ノルエリエンド 
 
カスターニェから戻ってはきたものの、いくつか受けっぱなしだった依頼を  
キャンセルされ、落ち込みながらも新しい調合に挑戦していたエリーだったが、  
すでに何度も何度も失敗を繰り返してしまっていた。  
くたくたに疲労しきった頃、妖精さんが友達を呼びたいと言い出したので、  
自分の休みもかねて、とエリーは快諾したのだが…。  
妖精さんに工房を占拠されてしまって、寝ることもできなくなってしまったエリーは  
何の展望もなくアカデミーを訪れたものの、アイゼルには当然のごとく断られ、  
他の寮生をあたる気力もなくてぐったりと野宿の場所でも探そうとしていたとき、  
声をかけてきたノルディスの部屋に泊まりに来ていた。  
 
ノルディスはエリーにベッドを譲った。彼はしばらく読書した後、寝入った頃を  
見計らって部屋を出ようと、エリーの枕元に歩み寄って様子をうかがった。  
エリーが静かに眠っているように見えたので、ノルディスは少しずれていた  
上掛けを掛け直し、しばし瞑目した後、立ち去ろうとした。  
 
が、気づかぬうちにノルディスの服の裾をエリーがつかんでいたため  
引っ張られたかたちとなって、ノルディスは立ち止まり振り返った。  
「あ、起こしちゃったかい? ごめん。でもすぐ出てくから…」  
ノルディスは動揺して早口になりながら、服にかかったエリーの手をほどいた。  
ほどかれた手を力無く落としたエリーは天井を見たままつぶやいた。  
「いいよ、しても」  
別に今更あと一人男性経験が加わったところでもう何も変わりはしないし、  
ノルディスならひどいこともしないだろう…、心身共に疲労しきった  
エリーは諦めの境地だった。  
「エ、エリー?」  
「一緒に寝てもいいって言ってるの。…ノルディスもしたいんでしょ? やっぱり」  
「何を言い出すの、エリー! そんなはすっぱなこと言うものじゃないよ」  
「はすっぱでいいの。私、もうどうなったっていいし」  
「…どうしたんだい? なにかあった? エリー」  
「何も。何もないよ。……そっか、ノルディスはアイゼルが好きなんだね。  
 じゃ私、こんなところにいちゃアイゼルに悪いんじゃない?」  
エリーはのろのろと身を起こした。  
 
「アイゼル? 今は彼女の話はしてないだろう?」  
「だってアイゼルから聞いたよ、工房を持ったら手伝ってくれるって言ってたって」  
「それは確かに言ったけど、好きとか何とかいうことじゃないし、  
 アイゼルからもそういう文脈で言われたわけじゃないよ。  
 …そうじゃなくてさ、どうして、もうどうなったっていいなんて言うんだい?」  
半身を起こしたエリーとは逆にノルディスはベッドサイドに椅子を引き寄せ、  
浅く腰掛けてゆっくり話す姿勢になる。その彼からエリーは目をそらした。  
「…いいよ、ノルディスは知らなくて」  
「どうして? 僕じゃ頼りにならないかい?」  
「…知らないでいてくれたほうが、いいの。それだけ」  
エリーは会話を打ち切ってノルディスの頬に手を添えてゆっくりと唇を合わせる。  
ノルディスはどきりとしたが、エリーのすてばちな態度の方が心配で、  
でも拒絶するのも惜しくてただ彼女のなすがままに任せた。唇を重ね合わせるだけの  
キスをしばらく続けているうちに、伏せられたエリーの目から涙が伝い、  
ぱたぱたとシーツに落ちた。  
「えへへ…。ごめんね」またゆっくりと唇を離したエリーは涙をぬぐって微笑んだ。  
ノルディスが変わらず心配そうに見つめているので、エリーは自分のしていることが  
恥ずかしくなってしまった。  
 
「なんか…やっぱり私、ここじゃ眠れないみたい。せっかく泊めてくれるって  
言ってくれたのに、ごめんね。朝までどっかそのへんうろうろしてることにするよ」  
エリーは足元にあったブーツに足を入れ、立ち上がろうとした。  
その肩をノルディスがひきとどめる。  
「だめだよエリー、こんな時間に出歩いちゃあぶないって」  
「放っておいてよ。もう私のことは構わないで」  
エリーはノルディスと目を合わせていたくなくて体ごと顔をそむける。  
「放っておけないよ。君がどう思っていても、僕は君のことが好きなんだから」  
少しいらだったように言い放ったノルディスはエリーの肩にかけた手に力をこめて  
振り向かせ、二人の目が合ったその瞬間に彼女の頬に片手を添えて唇を重ねる。  
エリーが彼に与えたキスをなぞるように、でも少し熱のこもったキスをして、  
彼女の立とうという気をくじくことに成功したノルディスはエリーを見つめた。  
「どうして君がそんなことを言うのか…理由を言いたくないっていうなら、  
 今はそれでもいいけど、僕はいつか全部知りたい。  
 何を聞かされても受け止めるぐらいの度量はあるつもりだ…自信はないけど」  
 
エリーは目を伏せた。彼女が誘っても何もしようとしない彼にとっての好き、  
という言葉の意味あいが測りきれなくて、エリーは戸惑った。  
肩と唇に残された感触からじわりとせつないような暖かいような感情が  
呼び起こされることを自分でも不思議に思いながら、エリーはぼんやりとつぶやく。  
「ありがと…」  
「とにかく今日は眠ること! とても疲れてるみたいだから」  
患者にでも言い聞かせるようにきっぱりと、ノルディスはエリーに命じる。  
「優しいね、ノルディスは…」エリーは微笑む。  
「優しくないよ。僕はこれでも結構身勝手だし」ノルディスはまじめに言う。  
エリーはくしゃっと笑った。「そんなことないと思うけどなぁ」  
「まあその話はおいおい、ね」ノルディスも笑った。  
「早く元気になってもらわないとカスターニェに行ってた間の補習が進められないし」  
さっきは好意を打ち明けておいて、こんな話題にふるノルディスの神経は  
どうなってるのやら、とエリーはがっくりした。  
「…ノルディスがそんな意地悪なこと言うなんて思わなかったなぁ」  
「意地悪で言ってるわけじゃないよ、エリー」  
そういいながらノルディスはエリーの背中に手を添えて彼女を横たえる。  
 
ノルディスはエリーの上掛けを肩までひきあげ、彼女の髪をなでた。  
「そうだ、眠れないなら睡眠薬のストックあるけど使うかい?」  
「ううん、いらない…。けど、本当に、いいの?」  
エリーは上掛けから腕を出してノルディスの手に触れる。  
「睡眠薬? 僕は試したことないけどまあまあの評価はもらってるよ?」  
ノルディスは触れてきたエリーの指に自分の指をからめた。  
その行動と言葉の大きなギャップにエリーは内心ため息をつく。  
(ノルディスって、本当にわからない所がある…。そういうこと聞いたんじゃ  
ないんだけどなぁ。やっぱりさっきの好きっていうのは友達としてってこと?)  
エリーは手を引っ込める。  
「ふうん。でも、やっぱり無くても大丈夫。それじゃあ、二回目だけど、  
おやすみなさい」  
ノルディスはエリーの前髪をかきあげて額に軽いキスを落とした。  
「おやすみ」  
エリーはそのまま目を閉じていたら、今度はあっというまに睡魔が訪れて  
すやすやと眠ってしまった。  
その寝顔を見ていたら、言うことは言ってしまったノルディスもなんだか  
眠くなってしまって、そのまま壁に寄りかかって毛布をかぶった。  
 
エリーが目を覚ますともうノルディスはいなかった。  
それもそうだ、カーテンごしに差し込む光の加減からすると  
すでに昼近いようだった。  
(ん…妖精さんたち、帰ってくれたかなぁ…?)  
ゆっくりとのびをして起き上がる。  
主のいないノルディスの部屋が珍しくてしばらくベッドに腰掛けてぼんやりする。  
(そういえば、男の人と一緒の部屋でこんなにゆっくり寝たの初めてかも…)  
ここ数日ためていた疲労が軽くなっただけでなく、何か心を重く冷たくしていた  
氷のようなものが融けたような心持ちがする…、そう思ってノルディスとの  
昨晩のやりとりを思い返したエリーはふと、ため息をつく。  
(…ノルディスには、私って女性としては興味の対象外なのかなぁ?)  
エリーは思わず自分の服の胸元をつまんで中をのぞきこむ。  
と、その瞬間ノックもなしにドアが開いてノルディスが顔を見せた。  
「わわっ、な、なんでここにっ」エリーは動転して脈絡のないことを口走る。  
「なんでって…ここ僕の部屋だし…。エリー、まだ寝てたのかい?」  
一瞬驚いた顔をしたノルディスはすぐにくすくすと笑う。  
ねぼけちゃって、と言われたように思えてエリーはふくれっ面になる。  
 
「でも顔色が良くなってよかった。そうだ、軽く食べるもの買ってきたところ  
だけど一緒に食べるかい?」  
ノルディスは抱えていた紙袋の中身をテーブルに並べながら言った。  
「それってノルディスのお昼ご飯でしょ? イイよ、私は」  
胸の高さで両手を振って断るエリーの様子をノルディスは横目で見て、  
もう一度勧める。  
「少し買いすぎちゃったし、僕の調合品でよければ他にも食べ物のストックが  
あるから良かったらふたりで食べない? お腹もすいてるだろうし」  
「う…」確かに朝ご飯も食べずに寝通していたエリーはお腹がすいていた。  
「じゃあ、じゃあ少しだけ、もらっちゃっても、イイ…?」  
遠慮がちに聞くエリーがかわいくて、ノルディスは笑った。  
「もちろん。でも食事が終わったらすぐ補習のスケジュール組もうね」  
にこやかに手早く、つくりつけの実験台でお茶をわかす準備をする  
ノルディスを見ながら、エリーは錬金術のこととなると口調はやさしくても  
手厳しい彼の指導を考えると気が滅入ったが、それでも決して揺るがない  
彼のやさしさに今はもう少し甘えていたいと願った。  
 
 
 
さっそく補習をしようということになったエリーとノルディスだったが、  
エリーは本もペンも何も持ってきていなかったので、待っててもらうよりは  
工房に一緒に行こうと言い出したのはエリーだった。  
 
が…。エリーの工房に招き入れられたノルディスは絶句した。  
彼がそこに入るのはかなり久しぶりのことだった。床が見えないほどに  
散らばった紙、何かの踏み台にしたとしか思えない参考書の山、  
大切な調合器具まで散乱している。  
「……エリー、こ、これ…一体…」ノルディスはこういうとき、動揺を隠そうと  
はしない。怒っていいのかどうか思案する顔をして、後ずさりしそうになる。  
自分ではある程度見慣れてしまってそこまでひどくも思えなかった部屋の様子に  
気づかされたエリーは、慌ててその辺の物を少し寄せながら弁解をする。  
「これはほとんどはゆうべ妖精さんたちがやっちゃったの! 事情は言ったよね?  
 いくら私だっていつもこんな部屋にしてるわけじゃないってば!」  
 
まだ呆然と立ち尽くしているノルディスに少しプライドを傷つけられながらも、  
エリーは次の手を考えた。  
「じゃ、2階に行こう! 2階ならちゃんときれいにしてるから!」  
エリーは強引にノルディスの手をつかんで2階に続く階段を登った。  
「2階なんてあったんだ…」ノルディスはおとなしくついていったが、  
その部屋に通されてまた驚いて立ちすくんだ。  
ノルディスの手を握ったままエリーはカーテンを開けて部屋に光を入れた。  
窓際の小さな丸テーブルを指して言う。  
「ここなら文句ないでしょう?」  
ノルディスはその問いには答えなかった。  
持参した本をばさりとテーブルに投げ出すと、突然エリーが開けたばかりの  
カーテンを勢いよく閉め、エリーの手を握り返して強く引き寄せた。  
ノルディスの胸に抱きとめられた形になったエリーは驚いて何も言えなかった。  
あまりに突然のことにエリーの体が硬直する。  
「本当に君は危なっかしいんだから…」ノルディスはエリーの肩に手をかけて  
くるりと体の向きを反転させ、二人からベッドが見えるようにした。  
「こんなところに簡単に男を入れちゃだめだよ、エリー」  
”簡単に”、という言葉がエリーにはその言葉の意味以上に心にぐさりと刺さる。  
「……」エリーが黙ってしまったのでノルディスは話を変える。  
 
「ごめん。ここじゃ余計落ち着けないってこと。とにかく1階の方に戻ろうか」  
ノルディスはうながすようにエリーの肩を軽くたたいたが、エリーは動かなかった。  
「……ここに人を入れたのは、ノルディスが初めてだよ」  
エリーはノルディスの顔を見ないまま硬い声で言い、そして続けた。  
「私があんまり危なっかしいから…ノルディスは放っておけないって、思って  
 くれてるだけ? ならどうして好きとか言ったりするの? 私を試してるの?」  
「試してなんか…」ノルディスは言いかけたが、エリーは彼に背中を向けたまま  
彼の手から逃れるように一歩踏み出してテーブルに手をついた。  
「からかうようなことはやめてよ。私は……。ううん、危なっかしいっていうなら  
 これから気をつけるようにするから…。わかったからもう今日は帰ってくれる?  
 勉強だって、自分でやってみるからっ…!」  
さっき急に抱き寄せられてどきどきしたことも、ゆうべ聞かされた告白が  
嬉しかったことも、もっと前の色々な大切な思い出も全て色あせていってしまう  
ような気がして、エリーは彼と向き合っているのがつらかった。  
本当のことなんか知らなくてもいい、そんな気さえした。  
 
ノルディスは彼女を傷つけたことをさとり、慎重に言葉を選ぶ。  
「エリー…からかってなんかいないよ。昨日も言ったけれど、僕は君のことが  
 好きだ、友人として以上に、一人の女性として」  
ノルディスはエリーの横にまわりこみ、テーブルにおかれたエリーの両手をとる。  
「まだ君の気持ちはきいてないけど、ゆうべ君の方からキスしてくれたから…  
 ちょっと調子に乗りすぎちゃったね、ごめん」  
エリーは彼が試していると言うが、彼にとっては全く逆にしか思えないものの、  
傷ついたような顔をしているエリーに言うことはできなかった。  
エリーはまだ信じられないような気がして、ノルディスを悲しげな瞳で見つめた。  
「本当なの…?」  
少しうるんだような瞳で自分を見上げてくるエリーと目があった瞬間、  
ノルディスは自分の中に言いしれぬ欲望が立ちのぼってくるのを感じ、  
引き返せなくなる前に、と急に話を変える。  
「そ、それはもちろん本当! エリー、やっぱり1階でいいよ。  
 僕も片付けるの手伝うから。そうでなければアカデミーに戻ってもいいし…」  
 
パッとノルディスはエリーの手を離し、階段に向かおうとする。  
問いの答えとまるで裏腹なそのノルディスの態度に、エリーはますます不安になる。  
「いや」  
エリーは置いていかれる子供のようにノルディスの腕をつかまえた。  
「エリー?」  
「だって…このままじゃまた、聞き間違いか何かかと思っちゃいそうで…」  
ノルディスは微笑んだ。  
「じゃあ、これから毎日言うから。君の答えが聞けるまで」  
「…それだけじゃ…いや…」エリーはうつむいて言った。  
階下が散らかっているから、ではなく、”ここ”にいて欲しい、という意志を  
読み取ってノルディスはくすっと笑った。  
エリーはまだ一言の答えもくれてはいないのに…と思うが、ゆうべと  
同じような投げやりな気持ちで言っているのではなさそうなので、  
ノルディスはすこしかがむようにしてエリーの瞳をのぞきこむ。  
「じゃあ僕の目を見て、好きって言える?」  
 
エリーはためらわずうなずいた。が、なぜか声がどうしても出ない。  
誰よりも、その言葉を言わなければそれ以上は決して踏み込まないような  
彼だからこそエリーは自身を任せたくて、そして彼の体に、その肌の下を流れる  
熱い血潮の存在に触れたいのに…、のどに何かが詰まっているように声が出ない。  
どうしてなのかわからなくて、エリーはただノルディスの瞳を見つめる。  
今エリーの瞳に映るノルディスは、入学したての頃より少し背は高くなった  
ようだけれど、その優しい瞳は全く以前のままで…そのまなざしをうけとめる  
エリーの脳裏に、出会ってからの自分とノルディスのことがよみがえる。  
いつも変わらずにエリーを見つめていてくれた彼、でも、その瞳に映る自分は…?  
(私は…変わって、しまった……)  
思わず考えてしまったら、エリーの目の奥がじわりと熱くなった。  
エリーは目を閉じて顔を覆う。  
その指の下から幾筋も涙が伝い、エリーはやがて嗚咽し始める。  
「エリー?」ノルディスには何が起こったのかわからなかった。さっきまでは確かに  
自分の方を向いていると思った彼女の気持ちが、今どこにあるのかもわからなかった。  
でも、自分が原因で泣かせてしまったことだけはわかるので困惑した。  
手をさしのべることもはばかられ、かけるべき言葉もわからず…それでも、  
何が原因なのかを把握したくて、おそるおそる問いかける。  
「どうしたんだい? 何が悲しいの? エリー」  
 
顔を覆ったままエリーは、しゃくりあげながら答える。  
「…ごめんね」  
泣かせてしまったのに謝られてノルディスはますます混乱する。  
「何、が?」  
エリーは答えない。  
その沈黙が恐ろしくなってノルディスは言葉を継ぐ。  
「僕が、無理強いしたせいなのかい? だったら、もう気にしなくていい。  
 無理に言わそうとしたりして、悪かったから…」  
「違う、の…」ノルディスが謝罪し始めるのを聞いて、嗚咽の中から  
やっとの思いでエリーは否定し、気づいてしまった自分の気持ちを吐き出す。  
「何か…私…、どうして、どうして、ノルディスが初めての人じゃない  
んだろうって…思ったら…もう…自分がいやで…!」  
その声に自責の響きを聞いて、ノルディスはそっとエリーを抱き寄せた。  
「エリー…」  
 
エリーはノルディスの胸に顔を埋めて泣きじゃくる。  
「ごめんね。ごめんね…!」  
「エリー、初めてか初めてじゃないかなんて大したことじゃないよ。  
 何も恥じることはない」  
本当のところは、ずっと見ていたのに誰かに先を越された自分に  
ちょっと腹立たしくはあったが、それを言うべき時ではないことを  
知っているノルディスは子供をあやすようにエリーの背をたたいた。  
 
「違う!!」うつむいたまま、エリーはこぶしを握り締めて激しく否定する。  
「ノルディスの言うことは、普通に恋愛してきたひとなら、正しいよ。  
 でも私は、私は…はじめはともかく、自分なんかどうなってもいいって…  
 男の人なんてみんな同じだって思いたくて…ノルディスのことだって、  
 どうせ同じなんだって思いたくて…ゆうべだって…」  
エリーはノルディスを見上げた。その瞳には彼女自身への憤りの色。  
「私…ノルディスに好きになってもらう資格なんか、ないよ…!!」  
 
「エリー」ノルディスはハンカチをとり出してエリーの頬をぬぐう。  
それでも次から次から湧きだしてくる涙に、口づける。  
「僕の気持ちは変わらないよ。どうして君がそんな風に思うように  
 なったのかは今はきかないけど…何も恥じることはないと思う。  
 僕は君を信じてる。君は今も、男は信じられないかい?」  
ノルディスのくちづけがくすぐったくて、どきどきして…そのせいで  
やっと涙がおさまってきたエリーは悲しげにかぶりを振った。  
「信じられないのは、自分の方だよ…。私がもっとしっかりしてれば…」  
「君が信じなくても、それでも僕は君を信じてる。君が好きだよ。  
 だから、自分を責めないで…」  
ノルディスは、そんなことを言われると自分まで悲しくなる、とでも  
言いたげに憂いを含んだ瞳でエリーを見つめた。  
エリーの唇が震える。エリーは何度も、何度も迷い、躊躇した。  
が、彼の澄んだ瞳に見つめられていると胸にあふれてくる思いを  
ついにせき止めておくことができなくなって、見つめ合ったまま、  
かすかな、自分にしか聞こえないほどの小さな声でささやく。  
「……私も、すきだよ……」  
口に出してみたら、今度はちゃんと彼に聞こえたかどうか不安になって、  
もう一度声に出してみる。  
「私も、ノルディスがすき…」やはり言ってはいけないことのような  
気がしてまた涙があふれそうになってエリーは目を伏せた。  
 
「エリー」呼びかけながらノルディスはそのまま唇を重ねる。  
もう悲しい言葉を言わせたくなくて、彼女の呼吸を奪う。  
ノルディスの舌はエリーの唇に割りこみ、歯列をなぞり、舌にからみつく。  
エリーは体を走り抜ける甘いしびれに力を奪われ、立っていることも  
難しくなって必死でノルディスにしがみつく。  
いつもの服の下に隠されたほっそりとした体のラインを確かめるように  
撫でながら、エリーの呼吸の乱れを聞くノルディスの中に欲望が湧き上がる。  
そっとベッドに導いて、くちづけを与えながら彼女の服を滑り落としていく。  
「きれいだよ、エリー」  
「ううん…私は、」  
何か言いかけるエリーの唇をノルディスはやさしくふさぐ。  
 
ノルディスは自分も服を取り払って、エリーの裸身を全身で抱きしめる。  
しばらくの間、何もせずにただ抱きしめて、それからノルディスは口を開く。  
「僕を信じて、エリー」  
そしてエリーの体を探るように愛撫する。エリーが何か言いそうになるたび、  
その唇を唇でふさぐ。声を封じられてエリーは甘い吐息ばかりをもらす。  
白い細い指も、薄い肩も、なだらかな曲線を持つ背中も、鎖骨の浮いた胸元も、  
小ぶりなまろい乳房も、健康なはりつめた脚にも、ノルディスの手が触れるたび  
まるで魔法にでもかかったようにエリーの体は熱くなり、快感と羞恥に、  
逃げるように身をよじってしまう。  
ノルディスはそんなエリーにつぶやく。  
「…それから、自分を信じてあげて…」エリーの心も体も自分に開かれていることを  
感じて、そう告げる彼の声も熱っぽかった。言いながらノルディスは彼女の乳房に  
くちづけを与え、手を秘所にのばす。すでに熱い蜜が湧きだしていた  
そこを指で味わいながら、乳房の先端を舌でなぶる。  
男にしては細い彼の指からエリーの愛液がしたたり落ち、彼の口内で小さな乳首が  
かたく凝り固まる。エリーの体は早くももうノルディスの思うがままだった。  
 
ノルディスの唇に封じられていた声を取り戻したエリーは、せつないあえぎばかり  
をもらしながらも訴える。  
「あ…私…恥ずかしい、よ…」自分の体がいつになく敏感になっていることを  
自覚して、体の芯から熱いものがこみあげてもうとめどなく流れ出して  
しまっていることを感じて、エリーはどこかに隠れてしまいたい気持ちだった。  
「恥ずかしがることはないよ」ノルディスはともすれば逃げるような  
動きをするエリーの体を巧みに御して逃がさない。  
「いやっ…あ、そこ…」ノルディスの唇が次第にエリーの下腹に近づいてきて、  
エリーは口先だけでも拒否を示す。  
「何がいやなの、エリー」ノルディスは優しげに問いかける。  
「見ないで…は、恥ずかしいから」ノルディスの声も普段より熱を帯びているけれど  
自分に比べればはるかに冷静そうなのでエリーはますます恥ずかしくなる。  
「じゃあ、目をつぶっててあげるから」ノルディスは本当に目を閉じて、  
彼女の秘所にくちづける。  
「あぁん!」エリーは抗議したかったけれど、ノルディスの舌と唇が呼び起こす  
快感に耐えられなくて、何を言おうとしても言葉にならないどころか  
息をするのもやっとで、呼吸するたびに意味をもたない声をもらす。  
「あ…ん…はぁ…あっ、あぁ…」  
目を閉じることで触感に頼ったノルディスの愛撫はエリーの隅々までも  
感じ取ろうとして執拗なまでにエリーを責める結果となる。  
 
やめてほしい気持ちと、やめてほしくない気持ちがエリーの中でせめぎあう。  
すでに彼女には絶頂が見えていて、ひとりでそこへ到達してしまうのが  
いやで、それを彼に何とかして伝えたくて、水におぼれる人のように  
エリーはノルディスの手をつかむ。  
でももう遅くて。  
「ん…あ、ああっ!」エリーの背すじが幾度も跳ねるように震え、その秘所も  
ひくひくとうごめく。一瞬ノルディスの手に爪をたてた指から全ての力が抜ける。  
 
ノルディスは顔をあげて目を開き、エリーの姿を見る。  
彼はエリーの横に一旦横たわってから、少し汗ばんでしまったエリーの肩を  
抱きよせてまだ快感の余韻に震えている彼女にキスをする。  
「大丈夫? エリー」ノルディスはかすかに笑いを含んだ声で言う。  
エリーはまだ何も言えなくて、恥ずかしいことを言う彼の胸をちょっと叩いた。  
 
一人でよがってしまった自分がバカみたいに思えて、エリーはノルディスにも  
同じ気持ちを味わって欲しくて彼のモノに手を伸ばした。  
が、彼の口調からは思いもつかなかったほど熱い感触に驚いて、思わず  
エリーは手を引っこめてしまう。  
「…恥ずかしいのは僕も同じだよ。わかった?」ノルディスはちょっと  
照れくさそうに言うと、仕返しのようにまた体勢を戻して  
彼女の秘所に指を差し入れた。  
「んんっ…」彼の指が与える快感にまた感じ始めてしまうエリーは  
必死でノルディスにしがみつく。  
その様子を見て、ノルディスはもうエリーが指だけでは足りないと  
感じていることを察する。  
 
ノルディスはゆっくりと、エリーの体の反応を確かめながら体をつないでゆく。  
初めて彼とひとつになれた喜びでエリーの瞳にまた涙が浮かぶ。  
「痛い?」しんから気遣う声でノルディスが問いかける。  
「…う、ううん…」呼吸をするたびあられもない声が出そうになって、  
必死にこらえながらエリーはノルディスに答える。  
ノルディスはゆっくりと動き始める。  
エリーが声をあげてしまう場所を、角度を、体で探りながら、彼は手も唇も  
総動員して彼女を悦ばすことに専念する。  
エリーはいくつかの軽い頂点を迎えて、何度も、もうだめ、と思ったが  
それを彼に伝える前に次の波がきて押し流されてしまう。  
体が熱くて、つながった場所からふたりの血流がまざりあっているような気がする。  
彼女の喉からはもうとめどなく甘いあえぎが流れ続ける。  
一方のノルディスもなるべく彼女を悦ばすだけを考えているつもりだったが  
実際彼もまたエリーとやっと結ばれた喜びでいっぱいで、どこかに気をそらしておく  
なんてことはとてもできなくて、エリーのかわいらしい顔を見、その声を聞き、  
彼の体に吸い付いてくるような体を味わっているうちに  
すぐに限界が近づいてきてしまった。  
 
「エリー…」ノルディスはもう我慢ができなくなって、エリーの体に  
自分を打ち込んでいった。急激な責めに転じた彼の動きに、エリーは  
また違う快感の波が押し寄せるのを感じる。  
「ああっ…ノ、ノル…ディス…」朱に染まった顔で、歓びの涙をたたえた瞳で  
エリーはノルディスの名を必死に呼び、何かをつかもうとその手が宙を泳ぐ。  
ノルディスは彼女の指を自分の指でからめとってシーツに押し付ける。  
名前を呼ばれたことで一気に彼の快感は増してゆく。  
二人の間から粘りを帯びた水音が響くことをどちらももう気にもとめない。  
やがて…  
「ああああっ、ア、ああっ……!!」エリーがひときわ高い声をあげる。  
背すじをのけぞらせ、全身にがくがくと震えが走りぬける。  
「…エリー…っ」彼女の中が彼を引きずり込むように締め付けた瞬間、彼は  
こらえることをやめて全てを解放する。彼の中から熱い液体が彼女に注がれ、  
二人は共に同じ歓喜の器を飲み干す……。  
 
 
少し眠ってしまって、エリーは目を覚ました。かたわらにノルディスの  
体温を感じて、彼に包まれているような気がしてほっと安堵する。  
 
故郷にいたときからずっと憧れていた錬金術士のマルローネに会って、  
さらにふくらんだ彼女の夢…錬金術とは何か、を探し求めること…  
その夢を、エリーは追っていきたかった。  
今はまだ、おちこぼれの域を脱しきれていないエリーの夢を、  
いつも誰よりも応援してくれるのはノルディスだ。  
ノルディスの夢は直接に人々の役に立つことだから、エリーの途方もない  
夢の道行きにずっと一緒というわけにはいかないけれど、  
エリーの話を一番目を輝かせて聞いてくれる、そして大切な示唆をくれたり  
違う視点からの考察をくれる彼がエリーは好きだった。  
(ノルディスと一緒に、もっと高みをめざして行けたらいいな…)  
(えへへ…私を好きでいてくれて良かったぁ…)  
さきほどの情事の際の彼を思い出して思わず顔がゆるんでしまった  
エリーの様子にノルディスが気が付いて、微笑んで頬にキスをした。  
 
 
-ノルエリエンド完結-  
 
 

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