今日も長い一日が無事終わってくれた。
わたしはふうっと扉の前で短いため息を吐き出す。
吐く息が白くなかったのは冬が終わり春が訪れた証。
そんなことを思いながらバッグの中から鍵を取り出し、扉の錠を外した。
カチャカチャ…
けど、そこにいつものような手ごたえが感じ無かった。
鍵は何事もなかったかのような反応を示す。
鍵を掛け忘れたことなんて今まで一度も無かったはずだけどすでに扉の鍵は開いているようだった。
違和感を覚えつつも警戒しながらノブを捻り、扉を押し開ける。
いつものように雑多な物が思い思いの場所に居座っている部屋。
他の人に言わせれば散らかった部屋。
わたしにはどこになにがあるか分かるから散らかっているわけじゃない……はず。
「………」
扉を開けた空間には見慣れた物が無くなってた。
中に佇む見ず知らずの女の子。
部屋の中央で置物のように姿勢を正してこちらを見ている女の子。
紅の髪に青い目、異国情緒溢れる服に見覚えは無かった。
慌ててわたしは扉を閉めて確かめるように表に掛っている表札を見る。
「フィロメール・アントゥング」
確かにわたしの名前。
中に居たのはいったい?
自分を落ち着かせるように大きく深呼吸を一度。
再びノブを手にとり、扉を開ける。
今度はさっきより入り口近くに少女の姿があった。
「おかえりなさい。フィロメール先輩」
彼女はそう言って深々と頭を下げた。
「えっと、君は?」
質問したいのは一つじゃなかったけどわたしの口からはそれを聞くのがやっとの思いだった。
「申し送れました、私、本日よりここでお世話になるアンナ・レムリです。今年アルレビス学園に入学いたしました」
滑舌よく彼女は自己紹介をした。
「えっと…アンナちゃん?ここ、わたしの部屋なんだけど…」
「ハイ!うかがっております。教頭先生の意向もあり私もフィロメール先輩と一緒の部屋で住まわせてもらうことになりました」
え?わたし先生からそんなの聞いてないけど…
「それと先輩、掃除はこまめにしておかないと……キノコ…生えてましたよ」
言いにくそうに言葉を濁しながら彼女が告げる。
「えっと……そのキノコは非常食にと…」
「あれは食べれません!」
言い終わるより早く水をはじいたように答えが返ってくる。
凛とした態度を見せるアンナちゃん。
正直やりにくい相手だな〜って思ったのも束の間、彼女は口を押さえてクスクスと笑った。
「やっぱり、教頭先生から聞いたとおりですねフィロメール先輩」
この子は一体何を吹き込まれたのか気になったけどあえて詮索はしないように自分の部屋に足を踏み入れる。
最初に飛び込んできたのは壁一体に積み上げられた様々な物体。
絶妙なバランスで最小限のスペースにそれらは積み上げられてた。
「なに…これ?」
「はい、先輩の部屋にあったものを片っ端から積み上げてできた壁です」
ある種、匠の業とも言えるこの状態に私は開いた口が塞がらなかった。
「これ、どうします?」
その壁をバンバンと手で叩きながらアンナちゃんは問いかける。
上の方がグラグラと揺れたものの崩れることなく揺れが収まり元の位置に落ち着いた。
「ん〜、片付けちゃおうか…」
溜息一つ。
わたしは床の上に腰を下ろすと肩からかけている鞄を置いた。
鞄の蓋を開けて中を覗き込む。
うん、おそらく大丈夫。
「じゃあアンナちゃんも手伝ってもらえるかな?」
「もちろん、いいですよ。…ところでどこに運びます?」
わたしは予想通りの彼女の言葉に用意していた台詞を返した。
「ここに片っ端から突っ込んじゃって♪」
「へ?」
彼女の驚いた顔に間抜けな返事。
そんな彼女を尻目に私は床に口を広げて待っている鞄の中に塔になった物体の塊をどんどん投げ入れていく。
恐ろしいスピードで飲み込まれていく様を呆然と見つめるアンナちゃん。
半ば放心状態の彼女をよそに作業を続けるわたし。
そうこうしているうちに壁を成していたものはあらかた鞄の中に収納されてしまっていく。
「な、なななな……!」
「おしまい♪っと」
わたしは手についたほこりを払い、疲れた体を床の上に投げ出した。
久しぶりの大仕事に体が休憩したいと嘆きかける。
「なんなんですか!?い、今の!?」
幼い子供にはちょっと刺激が強すぎたかなっと重くなった瞼を閉じる。
「ひ・み・つ」
あぁ、すっごく眠い…
アンナちゃんがなにかわたしに尋ねてるけど言葉として耳に届いてこない。
まどろみの中、最近疲れやすくなっちゃったなぁって思っているうちにわたしは深い眠りに落ちてしまっていた。
次の日、アンナちゃんがグンナル先輩に連れられてアトリエに来たときはびっくりしたけど運命ってあるんだなって実感しちゃったりして。
それからは食事もお風呂も寝るときも、授業を除いて彼女がわたしの視界に居るのは当然のことのようになっていた。
一人で考える時間が無くなったのは今のわたしにとっては救いになっていた。
わたしのことを姉のように慕ってくる彼女を邪魔に思ったことは一度もない。
そんなわたし達が周りから姉妹のようだと言われ出すまでそれ程時間は掛らなかった。
二人の共同生活が始まってあっという間に一ヶ月が過ぎていった…
そんなある日…
あたりは暗闇の世界…
わたしが目を開けていないから暗いのかも知れない。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
扉越しに聞きなれた声が耳に届く。
その声がくぐもって聞こえたから扉の向こう、そう思った。
女性の声。
とっても嬉しそうな歓喜の声。
「ありがとうございます。なんとお礼をすれば良いのか…」
続いて男性の声。
やっぱり聞きなれた声。
「いえ、私はできる限りのことをさせていただいたまでです」
低い男性の声。
昔耳にしたことがあるような、懐かしく、温かい感じがする声。それでいて陰りを持つ声。
「あの娘は助かったんですよね?もう病気の心配はしなくていいんですね?」
女性の問いかけ。
その女性はわたしのお母さん…聞きなれた声はわたしのお父さん…
もう一人の男の人は?
「病気は治りました…ただ……」
彼の言葉は重い空気を吐き出すように聞こえる。
「……ただ?」
お父さんは男性に続きの言葉を促す。
その声色には先ほどの喜びが消えている様子。
暗闇に慣れ始めた目が三人の姿を映し出した。
同じくして声も鮮明に耳に届くようになった。
「彼女の寿命は……あまり残っていません」
「ど、どう言うことですか?」
お父さんの言葉に戸惑いと悲喜の色が窺える。
「私のミスです。彼女から病魔だけではなく残った寿命をも取り除いてしまいました……」
言い終えると男性がガタっと膝から床に折れる。
ガラス越しに見ているようにその光景がわたしの目に映って見えた。
頭を地に付け、お父さんとお母さんに謝る男性。
「申し訳ありません!!」
「今、なんておっしゃいましたか?」
お父さんが気の抜けた声で聞き返す。
聞こえなかったわけじゃないと思う、わたしがしっかり聞こえたんだから…
「そ、そんな…助かったと……言われたじゃ、ありま……せ…ん…か」
途切れ途切れに辛そうに言葉を繋ぐお母さん。
ゆらりとゆらりと足元がふらつき体が後ろへと倒れかかる。
崩れそうになるお母さんを慌てて支えるお父さん。
「あの子は…後どれぐらいでしょうか?」
気丈なはずの、優しいはずの、いつも笑っていたはずのお父さん。
その顔は生色を失い、衰微してるようだった。
男性は両手を地面に付き、俯きながら頭を左右に振った。
「まだ…まだあの子は九歳なんですよ!それなのに…なんて酷薄な……」
「すいません。私にはあの娘さんが後一年か、五年、十年とも分かりません」
張り詰めた空気。
嫌だ、わたしこんなのダイキライ。
「なぜ…あの子はまだ……恋もしていないのに……」
「…………」
お父さんとお母さんが何を言ってもただ謝り続ける男性。
きっとあの人がわたしの病気を治してくれたのに…それなのに責められてる。
無意味に続くやり取りの中、部屋の奥の扉がゆっくりと開いた。
みんなが揃ってそちらに顔を向ける。わたしも同じように…
扉から姿を現したのは…わたし。
まだ小さく病弱な頃のわたし。
三歳の頃からずっとベッドで寝ていた頃のわたし。
これは物心が付いて初めてベッドから降りた時。
記憶がそのときと吻合する。
扉の向こうでお父さんとお母さん、それと見ず知らずのおじさんがもめてて、それを止めに行った時の事。
そしてわたしは口を開いてこう言うの
「…オジサンアリガトウ。ワタシアルケルヨウニナッタヨ。
オジサンノオカゲ、アリガトウ。ダカラオトウサン、オカアサン、オジサンモケンカシナイデ…オネガイ。
ワタシダイジョウブ、コイハシナイカラ、オカアサンナカナイデ」
今もまだ一言一句はっきり覚えてるあの時の言葉。
言った後にお母さんはわたしに抱きついて泣きじゃくっているの。
お父さんはおじさんと一緒に部屋から出て行ってしまうの。
きっと恋をしなければお母さんは泣くこと無いんだって……
大丈夫、わたしは恋なんてしないから…お母さんには泣いて欲しくないんだもん。
みんなに喧嘩して欲しくないんだもん。
そしてわたしは夢の終わりに目を覚ます。
久しぶりに見た夢…思い出。
目から熱いものが溢れ、頬を伝い落ちる。
決まって目覚めは一人…だったのに今日は違っていた。
「先輩、先輩?」
視界を多い尽くすアンナちゃんの顔。
とっても心配そうにわたしを見つめている。
「せ…ん…ぱ…い?」
「あれ、あれれ?どうしちゃったのかな、わたし…」
「うなされてました。とても…辛そうでした」
再びこみ上げる涙。
「うっ…うぅ……ぅぅうう……」
わたしはアンナちゃんにしがみつき嗚咽を漏らしていた。
彼女に救いを求めるように、無我夢中で抱きついていた。
温かい手が優しくわたしの頭を撫ぜる。
「先輩、私はずっと傍に居ますから安心してください。ずっと…」
小さな手が背中を擦る。
妙な安心感。
彼女はわたしが落ち着き、涙が止まるまで優しく、頭を、体をさすってくれていた。
…
……
………
「もう大丈夫…」
わたしの中にあったもやもやとする心の蟠りが消え、落ち着きを取り戻した。
月明かりも無い少ない光源の中でもはっきりとアンナちゃんの顔が見える。
その物柔らかな笑みは、わたしのお母さんとオーバーラップする。
ごめんなさい…わたし人を好きになってた…約束を破ってた…
ヴェインくんを好きになって、彼に言われて恋をしていたことに気づいた。あの日…
「先輩、辛い恋したんですね?」
「え?」
彼女の問いに驚くわたし。
「うわごとで言ってました…恋はしないからって」
「あっ…」
「最近、先輩が私に好意を持ってくれないかなって思ってたんですけど、無理そうですね。
……あ、でも良いんです。私先輩のことが好きですから嫌いじゃなかったら受け入れてくれれば…」
彼女の指がわたしの涙を拭った。
そしてその後を舌が追いチロリと舐める。
「先輩、受け入れてもらえますか?……毎日、毎日、先輩のことが頭の中に溢れてて…」
眼前に迫る彼女の顔、目を伏せ、唇が迫る…そして触れる…
それは温かくて、柔らかくて、しっとりと濡れていた。
彼女の口付けはたどたどしく、彼に比べて幼稚で、児戯に類するものだったけど
それは彼女の気持ちが痛切に伝わるには十分なもの。
「先輩…」
アンナちゃんの呼び掛け。
その目は潤んでいて、声が細く揺れている。
その時のわたしはすでに彼女を受け入れていたのだと思う。
わたしのパジャマのボタンを一つ、また一つと震える小さな手ではずしていく様をじっと見つめていた。
はだける服に、露になる肌。
普段から寝苦しいと言う理由で私はパジャマの下には何もつけていない。
ショーツも履かないというわたしをニケちゃんは変だと驚いていたことを思い出す。
アンナちゃんは私の胸に唇を這わせ、敏感な部分を丹念に舐め上げる。
優しく、腫れ物を触るように、繊細で微弱な刺激。
「先輩…綺麗です……とても…とても」
肌の質感を確かめるように彼女の手が体を滑る。
幼少時ずっと病床に伏せていたわたしの体は女性的魅力を持っていないことは自覚しているつもり。
胸も、お尻も、ふくよかさは無く骨ばった体。
それでもアンナちゃんはわたしの体を愛でながら、何度も何度も呪文のようにそれを繰り返していた。
体を通して心に浸み込ませるように…
「ぁ…」
口の中に蓄積されていた熱い空気が漏れる。
彼女の愛撫に絆された体は驚くほど過敏に感んじていた。
零れる喘ぎを堪えようと咄嗟に手で口を押さえる。
それでも塞ぎきれない分は手の間から外へと落ちていった。
「あぁ……あっ……あ、っく…あぁ…」
終始穏やかな手付きでアンナちゃんはわたしを愛でる。
一瞬で燃えた炎ほど消えやすいと言うけど、燻り燃え始めた炎は勢いが衰えにくいと聞いたことがあった。
まさに今のわたしがその状態だった。
アンナちゃんがわたしの手をとって指を舐める。
ただそれだけなのに甘美な想いで頭が痺れる。
「先輩、良い…ですか?」
わたしを見つめる潤んだ瞳が揺らいでいる。
アンナちゃんの言葉の意味はすでに分かっていた。
ズボンに手を掛け、それを取り払う確認。
快楽に委ねたい体を阻止する理性。
わたしの手が彼女の手の動きを阻害する。
同じ過ちを犯そうとするわたし自身の最後の攻防。
「先輩は受け入れてくれればいいんです。私が一方的に愛してるだけですから……恋とは違いますよ」
俯いたままアンナちゃんはそう告げる。
わたしを構ってくれた彼女の想いを踏みにじることができなかった。
阻害していた手ははらりと彼女から離れていった。
彼女を受け入れるために……
ぺチャぺチャ、ぺチャぺチャ…
脚の間から猫がミルクを舐めるような音が聞こえる。
ぺチャぺチャ、ペチャペチャ……
単調なようだけど、時折見せる変化にわたしは体を捩る。
上半身でそうしたように、彼女は再び種火を燻らせ徐々に発火させていくようだった。
アンナちゃんの舌は太ももを滑り降り、膝へ、足首へ、脚の先端にたどり着き足の指を口に含む。
指の間を舐めては再び彼女は体を登り始める。
最初や二順目はくすぐったさを堪えたものの、何順と繰り返すうちにやがてそれが甘美の巡歴に変わっていく。
大腿まで登り詰めた彼女は股間に顔を埋め、秘裂に唇を這わせていく。
「はぁあ……あぁ……はぁんぅ」
わたしは待っていた、彼女がそこに辿り着くのを待ち焦がれていた。
自ら腰を突き出すように、彼女の頭を手で抑えそこに留まって欲しいと…
もっとそこを、愛でて欲しい、愛して欲しい、弄って欲しいと…
しかしアンナちゃんはわたしの欲求に答えてはくれなかった。
「先輩……私を受け入れてくれますね?」
そのとき彼女は確信が欲しかったのだと知る。
欲望の炎を燻らせていたのではなく焦らし、あえて燃やそうとしていなかったのだ。
拒む意思を砕いた上で彼女はわたしを攻める。
コクリ
小さく首を立てに振って彼女に答える。
「…聞こえません。先輩、私を認めてくれますね?」
威圧感すら覚えてしまうような声色で彼女は再度問い詰める。
今までの過程が、そして現状が私から選択肢を奪ってしまっていた。
「うん。アンナちゃん…お願い」
消え入るような声だったけれど、彼女の耳にはしっかり届いたようだった。
「先輩、嬉しいです!それじゃ、逝かせてあげますね♪」
彼女の満面の笑み。
いつもの屈託の無いのはずの笑顔が背筋に寒気を走らせる。
子猫と思っていたはずのアンナちゃんの姿がライオンへと射影される。
そんな彼女が再び股間に顔を埋め、わたしを愛でた。
今までとは違う乱暴で、荒々しい舌戯。
待ち焦がれていたわたしの体は一気に燃え上がり激しく亢奮する。
「あっ!ダメ……ナちゃん、あぁっ、激しっ…あっあぁああ」
「先輩が望んだんですよ?お願いしましたよね?」
アンナちゃんは起こし体をわたしに重ねもたれ掛かってくる。
くちゃくちゃと股の間から聞こえる水声…
彼女の指が私の中で踊り、舞っていた。
「あぁ…だ…だめぇ──、あぁぁ、はぁ、はああん!」
「ダメはダメです。さっき認めてくれたばかりじゃないですか」
アンナちゃんが耳打ちをする。
「せ・ん・ぱ・いv」
彼女は艶を帯びた声と共にふぅっと耳に息を吹きかけてくる。
真っ赤になった耳に生暖かい風が不快だった。
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ……
アンナちゃんの指がわたしの中をこね、掻き混ぜる。
強く、激しく、荒っぽく…
快感は体中を駆け回り燃え盛る炎のようにうねりを上げ爆発する。
小さな爆発は次を誘爆し、より大きく交じり合い、身を焦がす。
「あ、あぁ……だめぇえ!も、もぉ……ふあぁぁあ!」
「先輩、逝っちゃってください。怖いことは無いですよ、私が見届けますから…」
「あぁぁぁ、ダメダメダメダメェ───!いく……んっふぅ、いくぅうう───!!」
体が弾けるような衝撃が襲ってくる。
それは見も心も焦げる様な感覚。少し前に感じた蕩けるとは真逆の情意。
そして目の前が真っ白になって意識が遠のいていくのが分かった。
消え行く中、夢から覚めたときのようにアンナちゃんの顔だけが視界に残っていた。
次に目が覚めたのは鳥のさえずりが聞こえた頃だった。
あの後の記憶が残っていない…
わたしの隣で静かな寝息をたてているアンナちゃん。
不思議なことになぜか彼女は服を着ていなかった。
そしてわたしも…当然と言えば当然かなどと自分に相槌を打つ。
わたしが起きたのを感じ取ったのか、アンナちゃんが小さくうめいて目を開けた。
「あ、フィロ先輩。おはようございます」
ガラガラ声で彼女は挨拶をする。
わたしも挨拶を返そうとしたけれど、喉の渇きのあまり声が出せなかった。
「せんぱい」
どこかでみたことのある仕草。
目を閉じ、顎を突き出すようにアンナちゃんがわたしに振舞う。
「……」
対応に戸惑い、たじろぐわたしにアンナちゃんは催促する。
「せ・ん・ぱ・い!」
やむを得なく彼女に唇を重ねる。
そっと触れる程度のキス。
それを終えた後もアンナちゃんは目を閉じたまま考え込んでいるようだった。
やがてその顔がにやけ、うふふと不適な笑いを漏らす。
「アンナ…ちゃん?」
呼びかけに大げさに驚いた反応を見せるアンナちゃん。
彼女が性癖以外に変わった癖があるというのを知ったのはそれから二日後のことでした。
□終わり□