ダグエリエンド  
 
依頼品の調合を終えて、一息ついたエリーの工房のドアを叩く音がした。  
木鶏の告げるその名を確かめ…エリーは一呼吸置いて、ドアの向こうに  
声をかけた。ここしばらく、会っていなかった人に。  
「…開いてます」  
パタン。後ろ手にドアを閉めながら、男は低い声でエリーに話しかけた。  
「…いつもながら、不用心じゃネエか?」  
エリーはダグラスと目をあわせないまま答えた。  
「…そうかもね」  
その投げやりな口調に、ダグラスは眉をひそめた。  
彼にそんなことを言えるのか? という非難ではなく、危険だったらどうなの?  
というような諦めを感じて。  
 
あれから…ケントニスへ向かう船上での一件があってから、二人がまともに  
顔を合わせるのは久しぶりだった。  
あの後、ダグラスは前夜の記憶があやふやなままエリーとケンカになり、その場で  
解雇されてケンカ別れのままザールブルグに戻ってきてしまっていた。  
が、彼は彼なりにその後、ケンカになった理由を思い返し…そして船上での一件も、  
今はほぼ思い出していた。  
今エリーが自分と目を合わせようとしない理由は、ダグラスにも想像はできた。  
だが、今日はエリーに不埒なことをしに来たわけではなかった。  
「その…今日は、謝りに、来た…」  
その時、コンコン、とノックの音がした。エリーが応対に出るかどうか、  
ダグラスはしばらく見守ったが、エリーは動かなかった。  
 
また来客が来て邪魔が入る前にここに来た目的をすませようと、  
ダグラスは切り出した。  
「あの、船でのことだけどな、すまなかった。許して欲しいなんてムシのいい  
ことは言わねえが、俺がお前のこと好きだってのは本当のことだってことだけは  
信じて欲しい…」  
エリーは黙っていた。  
「あの街で別れちまった時は勢いでこう…ひどいことも言ったが、あの時も  
まだ俺は、お前と気持ちが通じ合ってるものだと勘違いしててよ…。  
けどお前は、あの後俺の顔も見に来ず…酒場でも俺を避けてた…。  
それでやっと俺は、俺の独り相撲だったってことに気づいた」  
言いながらダグラスは腕をほどいては組み、組んではまたほどく。真摯に謝りに  
来たのに、すぐ腕組みをする癖が出てしまうことがダグラス自身苦々しい。  
「とにかくすまねえ。俺に言いたいことがあったら何でも言ってくれ!   
何でも聞く! 俺の顔なんかもう見たくもネエってんならそれでもいい、  
はっきりそう言って欲しいんだ!!」  
ダグラスは歯をくいしばるように言い切った。  
 
エリーが彼の顔を見に城門に現れなかったこと、飛翔亭で会っても  
半ば逃げるように帰ってしまったこと、そして今現に目を合わせようと  
しないこと…全ては、彼を許せずにいるという答えを指していることに、  
彼も苦しんではいた。  
そしてエリーは、黙りこくったままだった。考えにふけっているような  
顔をしたエリーと、言い切ったまま次の言葉が思いつかないダグラスの間に  
張りつめた沈黙の時が流れる。  
 
コンコン。また先ほどと同じノックの音がする。  
とにかく言いたいことは言ったダグラスはもうこの場にとどまるのはつらかった。  
「…帰るよ。こんなんじゃまだ謝りたりねえが、お前は俺の顔なんか  
見たくもネエんだろうからな…」  
が、くるりと踵を返したダグラスの背中を、突然エリーが引き留めた。  
「帰らないで…。私も、話したいことがあるから」  
突然口を開いたエリーが何を考えているのかもダグラスには気になったが、  
それよりもとりあえず目の前の扉を叩く音が続いていることが気になった。  
 
「お前の客が来てるんだろ? …いいのか?」  
「…いいの。気が散るなら、上に行って話そうか」  
エリーはダグラスを手真似でどかせてドアに歩み寄り、聞きなれたノックの音に  
一瞬思いをはせる。  
それでもゆっくりと静かにドアの内鍵を閉めたエリーは2階に向かう。  
ダグラスはとまどいながらもエリーの言うがままにその後に従う。  
 
エリーはテーブルに着き、ダグラスにも椅子を勧めたが、ダグラスはエリーの  
背後の窓辺から外をうかがっていて椅子を使わなかった。  
エリーも今はまだ顔を見て話したかったわけではなかったのでそのまま  
話を切り出す。  
「私ね、ダグラスのしたこと、お酒のせいだっていっても許したわけじゃない…」  
「……すまなかった」ダグラスはエリーの方をやっと向いた。  
「でも謝らなくていい。私もずいぶんダグラスにひどいことしてきたって思うから」  
エリーはダグラスを振り返らずに話し続けた。  
 
「あれからいろいろ、本当にいろいろあって…私、わかったよ。ダグラスは  
あの日まで、ずっとずっと我慢してきてくれてたんだって」  
「そんなの…当然のことだ、ほめられるようなことじゃネエ!」  
ダグラスは激しくかぶりを振った。  
「ううん。私って…うっかりしすぎというか、隙がありすぎだから…当然、なんて  
言葉では済まされないぐらい、ダグラスは我慢してくれてたと思う。  
だから…おあいこかな、って思って」  
そんなことでおあいこになるわけはない、ということぐらいはエリーにもわかっている  
はずだった。その言葉を言わせたのは、いまさら憎むことのできないダグラスを  
恨んで苦しみ続けるよりは自分のせいにしてしまいたい、というエリーの心。  
自虐的なエリーの言葉がダグラスには、なじられるよりよほどつらかった。  
「エリー…本当にすまなかった! 全部俺が、俺が悪いんだよ…だから、  
そんな風に自分を責めるな…!」  
頼む、とつぶやきながらダグラスは身をかがめてエリーを椅子ごと抱きしめた。  
彼女がどう思うかは知るよしもないが彼にはそうするしか他に思いつかなかった。  
 
彼はかたく目を閉じ、時間を戻せたなら、と願った。  
エリーのこんな悲しい顔なんかダグラスは見たくなかった。こと恋に関してはまるで  
尻尾をつかませないエリーをずっとそばで見ているだけだった時も苦しかったが、  
今の苦しみに比べれば、そしてエリーに与えてしまった苦しみに比べれば  
いかほどでもなかった…なぜ自分の思いだけをエリーに押しつけてしまったのかと、  
彼は心底自分に腹立っていた。  
「お前が俺の顔を見たくネエってんなら、俺は騎士団もやめてこの街を出るから…。  
俺にできることがあるなら、何だってするから…だから、もう…」  
 
その言葉を聞いた瞬間。エリーの心のなかで、何かがカチリと音を立てて動きだす。  
騎士団をやめて、この街を出る…。それは、ダグラスが夢をあきらめるということ。  
彼のその言葉を聞いて、エリーの心に彼と二人で眺めたあの海が、その時胸を  
埋めていた思いが、潮の香りと共に鮮やかによみがえる。  
そしてあの夜からどこか麻痺したままだったエリーの心の時計が動き出す。  
突然エリーはダグラスの腕をほどいて勢いをつけて立ち上がった。  
「だめ…ダグラス、そんなの、だめ…!」  
ダグラスはエリーのいた椅子にしがみついたまま、うつむいて歯を食いしばっていた。  
いつもの過剰なほどの自信もプライドも全て失い、軽口をたたくこともできなくなった  
彼の背中はいつもより小さく、はかなげにさえ見えた。  
「私の夢がかなったのは、ダグラスのおかげだもの…私も、ダグラスの夢を  
応援してあげたいんだよ…」  
ダグラスのことを憎むことも忘れることもできずにいたエリー。でも、彼の心からの  
謝罪を聞いて、失われていた心の一部を取り戻した今、違う選択肢が生まれる。  
エリーはその広い背中をそっと包み込むように抱きしめた。  
 
「あんなことがあったのはつらかったけど、ダグラスは謝りにきてくれた。  
私の気持ちも考えてくれた…」  
ダグラスの背中に頬を寄せて、エリーはささやく。  
「私のこと好きって言ってくれたけど私まだ答えてなかったね…。  
私もね、ダグラスのこと好きだった…今のダグラスになら、また好きって言えるよ…」  
悔悟の念にとらわれていたダグラスの心に、その言葉はゆっくりとしみ通っていく。  
おそるおそる、彼は顔をあげて、エリーを振り向く。  
「許して欲しいとは、言えねえ…。俺も自分で自分が許せねえぐれえだ…。  
だが、…俺に、もう一度チャンスをくれるか…?」  
エリーはこくりとうなずく。  
彼だから。ずっと、一緒にそれぞれの夢を追ってきた彼だから。  
もう一度、間違った道を引き返して、きっとやり直せる…エリーは思った。  
「チャンスとかじゃなくて…私が、ダグラスと一緒に居たいって思うの」  
 
「エリー!」考えるより先に、ダグラスの体は動く。  
彼はエリーを抱きしめ、その唇を奪っていた。エリーはおずおずと応える。  
くちづけを交わすうちに彼の熱はどんどんと昂ぶっていき、さらに次の段階へと  
進んでいきそうになってダグラスはふと(これじゃ前の時と同じじゃねえか!)と  
気づいて体ごと勢いよく唇をもぎ離した。  
「す、すまねエ…俺、また…」意味もなくダグラスは口をぬぐった。  
「いいよ、やめなくて」エリーは意味ありげな瞳でダグラスを見つめた。  
「エ、エリー?」何を、どこまでやめなくていいのか意味を測りかねて  
ダグラスは戸惑う。  
「私ね、酔った勢いじゃないダグラスを、知りたい…その他にも、もっともっと  
知りたいことはいっぱいあるんだけど…」  
 
ダグラスは一瞬エリーを力一杯抱きしめそうになって、エリーの体を壊して  
しまいそうな自分にすぐ気づいて、彼に出来る限りそっとエリーを抱きしめた。  
「…今度は、優しくするから、よ…」  
柄でもない言葉を言って、顔を赤らめる。意外に幼く見える照れ顔を見てエリーは  
くすっと笑ってしまう。  
「いいよ、ダグラスはダグラスのままで」  
「そういうわけにゃ、いかねえだろ…」言いかけるダグラスの唇をエリーがふさぐ。  
初めてエリーから与えられたキスに、ダグラスは耳まで赤くなるほど驚く。  
ここに来るまではエリーがまた普通に話してくれるばかりか、こんな風に自分を  
求めてくれるとは思ってもいなかった。  
彼女がくれるキスに、ダグラスは自分の熱を徐々に加えていく。  
エリーの息遣いに甘い乱れが生じる。それが彼に欲望を催させる。  
ダグラスはエリーを抱き上げ、ベッドに降ろしながら複雑な服を脱がせていく。  
 
ダグラスの少しあやふやな記憶の中で、あの時のエリーはいつも泣いていた。  
それを思い出すたび、ダグラスは悔悟の念に襲われながらもその都度劣情に悩まされ、  
結局いつも眠れなくなっては自己嫌悪に陥るような行為をしていた。  
が、今目の前にいるエリーは、彼の存在を受け入れ、頬を紅潮させて恥じらいに  
目をうるませている。  
そんなエリーを見て、冷静でいられる彼ではなかった。  
自分がまだ服を着たままであることも忘れて、エリーの体に触れていく。  
エリーの肩口から耳元へ、ダグラスの唇と舌が首筋をなぞる。  
首をのけぞらせてあえぐエリーの白いおとがいを眺めながら、ふっくらとした  
胸の丸みに彼は手をそわせる。  
彼の手にはそれは少し小さくてぴたりとは寄りそわないが、今はエリーが受け入れて  
くれているという事実に感動するばかりで、余計なことは何も考えずにひたすら  
そのやわらかさを堪能する。  
エリーの乳房の先端はすぐに固く充血し、彼女の快感の扉を開く。  
甘い吐息と共にエリーは胸をまさぐる彼の手に自分の手を重ねるが、彼の動きを  
邪魔することはできない。  
 
ダグラスは彼女の秘所へと手を伸ばす。  
触れた指先で、エリーのそこがすでに熱くなり始めていることを感じて、  
彼の欲望はますます高まっていく。  
エリーの反応を確かめながらそこを指先で何度もなぞる。  
彼の指のわずかな動きにもエリーは反応し、彼女の奥からは充分すぎるほどに  
愛液が湧きだす。  
くっ、とダグラスは指先を軽くエリーの秘裂に潜り込ませる。  
彼がその指をゆっくりと往復させると、エリーのそこは彼の指を幾度もきゅっと  
締め付け、また愛液を湧きださせる。  
「んん…ぁ…ぁあう…」  
ダグラスが次第に指を増やしていくと、エリーは吐息ばかりではこらえきれなく  
なって、荒い息の間から次第に高まった声をもらし始める。  
彼の指だけでも、もう達してしまいそうな自分が恥ずかしくて、エリーは  
ダグラスの首にすがりつく。  
 
すがりつかれて初めて、ダグラスはまだ自分が服を着ていたことに気づく。  
客観的な目で見ればまたも無理に犯しているような光景であることに思い至って、  
ダグラスは自分が恥ずかしくなり、あせりを隠そうともせずに急いで邪魔な服を  
脱ぎ捨てる。  
まるっきりムードはぶちこわしだが、エリーにはそんな彼が愛しかった。  
向き直ったダグラスは照れ隠しのようにエリーにキスをする。  
エリーは彼のキスに精一杯応えようとするが、すぐにダグラスの熱の方が上回って、  
エリーは必死に彼にしがみついて翻弄されるばかりになってしまう。  
ダグラスはエリーの秘裂を指で拡げ、ゆっくりと彼のモノを挿入していく。  
エリーがダグラスにしがみつく力が強まる。  
時折息をつめながら、エリーはダグラスのモノを受け入れていく。  
あたたかなエリーの粘膜に包み込まれたダグラスは、エリーさえこの腕の中に  
あれば他の物は何もいらないとさえ思う。  
 
すぐにもめちゃくちゃにしてしまいたい凶暴な欲望の存在を感じながら、ダグラスは  
エリーに苦痛を与えないことを優先して、ゆっくりと動き出す。  
「ふぅ…は…あ、あぁ…」エリーの表情は苦悶するようにゆがむが、その声は  
明らかに昂ぶる。  
エリーのどんな反応も見逃すまいとしながら、ダグラスはゆったりとした動きを  
繰り返す。その動きにさえエリーはぐいぐいと頂点に向かって押し上げられ、  
あまりに早く果てが見えて来てしまった彼女は、あえぐばかりの息の下から  
何かダグラスに言おうとしたが、すでに間に合わない。  
「ダ、ダグ…ッ、あ、ああッ…!」  
ダグラスにしがみついていた手に一瞬力が込められ、すぐにぱらりと離れる。彼女の  
背すじが幾度か小さく跳ね、全身にうっすらと汗が浮かび、その秘所にも細かな  
ふるえが起こる。  
ダグラスは動きをとめ、エリーを見守る。  
彼に向かって開かれたその体を、悦びの表情を彼の記憶に刻み直す。  
放心したように開かれた唇からもれる甘い吐息が次第に落ち着いていくのを、  
そして宙を見ていた瞳がまた彼をとらえ直して恥じらいを見せるのを見守り、  
ダグラスは何か言おうとして口を開いた、が、こんな時に何か言うと歯の浮くような  
ことを言ってしまいそうで思い直して、黙ってまたエリーに口づけた。  
 
普段こういう場面でない時にはひとり突っ走るダグラスが今日は冷静で、そんな  
ダグラスに達しているところを見られてしまってエリーは恥ずかしくて涙がにじんだ。  
何でこんな時だけ冷静なのよ? とエリーはダグラスをなじりたいほどだった。  
ダグラスはダグラスで必死に自分を抑えていたのだが。  
エリーのその瞳を見てダグラスは、彼女にまだ余裕があることを半ばは確信、  
半ば期待して、再び腰を使い始める。  
はたしてエリーは再び彼の動きに敏感に反応を見せる。  
ぬるりとした愛液が彼を包み込み、彼は思い通りに動いていく。  
彼が欲望の命ずるままに動いてもエリーはもう息をつめない、どころかその唇からは  
とめどなくあえぎ声が響く。  
エリーひとりでは快感の波を受けきれなくて、ダグラスの体に時折爪を立てる。  
その痛みでもダグラスをもう押しとどめることはできず、彼は激しくエリーを  
責め立てる。エリーの両脚を両脇に抱え持ち、二人の体液が混じり合う音と  
彼女のあえぎだけを聞きながら、ダグラスは自分の皮膚感覚の求めるままに  
エリーとのつながりを確かめるように抽送を繰り返す……。  
 
「や…あ、ダグラス…も、もう…っ」エリーが彼に限界の訪れを告げようとする。  
恥じらいのためでなく、悦楽のために彼女の目から涙がこぼれる。  
その涙にダグラスは、また突っ走りすぎている自分を感じて彼女を抱きしめて  
キスをする。だが、もう彼の体は欲望を解放することに向かってしまっていて  
動きを止めることはできなくて、抱きしめたまま彼女の中で幾度も幾度も  
突き上げるように動いてしまう…。  
「…っ、アあああっ…!!」  
エリーの声が、体が、同じたかぶりをみせてわななく。  
彼女の脳裏を閃光のように快感が突き抜け、一瞬意識が遠のくほどの絶頂に達する。  
「エリーッ…!」  
急にエリーの中がダグラスのモノを不規則に締め付け、彼もまたエリーの中に拍動と共に彼の熱いたかぶりを送り出す……。  
 
どっと押し寄せる疲労に一瞬彼は体をエリーの上に投げ出し、すぐにエリーの体を  
思いやってその横に横たわる。  
荒かった息が整い、全身を包んでいた汗がひいてきた頃、天井を見たまま、  
ダグラスはエリーにつぶやく。  
「…なあ、武闘大会、応援しに来てくれるか…?」  
「もちろん。…あ、でも…」  
「何だ?」  
「…スケジュール組む時、忘れないようにしないと…。  
 いっつも依頼ためちゃって忘れちゃうんだぁ…」  
「……わかった。今年は迎えに行くから、冒険だけは入れんなよ?」  
「…ん……きおつける…ね…」  
言いながら、すやすやと眠り始めてしまったエリーを見て、ダグラスは  
幸せでもあったが、彼女がこの会話を覚えているかどうかは少し不安だった……。  
 
 
-ダグエリエンド完結-  
 

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル