昼には昼の、夜にはまた夜の鳥が活動を始める。
闇夜に目を光らせ、低音の鳴き声を活気を失った工房通りに響かせる。
ガチャ……
ノックも無く静かに入り口の扉は開かれた。
そこにたっていたのは工房の主、イリス=フォルトナー。
「イリス!」
部屋の中で帰りを待っていた男は名前を呼ぶと同時に彼女に駆け寄っていた。
「……」
イリスは頭を垂れ、血色を失った顔色に重く沈んだ表情で視線だけを動かしエッジの姿を捉えた。
心がこもっていない器、ガラス球のような瞳がエッジの心を抉る。
「どうした!また何かあったのか!?」
エッジは言葉の選択を誤ってしまった。
『また』、その言葉は彼女の思い出したくない過去を含んでしまっていた。
イリスの顔から陰りは消えない。
「ううん、ちょっとエアに呼ばれただけだから……」
「……そうか」
これ以上の詮索は無用とイリスの態度が物語っていた。
エアと言えばイリスの親友だとエッジは知っている。
何度か直接会ったことはあるが彼女に対してあまり良い印象を抱いていない。
エッジとて人のことをいえたものではないがエアは彼に匹敵するほど無愛想で人見知りが激しい。
ただイリスと二人で話しているときはそんな冷淡な彼女も笑顔を垣間見せることがあった。
それにしてもイリスの落胆ぶりは尋常じゃない。
エアに何かを吹き込まれたのか、それとも……
エッジは答えの無い問答を一人繰り返していたのだった。
彼らがミストルースになって順調だった日は短く、イリスにとっては不幸が続いていた。
それには少なからずエッジが無関係とは言い切れない。
自分にもっと力があれば、もっともっと力があれば彼女を護れていただろう。
ベッドで寝付けないエッジは悶々とした想いで窓から見える夜空を眺めていた。
隣のベッドではイリスが静かな寝息を立てている。
昨晩のように彼女の体を求めたくもあったが、帰宅してからのイリスはまるで生気を持たない人形のようだった。
今にも砕け散りそうなイリス、そんな彼女を自ら壊すようなことはできなかった。
数日前までは彼女を欲望の対象としてみたことなど一度も無かった。
もちろん好意こそあったが、今の自分の思いとはまったく異なるものだと理解できる。
しかし今の彼の目にイリスは欲望の捌け口とも映ってしまう。
断じてならなかった、過ちは一度で良い、二度起こしてはいけないのだ……
好まざる雑念に苛まれながら男は長い夜を明かした。
その戦果を示すように彼の瞳の下にはくっきりとその痕が残っていた。
翌日、エッジは尚も家に篭ろうとするイリスを連れてギルドに足を運んだ。
弱いがゆえに戦いに敗れる、戦いに敗れるがゆえに強くなれない。
葛藤が葛藤を生み、ただ足踏みを繰り返す。それではいけないのだ。
エッジは掲示板を見ながらランク相応のクエストを探していた。
その間イリスはというと受付のアナと他愛の無い話を繰り広げていた。
無理に作ろうとしている笑顔がいじらしかった。
「ちょっと、変な毒気を撒き散らさないでくれる?」
下から聞こえた声にエッジは視線を落とした。
背丈は彼の腰より高いぐらいの金髪をツインテールに結んだ少女。
口の悪さは一品ながら彼女に八つ当たりされる要因が分からなかった。
「なんだ?」
「あんたの連れでしょ、アナと話をしてるのは」
エッジに話しかけてきたのはいつにもまして不機嫌な少女フェニル。
「まったく、自分ひとりが世界の不幸を全部背負い込んじゃったみたいなオーラだされてこっちも迷惑するわ」
「なっ!?」
「どうでもいいけど、これ。本当はあたしの担当じゃないけど、このクエストでもやって頂戴」
フェニルは手に持った依頼書を無理やりエッジに押し付けると彼に背を向けた。
突拍子も無い行動に終始目を丸くして驚くエッジ。
彼女はそんな男にかまわず、そのままギルドの奥へと肩を怒らせながら去っていった。
途中、物ではなく人に当たる様から彼女の機嫌の悪さを伺え知れる。
フェニルにもらった依頼書は依頼人がフュナンとなっていた。
この人物は毎日のようにゼ・メールズの最南端にて釣りを嗜んでいる男だ。
もちろんエッジ達も知らない仲ではない。
さっそく依頼内容に目を走らせるがそこには何もかかれていなかった。
宅配依頼なら物を持っていくこともできるが、この状態では直接本人に会って確かめなければ内容は分からない。
「おい、イリス」
カウンターで話し込むイリスに声をかけ、終わりが見えない座談会を中断させる。
「なに? エッジ。良いクエストが見つかったの?」
「あ、あぁ……これだ」
先ほどフェニルから受け取った依頼書をイリスに手渡す。
今まで彼女の話し相手を勤めたアナストラは別段関前の用事が無いようで、エッジ達の様子を伺っていた。
「とにかく、やつのところへ行ってみよう。話はそれからだな」
「そうね」
思ったとおり色よい返事を返さないイリスを半ば強引につれてエッジはギルドを後にする。
「残念だけどエッジさんには違う仕事を頑張ってもらわないといけないんですよね……」
アナストラは爪を噛み、去り行く二人の背中に送った。
二人は妖タクを利用して依頼人フュナンの元へと向かった。
案の上、彼はいつもの場所で何一つ変わらぬ風貌で釣りを営んでいた。
むしろこの人物の場合変化があるほうがおかしいのだ。
「フュナンさん、ちょっといいですか?」
目深に麦藁帽子をかぶったフュナンに問いかけるイリス。
ギルドでもそうだったが人と触れ合うことで彼女は少しずつ元気を取り戻しているのがエッジには実感できた。
「なにか?」
フュナンは川に釣り糸を垂らしながら体を向きかえることなく声で応える。
見つめているのは平穏な波一つ無い水面。二人は彼が活発に魚を釣り上げる場面を見たことが無い。
「フェニルに言われてきたんだが…クエストの内容を教えてくれないか」
エッジはフュナンの隣に足を運ぶと、筒状に丸めた依頼書を手渡した
くるくると巻物を広げるようにフュナンはそれに目を通す。
とは言うものの依頼者以外には何一つ書かれていない、白紙のようなものだ。
「そうか……で、何を占って欲しいんだい?」
突拍子も無い言葉に泡を食うエッジとイリス。
「どういうことだ?」
クエストを受けに来たはずがそれがどうころんで占いという単語が出てくるのか理解できないかった。
その二人を見てフュナンは目を細める。
「何も聞かされてなかったのかい?僕はこう見えても良く当たる占い師ってことで一部では有名なんだけど…」
「……初耳だ」
言葉を失っているイリスに代行し彼が交渉役を買って出る。
もしフェニルにこのことを聞いていたなら足を運んでいなかっただろう。
エッジは占いや神頼みといった抽象的なものを嫌っていた。
彼に言わせれば占いなど偶然が重なってできた産物にしか過ぎないのだ。
「初めてのお客には代金はいただかない主義だが……何を占えばいいのかな?」
「……くだらん。邪魔したな」
話を進めようとするフュナンを制し、エッジは踵を返した。
これ以上この場にとどまったところで時間を浪費するだけなのだから……
「エッジ、ちょっとまって!」
歩き始めたエッジにイリスが叫ぶ。
知らなかったわけではないがイリスはエッジとは違い神頼みを信じる気があった。
それ故か異世界で思いがけない出来事に巻き込まれることも多々あった。
「未来を……私達の未来を占って」
彼女の気迫は藁にもすがる溺れる者のようだった。
そんなイリスにあっけにとられるエッジ。
「イリス……」
「また、唐突な……あまりにも具体的過ぎてどんな結果が出るか分からない……」
彼の言うとおりイリスの願いは漠然としすぎて占う対象に値しない。
せめて彼女の言う未来が特定されなければ、すべてにおいて抽象的な答えしか出せないだろう。
イリスは思案する。
彼女は今のような過酷な現実が続くようならミストルースを辞めることさえ考えていたのだ。
「このままミストルースを続けて良いかどうかを…」とイリスは喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
背後にエッジが居たから…結果次第では彼の居場所を無くすことになりかねない。
なら…
「じゃあ……どうしたら強くなれるか教えて」
「………」
「それは君達の努力次第だと思うんだけど……占いとしては先ほどよりよっぽど現実的だね」
エッジは皮肉的な言い方に耳障りを感じたもののフュナンがそういう性格でないことは分かっていた。
悪びれる様子もないことからも彼の性格がうかがい知れる。
麦藁帽子から覗かせるフュナンの瞳をイリスは真剣そのもので見つめていた。
「わかった、ただあくまで占いだということを忘れないで欲しい」
「まったく、よく当たる占いとは齟齬な言葉だな」
今度はエッジが返す。
得体の知れないものにすがろうとするイリスに不満を、そしてそれをさせてしまった自分に苛立ちを覚えていた。
その対象であるフュナンに彼がせめてもの抵抗を示した言葉だった。
「……」
「エッジ、失礼よ」
だが、結果としてエッジの行為はイリスに反感を抱かせるだけにとどまった。
「まぁ、そういわれても仕方ない売り文句ですしね、では占いを始めましょう」
「…………」
自分の居場所を無くしたエッジは占いの結果を待たずしてその場から姿を消していた。
とはいってもイリスを自分の視界内に留めておくことだけは忘れはしなかった。
フュナンと会った後、二人は再びギルドに足を運びランクに応じたクエストを受諾していた。
その帰り道、普段なら妖タクを使うはずだったがエブリに立ち寄る用事があったため徒歩で帰路につくことにした。
普段は子供達や老人達で賑わっている噴水広場も黄昏時が終わろうとする時間帯にはその姿が見ることができない。
しかし今日は違っていた。
顔の知れた面々ではなくベンチに座って大声で泣きじゃくる少女が居た。
彼らにとって見覚えのある容姿……赤いマントに腰まで伸びる長い髪、大きなリボンが特徴的な少女、少女の名前はネル。
以前異世界で彼らに戦闘を仕掛けてきた姉妹の片割れなのだ。
「エッジ……」
エッジの背中に隠れながらイリスは小声で言った。
係わりあいたくないのはエッジも同意だった。
「声、掛けてあげて」
イリスの意外な言葉にエッジは驚いた。
彼らはこの姉妹と戦い、敗れているのだ。
エッジが意識を失っている間にこの姉妹がイリスの身になんらかの制裁を加えたことを
直接目にしていなかったがその後の惨状から予想に容易かった。
「イリス……」
「いいの、お願い……」
しぶしぶ納得しエッジは泣きじゃくるネルの前に足を運んだ。
「おい、どうした?」
エッジの視線は彼女の姿から目をそらしている。
「うわわわわーん」
彼の問いかけが更なる引き金となりネルはより一層大声で泣き始めてしまう。
「泣いてちゃ分からないわよ? 大丈夫? なにかあったの?」
まだ体の半分エッジの背中に隠したまま、優しく諭すような口調でイリスが問いかける。
「うぅーヒック、ヒック……」
イリスの説得が効いたのか、ネルは鼻をすすりあげ、泣き止もうと努力しているようだった。
「行こうぜイリス、厄介ごとはごめんだ。それにこいつ……」
「うん、分かってる。でも……」
エッジは一刻も早くここから立ち去ろうとする。
「お姉ちゃんに捨てられて……」
「そうなんだ……エッジ、この子を工房に連れて帰っちゃダメかな?」
「な!? バカげたことを!」
エッジはイリスの唐突な言葉に驚いた。
確かにミストルース同士が商売敵だという話はそれほど耳にしない。
しかし自分達にとって明らかにこのネルという少女は敵なのだ。
昨日の敵は今日の友などと生易しい待遇にありつける身分ではないだろう。
「フュナンさんが言ってたの。私達に力になってくれる少女が現れるって……この娘のことじゃないかなって…」
「悪いが俺は面倒ごとはごめんだ。それに俺は占いを信じていない」
それもあったがエッジにとっては彼女の口から他の男の名前が出たことに嫌悪感を感じた。
嫉妬?……いや何もできない自分に苛立っているのだと自身を言い聞かす。
「エッジ……」
イリスが二、三歩後ずさった。
エッジの体からイリスの手が離れたことが実感できる。
「……お前の気持ちはわかった。後はお前に任せる」
曖昧な言葉ながらもエッジは自分が折れたことを伝える。
これ以上彼女との溝を深めないために……
「あ、ありがとう……エッジ」
よほど嬉しかったのか彼女の表情が途端に明るくなる。
イリスはネルに彼女の面倒を見てあげることを伝えていた。
そのやり取りをエッジは後ろで見守りながら、ネルに一言だけ忠告をした。
突然始まった三人の生活に一抹の不安と期待を隣り合わせに、男は今の自分がイリスとって影響力を及ぼさないことをひどく痛感していた。
三人で囲む食卓はネルが居ることもあって普段より明るく楽しいものになった。
育ち盛りという言葉がぴったりあてはまるネルの食事の量はエッジに勝るほどのものがあり
急遽エブリへと買い足しに走ろうとするイリスをネルがなだめると言う変わった光景も見れた。
やがて夜も深まり、寝床を失ったエッジは階下で一人蝋燭の灯を眺めていた。
背中越しに人が近づいてくるのを察知する。
わざわざ振り向かなくともその人物が誰なのか分かっていた。
「エッジ、眠れないの?」
声のトーンを落としてイリスが問いかける。
「あ、ああ……。あいつは?」
エッジはあえてネルの名を呼ばずに問いかけた。
「ネルちゃんはもうぐっすり眠ったみたい、まだまだ子供だもんね」
というイリスとてまだ成人したわけではない。
ただこの年で四歳という差は大きなものだ。
「そうか……」
イリスにはエッジの声が低く沈んでいるように聞こえた。
彼自身意図的に発したのではないが、少なくとも彼女の耳には普段の声色と違うことが分かった。
「ごめんね、せっかく……その……」
「なんだ?」
言葉を濁すイリス。
それに対し言葉の続きを要求するエッジ。
「もうちょっと私も気が利けばよかったんだけど……」
「なんのことだ?」
彼女の奥歯に物が挟まったような物言いに男は苛立ちさえ覚えてしまう。
向き直りこそしないものの言葉の端に不快な感情を込めていた。
「ネルちゃんがいたらこういうこと、できないから……」
そっとエッジに後ろから腕を回し抱きつくイリス。
柔らかい二つのふくらみが背中に押し当てられる。
「イリス……」
「いつも…いつも、ごめんね。エッジ」
「謝られる筋合いは無いはずだが?」
「ううん、私……いつもエッジには感謝してる」
エッジが首を捻ればすぐそこにイリスの顔があった。
「……」
自然とそうなるのが当たり前のように二人の唇が重なる。
荒々しいエッジの口付け。
彼女の離れかけた心を取り戻すように……彼女を自分のものとその体に刻むように……
「……ふぁ……ぁ……」
重なった唇のわずかな隙間からイリスの吐息が漏れる。
ユアンにほだされたときのような甘い口付け、それはそれで彼女の心を癒すものの、このような激しい愛情の確認も嫌いではなかった。
下着に薄いブーケを着ただけの格好。
それは変化を始める彼女の体を隠すには不十分だった。
エッジの口付けはやがてイリスの顎へすべり、そのまま首筋から鎖骨へと流れ落ちていく。
「だ、だめ……これ以上は……ネルちゃんが起きちゃ……」
「声を我慢しろ」
彼はブーケの下に手を差し入れ、一気にそれを剥ぎ取ってしまった。
男の愛撫の前には胸を隠す下着とてなんの防壁にもならない。
胸をはだけ、男の口は敏感な部分を集中的に責めはじめる。
それだけでイリスは立っているのがやっとの状態になってしまうのだった。
「……あ、あぁ……ん……あっ、だめ、声が……でちゃぅ」
「……」
イリスは腰を落としているエッジの肩に手を置き、体を預けていた。
イリスは気を抜いてしまえば床の上に倒れてしまうだろう。
「だ、ダメ……エッジもう、これ以上は……」
荒々しい熱い吐息を交えながら訴える。彼女の白い透き通るような肌が今は顔と同じように赤らみを帯びていた。
エッジはイリスの大事なところを覆う下着をずらし指でスリットをなぞった。
蜂蜜が入ったつぼに指を入れたようにねっとりと粘着質の体液がたっぷりとその指に付着する。
「……しかし体はダメとは言っていない……が?」
エッジはその指をイリスに見せ付けた。
恥ずかしそうに視線をそらすもののその指はイリスの口元にあてがわれる。
彼の意図する意味は分かっていたが、彼女は自分のモノを口にすることに抵抗を感じていた。
イリスは恐る恐る口を開き彼の指を咥えてしゃぶった。
嫌悪感と同時に独特の味覚が口に広がっていく。
エッジは手早くズボンと下着を脱ぎ捨て、股間にそびえる欲望の塊を現した。
「イ、リス……」
「……」
エッジは彼女の名前を呼ぶ。
二人にとって行為中に余計な言葉は邪魔になるだけだった。
イリスも次に自分が何をすべきかは分かっていた。
男の前に跪き、そそり立つソレに手を添える。
まだ何も手を下していないにもかかわらず、それははちきれんばかりに硬く、熱く、己を主張している。
イリスはそれを銜え込もうと口を開いた。
知らず知らずに溜まった唾液が口腔内に溢れ、エッジのものにねっとりと絡みついていく。
以前にも感じたが小さな口に彼のものは大きすぎるのだった。
それでも頬をすぼめ、無理をして喉の奥へとそれを招き入れる。
喉を突かれることで嘔吐感、それに苦しみが生じて目の端から涙が零れる。
この前と同じことをしていたもののイリスの心情は違っていた。
最愛の人のため、自らそれを受け入れる覚悟ができていた事……
「もういい……」
そんなイリスの姿を見てエッジは自ら腰を引いた。
たとえ自分が快楽を得ようとも相手に苦しみを抱かせることに、胸が締め付けられるのだ。
「エッジ……」
だがイリスにとって短時間で終わった奉仕は彼女に混乱を招かせる結果になった。
男が何も反応を示さず早々に辞めさせるということは自分の技量が無かったのだと……
エッジは想いに耽るイリスを立ち上がらせ、ぎゅっと抱きしめた。
彼女に気が付かれないうちに裸になったエッジ。
鍛え抜かれた体はとても肌に心地が良かった。
「イリス…愛している」
耳元で愛の言葉を囁き落とし、安心を与える。
「……私も」
女もそう応える。
抱き合った二人の体に窮屈に挟まれた怒張がビクンと大きく脈を打った。
「イリス」
「う……ん」
抱き合った体勢のままエッジは彼女の左腿を右脇に抱え、秘裂に怒張をあてがう。
身長差をカバーするためにイリスはつま先だち、エッジの首に腕を巻きつけて体を預けた。
ずぷぷ……
怒張の先端が秘裂に飲み込まれる。
「あぁ……はぁ……」
ゆっくりとそれはイリスの中に埋没していく……いや正確には彼女の体がエッジに突き上げられていた。
深く貫けば貫くほどイリスは不安定な姿勢で彼を迎え入れる。
もはやつま先が床から離れようとしたところで浮かび上がる右足もエッジが脇に抱えた。
「ひゃぁ!」
イリスは必死に首に絡めた腕でエッジにしがみつく。
今自分がどういう体勢なのか分からなかった。
今までしたどんな体位より不安定だが密着性が強く、突き上げられるたびに宙に浮く摩訶不思議な感覚を味わった。
さらに沈むときには否が応でもエッジの怒張が最奥をなぶり子宮孔を突き上げる。
体の中から搾り出される甘美の喘ぎ……ネルのことを思いイリスは必死に口に出すことを堪えていた。
『声を聞きたい』
空耳だろうが彼女の脳裏に優しい声がよぎる。
「わ、わたし……あぁあん! だめ、だめぇ……おかしく……なっちゃうぅ!」
開放を促された台詞にイリスは我を忘れて声を上げてしまった。
エッジの荒い息遣いが彼女の耳たぶをかすめていく。
「んはぁっ……あ、あぁ……はぁあぁん! ……いぃ……いいの……エッジ!」
ゆさゆさと揺らされながらもイリスの口からは喘ぎが紡ぎだされていく。
最初はこの体勢に不安を感じたもののエッジの太い腕に抱きかかえられ、より深い繋がりに身が蕩けそうになっていた。
それはすなわち彼女が頂に向かって昇りはじめたことを意味していた。
「あぁ…はぁっ……も、もっと……もっとぉ……はぁぁあん!」
イリスは快楽に溺れながらもエッジのピッチが上がったことを悟った。
それは男が絶頂に近い合図でもあることを知っている。
「くっ……イ、リス……ぐっ……イクぞっ!」
エッジの汗だくになった顔が歪み、歯を食いしばる。
イリスを抱きしめ、渾身の力を込めて腰を突き上げた。
ドクン、ドクン!
爆発寸前まで堪えた白濁液はタガが外れた途端にイリスの中へと勢いよく吐き出された。
同時にイリスは目の前に光溢れる世界が覗き見える。
「あぁ……あああぁぁ─────!」
届く、手を伸ばせば届く頂。
悔しくもエッジが下ろした幕がその世界を閉ざしてしまった。
絶頂の寸前で彼女は達することなくボルテージが下がり始めたのを感じていた。
「あ……あぁ……」
イリスが零す感嘆の声。
しかし男にはその声が甘美に触れた喘ぎにしか聞こえなかった。
二人はつながったまま熱烈な口づけを交わす。
イリスの中から溢れた白濁液が収まりを見せ始めた怒張を伝い、床の上へと滴り落ちていった。
想像以上に体力を消費したエッジは続いてイリスを求めはしなかった。
しばらく愛を囁きあった二人は夜が更ける前にネルが待っている二階に上がった。
ベッドに入るなり寝息を響かせ眠りの世界に落ちるエッジ。
対照的にいまだにほてりが収まらないイリスは一人悶々とした気分の中、朝までネルの寝言に苛まれていた。
□続く□