朝。それは何気ない日常の始まりである。  
職人達が起床し、お店の前に看板が掛けられていく・・・。  
 しかし、今日はいつもと違った。時間になっても、職人通りのはずれにあるエリーの工房に看板がかけられていない。  
 
 
「ううっ、ほどけないよ〜」  
 工房の中でうめき声を上げるエリー。その体には縄がくいこんでいた。  
「生きている縄をブレンド調合しただけなのに、何でよぉー」  
「うっ・・・くっ・・・。はやくはずれてぇ!」  
 きっちり張られた股の縄がこすれ、エリーはナントモ言えない感覚を覚えていた。  
 エリーは俗に言う亀甲縛り状態になっていて、しかも、肝心の生きている縄は既に息絶えて、ただの縄と化していた。  
 そして、この状況を切り抜けるには第三者の協力が必要不可欠だった。  
「くぅ・・・こんな姿、誰かに見られたら恥ずかしいよぉ!」  
 もがくエリー。しかし、もがけばもがくほど蟻地獄のごとく体に縄はくいこんでいく・・・。  
「もぉ・・・だめ・・・。」  
 エリーが諦めかけたその時、  
「おーい!依頼に来てやったぞ!」  
 ちょうどいいタイミング(エリーには悪いであろう)で、ダグラスが豪快に入ってきた。  
「あっ・・・」  
「おっ、おい。その姿・・・」  
「見ちゃダメ!」  
 
身を隠そうとするエリー。しかし、そうすればするほど、縄と体が擦れ我慢がきかなくなった・・・。  
 一方、ダグラスは目の前で起こっている状況が読めず、唖然としている。  
「・・・はっ!どうしたんだよ、その姿は!」  
 ダグラスはとりあえず話を聞こうとした。  
「・・・実は、生きている縄をブレンド調合したら、突然、体に絡んできてたんだよぉ。 しかも、そのまま息絶えちゃったの。だから、・・・うっ!」  
 エリーは突然、痙攣を起こした。  
「どっ、どうした!!」  
「お願い・・・、早くこの縄をほどいて・・・。」  
 エリーは今にも気を失いそうになりながらも、懸命に語りかけた。  
「よしっ、わかった。今すぐ・・・、うっ・・・。」  
 ダグラスはこの時、あることに気が付いた。  
「どうしたのよ、ダグラス?」  
 じっと体を見つめるダグラスに、エリーは訊ねた。  
 しかし、ダグラスは反応しない。  
 この時、ダグラスは別のことを考えていた。  
 エリーの体は縄で強調され、普段よりも格段色っぽく見えている・・・。  
 そして何より、縄で縛られ身動きが取れない少女が目前にいる。  
 その思考がダグラスの心の闇となり、包み込もうとしていた  
 
「ふっ、ふははははははは!」  
「なっ、何で笑うのよ(怒)」  
「お前・・・、今の状況を理解しているか?」  
 ダグラスの目の色が変わった。  
「・・・えっ?」  
「男と女、二人っきり。誰かが来る気配も無く、ただ女が拘束されているとくれば・・・」  
「あっ、いやっ!」  
「よぉし、そのままじっとしていて貰おうか。」  
 ダグラスは、自分のベルトに手を伸ばした・・・。  
「きゃあー、いやっ!許してぇー」  
 エリーが叫び声をあげた次の瞬間、  
 
 ズバッ!  
 
 鋭い衝撃が走った。  
 
 
「えぐっ・・・、ぐすん・・・」  
「おいおい、もう泣くなよ。」  
 ダグラスが手を伸ばしたのは、ベルトではなく、実は腰にある自分の剣だったのだ。  
 エリーの周りには切れた縄が落ちている。  
「だってあの時、本当にダグラスが私を・・・」  
「誰がお前みたいなガキにグラッとこなくちゃいけねぇんだよ!」  
「もうっ、ダグラスのいじわる〜」  
 こうして事件(?)は終局をむかえ、少し遅くなったが、いつも通り、エリーの工房の前に看板が掛けられたのでした。  
 

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