「おいヴィオ、メシ〜・・・」
一日の畑仕事を終え、帰宅しようとしたバルテルはドアの前で立ち止まった。
家の中からヴィオの微かな泣き声が聞こえてきたのだ。
「ご、ごめんなさい・・・・」
「泣かないで。ヴィオ・・・・・」
続いてロードフリードの困ったような声がした。
どうやら、ヴィオを泣かせたのはロードフリードで、その涙に動揺しているようだ。
「だ、だって・・・・こんなの・・・・・急にこんな・・・
もっと優しくしてくれたって良いじゃないですか・・・・」
「ごめん・・・まさか本当に初めてだとは思わなかったんだ・・・」
「だ、だから最初にちゃんと言ったじゃないですか・・・し、したことない・・・って・・・」
「いや、ヴィオの言葉を信用しなかったわけじゃないよ・・・・」
「ど、どうせ、私は・・・・いつも錬金術ばかりで・・・・
それ以外の事なんて何も知りませんよお・・・・・」
「いや、そういう意味じゃないんだ、ヴィオ。こんな事信じられなくて・・・」
「・・・・・でも、本当に、最初から何をして良いのかわからないんです・・・・・・」
「大丈夫、最初は皆そうさ。・・・慣れれば、自然にできるようになるよ・・・」
「な、慣れるまで・・・やります。また。・・・でも・・さっきのは痛かったです・・・酷い・・・」
「ごめん、つい・・・(苦笑)あまりにあっさりと陥落するものだからせめるのが楽しくて。」
「うぅ・・・ロードフリードさんの意地悪・・・・」
「おや、そんな事言って良いのかい・・・・・?」
「う〜・・・・」
「・・・何やってんだお前ら」
バルテルがドアを開けると、部屋の中には泣き顔で頬を赤らめているヴィオと、
彼女を優しく慰めるロードフリードが・・・
間にチェス盤を挟んで向かい合って座っていた。
「・・・・・お、お兄ちゃん!」
驚いたヴィオが椅子から立ちあがった。
「やあバルテル。お帰り」
ロードフリードは椅子の背にもたれて足を組み直している。
テーブルの上に置かれているチェス盤はどう見てもロードフリード側の圧勝だった。
ヴィオ側にはキングしか残っていなかったのである。
話は溯って1週間前・・・・・
毎日の食事当番をチェスで決めようと突然バルテルが言い出したのだ。
もちろん、彼は自分がやりたくないから、得意種目を持ってきただけだったのだが・・・
無論ヴィオは反対したが、ハンデをつけてやるので、
そんなに勝敗が分かれる事はないだろうと言う事だったのだ。
それが・・・・・
「お前、そんなに気にしてたのか?!6連敗×7日・・・」
バルテルが髪の毛を掻き揚げつつ呆れ顔でヴィオを見た。
「しっかしまさかチェスだとは・・・声だけ聞いてたらとてもそうとは思えねぇな、
初めてとかなんとか・・・」
「あ、あれはチェスの経験がないって言うだけで・・・・」
「でも、痛いとかぁ・・・キャーはずかし!」
バルテルがわざとらしく甲高い声を上げながらヴィオとロードフリードを見比べる。
「だ、だって!クイーン取られたんだよ?!ビショップもナイトも取られて・・・
もう、クイーンしか残ってなかったのに、痛恨の一撃でしょ?!」
いや、キングとクイーンしか残ってない時点でもう概ねだめだと思うが・・・
とヴィオ以外の二人は思ったがヴィオの必死な様子を見て、敢えて何も言わなかった。