「じゃあ、また明日ね、ノルディス。」  
 ベッドの中からエリーはけだるげに服を身につけた恋人に声をかけた。情事の余韻で動くことさえまだ億劫だった。  
「うん、ちゃんとドアに鍵をかけるんだよ。」  
 寮の門限はとっくにすぎているのに、この優等生は少しも慌てたようすもなく、それどころか未練たらたらでベッドの中のエリーを振り返る。  
「このごろは無用心だから…。僕が泊まってあげてもいいけど…。」  
「無断外泊はまずいわよ、主席さん。」  
 エリーはくすっと笑って、またベッドに戻ろうとする彼を押し留めた。  
「イングリド先生に呼びだし喰らうわよ。」  
「それはいやだなぁ。」  
 鬼より怖い教師の名前を出されたノルディスは頭をかきながら、不承不承、エリーの寝室を後にした。  
 
 
 いつの間にかうとうとしてしまったのだろう。エリーがふと気付くと、部屋の中は真っ暗だった。蝋燭も燃え尽きてしまったのか、それとも風でも吹いて自然に消えたのか…?  
「ノルディス、戸締りしろって言ってたよね…。」  
 ほんの短い睡眠だったが、エリーの体力を回復するには充分だったらしい。腰にけだるさはまだ残るもののエリーはベッドに半身を起こした。手近にあったシャツをはおると、真っ暗な階段を下りていく。  
 小さい光球が一個ついただけの工房は薄暗く、その扉には鍵がかかっていなかった。エリーは短く呪文を唱えると施錠した。これで、解呪文を唱えない限り、扉も窓も安全だった。  
「さ、明日の為に寝るか…。」  
 寝室に戻る階段に足をかけたエリーの背後から手が伸びた。  
 
「……?」  
 口元を押さえられて、悲鳴を上げかけたエリーは手の主を認めて力を抜いた。  
「ダグラス…。」  
 馴染みの聖騎士ダグラスが暗い工房の物影に立っていた。  
「お前、無用心だよ。扉の鍵もかけねぇで…。」  
 にやっと笑った彼が纏う雰囲気はいつもと微妙に違っていた。  
 
「びっくりさせないでよ。ダグラス…。」  
 笑って言いかけてエリーは自分の格好に気付いた。情事の後の乱れた髪、素肌に申し訳程度に羽織っただけのしどけない格好。  
 急に顔が赤らんだエリーは慌てて前をかき合わせるとダグラスに背を向けた。  
「帰ってよ、ダグラス。こんな時間だよ。」  
「ノルディスならいいのか?」  
 その口調に含まれた毒がエリーの足を竦ませた。  
「なんの話?」  
「俺には気を持たせるだけでヤらせてくれねぇ癖に、あのボーヤには足を開くのか?」   
 それだけ言うと、ダグラスは強引にエリーを抱き寄せて唇を重ねた。ねじこまれた舌がエリーの口腔を犯す。  
「………!!」  
 抵抗しようと振り上げた腕は簡単にダグラスの片手で背にねじりあげられ、その痛みにエリーは背をのけぞらせた。  
 ダグラスは思う存分、エリーの口を犯した後、エリーを離した。あまりにも呆気なく手を離されたエリーはダグラスの意図を掴みかねて、じりじりと後退した。  
 
「ここでヤるか?俺は好みだけど、お前は上の方がいいんじゃねぇか?」  
 そんなエリーの様子を見て、ダグラスは楽しそうな声をあげた。  
「ここの方が大声あげても聞こえねぇから、お前はいいかな?さっきはお前のよがり声が通りまで響いていたぜ。」  
「うそ・・!!」  
 さっとエリーの顔が朱に染まる。うす暗くてその細かい表情までは読めないながらも、雰囲気で悟ったダグラスが楽しそうに続ける。  
「あれほどの爆発もほとんど聞こえないぐらいの、防音だからな、ここは。」  
 確かにしょっちゅう起こす調合失敗の爆発音に近所から苦情が続出した時期があった。たまりかねたエリーは工房全体に防音の結界を張っていた。  
「うそ、さ。でも、工房ってのは便利だよな。こんなものまであるしよ。」  
 いつの間にかダグラスの手には『生きている縄』に加工しようとおいてあった縄が握られていた。  
 
「…や、ひぃ…、あぁ…。」  
 逃げようとした足はあっという間にダグラスに止められた。  
猫が仕留めた鼠をいたぶるようにダグラスはほんの少しの自由をエリーに与えながら、その抵抗を楽しんでいた。もともと、ほんの申し訳に羽織っただけのシャツはすぐに脱がされて、エリーは全裸のまま、ダグラスの腕に抱きとめられていた。  
「どうして俺じゃないんだ?」  
 苛立たしげにエリーの唇をその指でなぞりながら、ダグラスはエリーに尋ねた。  
「どんな危険からだってお前を守っていたのは俺じゃねぇのか?アイツじゃねぇ!!」  
「ぃやぁ…!」  
 エリーの瞳から涙が零れ落ちていた。首を振って、ダグラスが寄せる唇を何度も避ける。  
「そんなに俺はいやか?」  
 何度目かのキスを拒絶されたダグラスの口調が変わった。空いている手でエリーの小ぶりな胸を鷲づかみにする。その痛みにエリーが悲鳴を上げた。その声にも構わず、ダグラスはエリーを硬い床に押し倒した。  
 
「優しくしてやろうと思ったのによ。」  
 ほんの少し寂しそうに笑うと、ダグラスは軋んだ声で続けた。  
「お前が素直じゃねぇんだから仕方ないな。騎士をなめるんじゃないぜ。」  
片手で簡単にエリーの両手を頭上にまとめると、ダグラスは暗く笑って縄に手を伸ばした。  
 
 工房の中に、ダグラスが外す鎧の音が響いた。ゆっくりと着衣を脱ぎながらダグラスは足元に横たわるエリーを見下ろして薄く笑った。  
「いい眺めだな、エリー。」  
 シャツを引き裂いた猿轡を噛まされたエリーは何か叫ぼうとするが、くぐもった音しか出せなかった。  
 頭の上で不自然に腕をひねって拘束された腕は少しでも動かせばいやな痛みを肩に伝える。  
 片足は柱にくくりつけられて、エリーの自由になっているのは左足だけだった。その左足をきっちりと右足につけて硬く閉じていたが、ほんの少し前、あっという間にエリーを拘束したダグラスの力なら何の苦もなく開かれるのは明白だった。  
「前戯はさっきすんでいるだろから、楽しませてもらうぜ。」  
 
 生まれたままの姿でエリーの頭上に立ったダグラスはそれだけ言うとエリーの脇に跪いた。手を強引にエリーの秘所に割りこませると、エリーの中に指を押し込んだ。  
「………!!」  
 声にならない悲鳴を上げてエリーが身を捩る。しかし、彼女の意志とは裏腹に彼女の『女』はダグラスの指を受け入れてしっとりと濡れはじめた。  
「いい締まりだな、エリー。」  
 エリーを辱めるためにそう言うとダグラスはエリーの髪を掴み、彼女の目の前に己を見せつけた。  
「お前が銜えこむもんだよ。よくみておけ!」  
 その迫力にエリーの目が見開かれた。エリーの知っている男性器はノルディスのものだけ、しかも間近にじっくりと見たことがあるわけではないので、比べようもないが、目の前のソレが並外れたモノであることは理解できた。  
 
「んんんんん!!」  
 エリーが言葉にならない悲鳴を上げる。首を振って目の前のモノから視線をそらせたいのだが、髪を掴まれているのでそれも出来ない。ダグラス自身の圧倒的な質感から目を閉じることも出来なくなっていた。  
「舐めてもらいたいところだが…。」  
 ダグラスは残念そうにエリーの猿轡をなぞると、  
「今、これを外すと煩せぇからな…。」  
 それだけ言うと、エリーに覆い被さった。筋肉質の男の重みに、一瞬エリーの息が止まる。恋人のものとは比べものにならないほど力強い足が強引にエリーの足を割り開いた。  
「挿れるぜ?」  
 恐怖に見開かれたエリーの瞳をのぞきこみながら、ダグラスはまた暗く笑った。  
 
 肉を押し分けて入ってくる感覚が恋人のモノと同じだったのははじめの一瞬だけだった。次に感じたのはその圧倒的な量感。  
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」  
 猿轡がかまされているにもかかわらず、エリーの口から悲鳴がこぼれ落ちた。  
「キツイな…。」  
 苦笑しながらダグラスが浅く抽送を繰り返す。入り口付近を巨きなモノで擦られて、エリーはソレがもたらす感覚を押さえこもうとしていた。しかし、すでに男を知っている身体は快楽を追う。恋人を裏切っている自分の身体にエリーの瞳からとめどなく涙があふれ出ていた。  
 クチュっとエリーの秘所から濡れた音が響いた。意志に反して腰が揺れ始める。押さえ込もうとしても押さえきれない快感が繋がっている場所からさざなみのように全身に広がっていった。  
「濡れてるぜ、エリー?」  
 すかさずダグラスがエリーの耳元で囁いた。  
「感じてるんだろ?俺に挿れられて…。」   
 
 エリーは必死で首を振った。肩がぎしっといやな音をたてて軋むのにも構わず、身を捩ろうとする。  
「腕が使い物にならなくなるぞ?」  
 脅すようにダグラスがエリーの腕を押さえた。  
「無理すりゃ、肩の腱が切れる。動かない腕じゃ錬金術師にはなれねぇんじゃないのか?」  
 怯えたようにエリーが動きを止めた。まだ流れ続けている涙を見て、ダグラスの瞳が暗くなった。  
「おとなしくしているんなら腕は解いてやってもいいぜ?」  
 エリーの瞳にほんの少し光が宿るのを見たダグラスは少し笑った。、しかし、首筋に薄く残る他の男が残した情痕を見て、また残酷な思いに囚われた。  
「まず、俺が満足してからな。」  
 一旦エリーの中から引き抜いた彼自身を、そのまま、一気に最奥まで突きたてた。  
 
…………!!」  
 激痛が走ったのだろうか、エリーが背をのけぞらして叫んだ。肩の痛みを気にもせずに身を捩って暴れる。さすがにまずいと判断したダグラスが腕の拘束を解いた。  
 腕を自由にしてもダグラスは両手をエリーの頭上で一纏めに押さえつけていた。具合をたしかめるようにゆっくりと抜き差しを繰り返しながらエリーの顔をうかがう。  
はじめは首を振って拒否の叫びをあげていたエリーが、だんだんと変わってきていた。突きあげるたびにその口から出るのは喘ぎ声、猿轡に遮られて確かには伝わらないまでも、それは紛れもなく絶頂間近の女の声だった。  
腰もダグラスの動きに合わせて揺れている。  
「…はぁ…ぁん…、…くっ…!!」  
 エリーが喉の奥で咽く声に煽られるようにダグラスの腰の動きも激しくなった。エリーの中が彼を締め上げはじめていた。  
 
「このままイっちまいそうだ、エリー…。」  
 うめくように言うダグラスにエリーは怯えたように目を見開いた。今まで、ノルディスとの情事では一度もそのまま出されたことはなかった。  
彼は必ず外に出し、その後を丁寧に拭き浄めてくれていた。  
 必死で首を振るエリーにダグラスはそれを察してにやっと笑った。  
「アイツは中で出してねぇのか?」  
 すでにかなり追い上げられている彼にももう余裕がなかった。  
「そりゃいいや…。」  
 両手でエリーの細い腰を掴んで持ち上げると膝立ちになり、上からたたきつけるように彼自身を打ちこみ始めた。両手が自由になったエリーがその手を引き剥がそうとするが、がっちりと腰を掴んだ手はびくともしない。  
エリーも押し寄せる絶頂間近の快感に意識が飛びそうだった。無意識のうちにダグラスの手の甲に爪を立てていた。  
 
 先に達したのはエリーだった。背を弓なりにそらせ、全身が痙攣したようにガクガクとと揺れる。それはエリーが生まれて初めて体験する激しい絶頂だった。  
うわごとのようにとめどなく流れ出る言葉は何一つ意味をなさなかったが、ダグラスには充分にその言葉を感じ取っていた。  
「イイか、エリー?俺のはイイだろう?」  
 満足げにそう呟くと今度は自分の満足の為に動き始める。エリーの中はダグラスを食いちぎらんばかりに締め上げていた。  
「イイぜ、エリー。お前のも…、締まる…!!」  
 更に奥深くを突き刺した彼はそこに白濁を勢いよくたたきつけた。更に2、3回軽く抜き差しを繰り返したあと、ぐったりとエリーに覆い被さった。肩で荒く息をしながら涙に濡れたエリーの顔をのぞき込んだ。  
 
「…、イっちまったぜ、お前の中で…。」  
 エリーは放心したように涙をこぼしつづけていた。ノルディスを裏切った自責の念と、先刻感じた圧倒的な快感の余韻で、その瞳は何も映していなかった。  
「…、出来ちまったかも、な…?」  
 さらに意地悪く笑いながらダグラスが続ける。その言葉にエリーの瞳がゆっくりとダグラスを見た。自由になった腕がダグラスの胸を押す。しかし、長く拘束されていた腕は痺れてたいした力もなく、彼を押しのけることはできなかった。  
「そしたらどうする?ノルディスの子供だってだまくらかして、あいつと結婚するか?すぐにばれちまうだろうな?」  
 涙の溜まったエリーの瞳をのぞきこみながらダグラスは続けた。何か言いたげなエリーにやっと猿轡を解いた。  
 
「酷い…。」  
 エリーの口から零れ落ちたのはその一言だけだった。  
「お前の方が酷いよ。俺に気を持たせておいて、いつも、いざ、って時にはするりと逃げ出す。何年もそれを繰り返されて見ろ、いい加減におかしくなっちまう…。」  
 深夜の見回りで偶然エリーの工房前を通りかかったときに、出ていくノルディスを見かけなければこんなことはしなかった、ダグラスは心の中でそう呟く。  
自分とは軽い挨拶程度のキスしかしないエリーがまだ子供だと思っていたノルディスに抱かれている、そう思った瞬間に、彼の理性はどこかへは弾け飛んで行った。  
「よかったんだろう?あいつはこんなに満足させてくれなかったんだろう?」  
 そう言うとダグラスは再び、エリーの唇を求めた。今度はエリーも避けなかった。  
「俺は責任とるよ。お前を一生、守っていってやる。」  
 
絶望的な眼でエリーはダグラスをみつめた。その濡れた瞳にダグラスはまた欲情するのを感じた。  
エリーの中で力を失っていたモノが育ち始める。  
「…ぁ…!」  
 エリーがそれを感じて小さな声をあげて身を捩った。ダグラスはそんなエリーに今度は優しく囁いた。  
「も一回、ヤらせてくれよ、な、エリー…?」  
 エリーは目をそらした。悲しげなエリーの顔に、ダグラスが自棄になりかけた時…。  
「…………!!」  
 エリーの両腕がダグラスの背にそっと回った。  
「エリー…?」  
 エリーはダグラスとは眼をあわさない。それでも背に回った指が自分の背をぎゅっと掴むのをダグラスは感じた。  
 今はそれだけでいい、ダグラスは心の中でそう呟くと、エリーを満足させるために動き始めた。  
 
 

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