「誰かー! 誰かいませんかー!」  
 薄暗い洞窟の中に、リリーの悲痛な声が響き渡る。  
 彼女は全力で叫ぶが、それに応える声は返ってこない。ただ、洞窟の冷たい壁  
に反響し、空しくこだまするだけだった。  
「ダメだわ。誰も応えてくれない……」  
「仕方ないよ。こんな洞窟、滅多に人なんて来ないんだから」  
 リリーの傍らで座るテオが、気怠そうな声を発した。  
 二人の周囲は、赤茶色の土で囲まれていた。脱出できそうな穴は、どこにも見  
あたらない。上方に穴があって、そこからわずかな光が差し込んでいるが、高さ  
は10メートルほどもある。壁を登って脱出するのは、ほとんど不可能だった。  
 リリーは今日、テオとシスカの二人と一緒に、レッテル廃坑まで採取に来てい  
た。三人で鉱物を拾い集めていると、奥の方に珍しそうな石があるのをリリーが  
見付けた。それを取ろうと、テオと一緒に奥へ進もうとしたとたん、いきなり落  
盤が起こり……気が付くと、こんな場所に閉じ込められていたのだ。  
 最初は、すぐにシスカが自分達を助けに来てくれるだろうと思っていた。しか  
しいくら待っても、シスカは来てくれなかった。ひょっとすると、彼女も落盤事  
故に巻き込まれたのだろうか? だとすると、自分達が助かる可能性は、極めて  
低いと言わざるを得ない。ここは廃坑で、近付く者など滅多にいないのだから。  
「……まったく、姉さんがくだらないことをするから、こっちまで巻き込まれち  
ゃったよ」  
 テオがポツリと漏らすと、リリーはキッと目を尖らせてテオを睨み付けた。  
「何よ! あたしのせいだって言うの?」  
「だって、奥へ進もうとしたのは姉さんじゃないか! オレは最初から嫌な予感  
がしていたんだ。それを無理矢理、連れていこうとするから、オレまでこんな目  
にあったんじゃないか!」  
 
「だって、こんなことになるなんて、予想できなかったのよ! だいたい、そん  
なに嫌な予感がしていたのなら、なんであたしを止めなかったのよ!」  
「何だよ、止めたって無視して奥へ進んだくせに!」  
「うるさいわね、ヒステリックに喚かないでよ! 空気が減るでしょ!」  
 リリーは、フン、と鼻を鳴らしてテオから顔を背けた。  
 二人は、風穴もない空間に閉じ込められている。このままの状態が続けば、や  
がて酸素がなくなって、窒息してしまうだろう。二人は、じわじわと迫り来る死  
の恐怖に支配されていた。まるで、真綿の紐で首を締め付けられているかのよう  
に。  
 重苦しく気まずい空気が、二人の間に流れる。二人は何を話していいのか分か  
らず、押し黙ってしまった。  
 そして、数刻が経過した後。  
「うっ……くっ……ううっ……」  
 突然、リリーが声を発した。何かを喉に詰まらせたような、苦しげな声だ。  
 何が起こったのかと思い、テオはリリーのほうを振り向いた。……と、テオは  
ハッと息をのんだ。  
 リリーは泣いていた。顔を突っ伏したまま、背中を震わせて泣いていた。  
 テオがリリーの涙を見るのは、初めてのことだった……いや、彼女が人前で涙  
を流すなんて、初めてじゃないだろうか? いつも気丈に振る舞い、他人には決  
して弱気なところを見せないリリーが、こんなに激しく泣くなんて……。  
「どうしたの、姉さん? オレ、言い過ぎた?」  
「……違うの。あたし、悔しいのよ」  
「悔しい?」  
「あたし……約束したのよ。イングリドやヘルミーナに向かって、必ずアカデミ  
ーを建ててみせる、って約束したのよ。あたしはその約束を果たすために、今ま  
で必死に頑張ってきたのに……なのに、こんな場所で、その夢が途絶えてしまう  
なんて……あたし、何のために今まで頑張ってきたのよ……!」  
「だ、大丈夫だよ、姉さん。オレ達、きっと助かるって」  
「気休めはやめてよ! 助かる見込みはないって言ったのは、テオじゃないの!  
あたしはここで死ぬのよ! この暗い場所で、誰にも気付かれることなく、寂し  
く死ぬんだわ!」  
「ね、姉さん……」  
 
「あたし、今まで何してたんだろう……こんな場所で死ぬのなら、もっと頑張っ  
ておけば良かった。イングリドやヘルミーナのことも、もっと可愛がっておけば  
良かった……ごめんなさい、イングリド……ヘルミーナ……!」  
 リリーは顔を伏せ、堰が切れたかのように泣き始めた。年下の前ということで、  
強気な態度を見せていたリリーだが、やはり死の恐怖には勝てなかったのだろう。  
抑圧されていた寂しさが拭きだしたかのように、声を上げて泣いた。  
 テオはどうすればいいのか分からなかった。考えてみると、テオはリリーのこ  
とを守ってあげたことなど、一度もなかった。自分は大して強くないし、弱虫だ  
し、年齢もリリーより下だ。リリーに元気付けられたことは何度もあるが、彼女  
を支えたり、元気付けたりした記憶は一つもない。  
 テオは拳を震わせた。自分はなんて無力で、ちっぽけな男だったんだろう……。  
 やがて泣き疲れたのか、リリーの泣き声が止まった。不気味なまでの静けさが、  
洞窟の中を支配する。その間も、逃れられない死の恐怖が、二人の頭上を漂って  
いた。  
 二人は冷たい地面に座り、押し黙った。ただ黙り込むことしかできなかった。  
 だが。数刻後、不意にテオが立ち上がると、重苦しい口を開いた。  
「……姉さん。オレ、姉さんに話したいことがあるんだ」  
「話したいこと? 何よ?」  
「それは……」  
 テオはリリーの前に立ち、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。大きく息を吸って  
吐き出すと、テオははっきりとした声で、言った。  
「姉さん。オレ、姉さんが好きなんだ」  
 
「……えっ?」  
「面と向かって言うのは初めてだよな。オレ、姉さんのことが好きだったんだ。  
初めて出会ったときから、ずっと」  
「な……何を言ってるの? こんな時に冗談はやめてよ!」  
「冗談じゃない! オレは本気で姉さんが好きなんだ! オレは目的もなく、た  
だ毎日をブラブラ過ごすだけだった……でも、姉さんは違った。はっきりとした  
目標を持って、それに向かって突き進んでいた……オレは、そんな姉さんに憧れ  
ていたんだ! そしてオレは、姉さんのことが好きになったんだ!」  
「テオ……その言葉、本当なの?」  
「ああ、嘘なもんか。オレは、姉さんを愛しているんだ。愛する人に、嘘なんか  
つけるわけないだろ!」  
 テオはそこまで言うと、また地面に腰を下ろした。もうすぐ死にそうだと言う  
のに、その顔は憑き物が落ちたかのように晴れやかで、清々しかった。  
「あー、スッキリした。これでもう、思い残すことはないや。姉さんには、何か  
やり残したことはない? 死んでから後悔したって遅いんだから、今のうちにやっ  
ておいたほうがいいよ」  
「……そうね」  
 リリーはふうっと息を吐いた。  
 このままだと、自分はテオと一緒に死んでしまう可能性が高い。それなら今の  
うちに、出来ることをやっておいた方がいいだろう。テオの言うとおり、死んで  
から後悔しても遅いのだから。  
 リリーはテオの手を握り締め、そっと囁いた。  
「テオ、お願いがあるの。聞いてくれる?」  
「もちろん。オレにできることなら、何でも言ってよ」  
「じゃ、目をつぶって、あっちを向いててちょうだい」  
「分かった。こうだね?」  
 テオは立ち上がり、リリーに背を向けた。それを見たリリーも立ち上がり、テ  
オの背後で何かやり始めた。  
 静寂の中で、ゴソゴソという音だけが聞こえてくる。姉さんは一体、何をしよ  
うとしてるんだろう? 何かプレゼントしてくれるんだろうか? それとも、何  
か重大な秘密を明かしてくれるんだろうか? テオは胸を躍らせながら、リリー  
が声をかけるのを待った。  
 
 やがて、音が止まった。  
「……いいわよ。こっちを向いて」  
「はいよ、姉さん」  
 テオは言われたとおり、リリーのほうを振り返った。  
 ……と。その瞬間、テオは全身が凍り付いたかのような錯覚を感じた。  
 目の前に立つリリーは、何も着けていなかった。見慣れた服も、下着も、トレ  
ードマークのスカーフもない。生まれたままの姿で、胸元と股間を両手で押さえ  
ながら、頬を赤らめて立っていた。  
「テオ……あたしを、抱いて……」  
「ね、姉さん、気は確かなの! どうして、こんなことを……!」  
「あたし、17年も生きてきて、一度も恋愛した経験がないのよ。当然、キスを  
したことだってないわ。でも、どうせ死ぬのなら、一度でいいから恋をしてみた  
い……だからテオ、あなたに抱いてもらいたいの」  
「ダメだよ、姉さん! 好きでもない男に、そんなことを言っちゃダメだ!」  
「そんなの関係ないわ! あたしは生きてるうちに、恋の味を知っておきたいの。  
例えそれが、どんな形であったとしても……経験しておきたいのよ……!」  
「ね、姉さん……!」  
「お願い、テオ……これ以上、焦らさないで……」  
 リリーは恥ずかしそうに身体をくねらせた。普段は真っ白な顔が、耳まで赤く  
染まっている。きっと、リリーは今まで、家族以外の男に身体を晒したことがな  
かったのだろう。  
 テオは、自分の胸が熱くなるのを感じた。恥ずかしさで倒れそうになっている  
のに、懸命に立って、テオを誘ってくるとは……なんていじらしいんだろう……。  
 テオはリリーの両肩に手を置いて、自分の方へ引き寄せた。  
「姉さん……本当にいいんだね?」  
「ええ。お願い、優しくしてね……」  
 リリーがそう言うと、二人はどちらからともなく顔を近付け、唇を重ねた。  
 
 互いの身体を抱き合い、唇を重ね続ける二人。そのうちに、テオはリリーの唇  
を割り、舌を差し入れた。その感触にリリーはぴくりと肩を震わせたが、すぐに  
冷静さを取り戻し、舌を絡め始めた。  
 唾液の絡まる淫靡な音が、二人の理性をとろけさせる。夢中になって舌を絡め  
合ううちに、二人の息は荒くなっていき、顔は熱を帯びていった。  
「ああっ……」  
 リリーの身体がテオの腕を離れ、地面に倒れ込んだ。恋人のキスで身も心もと  
ろけたのか、苦しそうに息を吐き、視線を泳がせる。  
 そんなリリーの身体を、テオは我を忘れたかのように見下ろした。  
 なんて綺麗なんだ……テオは思った。初めて見るリリーの裸体は、雪のように  
白くて滑らかだ。茶色の乳首と、うっすらと茂った恥毛が、白い肌の中で眩しく  
映えている。それはまるで、芸術家の作った彫刻か絵画のようだった。  
 テオはリリーの身体に覆い被さり、胸に顔を埋めた。見た目以上に大きく、柔  
らかな胸を、出来る限り優しく揉む。弾力あるリリーの胸は、テオの手の動きに  
合わせ、自在に形を変えた。  
 テオは乳房に口付けし、舌を這わせた。ツー、と舌を滑らせ、乳首を舌先でな  
ぞると、リリーの全身がピクンと跳ねた。  
 リリーの乳首は薄茶色で、柔らかかった。だが、テオが指や舌を動かすうちに、  
固さを持ち始め、大きくなっていった。  
「気持ち良いんだね、姉さん?」  
「いや、言わないで……恥ずかしい……」  
「恥ずかしがることないよ。女の人なら、当然の反応だよ」  
 テオは、片手でリリーの乳房を弄びながら、もう片方の乳房に舌を這わせた。  
テオの指が乳房に食い込み、舌が乳首をなぞるごとに、例えようのない快感がリ  
リーの全身を包み込む。艶っぽい喘ぎ声が、リリーの口から何度も漏れた。  
 
 テオは胸から顔を離すと、舌を這わせながらリリーの身体を滑り降りていった。  
舌はヘソのあたりで一度止まったあと、さらに下方へと進んでいく。やがてテオ  
の頭は、リリーの陰部の真前で止まった。  
「……! だ、だめ、テオ!」  
 リリーは慌てて膝を閉じ、両手で股間を覆った。  
「どうしたの、姉さん? ここは見せてくれないの?」  
「だって、ここは……あたしの……」  
「心配しないで。乱暴なことはしないからさ」  
 テオはそう言うと、リリーの手を払いのけ、亀裂に顔を近付けた。  
 まだあまり濃くないヘアの奥から、蜜の香りが漂ってくる。その蜜を味わうか  
のように、テオは舌で亀裂をなぞった。  
「ああっ……だ、だめ、テオ……!」  
 リリーは喘ぎ声を上げながら、白い裸体を波打たせた。まるで電流が全身を駆  
け巡っているかのようだ。リリーは必死になって両脚を閉じようとしたが、テオ  
の愛撫に負け、力を抜いた。テオはそれを見逃さず、リリーの太股に手をかけて  
脚を広げさせた。  
 リリーの両脚が開くと、亀裂の入った陰部が露わとなった。薄毛に絡みついた  
蜜が、薄光を浴びてキラキラと輝いている。  
「ああ……いやあっ……!」  
 リリーは真っ赤に火照った顔を、両手で覆った。覚悟はしていたつもりなのに、  
実際に見られると、やっぱり羞恥心が沸き上がってくる。なんとか脚を閉じよう  
とするが、力が抜けてどうにもならない。もはやリリーは、テオに弄ばれる操り  
人形だった。  
 指で亀裂をなぞると、リリーの暖かさが指を通じて伝わった。溢れる蜜がテオ  
の指に絡みつき、手の甲の上を滴った。  
 テオは片手で亀裂を広げ、もう片方の手の指をその中へ差し入れた。その瞬間、  
リリーは全身を大きく震わせた。生まれて初めて、他人のものが自分の体内に入っ  
てくる。痺れるような感覚に、リリーの頭は真っ白になった。  
 テオが指を動かすと、クチャクチャという音が鳴った。さっきまでとは比べも  
のにならない量の蜜が、亀裂の奥から溢れ出てくる。桃色の壁に指をあて、奥の  
肉芽を摘み上げると、リリーはひときわ甲高い声を発して喘いだ。  
 
「だめ、テオ……あたし、どうにかなっちゃいそう……!」  
「まだ早いよ、姉さん。どうにかなるのは、これからだよ……」  
 テオは意地悪っぽく微笑み、ズボンを脱ぎ始めた。下着を脱ぎ捨てると、誇張  
したテオの分身が露わとなった。それを見たリリーは、思わずハッと息をのんだ。  
友達とのお喋りで、何となくは聞いていたけれど、あんなに大きいなんて……そ  
してそれが、自分の中に入ってくるなんて……。  
「……姉さん、怖い?」  
「うん、ちょっと……でもやめないで。ここまで来たら、最後まで行かせて」  
「分かった。それじゃ、力を抜いて、楽にして」  
 テオの言葉に従い、リリーは息を吐いて力を抜いた。それを見たテオは、自分  
のものを、ゆっくりとリリーの中へ差し入れた。  
「うっ……あ、ああっ……!」  
 リリーは苦しそうに顔をしかめた。リリーの中は、テオが想像していたよりも  
狭く、きつかった。まるで、リリーの意思とは関係なく、入ってくる者を拒もう  
とするかのように。  
 テオは出来るだけゆっくり、リリーの中へ進んでいった。だが少し進むごとに、  
リリーは苦しげに顔を歪め、呻き声を上げる。それを見たテオは、もう止めてお  
こうかと思った。愛する人が、こんなにも苦しんでる姿を見るのは、辛かった。  
 だが。そんなテオの気持ちを察したのか、リリーはテオの腕をつかみ、言った。  
「大丈夫よ、テオ……やめないで、続けて……」  
「でも、姉さん……」  
「あたし、テオと一つになりたいの……それが、あたしの願いだから……ね?」  
 そう言うとリリーは、小さく笑った。  
 それを見たテオも、リリーに微笑み返した。怖いのに、痛くてたまらないはず  
なのに、相手を気遣って微笑んで見せるなんて……やっぱりリリーは、天使のよ  
うに素敵な女性だ……。  
 
 テオはリリーの腰に手をあて、残った部分を突き入れた。そのとたん、何かが  
破れたような感触が伝わり、リリーの口から一きわ甲高い悲鳴が発せられた。  
 一つに繋がった部分から、赤い液体が滴り落ちた。それはリリーの太股を伝わ  
り、地面を赤く染め上げた。  
「テオ……あたし達、一つになったのね……」  
「うん。姉さん、動かしてもいい?」  
「ええ、お願い……」  
 リリーの言葉を受け、テオはゆっくりと身体を動かし始めた。  
 いくら必死に耐えているとはいえ、リリーは今回が初めてだ。いきなり激しく  
動かすと、苦痛が増すだけだだろう。テオはリリーの様子を確かめつつ、ゆっく  
りと腰を動かし始めた。  
 テオが身体を動かすたびに、リリーの亀裂が、粘りけのある淫靡な音をたてる。  
蜜が赤い血と混ざり合って、二人の身体を朱色に染めた。  
「あっ……ああ、んっ……」  
 リリーの口から、また声が漏れる。気のせいか、声のトーンから苦しげな感じ  
が薄らいでいる。焦らずゆっくりと責め続けてきたのが良かったのか、リリーの  
表情から堅さが消え始めていた。  
 それを見たテオは、身体の動きを速めた。これまで待たされてきた鬱憤を爆発  
させるかのように、腰に力を入れる。テオの額を、一筋の汗が伝った。  
 気が付くとリリーは、自分から身体を動かしていた。さっきまであんなに激し  
かった痛みは消え去り、心地よさと快感が全身を支配している。もっと責められ  
たい、もっと気持ちよくなりたいという欲望が、リリーの心と身体を焦がした。  
テオが一突きするたびに、リリーの喉から喘ぎ声が漏れ、豊かな胸が大きく震え  
た。  
「ああっ、テオ……気持ち良いよ……!」  
 リリーはテオの腕を掴み、自分の胸へと導いた。片手では収まりきらないほど  
の乳房を、テオはせわしなく揉む。リリーの身体はしっとりと汗ばみ、白い絹の  
ように煌めいていた。  
 リリーはもう、本能だけで身体を動かしていた。テオと身体が触れ合うたびに、  
快楽の波が押し寄せ、リリーの全身を打ち付ける。それはだんたんと高ぶってい  
き、身体の中で破裂しそうだった。  
 
「姉さん、オレ、もう……!」  
「ああっ、テオ……お願い、あたしと一緒に……!」  
 リリーがそう言うと同時に、二人は絶頂に達した。  
 甲高い悲鳴を上げたリリーが、真っ白な裸体をのけぞらせる。と同時に、身体  
の中でテオの分身が大きく波打ち、情熱の証を迸らせた。  
 永遠に続くかと思われた射精が終わると、二人は全身の力を失って、地面の上  
に折り重なった。  
 激しい行為のあとに来る気怠さを感じながら、二人は抱きしめ合っていた。胸  
焦がす欲情が消えたあとも、互いの身体の温もりを求め、腕を絡ませあっていた。  
「テオ……すごく、素敵だったわ……」  
「オレもだよ、姉さん。これで、もう本当に、思い残すことはないや」  
「あたしもよ、テオ」  
 二人は、どちらからともなく顔を近付け、唇を重ね合った。  
 ずっと、愛する人の身体を抱きたいと願っていたテオ。一度でいいから、恋愛  
というものの味を知っておきたかったリリー。  
 その願いが叶えられた二人は、暖かな幸福感に包まれながら、いつまでも抱き  
合っていた。  
 
 
「姉さん、後悔してない?」  
 行為が終わってから数分後。服を着終わったテオは、傍らにいるリリーに向かっ  
て問いかけた。  
 自分はずっと、リリーのことが好きだった。でもリリーは、自分のことを何と  
も思ってない。ひょっとするとリリーには、既に心に決めた人がいたかもしれな  
い。にもかかわらず、感情に任せて抱いてしまった……それがリリーを傷付けて  
ないか、不安だったのだ。  
 だがリリーは、にっこりと微笑みながら、言った。  
「大丈夫よ。あたしは後悔なんかしてない。むしろ感謝しているくらいよ。最後  
の最後に、こんな素敵な思い出をくれたんだから」  
「でも……本当に、オレなんかで良かったの?」  
「いいのよ。あたしだって、テオのこと気に入っていたんだから。正直な話、テ  
オになら抱かれてもいいって思ってた……その思いが叶ったんだから、嬉しいわ  
よ」  
「ありがとう、姉さん。オレも嬉しいよ」  
 リリーが片手を差し出すと、テオはそれを握り締めた。  
 と。不意にテオの頭がフラリと揺れ、地面に膝を付いた。  
 なに、どうしたの? と手を差し伸べようとしたリリーも、額を抑えて倒れた。  
 二人は胸を押さえ、苦しそうに肩を上下に動かしていた。大粒の脂汗が、顔中  
に浮かんでいる。  
「テオ……空気が薄くなってきたみたいよ……」  
「そうだね。とうとうオレ達も終わりか……姉さん、死ぬときは一緒に死のうね」  
「ええ……愛してるわ、テオ……」  
 二人は両手を広げて抱き合い、地面の上に寝転がった。その姿はまるで、来世  
でもどこかで会って、二人で生きていこう、と表明しているかのようだった。  
 と、そのとき。  
「リリー、テオ! そこにいるのね!」  
 とつぜん、頭上から女の声が聞こえてきた。  
 一瞬、天からの使いが来たのかと思った。だが今の声には、聞き覚えがあるよ  
うな気がした。ついさっきまで、一緒にいたような気が……。  
 
「今からここを爆破するわ! 少し下がってて!」  
(こ、この声は……まさか……)  
 リリーの頭上で、ドーンという轟音が鳴り響いた。  
 壁の一部が崩壊し、大量の土砂が落ちてきた。逃げる間も、悲鳴を上げる暇も  
なく、二人の頭上に土の塊が降り注ぐ。リリーもテオも、何が起こったのか理解  
できないまま、全身を土で汚されてしまった。  
 呆然とする二人の前に、赤い鎧を着た一人の女性が降り立った。  
「リリー、テオ! 二人とも無事だったのね!」  
「シ、シスカさん? どうしてこんな所に?」  
「落盤事故が起きてから、ずっとあなた達を捜していたのよ。そしたら穴があっ  
て、そばにリリーの杖が落ちていたから、ここに落ちたと思ったの。それで、こ  
れを使わせてもらったのよ」  
 そう言ってシスカは、懐から爆弾を取り出した。それはリリーが怪物対策に持っ  
てきた、ギガフラムの発火装置だった。  
「勝手に爆弾を使っちゃったけど、命が助かったんだから、別に構わないわよね。  
さあ、早くここから脱出しましょう。二度目の落盤が起きないうちに、ね」  
 シスカはそう言って、頭上からぶら下がるロープにつかまり、地上へと登って  
いった。  
 いきなりの展開に、リリーもテオも呆然としていた。自分達は助かったのだろ  
うか? 死を覚悟していたのに、まさか救われるなんて……。  
 
「助かったみたいだね、オレ達……」  
「そ、そうね……嬉しいけど、なんかちょっと複雑……」  
 二人は顔を赤らめ、照れ臭そうに頭を掻いた。二人の脳裏に、さっきの激しい  
行為が蘇る。  
 リリーもテオも、思い出すのも恥ずかしくなるくらい燃え上がっていた。もち  
ろんそれは、死が目前に迫っているという恐怖に突き上げられたからだ。しかし  
二人は、奇跡的に助かってしまった。テオはリリーのことを、積極的な女と認識  
したかもしれない。そう考えると、リリーは顔から火が出るような思いがした。  
 と。  
「姉さん、どうしたの? 早く行こうよ」  
 テオはリリーの肩を叩きながら、言った。  
「命が助かったんだから、いいじゃないか。人生ってのは、前向きに考えなくちゃ  
ダメだよ。じゃ、オレから先に行くね」  
 そう言うと、テオはロープを掴み、シスカの待つ地上へと登っていった。  
 まったく、脳天気なんだから……リリーは苦笑して肩をすくめた。だがそれが、  
テオの良いところだ。なんでも楽観的にとらえる明るさがあるからこそ、リリー  
はテオに抱かれたかったのかも知れない。  
 テオが登り切ったのを確かめてから、リリーはロープに手をかける。地上で腕  
を振るテオを見上げながら、リリーは心の中で呟いた。  
 愛してるわ、テオ。これからもずっと、あたしのそばにいてね。  
 

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