どろどろ作戦は、失敗に終わった。  
と、言われても意味は不明だが、まあ要するに。  
リリアーヌ・ヴェーレンドルフ……いわゆるお嬢様こと、リリアによるロゼの陥落作戦のひとつである。  
アルレビス学園在籍時は、この会議にはアトリエのメンバーや、時として他のアトリエからまで人を引っ張っていたものだった。  
だが、自宅へと場所を移した今は、リリアとそのマナであるウィムの二人だけで開かれている。  
従って会議によって編み出された作戦を実行するのも、この二人だけになるのだ。  
こうなると、一番被害を被るのは――案外、リリア本人であったりしないこともないが……  
基本的には、ウィムが引っかぶることになる。  
 
前置きが長くなったが。  
つまり、まあ。このどろどろ作戦においても、それは同様だった。  
作戦の内容については詳細に語らないが、作戦名を見れば分かる通り、どろどろとしている作戦である。  
そんな作戦でどうやってロゼを落とそうとしたのかは、あえて触れない。  
それは本筋とはあまり関係ないのだ。  
とにかく。  
 
「はあ、もう服の中までどろどろですよ〜」  
ヴェーレンドルフの邸宅の、その洗面所である。  
メイド服に身を包むマナ、ウィムは、困った顔で手を洗い続けていた。  
その服のあちこちに、黒くどろどろとした汚れがこびりついている。  
油汚れのように見えるが、単純にそうと決め付けられるものでもないらしい。  
「学園にいた時も妙なものを注入されたりするし、お嬢様は発想がちょっと粘的ですよね。  
 付き合う私が疲れちゃいますよ、もうホントに」  
ぶつぶつと愚痴を零す。聞いているものもいないだろうに――と。かと思ったら。  
「まあ、あの人も突飛な発想をするからな。見てる分には面白いんだが」  
などと。  
後ろから聞こえた声に、ウィムはゆっくりと振り向く。  
「あ……ロゼさん」  
今回の作戦のターゲットとなった、ロゼその人がそこに立っていた。  
手を洗うのを中断して、ウィムは彼に向き直る。  
 
「なんていうか、お気の毒様だな」  
「え、ええ……お嬢様も気まぐれで色々やりますから」  
従者同士の気安さとでも言おうか、ウィムは軽く笑みを浮かべる。  
ロゼも――これまた珍しいことに。苦笑で応えた。  
以前はマナへのわだかまりもあって、ややもするとウィムに対してすら険しいものだったが、最近は若干緩んでいるようだ。  
妙に力を入れられて対応されるよりは、そちらの方がウィムとしても気楽である。  
だから、今回も、やや楽な気分でこうしてロゼと話していた、のに。  
「よく付き合うよな、お前も。また、いつものなんとか会議だろ?」  
「ええ、そうなんですよ……え、はい?」  
ロゼが放ったこの言葉に、ウィムは硬直してしまう。  
いつものなんとか会議――と、この少年は言った。  
「あの……会議って、その、それはロゼさん……」  
「ああ、まあ大体知ってる。俺になんかこう……お嬢様が、色々しようとしてるやつだろ」  
「し……知ってたんですか?」  
まがりなりにも。  
ロゼから愛の告白を受けるための会議なのだから、ロゼ本人に知られては意味がない。  
しかし、それだというのに。今、ロゼの言ったことは――  
「結構前からな。学園にいた頃からなんかやってたってのは気づいてたけど、内容を知ったのは帰ってきてからか」  
「し、知ってたって……お、お嬢様が、ロゼさんのことを、あの、好き、っていう……それもですか?」  
決定的なあたりを聞いてみる。すると。  
「まあな」  
割合にあっさりと、そう答えるではないか。  
これにはウィムも、呆然とするしかない。  
「知ってるって、それじゃあどうして、お嬢様に言ってあげないんですか?」  
「そりゃ、見ている分には面白いし……」  
「お、面白い!?」  
ぽりぽりと、ロゼは頬を掻く。  
「自爆することも多いし、そうなればこっちに被害もあんまり来ないからな」  
「よ、よくないですよ! というか、ロゼさんは知っちゃってるんですよね、お嬢様の気持ち。  
 ……答えは、あの、どうなんですか? 受けるとか受けないとか――」  
 
「そりゃあ、俺もお嬢様のことは嫌いじゃないけど……」  
「じゃ、じゃあOK、ってことなんですか?」  
「うーん……」  
考え込む。そこで考え込まれても困ると、ウィムは思う。  
「……一応言っておくが、これ、お嬢様には内緒だからな?」  
「えー?」  
「お前だって、俺から聞きだしたとか、お嬢様に言いたくないだろ」  
「んー、まあ、そうですね。お嬢様、自分がロゼさんから聞かないと駄目だって人でしょうし。  
 私から下手に口出ししたら、またぐりぐりされちゃうかも」  
そうだろ、と念を押してから、ロゼは小声で続けた。  
「嫌いじゃない……いや、結構可愛い人だとも思うし……  
 でも、もうちょっと時間を置いてからとも思うんだよな」  
「何か、問題でもあるんですか?」  
「いや、それも特にあるって訳じゃないんだが……」  
なかなかはっきりとしない。  
そんな姿を見るうちに、段々とウィムも腹が立ってきた。  
「いいじゃないですか、もう素直に告白しちゃえば。そしたら、私も妙な作戦とかやらなくてすむんですから」  
「ああ、それだ」  
「それ?」  
「その、妙な作戦とかな。さっきも言ったんだが、見てて面白いだろ。  
 今まで苦労させられたってのもあるから、もうしばらく鑑賞させてもらおうかと思って……」  
「鑑賞って……ロゼさん……」  
これにはウィムも我慢の限界である。  
そうやってリリアが自爆して、ロゼが面白がるのは、当人達にはいいかもしれない。  
しれないが、しかし。  
――巻き込まれる私は誰にどうやって慰めてもらえばいいんですか!?  
と、それくらいのことは思う。  
思うので、そこで――  
「……ロゼさん」  
「ん?」  
瞳をぎらりと輝かせて、ウィムはロゼを見つめた。  
その威圧感に、思わず少年は一歩、後ろへ下がる。  
「な、なんだ?」  
「ロゼさん。そうやってロゼさんがお嬢様で遊ぶせいで、私なんてこんな感じで……  
 ほら、どろどろになっちゃったんですよ?」  
どろどろ作戦の被害のことだ。見た目にも分かる通り、妙な粘液がウィムに付着している。  
 
「これ、洗っても全然落ちなくって。  
 お嬢様の発案でこんな目にあっちゃったんですが、でも、ロゼさんにも責任はありますよね?」  
「お、俺にか? 俺は別に関係してない……」  
「もっと早くロゼさんがお嬢様にOKしてれば、こんなことしなくてもすむじゃないですか!」  
「……ま、まあ、そりゃそうだが……」  
ぷんぷんと怒った様子で、ウィムは指をロゼに突きつけた。  
水のマナだけに、お湯にでもなっているのか。  
「だから、ロゼさんには責任取ってもらいます。  
 もう服の中までべとべとしてて、気持ち悪くて仕方ないですから……  
 ロゼさんに、これ、落としてもらいますからね?」  
「……は?」  
「背中とか、手が届かないところにもついちゃってるんですよ。  
 それにちょっと洗ったくらいでは落ちないですし。  
 誰かに手伝ってもらわないとずっとついたままなんですよ、これ」  
「それは、なんとなく分かるけど……俺がそれを洗い落とすって、どういう……」  
「ああ。決まってるじゃないですか」  
一転、にこにことしながら、ウィムは告げる。  
逆にロゼは、学園の日々で培った感覚により、大きな危険が迫りつつあるのをどことなく察知していた。  
逃げられるように体勢を整え……ようとするが、どうやらこれはボス戦らしい。  
「一緒にお風呂に入って、そこで洗い流してください」  
「あ……あのな! 風呂ってそんな……一緒に!?」  
つまり、逃げられない状況――ということだ。  
それでもロゼは、懸命に抵抗する。しかし。  
「一緒にです。別にそれくらい、気にしなくてもいいですよね、ロゼさん?」  
「き、気にするだろ! その……お前だって、俺と一緒だとか、そういう……」  
「だってロゼさん、昔は一緒にお風呂くらい、入ってたじゃないですか。  
 懐かしいですよね、まだここに来た最初の頃は、なかなか慣れないからって……」  
「あ、あの頃とは違うだろ! 俺も成長してるんだから!」  
 
ウィムはマナである。  
人間のロゼやリリアは成長し、その姿を変えるが、ウィムはそうではない。  
このヴェーレンドルフ家に代々仕えているくらいで、若くは見えるが中身は人とは大違いなのだ。  
「昔から大して変わってないですよ。それに、ロゼさん?」  
「絶対に、そんなことするなんてお断り……」  
「……お嬢様に言っちゃいますよ? ロゼさんの気持ち」  
「ぐっ……!」  
「ロゼさんが気持ちを知りながら弄んでいた! とか知ったら、お嬢様も大変ですよ。  
 私も凄い目にあっちゃうとは思いますけど、ロゼさんはそれ以上……」  
「そりゃ、簡単に想像できる……けど。くそ、迂闊に喋りすぎたか」  
「もう遅いです。聞いちゃいましたもん」  
そんなことを聞いて、爆発した時のリリアはどうなるやら。  
考えるだけでも、いささか怖いロゼとウィムである。  
「まあ、ですから、ちょっと洗ってもらうだけですよ。  
 ロゼさんが変に気を回さなければ、それくらいのことですから。洗ってくれますよね?」  
「……あー、もう、好きにしてくれ」  
「それじゃ、早速お風呂の準備しますね!」  
そうして。  
ロゼはものの見事に絡め取られてしまった訳であって。  
 
実のところ、準備するまでもなく風呂には入れるようにはなっていた。  
というのも、作戦の失敗でウィムがべとべとになってしまったのは、リリアだって知っているのだ。  
いささか無残な姿であったのに、リリアも心が咎めたのだろう。  
風呂を使ってもよいと、その許可は出されていた。  
「結構、お嬢様って気が回る時は回るんですよね。まあ、暴走する時も多いですから差し引きゼロとはいきませんが」  
「あ、ああ」  
メイド服を脱ぎ、肌を晒したウィムは、身体を洗うための小さな椅子に腰掛けて、どこか楽しそうに石鹸の準備をしている。  
同様に――お風呂に入るならちゃんと脱がないと、とウィムに言われたために。否応にも裸になっているロゼはというと。  
こういう場合、前を隠すべきか否か。逡巡するロゼだったが、そんな迷っている暇も与えられない。  
「それじゃ、ロゼさん、こう、背中の、このあたりお願いしますね。もうべとべとが取れなくって」  
「背中な」  
とりあえず、前でなくてよかったというべきなのだろうか。  
あるいは残念がるべきか。  
そのあたりを混乱しつつ、ロゼはたわしを手に取った。  
そのままウィムの背中を擦ろう――として。  
……たわし。  
「ってロゼさん何使おうとしてるんですかぁ!?」  
「あ……しまった」  
「しまったじゃないですよ! 私を何だと思ってるんですか!?」  
「つい、な。頑丈そうな気もするから」  
「乙女の柔肌なんですよ? そんなもので削られたら……水なのに」  
仕方なく、適当な布か何かを取ろうとする。  
けれども、そうもいかないようだ。  
「この際、道具を使わずに洗ってもらえません? そっちの方が、お肌に優しいですよね」  
「使わないって、素手で、か?」  
「そうそう。ロゼさんの手に石鹸を泡立てて、それで揉み洗いでもしてくれたら、きっとべとべとも落ちますよ」  
ロゼは、一瞬言葉を失ったが、すぐに意識を取り戻し、ウィムの肩に手をかける。  
思いがけずその肌はひやりとしていて、引きそうになったが、踏みとどまった。  
「あ、あのな! そんなことしたら、洗うとかそういうレベルじゃないだろ!」  
「えー、知らないんですか、ロゼさん。繊細な肌を洗うのには、手が一番いいんですよ?」  
「い、いい訳ないだろ!」  
「私がお嬢様を洗ってあげる時は、よくそうやって手で洗ってあげますけどねー」  
その光景は、ロゼとしてもちょっと見たい気もする。  
ではなくて。  
 
「特に私なんて水のマナですから。それくらい丁寧にしてもらわないと傷ついちゃいます」  
「そう言われても……」  
「ロゼさん、ちょっと洗うだけなんですから、あんまり時間かけないでくださいよ。風邪引いちゃいますよ?」  
「……やればいいんだろ、やれば!」  
こうなった以上は、もうなんでも素直に従ってみせて、さっさと終わらせてしまおう。  
決意したロゼは、両手に石鹸の泡を立たせると、目の前にあるウィムの白い肌に、その手を置いた。  
差し当たっては肩甲骨のあたりからだ。  
見れば、確かにあちこちに斑点のような汚れがこびりついている。  
なるほど、これは鬱陶しいかもしれない。  
だから、多分、他意はないはずなのだ。  
「……こ、こんな感じか?」  
「あー、そうそう。もうちょっと力を入れて下さってもいいですよー」  
手に広げた泡をこすり付けて、そのまま汚れをぬぐう。  
ウィムの肌は、思ったよりもきめ細かい。  
体温が低いのは、そのマナとしての特性上、当然として。  
肌がさらさらとした質感なのは、これはマナである為なのかどうかはわからなかった。  
まあそういう雑念を気にしすぎると、余計な事態になってしまうかもしれないので、ロゼは気を取り直す。  
ウィムの背中の上から下へ。ゆっくりと手のひらで擦りながら、汚れを落としていった。  
「ん……ロゼさん、力加減が上手ですねー」  
「そう……かな」  
「マッサージとかやってもイケると思いますよ。こう……いい感じで、んっ……」  
微妙に熱っぽい吐息をウィムが漏らす。  
ロゼはそれを聞かないようにしながら、腰の上あたりまで洗い終えた。  
そこから下となると、それはロゼとして難しくもある。  
どうしたものかとしばらく逡巡している、と。  
「あ、背中はもういいですから。前の方お願いしますね」  
そう言われる。迷っていたところに救いの声、では、あるのだが。  
「前っていうと……その……」  
「そうですよ? むしろ、こっちの方が汚れがひどいですからねえ」  
「……くそ、どうしてこうなるんだ」  
どうしても何も、最初からそうなるのは読めそうなものである。  
とはいえまあ、愚痴りたくなるのもロゼとしては当然といえば当然か。  
 
なるべく。  
なるべく、ウィムが下げている二つの果実の近くには触れないように。  
洗えと言われたからにはそこも触れなければいけないのではあるが。  
それでも後回しにするかのように、ロゼは――  
……ウィムの背後から、抱きしめるような形で手を伸ばし、彼女のへそのあたりに手のひらを置いた。  
「あの、そっちからだとやりづらくないですか?」  
「いいだろ、別に……どっちからやっても」  
「純粋に難しそうだなぁって思っただけなんですけど……ん、なんかくすぐったいです」  
「あんまり動くなよ、やりづらいから」  
「はあ」  
ウィムのへその周りを擦る。  
背中もさらさらとした手触りだったが、前の方はなんというか、柔らかみを感じる。  
kのマナとも付き合いは長くなったが、こうして肌に触れるなどあまり経験したことはない。  
そう思うと、どうにもロゼはやりづらさを感じるのだ。  
「……あ、ん……ロゼさん、その辺は別に汚れてませんってば」  
「あ……いや、そりゃ、後ろからだと見えないだろ……」  
「だったら前に来てくれればいいじゃないですか」  
「……それは、やめとく」  
ここまで来て断るのも、これはこれで不自然なものだ。  
それくらいはロゼも承知しているけれど、どうにもままならぬ少年の矜持である。  
意地になってでも後ろから洗ってやろうと、手のひらで擦っていく。  
「あう……ですから、その辺は別に……ん、ふっ……もうちょっと上の方ですから」  
「上……」  
手を動かす。  
ゆっくりと。ゆっくりと動かすに、不意に、手の端が、柔らかなふくらみに触れた。  
「あ」  
「もうちょっと上ですよ、ロゼさん」  
「あ……いや、もうちょっと上って、これ以上は無理だろ」  
「どこが、ですか?」  
 
振り向いたウィムの顔を見て、ロゼは胸の鼓動がひどく激しくなるのを感じた。  
平気そうに会話をしていたが、既にして彼女の瞳もまた、どこか潤んだように熱を帯びているではないか。  
「……こうなるの、予想はできましたよね、ロゼさんも?」  
「俺だって、そりゃ、男だから……って、これ以上は本気で洒落じゃすまなくなるぞ……  
 こっちだって、我慢の限界ってやつがあるんだからな」  
「……構いませんよ、ロゼさんなら」  
「お前なっ……!」  
ウィムがその手で、まだ戸惑っているロゼの右手に触れた。  
そのまま導くようにして。彼女の、その豊かな膨らみの片方へ――  
右の乳房を包み込むように、少年の手を置く。  
「……お嬢様に知られたらそれこそ命がないぞ、これ……」  
「お嬢様のためでもあるんですよ、ロゼさん」  
ロゼの右手に重ねたその手を、ウィムはゆっくりと動かす。  
やはり、マナの特性らしく、この状況下にあっても微かに冷たい彼女の手と、そして。  
軽く触れただけでもわかる。やわらかなスポンジ菓子のような手触りの、ウィムの乳とに挟まれて。  
行き場を失ったロゼの右手は、つられるように揉みしだく動きを見せる。  
「お嬢様のため……って、どういう意味だよ……」  
問いながらも、段々とロゼは己の理性が欠けていく錯覚を覚える。  
この柔らかさは反則だ、とそんなことすら思いながら。  
「だって、最近のお嬢様ってば、もう……あ……ん、あ……  
 ん……ふ……ぅ。最近のお嬢様は、凄く直接的、というか……ロゼさんと既成事実を作ろうとしてますよね?」  
「……む」  
言われてみれば。  
こうしてウィムの胸を揉みながらなので、ますますそう思えるのかもしれない、が。  
最近のリリアの作戦は、大胆……どころか形振り構っていない節さえある。  
ロゼを酔い潰そうとしただとか。ロゼにセクシーさで迫ろうとしただとか。  
そのあたり、まあ、彼女が自爆したせいで結局成し遂げられることはなかったのだが……  
「ここでロゼさんがお嬢様の思いを受け入れたら、後は一直線ですよね……?」  
「……だろうな、多分」  
もう、ウィムの手の導きは関係ない。ロゼだって男の子だ。  
空いていた左手も動かして、両方の乳房を揉み、擦り、楽しむ。  
「あ……んぁんっ! そんな感じで、もっと激しいくらいに私のおっぱい……あ、ひぅっ」  
「それで……こうするのがお嬢様のため、ってのは……」  
揉みほぐしたせいか、当初よりは暖かさを持った水のマナの乳房の先端を。  
その、薄い桃色をしながらも、青の冷たさを持つかのような、彼女の乳首を指で軽くつまんで。  
ロゼは、そう問いかける。  
 
「ロゼさんも、こういうのは経験ない……ぃ……ん、ないですよね……?  
 ……もうちょっと引っ張ってみても……いい、ですよ、んぅっ……」  
「こんな感じ……か?」  
強くと言われても加減が難しいので、あまり大胆には動かせない。  
せいぜい、少し抵抗を感じる程度に、ウィムの乳首を引っ張るだけだ。  
だが、それでも彼女は悩ましい吐息とともに、僅かに身をよじる。  
「……経験は、そりゃ、ないさ。今までそんな相手も暇もなかったからな」  
「ですよね? ……お嬢様だって、はぁ……ん、経験なんてある訳ありませんから……ぁ……  
 ロゼさんもはじめてで、お嬢様もはじめてでは……きっと、上手くいかないと思うん、んっ……です」  
ロゼは両の手のひらを広げて、再び乳房を掴む。  
たっぷりとした量感は、決して小さくはないはずの少年の手にも収まりきらない。  
少しの慣れも手伝って、握るように力を入れて、自在にその膨らみを弄ぶ。  
「……そういうもんかな」  
「そう……くぅん、強っ……はぁ、ふう……  
 ……ですよ、ロゼさん。絶対、はじめて同士で上手くなんてぇ……いく訳、ないんですからぁ……」  
ぐ、と手に力を入れる。  
握力によって歪められたウィムの乳房は、その弾力をロゼの手に返してきた。  
「こんな風に、ロゼさんを鍛えておけば……はっ……あ……!  
 ……お嬢様に、ロゼさんがいっぱい、気持ちよくしてあげられるようになるんです。  
 そうしたら、お嬢様だって幸せになれて、私も……ん、くう、役目を果たせるんですよ」  
存分に感触を愉しんだ、その手をロゼは離す。  
ウィムのその膨らみには、くっきりと手形が残ってしまっている。  
それくらいに、蹂躙されたのだ。  
「……だったら、俺としてもお嬢様のために……思いっきり、やらせてもらって……いいんだよな?」  
「やる気になりました? ロゼさんも……はぁ、ん……」  
答えるかわりに、今度は腕だけではなく、身体全体でウィムを後ろから抱きしめる。  
全身で抱きしめるということは、当然、下半身だって密着する。  
「……あ……凄い、ですね、ロゼさん?」  
「……ああ」  
素っ気無く答える。というより、素っ気無くしか答えようが無い。  
ウィムの背中に密着させた、ロゼ自身の滾ったペニスは、彼女のひやりとした肌にその熱を刻み込んでいたのだから。  
 

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