最初の課題を終えたウルリカとクロエ。  
二人はトニと別れ、アトリエへと戻ってきていた。  
「ねぇ、クロエ。今日はこの後どうするの?」  
最初の課題は思いのほか時間がかかるものではなかった。  
時間にしてまだ午後三時、寮に戻るにも早い時間だ。  
とはいえ、誰かを訪ねるにしても、ウルリカはこの学園には知り合いなど居ない。  
「ん? 用事あるし……」  
クロエの意外な回答。  
「用事?なんの?」  
いつもウルリカと行動していた彼女が他の友達と居る所を見たことはない。  
用事といっても学園内に知り合いが居ないのは彼女とて同じことだろう。  
「ウルリカには教えない」  
突き放すような言い方だが、これがクロエのデフォルトの返事だ。  
「え〜ケチくさいこと言わないで教えてよ」  
そしてしつこくウルリカが詰問する。  
ウルリカが興味を持ってしまったことから簡単に逃れることは出来ない。  
それはクロエも熟知している。  
やむ得なくクロエは用事の内容をウルリカに話すことにする。  
「強いて言えば一年間を平穏無事に済ますためのおまじないをするの。手伝ってくれる?」  
「……え、遠慮します」  
ウルリカは即答していた。  
おまじない……彼女のそれは本来言葉が意味する生易しいものではない。  
もはや呪いの域すら脱してしまうほどの威力を持ち合わせることもある。  
今までそのおかげで何度も酷い仕打ちをうけたことは精神的外傷となり、ウルリカに克明に刻まれている。  
 
 
 
「失礼します……」  
クロエが向かった先は彼女の担任であるト二の部屋だった。  
「ん? なんだ?」  
トニの無愛想な返事が彼女を迎える。  
「お前は確か……ウルリカの友達だったな」  
トニは入学初日から問題を起こしかけたウルリカの名前こそ覚えていたものの  
その友達の名前までは記憶していなかった。  
「生徒の名前を覚えてない先生って……」  
 
皮肉を込めて小さくクロエは呟いた。  
「うるせー! 昨日の今日で生徒全員の名前と顔なんか覚えれるかよ」  
彼女の小さなぼやきにすら反応するトニ。  
トニはクロエを嫌っているわけではない、誰に対してもこのような受け答えをしていた。  
「普通は覚える……だから教頭先生に勝てないのね」  
「あいつは特別だ! ってかなにをに来たんだ? いちいち俺に嫌味を言いに来たのか?」  
クロエはさりげなく彼のウィークポイントを刺激する。  
トニがグンナルを目の敵にしているのは、入学式にあった騒動のおかげで周知の事実になっている。  
「嫌味じゃないのに……」  
彼女にいたっては普通の受け答えをしているつもりだった。  
自身の会話一つ一つに僅かな毒が含まれていることを彼女は自覚していない。  
「これ以上俺の邪魔をするならお前の評価を落とすぞ! 帰れ、帰れ!」  
しっしっと犬を追っ払うようなジェスチャーをするトニ。  
彼は友好的に生徒と接するようなタイプではない。  
「職権乱用……ちゃんと用事があってきたのに……」  
「なら聞いてやるから早く言え、俺だって暇じゃないんだぞ」  
クロエの一言一言がトニの癪に障る。  
たとえ彼が暇だったとしてもクロエの相手などまともにしないだろう。  
「これを持っていて欲しいんです」  
クロエは鞄にしまっていた奇怪な形状の木の枝を差し出した。  
「なんだ? これ?」  
差し出された枝の反対側を握るトニ。  
それを確認した後クロエはなにやら呪文のような言葉を紡ぎだしていく。  
単語からも明らかに普通の言語ではないことを感じ取るトニ。  
「3.2.1.ハイ!」  
クロエは呪文の最後にカウントダウンと威勢の良い掛け声を発する。  
「ったくなんなんだ?」  
トニ自身、いたって変化は感じ取ることが出来なかった。  
「うふふ……多分成功……」  
彼女は低い声に口の端を歪め不適な笑いを浮かべた。  
トニが彼女の顔を覗こうにも不気味に眼鏡のレンズが光って視線を遮断してしまう。  
「おい、不気味なやつだな」  
悪態をつくトニだが、クロエは彼の言葉など聞いていないようだった。  
「これで私の言うことを聞いてくれるはず……ふふふ」  
自分の世界に入り込んでいるクロエ。  
 
彼女が自称おまじないに取り組む姿勢は逸脱しているものがあった。  
「試しに……。先生、今から私に勉強を教えて」  
クロエが彼に御願いをする。  
彼女が今回トニに試みたおまじないは相手の言うことをなんでも三つ聞くというものだった。  
「はぁ? 今から? 何を言ってやがる。俺は忙しいと言ってるだろ」  
しかしクロエの予想と違い、彼の口から出たのは意外な言葉だった。  
「あれ? もしかして失敗?」  
無愛想な表情のまま彼は言葉を改める様子も無い。  
「ったく……また今年も変な奴が多いクラスの受け持ちかよ」  
そう溢すとトニは彼女に背中を向け、自身の仕事を再開し始めた。  
参考書を選び、彼女の存在などなかったかのように作業を続ける。  
「あれ? おかしい……効果が出るまで時間がかかるのかな……」  
絶大な信頼を寄せているおまじないの本に載っていた呪文。  
その言葉を熟読し、正確に暗記した彼女は一言一句間違ってはいないはずだった。  
「先生?」  
再度トニに呼びかけるクロエ。  
今まで故意的に間違ったことはあれど、真剣にやって間違ったことなど今まで一度も無い。  
「なんだ? お前の話を聞いている余裕はないって言ってるだろ?」  
彼女の呼びかけに背中を向けたまま答えるトニ。  
彼は明日の授業に使うのか片っ端から参考書に目を通し始める。  
「卒業まで私の成績を下げないで欲しいの」  
二つ目の御願い、一つ目が聞き入れられないとしたらこれが一つ目の御願いになるはずだが……  
「はぁ? まったくもって変な奴だな……お前名前はなんて言うんだ?」  
少しなりとも彼女に興味を持ったのだろうトニの手が止まった。  
「クロエ……」  
今更と呆れたように答えるクロエ。  
そういえばここに来てから最初に聞くべきであろう名前を、彼は今の今まで聞いてこなかったのだ。  
「とりあえず要注意人物として覚えておく」  
クロエの予想とは反してトニのブラックリストに刻まれる彼女の存在。  
どういう形であれウルリカに次いで彼女も一目置かれる存在になったことには違いないだろう。  
「おかしい……やり方は間違ってないはず……御願いが抽象的すぎたのかな?」  
持参していたおまじないの辞典に目を走らせる。  
確かに彼女の願いは今すぐにかなえられるものではない。  
「先生……私を抱いて、ってもっと具体的に言わないと……先生私とエッチしてくれませんか?」  
すぐに思いついた要望がそれだった。おまじないの効果がなければ実行されないだろう御願い……  
 
簡単に出来るものだと本当におまじないが利いたのか分からない、  
とはいえ時間のかかるものなどもってのほかだ。  
「……大丈夫かお前?」  
トニの動きが止まった。  
そして当然の反応を返す。  
正常な者なら突然エッチをしてくれなどという気のふれた願いにまともな返事をするはずが無い。  
「あれれ……やっぱりおまじない失敗みたい……」  
とは言え万が一彼女の要望に応えトニが迫ってきたところでそれに及ぶことは無かっただろう。  
彼女に性的欲求はなくおまじないの成否を確かめることが出来ればよかったのだから。  
「失礼しました。今日は帰ります……」  
クロエは意気消沈した様子で部屋を後にしようとする。  
彼女は成績向上よりおまじないそのものが失敗したことに落胆を隠せない様子だ。  
それに驚いたトニは慌てて彼女を呼び止める。  
「な、何を言ってんだ? 人に散々準備させておきながら帰るのかよ」  
「え?」  
あっけに取られるクロエ。  
彼女は入り口の前で立ち止まってしまう。  
「お前が言ったんだろ? 勉強を教えろって……それにさりげなく大胆なこと言ったぞ」  
「それって?」  
「まぁ今日の用事ぐらいお前のためなら後送りにできるし、その気ならこっちに来いよ」  
頭をかきながら目を合わせずにトニが続けた。  
意外にも照れている様子の彼。  
「その気?」  
「お、お前がそ、その、え、エッチしたいって言ったんじゃねぇか」  
途端に顔を真っ赤にして怒鳴りつける。  
言葉使いこそ普段の彼なのだがその仕草が明らかに違っていた。  
ずっと立ち止まったているクロエに歩み寄るトニ。  
「もしかして全部利いてる? 先生ってツンデレ?」  
ようやくクロエは今の現状を把握した。  
最初から彼女の願いは聞き届けられていたのだ。  
それに対し素直になれないトニだったが、彼は用事を再開したのではなく  
彼女のためにその願いを叶える支度をしていたのだった。  
分かりやすい参考書を選び、それに目を走らせていたのだ。  
「知るかよ! 俺は俺だっつーの!」  
クロエの両肩をがっしりとトニの手が掴む。  
 
「ちょっと、やめて……」  
振り払おうにも非力なクロエでは敵わぬ事だった。  
「今更ストップなんかできねーっての」  
「もしかしてピンチ?」  
冷静に現状を伝えるにも内心は戸惑いを隠せない。  
トニの顔が、唇が間近に迫ってくる。  
「お前が望んだことだろ?」  
「うん、けどちょっと違う……」  
「あきらめろ、俺もその気になっちまった」  
それ以上クロエから拒絶の言葉は出なかった。  
なぜならその口をトニが塞いでしまったからだ。  
見かけによらず彼の口付けは優しかった。年齢からしてそれは経験で培ったものなのだろう。  
ゆっくりと離れる唇……クロエは俯きながら言葉を紡いだ。  
「学校中の噂になるかも?」  
「そうなりゃそうなったときだ」  
トニは彼女を抱きかかえ、部屋の奥へと戻ろうとする。  
クロエもそれには抵抗しなかった。  
「先生クビになるかも?」  
彼女が行ったのは言葉での脅迫。  
「覚悟は出来てる」  
しかしトニにはまったく効果が無い。  
彼女のおまじないの効果が強いのかトニの意志が強いのかは分からないが、彼が脅しにくじける様子は無い。  
「私も覚悟しないとダメ?」  
「ダメ、だな」  
彼の部屋の奥には仮眠用の簡素な寝床があった。  
クロエはその上に降ろされる。  
大人一人が寝るのでやっとといった広さ。  
クロエとトニが寝るのには窮屈この上ないだろう。  
「分かった……でも犯罪よ、これ」  
クロエの上に覆いかぶさるトニ。  
彼女はこの状況になっても平然と焦る様子を見せない。  
「覚悟は出来てると言ったろ」  
トニの手がクロエの髪を梳き、瞳を見つめる。  
「分かった、何も言わない……けど、私初めて……」  
「だろうな、そんな感じがする」  
 
そして二度目の口付け。  
一度目より長い、恋人同士が愛情を確認するために交わすキス。  
「分かったなら優しくしてね」  
「こう見えても女には優しいつもりだ」  
「見かけによらないのね」  
ああ言えばこう言うとクロエの口数は減らない。  
さすがのトニも舌打ちをし、彼女に文句を垂れる。  
「うるせー! ちっとは黙ってろ」  
「優しくないし……しゃべっておかないと胸が破裂しそう」  
「ならしゃべってろ……俺も歯の浮いた台詞なんて言えないしな」  
そういってトニは彼女の体をまさぐり始める。  
細心の注意を払いながら彼女を傷つけないように……  
「トニ先生がそんな言葉を言ったら似合わない……」  
「うるせーな! 眼鏡はずすぞ?」  
「嫌……目が悪いし、眼鏡が無いと先生の顔も見えないから」  
「分かったよ」  
彼女の素顔を見てみたいと思ったのだが、トニは拒絶する言葉に素直に従う。  
きっと先生はみかけでかなりの損をしているとクロエは思った。  
「やっぱりトニ先生ってツンデレ?」  
もしかすると恋人に対してだけ優しいのかもと詮索する。  
「知るか! 勝手に分析してろ」  
彼女のマフラーを取り、服のボタンを一つ一つはずしていく。  
どうも彼の動きはぎこちない、おそらく生徒の服を脱がすことに慣れていないのだろう。  
発育の悪い胸にやせ細った体、日に焼けていない肌とまるで病弱な女の子だ。  
もっと栄養をつけろよ、とトニは言いかけた言葉を飲み込む。  
彼女が緊張のあまり言葉を失ってしまったから……不安を増幅させないためにも口にしないことを選んだ。  
下着は大人の女性のような飾り気は無いものの年齢にふさわしくない色、漆黒のものだった。  
彼女の趣味は分からない、昨日出会ったばかりの二人には無理な話だろう。  
白い肌に映える黒い下着をはずし、微かに膨らむ双丘に口付けをする。  
「ぁん……くすぐったい……」  
「それが時期に気持ちいいに変わるんだ、分かるだろ?」  
双丘の片方に口付けしながらもう片方を手で揉み解す。  
「分かんない……あぁ……ん、はぁ……」  
口ではそう言う者の顔が火照り、吐く息に色気が混じる。  
「……言ってろ……まったく世話がかかる奴だ」  
 
いつもの癖で毒付いてしまった。  
「奴じゃないよ、クロエだもん」  
もちろん彼の言葉にクロエが反応しないはずがない。  
どこと無く彼女の性格に自分と似た雰囲気を感じる。  
純粋な心を持つがゆえに素直になれないトニ自身と……  
「クロエな……本気で好きになっちまってもしらねーぞ?」  
「あれ? 先生は今から好きでもない相手とエッチするの?」  
それまでトニのなすがままに応じていたクロエが上体を起こす。  
「そ、そりゃーお前がしてくれって」  
「お前じゃないよ、ク・ロ・エ」  
「その、クロエがしてくれって言ったから」  
クロエの眼鏡が怪しく光った。  
彼女の奥の瞳には静かな怒気が感じられる。  
無言の圧力、幼い少女の圧力にトニは思わず怯んでしまう。  
「私のこと好きじゃないんだ? じゃあ今すぐここで大声だしちゃうかも……」  
ぼそりと呟き落とす。  
先程までの脅迫は段違いでトニは背筋が寒気が走った。  
「ちょ、ちょっとまて! 分かった、その好きだ。愛してる」  
「嘘臭いし、感情が篭ってない……」  
交渉失敗。  
「そ、そのお前のことが……す、好きだ」  
しかしめげずにトニは早口で答える。  
「お前じゃないの、ク・ロ・エ」  
すかさずクロエの鋭い指摘が飛ぶ。  
だが、彼女の瞳の怒気は薄れていた。口元が綻びうっすらと笑みを浮かべているようにさえ思える。  
「その、なんだ……クロエ、愛してる……」  
「よろしい……なんかまだ嘘臭いけど……」  
半ば強制的な愛の告白を受け、クロエは自ら仰向けに寝転んだ。  
とんでもない相手に手を出してしまったと後悔したものの  
今更後には引けない状況にトニは再び彼女の体を慈しみ始めた。  
女らしくないといってもやはりクロエも女の子だった。  
トニの愛撫に反応し、悶え、喘ぐ。  
ブラとおそろいの漆黒のショーツ、ワンポイントと中央に小さなリボンがあしらわれている。  
それを男はすらりと長く伸びた足から抜き取った。  
申し訳程度に生えたアンダーヘアーが揺れる。  
 
トニは彼女の秘部に口付け、そこを舌で舐める。  
「んぁ……そこ……汚い……」  
喘ぎ混じりに呟くクロエ。  
「意外に、美味いぜ?」  
「変態……ぁあ……」  
皮肉るトニに冷たく言い返すクロエ。  
だがそんな彼女も彼の愛撫の前に艶を帯びた吐息を吐き出す。  
ゆっくりと彼女の体が準備できるまで時間をかけて慈しむトニ。  
「へ、へんな感じ……」  
「気分が悪いか?」  
「ううん、分からない……けど……」  
あいまいな返事の上に語尾をぼかす。  
彼女の頬が紅潮しほのかに染まっていた。  
「けど? なんだ?」  
「怖い……」  
震える瞳。  
表情こそ変わらないものの彼女は言葉通り、これから起こることに少しなりとも不安を抱いているのだろう。  
「大丈夫だ、俺が居る」  
顔を見つめながらトニが答える。  
少しでもその不安を拭い取るように……  
「先生だから怖い……」  
「あのなぁ……たまには素直に」  
「素直になるのが怖い……」  
矢継ぎ早にトニの言葉にクロエが返す。  
彼女が饒舌なのは最初に言っていたとおり黙っていることが我慢出来ないからだろう。  
トニはそんな彼女の気持ちを分かったつもりでいた。  
「そうか、素直にならないなら俺も遠慮なくいくぞ?」  
彼女の秘部に情欲で太った幹を押し付けた。  
「先生卑怯……」  
「言ってろ……どうだ?」  
先細った先端が彼女の中に埋め込まれていく。  
穢れを知らない乙女は容易に彼を迎え入れてはくれない。  
「痛い……」  
顔にださず苦痛を訴えるクロエ。  
「最初は仕方ない、少しは我慢しろよ」  
 
「我慢してる……けど痛い……」  
二度目は違っていた。普段あまり表情を変えないクロエが苦悶の色を浮かべ訴える。  
彼女の大きな瞳の端から溢れた涙が伝い落ちた。  
痛々しい姿に胸を締め付けられる思いでトニは彼女の中を突き進む。  
「っく!全部入ったぞ。まだ痛いか?」  
たとえ全てが入ったからといって痛みが和らぐわけが無い。  
未だに彼女は目を瞑ったまま苦痛に顔を歪めている。  
「……うん、痛い……けど……」  
「けど? なんだ?」  
クロエはゆっくりと目を開くと意外な言葉を口にした。  
「幸せ……」  
「本当か?本当に俺でよかったのか?」  
至幸の笑みにトニの心が痛んだ。  
成り行きとは言え何も知らない彼女の貞節を奪ってしまったこと……  
「嘘…………の嘘の嘘の嘘……」  
「どっちだよ!」  
思い悩む隙を与えずクロエが呟く。  
トニが彼女の思考など理解できるはずがないのだ。  
長年連れ添ったウルリカでさえ彼女の本質などまったく見抜いていないのだから。  
「分からない……ただなんとなく幸せ」  
「そ、それでいいんだよ」  
彼女が部屋に来た時からそうだったように、今だにまともな会話の成立が難しい。  
ただ確実なのは今の二人における状況。  
入学して間もない彼女と性関係を持ってしまったという事実。  
彼女の気持ちが落ち着き、トニはようやく腰を動かし始める。  
「痛い! 痛い先生! 痛いよぉ!」  
途端にわめき散らすクロエ。  
いや、冗談ではなく本気で痛みを訴えていた。  
「誰もが通る大人の階段だ! 少しは我慢してくれ!」  
今度はトニも彼女の要望を聞き入れる様子が無かった。  
ゆっくりとだが前後運動を続け、快楽を貪りつくす。  
切り傷をタワシで擦られたような、痛みだけで言えばその比ではない段階。  
トニの腰が動くたび極上の苦痛がクロエを苛む。  
「我慢してるけど痛いぃ! 先生の嘘つき! 優しくない!」  
涙混じりに訴えているもののトニは自身の快楽を制御できなかった。  
 
快楽の波が広がるにつれ、より強い快楽を求め彼のピッチは上がっていく。  
「んなこと言ってもよぉ! お前ん中が気持ち良過ぎて!」  
「お、お前じゃな……」  
加速度を増すトニの動きに、クロエはいつものように言い返すことなどできなかった。  
歯を食いしばらなければ悲鳴を上げてしまいそうになるからだ。  
それにも構わずト二は自身の終着点を目指しひた駆ける。  
彼はクロエの腰を掴み前後運動を早めた。  
「クロエ! いくぞ! これで最後だ!」  
「あああぁぁぁあ!」  
掛け声一発、彼は彼女の中から己自身を引き抜くと同時に射精していた。  
熱い精液が無垢な乙女を汚す。  
「すまんな、途中から歯止めが利かなくなった……」  
荒々しい息使いで彼は詫びの言葉を落とした。  
涙に塗れた顔を背けクロエは独り言のように呟く。  
「先生の嘘吐き……死ぬほど痛かった……」  
トニが言い返す言葉など無い。  
彼は自分が言った約束など何一つ守れなかったのだから……  
「仕方ないだろ? 女の体ってのはそういうもんだから」  
自分の責任を転嫁するトニ。  
たとえ彼が正論を解いたところで優位に立てるものではない。  
「優しくするって言ったのに……いつかお返しする……」  
未だにトニを見ようとしないクロエ。  
ウルリカが見れば彼女が相当ご立腹状態なのが分かっただろう。  
「お返しって……変なこと企んでるんじゃないだろうな?」  
トニはベッドの縁に腰掛け、背中越しに彼女と会話を続けた。  
本来なら添い寝をして少しでも機嫌を取るべきだろうがこの狭いベッドではそれすら叶わない。  
そんな彼の背中に抱きついてきたクロエ。  
トニの物差しで計りきれない彼女の行動。  
「ううん、大丈夫。新しいおまじないを試すだけだから……ふふふ……」  
不適な笑い声に背筋が一瞬凍りつくものの、おまじないという言葉にトニは乙女チックな悪戯を想像した。  
「そうか、なら許す」  
「うん、じゃあ私も許してあげる……ふふふ……」  
彼女のおまじないを甘く考えていたトニ。  
彼はクロエが卒業までの一年間、世にも恐ろしい体験をたくさん経験することとなる。  
 
 
 
「なぁ、お前……本気で錬金術を勉強しないか?」  
トニは部屋を出ようとするクロエの背中に問いかける。  
「ク・ロ・エ」  
即座に言い返すクロエ。  
名前を呼ばない限りは振り向くことはおろか、話も聞いてくれないだろう。  
元々トニも頑固なほうではない。自身のいい間違いを訂正すると共に用件を述べる。  
「……クロエは錬金術に本気で習得するつもりはないか?」  
「ないよ……おまじないのほうが楽しいもの」  
彼女はウルリカによって、強引にこの学園に付き合わされ入学したに過ぎない。  
錬金術に興味などまったく無いに等しい。  
「ったく……どいつもこいつも」  
トニは先日の胸糞悪い理事長室でのやり取りを思いだす。  
錬金術科の廃止、そしてマルータの悪質なやり方……  
彼一人が逆立ちしたところでなにも変わりはしないが、せめて一石でも投じたいと思っていた。  
彼女に情がわいた以上一人前の錬金術士になって欲しいと願うのは甘い考えだったのだろうか?  
「でもトニ先生がどうしてもって言うなら少しは考えてみる……」  
その言葉でわずかだがトニの顔がほころんだ。  
「可愛くねぇ奴だなぁ」  
やはりこの二人には馴れ合いではなく皮肉を込めた言い合いが似合っている。  
「奴じゃないよ、クロエだもん」  
しかし、そう答えたクロエの顔は言葉とは裏腹に満面の笑みを浮かべていた。  
 
□END□  
 

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