ヘウレンの森。
昔そこには清廉な領主と清純な夫人が住んでいたと言われている。
しかしその話には大きな誤りがあった。
それは清廉な領主と清純な夫人と言う場面である...。
「フグ......フグ!」
うめき声を上げるエリー。
ここは今は無き領主、の家の中。
エリーはボールギャフをくわえさせられ、
鎖により手足を拘束されていた...。
「フフフフ...神聖なる私の領土に足を踏み入れてきたのが、
運の尽きだったな...。」
いすに腰掛けながら、
吸血鬼は含み笑いをした...。
この吸血鬼こそ、
今は無き領主が変形した姿である。
「フ...フグ〜!」
よだれを垂れ流しにしながら、
(ボールギャフの性質上、
付けられた者は声を出せず、
しかも屈辱的な事によだれが垂れ流しになってしまうのだ。)
瞳で哀願するエリー。
しかし吸血鬼は思いも寄らぬ事を口走ったのである...。
「フフフ...よだれを垂れ流しにしている姿など、
我妻にそっくりだな...。」
「フ...フグ?」
伝承と違うことに疑問を抱くエリー。
すると吸血鬼はおもむろに立ち上がった...。
「確かに一般の者達は、我妻を清純だと話して居るなあ...。」
吸血鬼は淫らな道具がぎっしり詰まった箱に手を伸ばした。
「しかし、それは民衆達の勝手な想像にすぎない。
昼間こそ民衆の前で清純そうに振る舞っていた我妻も...。」
箱の中からある一枚の写真を取り出す吸血鬼。
その写真には...。
「ヒ...ヒ...ヒグゥ!」
首輪以外何も付けずに、
四つん這いで散歩させられている夫人と
首輪の鎖を引く領主の姿が写っていた...。
しかも夫人の顔からは、光悦の笑みがこぼれている。
「夜になれば淫らな雌奴隷に早変わりだ!」
箱の中から今度は、普通なら犬が付けるであろう首輪を取り出す吸血鬼。
「この首輪にはどんな者も服従させる魔法がかかっているのだ。
たとえ気が強くても、魔法に対する抵抗力が高くてもな...。
ほら、ボールギャフをはずしてやる。
そうすれば自由に話せるようになるだろう...。
その代わり...首輪を付けた時おまえは自分の意志に関係なく服従の言葉を私に話さなければならないがな...。」
「ヒグ!ヒグゥ〜!」
必死に抵抗するエリー。
しかし体の自由を奪われている者にとって、
それほど無駄な行動はなかった...。
あっという間にエリーの身体を掴む吸血鬼。
「フフフ...。まずはボールギャフからだったな...。」
と言うと吸血鬼はエリーの口に付けられていたボールギャフをはずした...。
「う...ううう...」
「次に...この首輪を付けるのだったな...。」
エリーの首を掴み、勝ち誇ったような表情で
それを付けようとする吸血鬼。
「いや〜!誰か助けて!」
最後の希望を胸に叫び声を上げるエリー。
「フハハハハハ!この場所はヘウレンの森の最深層。
助けが来るはずなんて...
う!」
突然吸血鬼の顔色が変わった。
「へ!?」
何が起こったのか分からないエリー。
すると...
「き、貴様!...。昨日ニンニクをどの位食べた!」
吸血鬼の顔色が変わった原因は、
どうもエリーの口臭にあるようだ...。
「あ、そう言えば15個ばかり食べてきたけど...。
調合続きで疲れていたからね...。」
回想するように話すエリー。
しかしそうしている間にもエリーの口臭が吸血鬼にダメージを与えていた...。そして...
「く...く...口が臭い...グフ!」
吸血鬼は息絶え、灰になってしまった...。
こうして、エリーは助かることが出来た。
身体を拘束していた鎖も、
吸血鬼の魔力によるものだったらしく消え去ってしまった...。
しかしエリーの心の中にはあるトラウマが生まれていた。
それは...
(...しばらくニンニク食べるの、やめよう...。)