その日、アカデミーは創立依頼大混乱を向かえた。エルフィールが
重傷を負って、城門の前で倒れたのが発見されたからだ。
アカデミーの救急治療室に運ばれる最中、エリーは事の起こりを説明し始めた。
事の発端は、マルローネが受けた依頼だった。いつもの通り飛翔亭で依頼を
受けてきたのはいいが、肝心の材料が足り無いことに気が付いた。
『銀花の結晶』………この時期、ヴィラント山の更に奥にある雪山でしか採取
出来ない貴重なアイテムだった。
エリーは反対した………何よりも危険だったからだ。今は10月、騎士団も
魔物討伐に向かっている上、馴染みの冒険者も全員他の依頼で出払っている。
だがマリーは………自分で依頼を受けてしまった責任もあったのだろう………
どうしても雪山へ行くことを譲らなかった。………またエリーもマルローネが
一度言い出したら聞かない性格という事を、共同生活で熟知していた為、無理に
引き止めることが出来なかった………代わりに自分も採取に同行することを条件に
二人は雪山へと、向かった。
こうなってしまった直接の原因は一つ………二人の油断と楽観的性格だった。
騎士団の魔物討伐、そして何より二人が過去この山の主『北風の王』を倒して
いる事が、彼女らの油断を誘った。
マリーとエリーの不意を付いたのは、その北風の王の従撲……『雪の乙女』と
『霜の乙女』だった。エリーが逃げおおせたのは偶然だった………結果マリーは
二人の魔物に囚われ、一方エリーは凍傷を被いつつも何とかザールブルグまでの
帰還を果たしたのだった。
この事件はアカデミーにとって死活問題だ………何故なら錬金術界の至宝を
一気に二人も失ってしまうかもしれないからだ。
アカデミーが現時点で最優先で行わなければならない事は二つ『マルローネの
救出』と『エルフィールの看病』だ。………だが今はそのどちらか一つしか
手を付けることが出来ない。大金を払って冒険者を雇おうにも、その冒険者が
いない………騎士団に依頼しようとも、討伐最中ではそれも無理だ。
ならば人員をアカデミーから出せば、今度はエルフィールを看病する人間がいなくなる。
アカデミーは創立以来、最大の選択を迫られようとしていた……………