関係なんですよ  
ロードフリードは明らかに、クラーラが起きていると知って話していた。  
クラーラは衝撃のあまり声も出せずに、じっと毛布の中でうずくまる。  
ーこれだけ薄い壁だと、俺も向こう側の相手の気配くらいは悟ることが出来るんです。  
ロードフリードがクラーラの疑問に回答を出してくれた。  
ーこれでも一応、俺たちは結婚を前提としたつきあいですから、どうかご心配なく…  
たしかに、村でも品行方正で通っている彼が、自分の評判を貶めるまねをするとは考えにくかった。  
ーですから本当は隠す必要は無いのですが、これがバルテルに知れると、  
 俺はヴィオの家に出入り禁止にされかねませんからね、仕方ないんですよ…  
ロードフリードの声には苦笑が聞き取れた。  
ーあいつも、自分の恋愛がうまくいかなからといって、こちらに八つ当たりするのはやめて欲しいですよ  
「えっ…?」  
思わず声が漏れてしまい、クラーラは自分の口を手でふさいだ。  
ー可哀想に、あいつは高嶺の花とやらに恋焦がれていて、自分からは行動に移せないらしい…  
 ああ見えて、奥手で奥ゆかしい奴ですからね…俺とは違って…  
ロードフリードの笑いを含んだ声に、クラーラの胸の鼓動は早くなる。  
ーあいつにも可愛い恋人が出来てくれたら、俺もヴィオも安心できるんですが…  
 クラーラさん、どうですか?子供っぽい奴ですが、腕は立つし体力もある、お勧めしますよ?  
しばらくの沈黙の後、またロードフリードの声がした。  
ーヴィオは朝になったらそちらの部屋に帰ると思いますが、  
 どうか気づかない振りをしてあげてください…お願いします。  
 
ロードフリードの声がしなくなってからもしばらくの間、クラーラは眠ることができずにいたが、  
いつの間にか意識がなくなっていたらしく、外が明るくなって、ヴィオラートのベッドに動く影を見つけた。  
「あ…起こしちゃいましたか?」  
クラーラが体を起こすと、身支度を整えているヴィオラートと目が合った。  
「こんなに朝早く、どこかへ出かけていたのかしら?」  
クラーラが尋ねると、ヴィオラートは照れ恥ずかしそうに笑って答えた。  
「あはは…ええと、その、早く目が覚めてしまったので、ちょっと散歩してきたんです…」  
「そう…まだ朝早いみたいだから、もう少し眠るといいわよ?」  
ヴィオラートの言い訳めいた言葉を疑いもせずに、クラーラは微笑んで見せた。  
ヴィオラートはよほど疲れているのか、再びベッドに入るとすぐに眠ってしまう。  
クラーラはヴィオラートの寝顔を眺めながら、何かを考え込んでいた……  
 
ファスビンダーからカロッテ村へ帰る道中に、クラーラがヴィオラートにこう言った。  
「ねぇ、ヴィオ。今度の冒険では私、バルトロメウスさんと一緒に行ってみたいわ」  
「いいですよ、クラーラさんと一緒なら、お兄ちゃんはりきっちゃうから、あたしも助かりますし!」  
嬉しそうなヴィオラートの笑顔に、クラーラも微笑んだ。  
彼女たちの後ろにいるロードフリードも、うっすらとその口元に笑みを浮かべていた……  
 
 
 

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