空青く雲ひとつもない天気のなかアルレビス学園戦闘学科の  
ロゼは一人退屈そうに歩いていた。  
「はあ……しっかし、お嬢様は。いきなり暇をもらっても  
予定も何もあったもんじゃないんだが」  
 時間は少し前に戻る。  
 
 
今日もロゼ慌ただしくもそれなりに楽しさがあるアトリエへ向かおうとした。  
 しかし、アトリエに入ろうとしたとき突然お嬢様ことリリアに止められた。  
 リリアはまるで中の様子を見られぬようロゼ遮り、慌てて言いはなった。  
「ろっ、ロゼ!!……あっ貴方は今日アトリエに入るのは禁ずるわ。理由? いっ、いいから早く立ち去りなさい!!」  
その時アトリエの中から知り合いのマナが『男を落とすコツ? そう、それは着てる服のギャップ!!  
スク水、和服、大いにアリだ!!』などと言った声が聞こえてきたので、ロゼは知らぬが仏とばかりに速やかに立ち去った。  
 
そして現状に至る。  
「しかし退屈とはいえ、何にも巻き込まれない休日は  
久しぶりだな」  
そう言った矢先、廊下の曲がり角で横から凄まじい速さで人がぶつかってきた。  
 
「のわぁ!!」  
「キャア!!」  
「大丈夫か!?……って、お前か」  
曲がり角でぶつかってきたのは、錬金術科の生徒でリリアとは喧嘩友達?  
であるウルリカだった。ロゼもウルリカもある事件に巻き込まれ仲が険悪だったが今は和解して  
普通の知り合い程度の仲になった。  
「あっ、あんたは!! ……って今はそれどころじゃない」  
ウルリカはまた走り出そうとしたとき、  
「どうしたんだそんなに慌てて?……まさかあのマナに何かあったのか?」  
ロゼは真剣な声で尋ねた。  
だが、ウルリカは息を整わせて、  
 「うりゅのこと? 違うわよ。今回はうりゅは何もしてないし  
何もされてないわ。……って急がないと!!」  
ウルリカは思い出したように立ち去ろうとした。  
しかし、その行動をロゼは止め、再び尋ねた。  
「だからどうしたんだ、おまえ?」  
「…………卒業課題」  
「は?」  
「だから卒業課題が終わってないのよ!! 最近ごたついてたからすっかり忘れてて。  
……ってアンタも平気なの? 私たちと同じくらいごたついてたけど」  
とウルリカは吠えるように言いはなち、思い出したように尋ねた。  
 
 「ああ、ウチはお嬢様がもう終わらせたからな。あの人は溜め込むのは  
好きじゃないし」  
そうロゼは語っていたが、本当は『卒業課題を早く作ってロゼとの時間を  
作ろう作戦』があったのは知るわけがない。  
「へぇ、てことはアンタ暇?」  
ウルリカはロゼを見定めるように見た。その目に若干の危うさを感じとったロゼは  
「いや、ぜんぜーん暇じゃない」  
と嘘をついた。しかしウルリカは疑惑の眼差しをロゼに向けながら、  
「嘘ね」  
「くっ……だいたい暇だとしたら何だっていうんだ」  
今度はロゼが聞いた。  
「手伝ってもらおうと」 「却下だ」  
ロゼは一蹴する。ウルリカは顔を膨らませながら  
「むぅ……いいじゃない、すこしくらい」  
「イヤだ」  
ロゼはわかっていた。ここで断っておかないと面倒なことになると。  
「ああ、もう!! 仕方ないわね」  
ウルリカは覚悟を決めたように呟いた。  
ロゼは一安心する。しかし、ウルリカの行動はロゼの腕を持ち引っ張って歩き進むものだった。  
「ちょっと待て!! なんで俺を引っ張って行こうとするんだ」  
「うるさい。こうなったら学校にでたもん勝ちだわ」  
 
 「よくわからない。話の前後がつながってないぞ。……そ、そうだ、だいたい  
他の奴がいるんじゃないか?」  
ロゼは思い出したように言う。ウルリカのアトリエにも、  
自分の所に勝るとも劣らずの濃い仲間がいることを、  
しかし、その期待も裏切らられる。  
「ペペロンとエナはマナの遺跡で材料の採取。ゴトーは学園長の気を引き  
時間稼ぎ。あとはペペロンたちを待つだけだったけど、足りない材料があったから  
取りに行こうとしてたのよ。うりゅはクロエに任せてあるわ。」  
「だからなんで俺が……」  
「いいじゃない。アンタ暇そうだし、それに一人より二人のほうが早く終わるじゃない。……ほら、さっさと行くわよ!!」  
ロゼは経験からして分かった。自分にはもう退路がないと。  
こうして二人の愉快なる一日が幕を開けた。  
 
 
それから、太陽が真上を過ぎて傾くまで時間が過ぎる。  
「ギャアアァア!!」  
魔物は吠える。その声は耳をつんざくほどの大きな声であった。  
しかしそれは普通の人の話。ロゼとウルリカは冷静に見据えていた。  
ロゼは叫ぶ。  
 「お前は、さっきと同じように援護しろ!!」  
ウルリカも叫び返す。  
 「分かっているわよ!! アンタもヘマするんじゃないわよ」  
二人のコンビネーションは確立されていた。ロゼは前衛、ウルリカは後衛と。  
 「いっけええぇ!!」  
 ウルリカがそう叫んだ瞬間、魔物に多くの光球が殺到する。  
 言うまでもないウルリカの魔法弾だ。  
魔物にとっては致命傷はおろか傷一つもつかないものだった。  
 しかしその光球によって、身動きを封じられ僅かな隙がうまれる。  
その隙にロゼが懐に入りその手に持つ光の剣で切り裂こうとする。  
 魔物もその硬直がすぐに解けて反撃する。その攻撃はロゼよりも早く繰り出され、  
ロゼの胸元に深く突き刺さる。  
 
だが……  
 ニヤリ、言葉に表すならこれ以上にないくらいロゼは不適に笑っていた。  
いや、ロゼという言葉が少年の名を意味ならば、もはやそれはロゼではない。 何故ならそれは体の節々が徐々に――光源を失い消えていく影のように――無くなって  
いったからだ。  
それを見た魔物は焦った。仕留めたと思った存在がいなくなったのだから  
無理もないだろう。  
しかし、魔物の驚愕はまだ終わらない。魔物は不意に気づいてしまった。  
後ろからの強力な魔力を、そして死を宣告する声を。  
「見切れるかッ!!」  
そう言ったロゼの手には先ほどの光の剣が二振りに増えていて、  
その二振りの剣からの、閃光の如き斬撃が魔物の体を引き裂いた。  
 そして魔物は悲鳴すらだせずに絶命した。  
 
 
 「……あった、あった。これよ!!」  
ウルリカは魔物を倒したあたりで声をあげた。どうやら目的のものを見つけたようだ。  
「ふう……これで終わりか」  
ロゼはため息を吐き、呟いた。まるで厄介事が去ることを安堵するかのように。  
「なによ。アンタももう少し喜びなさいよ」  
ウルリカは不満げに言う。  
「ああ……学園から引きずられた挙句、モンスターとの戦闘にもなったからな。  
おかげでいつもとおなじ苦労を強いられた。礼は言わないとな。」  
ロゼは最大限の皮肉を言う。  
「何よその言い方。まるで私が厄介事に巻き込んだみたいじゃない」  
「いや、どう考えたって巻き込んだだろ!!」  
だが、ウルリカにはあまり意味がなかったようだ。  
「……ま、まぁいいじゃない。こんなか弱い女の子を一人でこんな場所に  
行かせるより」  
「か弱い? そんな存在には今まであったことないぞ。図太いならよく見掛けるが」  
ウルリカもこれには無理があると思ったのか  
 「うっ、……だとしてもゴトーやペペロンなら快くやってくれるわよ」  
「……俺はお前にあれと同列に思われてるのか」  
ロゼは嫌そうに顔をしかめる。  
 
 「とにかく、一人より効率良く終ったんだからいいじゃない」  
ウルリカが誤魔化そうと言う。ロゼも段々面倒になってきたのか、それに乗る。  
「確かにな。下手したら一人だと一日あっても駄目だったかもな。」  
 その時ロゼはふと思い出したように呟いた。  
 「しかし、お前って卒業しようとしてたんだな」  
「ちょっと待ちなさい。誰よ、そんなこといってたのは」  
さすがにこれはウルリカも憤慨したようで、ロゼにきつめに問いつめた。  
「前にお嬢様が『あの田舎娘はアトリエごとの課題はまともにしてるのに  
個人になるとほとんど底辺じゃない。全くあんなのだとこの学園全体に響くと  
いうのに。このまま学園に住むのかしら』って言っていたからな」  
「あの高飛車女はぁぁ!!」  
ちなみにリリアはこの発言のあと、エトに「リリアちゃんも心配してるんだねぇ」  
と突っ込まれて顔を真っ赤にして否定していた。  
 しかし長年の付き合いのロゼやウィムは分かっていた。  
リリアは本当に毛嫌いしているときは話題にもださないことを。  
 
 
しかしロゼはそのことをフォローしない。何故なら最近お嬢様に振り回されて溜め込むものが  
あったので暴れる対象がかわると思ったから。  
そして最近の趣味はウィムに感化されたのか自分に被害がないときの  
リリアいじりである。  
ロゼリュクス・マイツェン、ただいま多感な年頃である。  
 
 
 

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