【首輪】 エロなし  
 
 
 
放課後、ヴェインはアタノール室で調合を行っていた。  
この部屋を管理しているはずのモリッツは急用が入り帰らなければならなかった。  
だが、普段の行いが良いことも手伝い彼はヴェインに戸締りを頼み退出してしまう。  
広い部屋で一人というのは心細いものがあったものの、隣にいる親友サルファが彼の話相手になってくれていた。  
ようやく終わりの目処が立ち片付けを始めようとしたところへアトリエ仲間で今年入学したばかりのアンナがやってきた。  
「先輩、何作ってるんですか?」  
彼女は好奇心旺盛でなんにでも興味を示してくる年頃だった。  
一年生といっても12歳と言うのは異例の若さだといえる。  
猫に喩えるならまだ子猫、やんちゃ盛りなのだからその性質は仕方が無いものだ。  
「あ、これ?」  
ヴェインは先ほど調合を終えた首輪を手にとり彼女に見せた。  
普段使う首輪より一回り大きな特殊な首輪。  
「へ〜、先輩の武器って首輪なんですよね」  
実際彼の武器となるのはサルファ自身だからその言い方には語弊があるだろう。  
ヴェインの足元でサルファが不服の声を上げるが二人には相手にされなかった。  
「でも武器以外にも作ったりするんだよ」  
そう、ここアタノール室では武器以外にも防具やアクセサリーなどの調合も行われる。  
まだ錬金術を始めたばかりのアンナがアタノール室に偏見を持っていてもおかしくは無い。  
「そうなんですか?」  
彼女は爛々と瞳を輝かし、ヴェインの言葉に食いついた。  
「例えば今のコレ」  
片付けの手を休め、不意に訪れた来客に対し接待をする。  
見るところ普通の何の変哲もない皮製のベルトに見える。  
「コレ?ですか?」  
他の首輪に比べると若干大きく、サルファの首では遊んでしまうことは火を見るより明らかだった。  
「えっと…首輪は首輪でもチョーカーってファッションなんだけど…知ってる?」  
「知らないです。この首輪がファッションなんですか?」  
聞きなれない単語に素っ気の無いアイテム。  
これらにことに首をかしげながらアンナはヴェインに問いかける。  
長さや太さから腰に捲くベルトには使えそうに無いが猫用というならそれすらも合点がいく。  
「そうだよ、付けてみるかい?」  
今度はヴェインがアンナに問いかける。  
「え?私が!?」  
アンナは驚き目をまん丸に見開いた。  
てっきり猫用と思っていたものを人間がつけること、さらにそれを薦められたことに彼女は戸惑いを隠せない。  
しかしそんな感情より彼女は溢れる好奇心の方が勝っていた。  
「似合うかなぁ…」  
謙遜しながらも彼女はすでにつける気満々でチョーカーを眺めていた。  
「ミスマッチかもしれないけどアンナなら似合うんじゃないかな?」  
和服に黒い皮製のチョーカーと、出来上がりを想像するアンナ。  
 
浮かび上がる光景にヴェインの言う通りミスマッチという言葉が適してると思いながらも彼女はまんざらでもない様子だった。  
「先輩がそういうなら…」  
この部屋に鏡が無いのが残念と思ったものの、たとえ似合わなくてもヴェイン以外にギャラリーが居ないことで彼女は承知する。  
足元でアンナとヴェインに存在を忘れられたサルファは不貞腐れ、体を丸めて大きなあくびをしていた。  
『にゃ〜』(どうせ似合うはずがないだろうけどな)  
長く一言呟いた後、目を閉じ彼は不貞寝を決め込む様子だった。  
「じゃあ、つけてあげるから後ろ向いてね」  
素直に従うアンナ。  
しなやかな皮を少しゆるめに止め、指一本分の遊びを入れる。  
彼女の白い首筋に黒い首輪がアクセサリーとして施された。  
「結構良い感じじゃない?」  
アンナの正面に回ったヴェインは当たり障りの無いな感想を述べる。  
実際のところはアクセントにはなるがアンナの衣装からすればファッションセンスが疑われそうな代物である。  
「でもなんか…あれ……変です」  
アンナはヴェインを見つめながら言った。  
「どうしたの?」  
顔をしかめ、歯噛みするアンナ。  
息を吸い込んでは歯を食いしばったりと、多彩な表情を浮かる様子は百面相のようだ。  
「体が動かないんです…あれ、あれあれ?」  
本人は必死に手足を動かそうとしているのだろうが体は直立不動の姿勢を保っていた。  
ヴェインは思い出したように手を打つと、ポリポリと自分の頭を掻き答える。  
「あ、そういえばこの首輪をつけると首から下が自分の意思で動かなくなっちゃうんだ」  
彼の言葉に現状を理解するアンナ。  
「…自分で外せないってことですか?」  
物分りが良い、というよりは彼女の置かれた現状がそうなのだ。  
言葉を発せる、目は閉じれる、耳は聞こえる、でも手足は一向に動かすことができない。  
「そうだよ」  
にこりとヴェイン。その笑顔は悪戯に成功した童のようだ。  
ヴェインとは逆に悪戯された側のアンナは悔しさに顔をしかめる。  
その表情にはむしろ苛立ちさえ感じさせるものがあった。  
「あの、先輩。外してもらえます?」  
先ほどまでの声色とはまったく違う質の言葉で彼女は言う。  
表情からみてとるにアンナは明らかに怒っているのだ。  
「嫌」  
ヴェインは即答していた。  
意外な返事にアンナは耳を疑った。  
「え?なんて?」  
怒りを忘れて彼女は再度ヴェインに尋ねた。  
「聞こえなかった?嫌って言ったんだけど」  
言い終わるが早いか、ヴェインの手は無抵抗になったアンナに伸びていく。  
 
 

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