その日の午後、ロロナのアトリエには珍しく来客がいた。  
 先の試験の折に出会った自称楽隠居の──正真正銘この国の国王その人だ。  
 試験の結果は芳しくなく国からの依頼は受けられなかったものの、それとは関  
係なく今もロロナの護衛を楽しみに待ってくれている。  
 今日もふらりとやってきて午後の紅茶を楽しんでいた。もちろん茶請けはロロ  
ナ自慢のパイだ。  
(きっと今頃ステルクさんは探し回っているんだろうなぁ──)  
 美味しそうに紅茶を飲むジオを前に、ロロナは苦笑するしかない。  
「ステルクと一緒に住むのにも慣れたかい? 毎日のようにあの小言の嵐に遭っ  
てるんじゃないのかね?」  
「調合の時はつきっきりなんで色々言われちゃいますけど……それ以外は特にあ  
りませんよ」  
 最初の頃はあまりにつきっきりなので、別の意味で集中できなくなってしまっ  
たが、それも最近は折り合いがついてきている。  
 それ以外のこと、プライベートなことに関してはステルクはロロナが恐縮して  
しまうぐらい優しかった。ロロナが集中して調合できるようにと掃除洗濯はして  
くれるし、やったことがない料理までしようとしてくれるのだから。  
 むしろ無理難題を面白がっては押しつけてくる師匠の方が大変だったぐらいで  
──それをうっかり口にするほどロロナも迂闊ではないので、曖昧に笑って誤魔  
化した。  
 だがジオにはそれもお見通しだったようで、意味深ににこりと笑うと、  
「ところでステルクは君に酷いことをしてなどいないだろうな?」  
「やだなージオさん。ステルクさんがそんなことするはずがないじゃないですかー」  
「そうかそうか、それは安心した。ヤツが私に接するようなことを君にしている  
かと思うと心配で心配で夜も眠れなかったんだ」  
 
 それはジオさんが逃げ回るからじゃあ──そんな言葉が口に出かかった瞬間、  
けたたましい足音と共に豪快にアトリエのドアが開いた。  
「そんなことを彼女にする訳がないでしょうが!」  
「あ、ステルクさん」  
 鬼の形相とも呼べなくないステルクの息は上がっていて、ロロナは先ほど想像  
していたことが正しかったことを悟った。  
「何を言う、頭に馬鹿が付くほど真面目なお前のことだ。彼女が影でひっそりと  
泣いているとも限らんじゃないか」  
「俺は女性を泣かせるような趣味は持っていませんっ!」  
「辛いことがあったら遠慮なく私に言ってきなさい。国王としては何も出来ない  
が、個人ならば別問題だからな」  
 御馳走さま──ソファに座っていたジオは立ち上がると、ロロナを通り抜けて  
いく祭、そっと腰を屈めて耳元でそう囁いた。  
「はぁ……」  
 するとみるみるうちにステルクの表情が険しくなっていくのが分かった。これ  
はシャレにならないぐらい怒っている──そこまでステルクの機嫌を損ねるよう  
な振る舞いをロロナはしたつもりなどないのだが──。  
 ふとジオが向かう場所が出入り口のドアでないことにロロナは気付いた。  
「あ、あのっ、ジオさん!」  
「逃げるとしたら窓と相場は決まっているだろう!?」  
「なっ──!」  
 全開した窓の縁に手をかけて、ジオは爽快に言い放つと、まるで物語に出てく  
る怪盗のようにアトリエを去ってしまった。  
 残されたのは非常に気まずい空気だけで、ロロナはステルクの顔を出来ること  
ならば見たくなかった。  
 
 ステルクの深い深い溜息が聞え、ロロナはあることに気付いてステルクを見た。  
「……あの、ステルクさん?」  
「何かね?」  
「追いかけなくて……いいんですか?」  
 この手のやり取りは既に何度か経験済みだ。何時も寸でのところで逃げられて  
しまうジオをステルクは生真面目にまた追いかけるのが常だ。  
 それが今日に限って追いかけようともしない。しかも先ほどまでジオが座って  
いたソファに腰を下ろしてしまった。  
「どうせ今から探し回っても当分の間は捕まらないんだ。探すだけ無駄だから、  
もういい。……それに私が探し回っていた間、あの人が暢気に君と一緒に過ごし  
ていたなんて不公平だと思わないか? 私だってそれぐらいの時間を貰ってもい  
いはずだ」  
 怒っているというよりは不貞腐れているようなステルクが意外でロロナは目を  
パチクリさせてしまった。  
 まさかステルクがやきもちを焼いているはずもないし、きっと単純に腹を立て  
ているだろう。少し頭を冷やす時間が欲しい、そういうことなのだろうと納得した。  
 だったらお茶の一杯ぐらいは飲む時間が持てるはずだ。キッチンに向かったロ  
ロナはさっそくステルクが自分用に買ってきたカップに並々と茶を注ぎ、アトリ  
エに戻ってきた。  
 ソファに座っているステルクは何故か先ほどまで使っていたジオのティーカッ  
プを睨んでいたが、近づいてくるロロナの気配に顔を上げてくれた。  
「ステルクさんもどうですか? 走り回って喉が渇いてませんか?」  
「私にも淹れてくれるのか?」  
「飲む時間があるんだったら、もちろん入れますよ! 決まってるじゃないですか」  
 変なこと聞くなぁ今日のステルクさん──今日のステルクの言動はハテナマー  
クで頭の中が埋め尽くされてしまいそうだ。  
 
 それでもロロナからカップを受け取ると、ステルクはゆっくりと口を付けた。  
「……この銘柄は?」  
「えへへ、分かりましたか? イクセルくんのところで美味しいのが入ったって  
教えてくれたんで、買ったんです! 依頼がちゃんとこなせたからお金入ったし」  
「錬金術は何かと物入りなんだ。無駄遣いは関心しないな」  
「そ、それは分かってますっ! でもステルクさんのおかげでこなせたから、お  
祝いに一緒に飲みたかったんです!!」  
 師匠だったらお酒でも飲みにいくのだろうが、ロロナは酒が飲めないし、ステ  
ルクもロロナを前に酒を口にすることは決してなかった。  
 美味しい料理というのも考えたのだが、それでは一回だけで終わってしまう。  
そうやって考えた結果、茶葉にしたのだ。そうすればステルクもロロナも飲める  
し、もしかしたら一緒に飲めるかもしれない──という聊か邪な願望もあったの  
も事実だが。  
(ああ、そうだ、あたしの分も淹れてくればよかったー! 絶好のチャンスだっ  
たのにー!!)  
 叶えられるどころがお小言を食らうだけになってしまった自分にロロナはがく  
りと肩を落とした。まさか今更自分の分を淹れてくる訳にもいかず、諦めて仕事  
に戻ることにした。仕事とはいっても、一通りの依頼は全てこなしてしまったの  
で材料の確認をするぐらいしかないのだが。  
「君は飲まないのか?」  
「ふぇ……?」  
 予想もしていなかったステルクの誘いにロロナは思わず素っ頓狂な声を上げて  
しまった。振り向くと、ステルクはちょうど一人分空いていたソファを軽く叩い  
ている。それがどんな意味かぐらいはロロナも分かる。  
「い、いいんですかっ!?」  
「良いも悪いもないだろう。君さえよければ、」  
「ま、待ってて下さいっ! い、今すぐ淹れてきますから!!」  
 願ってもない誘いに、ロロナはステルクの言葉を遮ってアトリエから出て行っ  
てしまった。  
 
 穏やかな午後、ゆっくりと流れる時間、美味しいお茶とパイ──なんて至福な  
一時だろう。しかもステルクと一緒に過ごせるなんて、  
(──あたし今なら最高傑作が作れそうな気がする!!)  
 ステルク曰く、集中力と気分によってロロナの調合はかなり変わるらしいので、  
こんな嬉しい気分で調合すれば間違いなく傑作が生まれるはずだ。もちろん調子  
付いて大失敗ということも多分にありそうではあるのだが。  
 隣に座るステルクをちらり横目で盗み見ると、ステルクは目を瞑ってカップに  
口を付けていた。  
 その姿に胸がドキドキすると気付いたのは一緒に住むようになってからだ。  
 傍にいることが嬉しくて、でも緊張して、酷く落ち着かなくなるのは──ステ  
ルクが好きだからだとエスティに教えてもらった。  
 人を好きになるってこういうことなんだ。今なら師匠がステルクのことでロロ  
ナをからかっていたことも納得できる。大切にされることが気恥かしくて、でも  
とても嬉しい。そろりとステルクに寄りかかると、やはり気付かれてしまった。  
「どうした疲れたのか? あの方は人を振りまわすのが趣味だからな、君も疲れ  
たんじゃないのか?」  
「……平気です。ジオさん優しいし」  
「──ロロナ、」  
「何ですか、ステルクさん?」  
「先ほどのことなんだが……私は本当に君を泣かせてはいないのだろうか? 私は  
気が回らない男だからな、自覚なしに君を泣かせてしまっていても不思議ではない」  
「そんなことあるはずがないじゃないですか! ステルクさんは……確かに厳しい  
時もあるけど、それはあたしに原因があるからで……ステルクさんは優しいです。  
とってもとっても、」  
「──ならばいいんだが」  
「あたしのこと信じて下さい!」  
 捨て鉢のような言い方のステルクに拗ねるようにぎゅっと外套を掴んでしまった。  
するとステルクは一瞬驚いたように目を瞬かせ、そしてとびきり優しく微笑んでくれた。  
「ああ分かった。信用する」  
 
 ゆっくりと顔が近付いてきて、それが何を意味するのか分かってしまい、堪らず  
目を瞑ってしまった。キスされるのは好きだけど、やっぱりまだ恥ずかしさの方が  
勝ってしまう。  
 触れるだけのキスを何度もされると、身体がふわふわと浮いてしまうような感覚  
になってしまった。  
 このままじゃ持っているカップを落としちゃうかも──するとカチャリとテーブ  
ルにカップを置く音が聞えた。気付けばもう手には何も持っていなくて、何時の間  
に持っていったのだろうと考える前に、身体をひょいと抱きあげられてしまった。  
 
 恐る恐る目を開けるとロロナはステルクの膝の上に跨うような格好になっていた。  
いつも見上げるステルクを見降ろす感覚はまだ慣れない。  
「ステルク、さん、──んっ、」  
 ちゅ、と胸元の素肌の部分にキスをされて、思わず息を詰めてしまった。回して  
いた腰もいつの間にかその下にある双丘に置かれている。  
 休憩中だってまだお仕事の最中なのに──ダメと身体を離そうとしても、もうロ  
ロナにはそれだけの力が残っていなかった。むしろ露わになった脚を手の平全体で  
撫で上げられるだけで身体が熱くなってくる。  
 前のボタンを外され、胸を隠していた布を下ろされた。師匠に洗濯板と評された  
胸であまり見られたくないのだが、ステルクは大きさに触れることはなかった。今  
もその小ぶりな胸を揉みしだき、膨らんだ蕾に吸いつく。  
 舌で弄られるほどに堅くなる蕾は吸われる度にぴりぴりとした刺激をロロナに与  
えてくる。同時に脚を触れていた手の平が徐々に付け根に向かって這うような動き  
をしてきた。  
 
 短いスカートがあられもなくたくしあげられる。  
「やっ、ステルクさん──」  
 ショーツ越しにでもスリットを押しつけると、身体の中からどろりとしたものが  
溢れ出した。羞恥からぎゅっと両足をくっ付けようとすると逆にステルクの強張っ  
た指の感覚がダイレクトに伝わってきてしまった。  
 それでもまだ羞恥を捨てられずイヤイヤと駄々を捏ねるように首を横に振ってい  
ると、ステルクにきつく抱きしめられてしまった。ステルクの肩に顔を押し付ける  
ような格好になってしまったのだが、  
「こうすれば見えないだろう?」  
 どうやらステルクはロロナが嫌がるのは見られていることだと思ったようだ。そ  
れはそれで合っているのだが──それだけでもないのだ。  
 ステルクはまだ仕事着で──一般的なスーツよりも厚手の騎士の制服にそれを示  
す漆黒の外套、それが肌に触れる度にそんな姿で触れ合っているのだとロロナに教  
えてくれる。それが何より恥ずかしいのに──だが結局ステルクには伝わらなかった。  
 ショーツ越しに触れていたものが直接中に潜り込んできたのだ。ぞくりとした感  
覚に全身が粟栗立つ。溢れだす愛液を指に絡ませ、花弁の内側をこそぐように触れ  
られると、それだけで意識が飛んでしまいそうだった。  
 その僅か反応をステルクは見逃さず、ロロナの弱い感じる場所を探り当ててきた。  
ぐっと強めに濡れた襞を撫でられ、堪らず声が漏れてしまった。その声は感じてい  
るといわんばかりもので、それがまた羞恥を煽る。  
 聞きたくないと目の前にあったステルクの外套を噛んで堪えてみたものの、空い  
ていた親指が器用に恥毛に隠れていた花芽を既に探り当て、指の腹で何度も押され  
てしまった。  
 押され、抓まれ、撫でまわされて──その度に全身に鋭しい痺れが駆け巡る。が  
くがくと身体の震えが止まらず、堪えれば堪えるほど辛くなる。  
「──ロロナ、」  
 耳元でそう囁かれた瞬間、張り詰めたものが一気に崩壊してしまった。力の抜け  
てしまった身体はステルクに凭れかかる。その合間もステルクの指はロロナを刺激  
し続け、ほどよい具合に溶けた身体は、もう気持ち良さだけしか残っていなかった。  
 
「あっ──ん、んっ……」  
 ずるりと指を引き抜かれると、大量の愛液がとろとろと溢れ出してきた。それが  
敏感になった内股を伝うだけでも身体が震えてしまった。  
 荒くなった呼吸を整えようとしていると、ステルクは抱きついていたロロナをそ  
っと放してしまった。  
「──ステルク、さん?」  
「そろそろ時間だ」  
「で、でも──」  
 制服越しにでも分かるぐらいステルクのものは熱くなっていることぐらい、ロロ  
ナも分かった。  
「そんな顔をしないでくれ……着替えなくてならないし」  
「……着替え?」  
 ステルクが困ったようにロロナが跨っている腿のあたりに視線を落としたので、  
ロロナも釣られて見降ろした。  
 制服のスラックスには大量のシミが出来ていて、それが何であるか理解した瞬間、  
ロロナの顔は火が噴いたように赤くなってしまった。  
「わ、わあっ! ごめんなさい、ステルクさん! あ、あたしっ、とんでもないこ  
と──!」  
「気にしなくていい。こうなることは承知の上だった」  
「で、でもっ!」  
「そこまで気にしてくれるなら……この続きは帰って来てからと思ってくれた方が  
いいんだが」  
 その意味が分からないほどロロナはもう鈍くない。ステルクも同じ気持ちなら拒  
む理由なんて何処にもない。  
 こくんと頷くと、ステルクは安堵したように息をはいて、宝物に触れるようにロ  
ロナの額にキスをしてくれた。  
 
 このまま横になっていなさいと、ソファに横になっていたロロナにステルクは毛  
布をかけて仕事に戻って行った。  
 どうやらその毛布はステルクのものらしく、僅かにだがステルクの匂いがした。  
まるで抱きしめられてるみたい──そんな幸せの中でロロナはふと去り際に見せた  
ジオのとても楽しげな表情を思い出した。  
 
(ジオさん見つけたらすぐにでも帰ってくるってステルクさんは言ったけど、  
 ……でもジオさん見つけたら、ステルクさん戻ってこれなくなるんじゃないのか  
なぁ?)  
 
 ジオが見つからなければ定時まで探すだろうし、万が一に見つかればジオはステ  
ルクに仕事を丸投げするんじゃないだろうか。  
 
 ようやく身体のけだるさがなくなってきた夕刻、窓のガラスを叩くハトに気付い  
た。もちろんそれはステルクが飼っているハトで、時折ロロナも餌をあげさせても  
らっている。  
 試験が終わった今でもステルクは急用があるといつもハトをロロナに飛ばしてく  
れるのだ。  
 足に巻き付いている手紙を読み、ロロナは先ほど自分が想像していたことは間違  
っていなかったことを知った。  
 きっとこの手紙を不機嫌な顔で書いていたであろうステルクの姿を想像し、  
「……そうだ、依頼がない日ぐらい美味しい料理作って待ってようかな」  
 料理の腕前は師匠の舌でそれなりに鍛えられている。  
 そのことに今は感謝して、ロロナはさっそくイクセルの店に買い出しに向かうべ  
く、買い物籠を手にしてアトリエを後にした。  
 
*おしまい*  
 

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