その日、小さな村に取った部屋はひとつだけだった。
薄暗がりの中、ベッドの上で向かい合うふたり。
「なあ」
「んー?」
「これ、どうやって脱がすんだ?」
指差すのは、彼女の錬金術師専用と言う謳い文句のついた服。
ジーノの言葉に、この先の展開に思いを馳せてトトリは顔を赤らめた。
「ぇ、あ……えっと、後ろ向いてて!」
「何で」
「何ででもー!」
「ちぇー」
ぶつぶつ文句を言いながらも、少年は言われた通り後ろを向いた。
少女は落ち着きなく彼の背中を見つめながら、自分の服に手を掛けた。
夜の冷えた空気が、素肌に沁みる。
トトリはジーノの後ろ姿と、自身を比べ小さく溜息を吐いた。
ジーノは、背が伸びた。旅の間も成長期は続いていたらしい。
力も強くなったし、今は流石に勝てそうにない。
でも、私は。何も変わっていない。
「ジーノ君は、おっぱい大きいひとの方が、好き?」
がたんっ。ベッドから、ジーノが転げ落ちた音だった。
「ってぇ、な、何言い出すんだよお前はっ」
「だ、だって、男の人は大抵そうだって先生とか、皆言ってるよ」
「あのなー、俺は……あ」
少年は反論しようとして、固まった。その後、顔を赤くして背けた。
視線の先にいたのは、勿論トトリ。
気まずい沈黙が流れる。
「メル姉」
「え?」
ぽつりと、少年の呟いた名前にトトリは首を傾げる。
「メル……おねえちゃん?」
「おう。胸がでかいっつったらメル姉だろ」
「う、うん。そう、だね?」
読めない話の展開に、しどろもどろになるトトリ。
「つまり、そういうこと!」
「どういうこと」
何故か得意げなジーノに、いよいよ少女は困り果てる。
「わかんねーの?」
「うん、全然」
力なく頷くしかできない。
「だから、俺はメル姉よりお前のが好きだろ。胸とか関係ないじゃん」
あまりにあっさりした言葉だった。聞き逃しかけるくらいに。
「ジーノくん」
「何だよ」
耳にはっきり残った。でも。
「もう一回、言って?」
「あぁ?だから胸なんて」
「そこじゃなくて」
その、前。トトリの頬が、薄いピンク色に染まった。
「わ、私の方が……すき、って」
彼はようやく失言に気付いた。冷めかけていた頬が、また火照りだす。
「い、言ってねーよ」
「言ったよ」
「言ってない」
「言ったもん」
背中合わせの押し問答。生産性のないやり取りの果てで、トトリがひとつの打開策を打ち出した。
「じゃあ、私も言うから。ジーノ君も言って」
少女はすう、と息を吸い込んだ。五月蝿い心臓を騙しながら、口を開く。
「ジーノ君、……す、好き……」
息を呑んだ気配が、背中越しに伝わる。
けれど、一度堰を切ったらもう止まれない。
「ジーノ君が好き。だいすき。これからも、ずっと、ずーっといっしょにいたいの……ジーノくん、は?」
彼の方へ振り返ろうとしたが、それよりも早くジーノの手が彼女を捕らえた。
「何泣いてんだよ」
頬をなぞる指を伝う、涙。自分の流したそれを、トトリは不思議そうに見つめる。
「あれ?何で……。ううんと、あのね。言いたいこと、言えて……すっきりしたから、かな?」
「俺は全然すっきりしてねーし」
「じゃあ、言って」
決まりの悪そうな顔の少年に、少女は迫る。
真っ直ぐ刺さる視線は、逃げも隠れも許さない。
「誰にも言うなよ」
「言うわけないでしょ」
最後まで往生際が悪かった。面と向かっては口が全く回らない。
だから、ジーノはトトリの頭を抱え込んだ。
耳元で、噛み付くように告げた。
「……うん、私も。私も、ジーノ君が大好き!」
それでも彼女は彼の上を行く。
無邪気な笑顔が眩しい。
「……くしゅん」
と、そこで。トトリが小さくくしゃみをした。
それは必然だった。夜も更け、屋内とはいえ半裸で過ごすには少々早い。
「ばか、風邪引くぞ」
「平気だよ、だってジーノ君が暖めてくれるんだよね?」
シーツを投げつける彼に、少女が寄りかかった。
もう、どうしようもなかった。
「もう、黙ってろよばかトトリっ!」
包まったシーツごと、ベッドへ飛び込む。
ぽすんと投げ出された少女を、ジーノの腕が閉じ込める。
薄暗がりの中、白い肌がぼんやりと浮かび上がっていた。
「う……」
「ジーノ君……?」
見下ろした先のトトリは、何時もよりずっと小さく見えた。
それなのに、子どもっぽさも感じられず、むしろその逆だった。
「あ、えっと。さ、触っていいか」
「えっ、あ、うん」
ふたり揃ってたどたどしい。
茶化す輩は居ないから、不器用な時間はまだ続く。
「いつっ」
「あ、悪ィ。痛かったか?」
小さな悲鳴に、思わず胸もとの手を離す。
「う、うん。ちょっとだけ」
トトリは狼狽した様子のジーノに、微笑みかける。
それから、もじもじと困ったような顔で『続き』をねだった。
「はぅ」
膨らみの薄い胸は、強く握られると痛みだけが押し出されてしまう。
今度は、円を描くように外周からゆっくりとなぞった。
「ん……んっ」
やがて、トトリは身を捩って声を抑えだす。
その声に、痛がる様子はなかった。
ジーノは指を、先端に掛けた。そして、押し潰す。
「ふぁ……!」
シーツを握り締めるトトリ。彼女を見ているうちに、少年は抑えきれない律動を感じていた。
汗ばんでしっとりした肌を順番に撫でながら、目的地に早々に辿り着く。
レオタードは薄っすらと湿っていた。それが、汗だけじゃないことくらいは分かる。
布越しに、触れる。
「ひっ」
びくんとトトリが震えた。それでも、ジーノが怯むことはもうなかった。
「うぁあん……、くぁあ」
張り付いた布の上から、指を下へ滑らせる。やがて丘の割れ目に宛がわれる。
「ひあ!っうぁ……」
トトリは、背筋に何かが這い登ってくるような、ぞくぞくとした感覚に戸惑う。
敏感な部分に、初めて触れられたせいだった。
ジーノは、隠されるのが耐えられなくなったのか、最後の砦だったレオタードを剥ぎ取った。
「やっ……」
僅かな抵抗を無視して、今度は直接手を触れる。
「うわ、ぁ」
ジーノは思わず唾を飲み込んだ。見慣れたはずの少女の、体。
殆ど生え揃っていないそこに埋まる、自分の指。とろりとした何かが、彼女の中から零れ落ちていく。
それを掬って、掻き回すと少女は更に善がった。
「やっべぇ……」
下半身が熱い。というか、痛い。キツイ。
「じ、ジーノ、くん?」
喘ぎながら、少女が少年を見上げていた。潤んだ瞳が、理性なんて吹き飛ばす。
ベルトを緩め、邪魔な服を脱ぎ捨てた。
「〜〜ッ、くう……っあぁ……!」
ぶちり。鈍い音が少女の奥から聞こえた。文字通り、引き裂かれたせいで。
「うぐっ、っ、うぅーッ」
今度は通り道が狭くて、無理矢理開かされる。その痛みに、トトリは咽び泣く。
「ん、んっ……ジーノ、くぅんっ」
「な、何だ」
痛苦の滲んだ涙を流しながら、トトリはジーノに請うた。
「て、手っ、繋いでてぇ」
シーツを握り締めていた、小さな手を掬い取る。
トトリも、すぐに指を絡めてきた。
「ぁ……っ、あったかい……ふぁあっ!」
彼女の緊張が解れたのか、中も少しだけ入りやすくなった気がした。
そのまま一気に押し込んだ。
「ふ……ぅ、はっ……」
「大丈夫か、トトリ」
気遣わしげな声に、少々長い沈黙の後少女は口を開く。
「……ん、もう、平気だよ」
「まだ痛いんじゃないか」
「ちょびっとだけ。でも、大丈夫だから」
それでも、眦に残る涙を気にしてジーノは更に言葉を重ねた。
「そうか?」
「ん、嬉しい方が、おっきいよ」
少し照れたように笑うトトリ。それはジーノにも感染した。頭を掻きながら、独り言のように呟く。
「そっか」
「うん。そだよ」
涙を拭いながら、少年は少女を窺った。
「そろそろ、大丈夫か?トトリ」
「えっと、……ぅ、うん」
そろりそろりと腰を引いて、戻す。
最初はひどく緩慢に。
下の少女に、苦痛の色が完全になくなったのを見計らって、少しずつ動きを早めていく。
「んっ……は、ひあっ……っくう」
揺さぶられるトトリは、しっかりと少年の背中にしがみ付いていた。
痛みと戸惑いは、少しずつ溶けて。
初めての快楽が徐々に身体を満たしていく。
「……!っひ、そこ、ぅああんッ!」
「こっちか……」
角度を変えて行くうちに、弱点にヒットしたらしい。
そこを重点的に攻める。
「きゃぅ、んあァっ!やあ、だめぇ……っ」
打ち付けるたびに、高くなる嬌声。
「何が、駄目なんだよっ」
「だめ、え、気持ち良くて、おかしくなっちゃうよぉ!」
「気持ち良いならいいじゃねーか」
「だって、んっ。恥ずかしいんだも……あう!」
肉同士のぶつかり合う音。それから、粘っこい水の音。そして、それに合わせるように零れる少女の甘い悲鳴。
そして、限界が近付く。
「ジーノ、くっ、わ、ひっ。私、も……だめ……ぇ」
「俺も、もう……ッ」
最後に、思い切り彼女の体の奥まで貫いて。
「っ、くぅ……」
「あ、ああぁ……くうあぁああッ!!」
そこを、汚した。
さて翌日、ふたりが一日の予定だった宿泊を延ばすハメになったのは言うまでもない。
宿屋の主人の生温い視線のせいで大変居心地が悪かったそうだ。