寒い夜のなか、私は不安と期待となんだかドキドキしたキモチで歩いている  
 
明日にはこれまで頑張ってきた三年間の結果がわかる…  
そう思うだけで不安に押しつぶされそうだけど、期待が混じっているのは隣りの人のおかげ  
「大丈夫か?なんだか顔が赤い様な…」  
「えっ!?だ、だだ大丈夫ですよ!なんでもないです!」  
不安になって眠れなかったからお城に行ったけど…  
もしかしたら、ただステルクさんに会いたかっただけかもしれない  
いつもみたいに怒られて、お説教されて、心配してくれて…優しくて  
「す、ステルクさんは今日いつもにまして優しいですね!  
…あっ!?もしかして私が不合格だったから気をつかって…」  
「そんな事はない、大体私はまだ結果を知らない」  
「へっ?ステルクさん知らないんですか?」  
「ああ、私も君と同じ気持ちで今日を過し、明日を迎えたいのだ  
まあ、君なら絶対合格だと信じているから、私はそんなに心配していないがな」  
「えっ…!…えへへ、ありがとうございます!」  
心配はしてくれていないみたいだけど、この優しさが私を落ち着かせてくれる  
落ち着かせて……落ち着いて…  
「おい、本当に大丈夫か?」  
「わひぃっ!?な、なななんですかステルクさん!」  
「……もうアトリエについたぞ?」  
「えっ、もう!?」  
見上げると、すっかり暗くなったなか月明りでうっすらとアトリエの看板が照らされている  
なんだかドキドキしてて、全然気付かなかった…  
「それじゃあ私はこれで…」  
ステルクさんがそう言い、帰ろうとした背中を見て、私は思わずマントを掴んでしまった  
 
「…ん?何か用事でもあるのか?」  
「えぇっ!?あ、あの…私……」  
思わず掴んでしまったその手を離す事は出来ず、ドキドキがジャマしてよく考えられなくなって  
「わ、私……」  
何か言いわけを探して…ち、違う!まず謝らなきゃ!  
「私……誰かが子守歌を歌ってくれないと眠れないんですっ!!」  
自分の口からでたその言葉がわかるのにこんなに時間をかけたのは初めてだった  
 
何を言ってしまったかわかると、途端に熱くなって恥ずかしくて…  
「そうか…この三年で君も立派に成長したと思っていたが、まだまだ子供なんだな」  
すんなり信じられちゃったことがトドメをさして、湯気がでそう…  
「いや、あの…これは」  
「しょうがない、私で良ければ歌ってあげよう」  
その言葉に私は耳を疑った  
 
「あの…ステルクさん」  
「ん?なんだい?」  
(そんなにいい声で子守歌を歌われても…なんて言えない!  
そもそも一緒採取に行った時は私普通に寝てたのになんで気付かないんだろう…?)  
 
私のベッドの横でステルクさんは一生懸命歌ってくれている  
その光景はおかしいんだけど…それ以上に、ステルクさんに見られて恥ずかしい…  
こんな状況じゃ眠れないよぅ…  
 
「しかし、いつもはアイツに歌って貰っているのか?」  
「あいつ…?」  
「アストリッドの事だ  
アイツがそんなに面倒見が良いとは…いや、君に対してなら納得出来るか…」  
ステルクさんは何かを思い出すように少し笑っていた  
「師匠は絶対歌ってくれないだろうなぁ…なんだか私より先に寝ちゃいそう」  
「…ん?アイツじゃないのか?」  
「えぇっ!?  
し、しまった…じゃなくて、え〜っと…  
…く、クーちゃんです!いつもはクーちゃんが歌ってくれてます!」  
「あの子が…?」  
「は、はい!クーちゃんは面倒見がいいんです!」  
 
今さらこんなウソをつかなくてもいいと思うんだけど…  
私が眠れるように優しく歌ってくれるステルクさんを見ていると、  
その優しいさにどんどん甘えたくなって…離したくなくて…  
「すまんがもうそろそろ良いか?まだ少し仕事があって…  
それにアイツにも呼ばれているんだ、後でアイツに歌ってくれる様に言っておくから」  
 
その瞬間、ドキドキがちょっとズキッに変わった  
 
「師匠と会うんですか?」  
「ああ、何でも頼みがあるとか…」  
「こんな夜中に二人で会うんですか?」  
「まあ、夜中と言ってもまだ日付が変らない程度だからな  
多分酒に付き合わされるだけだと――」  
「私よりも、師匠の約束が大事なんですか!?」  
「…………っ!」  
 
やっちゃった…  
こんな夜中に大声をだしてしまったことよりも、  
私の声で複雑そうになったステルクさんの顔にズキッとした  
ステルクさん怒ったかなぁ…困っちゃったかなぁ…  
…嫌われちゃったかなぁ  
 
「あの、えっと…ごごごめんなさい!」  
私は泣きながらも必死で謝ってみた  
ステルクさんに嫌われたくない!  
これからだってステルクさんは言ってくれた  
そのこれからがステルクさんに嫌われたこれからだったら…イヤ!  
「ごめんなさい、ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいぃぃ…うっ…うわぁぁん!」  
謝らなきゃ  
すぐに涙をとめて謝らなきゃ!  
「…ひっく、ごめ…んな…うえぇぇん」  
 
「うわぁぁん!…ひっぐ、…うっ、ごめんなひゃぁぁい!!」  
「…………っ!?ど、どうした、何故泣いているんだ?」  
「ふえぇぇん!しゅテルクしゃんに、ど…どにゃって、ひっぐ…ご、ごめんなひゃぁい!うえぇぇーん!」  
「ああもう…静まれ!!」  
「ひゃい!」  
「…ふぅ、このやり取りも何回目だろうな」  
そう言うステルクさんの顔は笑っていて、私はちょっと落ち着いた  
 
「君に言われて気付いたよ…  
私はまた…同情をしてたのか…ってね」  
「ふぇっ?」  
「アイツも昔は危なっかしくて、様々な声や思いに潰されそうだった  
そんなアイツを守ってやりたい…と思っていたが、所詮それは同情だった」  
ステルクさんは下を向きながら、寂しそうに言った  
 
「騎士として、誰かを守りたい…その思いはアストリッドに向いてた様で、自分に向いていた  
自己満足の気持ちだった…アイツも多分それが分かってて俺にいろんな実験をしたんだろう  
俺は誰かを守りたい…だけど、守るとはどう言う事か…」  
「旅の護衛…とかですか?」  
私は騎士さんを思い描いて言った  
だけどステルクさんは首をゆっくり横にふり  
「守るとは…支える事なんだと思う  
アイツを守るんだったら、アイツの言いなりな実験体になるのではなく、  
アイツの気持ちを考えて、町人との間柄を受け持つべきだった」  
「町の人達から守る…ってことですか?」  
「正確に言えばアイツが何からも傷つかない様にする事だった気がする…」  
「ステルクさん…やっぱり師匠のことが…」  
「それは違う!…おそらく、同情だったから俺はアイツを守れなかったんだ…  
だから、さっき君がどちらが大事なかと問われた時……俺は、君より大切なモノは無いと思った」  
「へっ…?」  
「この気持ちは同情なんかではない……そう思い、本当の気持ちに気付いた気がするよ…  
俺は君が好きなんだ…」  
 
その一言は不意で  
真剣なまなざしが私を貫く  
これまでのふわふわした関係が固まっていく  
何よりも大切な人…  
私のドキドキは、  
最初は怖くて、でも私のことを心配してくれたり、怒ってくれたり  
一番身近に感じたのは、お兄ちゃんのように思っていたからだったけど…、  
今のこの気持ちは多分…私がステルクさんを好きだからくるんだと思う  
 
 
 

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