時の流れは早く、すでに学園に入ってから一度目の秋を迎えようとしていた。
学園生活は課題を終えればそれほど変化がある日常ではない。
むしろ同じ事を繰り返し、その中で少しずつ前進していくものだと思う。
僕とフィロの関係もそんな感じで急激な変化は無かったものの着実に変わりつつあった。
いつものように先輩とニケ、そして夏からアトリエに加わったパメラが帰宅してしまう。
いつもと言えばいつものことだけど、最後まで居残っているのは僕とフィロだった。
アトリエに時計こそ無いものの大きな窓から外を見ればおおよその時間は予測できる。
バタン!
突然釜の方から大きな音が聞こえた。
そこでは確かフィロが一人で調合を行っているはずだった。
僕は椅子から立ち上がると足早に釜の方へと向かう。
先ほどまで調合に勤しんでいたフィロの姿が見えない。
それもそのはず彼女は床の上に倒れ込み、その上を風のマナが必死に飛び回っていた。
「ど、どうしたんだい?」
*フィロが、フィロが倒れちゃった!
風のマナにしては珍しく悲痛な声をあげる。
尋常じゃない状況に僕は慌ててフィロの体を抱き起こし目を覚まさせようと肩を揺すった。
「フィロ?フィロ?」
名前を呼びかけたところで彼女からの返事は無い。
普段聞こえることのない周囲で飛び回るマナが風を切る音が耳にうるさかった。
それほどに此処は静寂が包んでいたのだ。
「っ!」
僕は違和感を感じフィロの口元に手を当てた。
......
彼女は息をしていなかった。
「...ど、どうしよう」
思考が止まる。
今此処には頼りになる先輩もニケも居ない。
もしパメラが居たところで彼女なら仲間が増えると喜びかねない。
*お願いフィロを助けてあげて!
僕の隣りで取り乱す風のマナ。
『何をやっている。先生にでも診てもらえ』
サルファのその言葉が僕を動かした。
慌ててフィロの体を担ぎ、全速力で保健室へと向かう。
「フィロ!頑張って!フィロ!」
返事のない彼女に向かって言葉を投げかける。
まるで自分を励ますように、何度も何度も彼女に呼びかけ続けた。
その時フィロの体は一枚の羽根のように軽かった......
「もう大丈夫ね。...で、詳しい状況を聞かせてもらえるかしら?」
保険医のメルヒス先生が僕に問いかけてくる。
フィロは奥のベッドで安らかな寝息を立てて眠っていた。
静かながらも聞こえてくる規則正しい寝息は生きている証、僕を安心させるには十分だった。
「あの...僕が参考書を読んでいると、突然倒れてしまったようで...」
「ふぅ〜ん」
先生は足を組み替えて僕の方に身を乗り出してくる。
眼前の前に迫る先生の唇。
彼女はぺロリと舌なめずりするとルージュが妖しく光って映る。
先生には影で様々な噂が飛び交っている。
男子生徒との如何わしい噂なども耳にしたこともあった。
ごくり...
僕は口に溜まった唾を嚥下する。
先生の指先がそれを辿るかのように僕の喉元をなぞった。
「うふふ。それじゃ、練習しておきましょうか」
「な、な、なっ、なにをですか!?」
逃げようにも体が動かなかった。
先生は蛇、僕は睨まれたカエルのように身動き一つできなくなってしまっていた。
唇がが触れ合うぎりぎりのところで先生は顔をそらす。
「うふふ......次に同じことがあったときに対処できるようにね」
ごく...
今度はさらに大きく喉が音をたてて唾液を飲み下す。
先生の吹きかける息が僕の耳をくすぐった。
「こっちにいらっしゃい」
先生は椅子から立ち上がると奥のベッドへと向かって歩き出した。
長い髪にまとわりつき残り香が鼻先をかすめ、風のマナに遠くへ運ばれていく。
「どうしたの?」
「...は、はい」
僕は急き立てる先生へ足早に駆け寄った。
次にフィロが倒れたとき、隣りに居るのはきっと僕なのだから...
「合格よ。コツは掴んだわね?」
「はい...ありがとうございます」
先生が僕に教えてくれたのは人工呼吸という救命方法で、呼吸を停止した相手に有効な手法ということだった。
肺を押し、口から息を吹きかける、それらを交互に繰り返すことによって肺の自発活動を促すらしい。
最初は先生とのキスも、胸を触ることにも抵抗を感じたものの
邪な気持ちを失くせばそれは自然に救命方法の予習として行うことができた。
「じゃあ復習してましょうか」
「...えっと?」
そう言ってベッドに横たわったまま先生は僕の首に腕を回した。
意表を付かれた僕は何の抵抗も無く彼女のなすがままにされてしまう。
抱き寄せられ、先生の顔が隣接距離に近づく。
先ほど実習したはずの人工呼吸...その復習......
唇が触れ合い、ふわりと先生の息が僕の中に注ぎ込まれる。
熱っぽい色香を帯びた先生の吐息。
僕の乾いた唇を潤すように濡れた唇が這う。
彼女は僕の唇の綻びを見つけるとそこから舌先を挿し入れてきていた。
わずかな隙間から唇を抉じ開け、口腔へと進入し、その中で探るように蠢いている。
「んぅ......はぁ......」
先生の口の端から時折甘く熱い吐息が漏れる。
僕の意思は彼女の行動に翻弄され、対処すべき手段を出しあぐねていた。
彼女のキスにそれだけで僕は興奮を覚えてしまっていた。
先生は僕の手を掴むと自ら胸へと誘導し、押し付ける。
フィロとは違い大人の女性の膨らみを持った先生の胸。
それは指が食い込むような柔らかさと、押し付ければ押し返してくる弾力性を持っていた。
胸にあてがわれた僕の手の指が自然と動いてしまっていた。
無意識のうちに欲望を見たさんかと...
「んんぅう......」
僕の耳に女性の呻き声が聞こえた。
声の主は先生ではなく、隣りのベッドで寝ているフィロだった。
フィロは寝返りを打ったようだった。その弾みに声が漏れてしまったのだろう。
現に彼女の目は固く閉ざされたまま開く気配はなかった。
丁度その時、校舎の中に鐘の音が響き渡る。
キンコーン......
夜の校舎に不気味に響く鐘の音。
先生もその音を聞き入るように動きが止まった。
普段何気なく聞いているはずのチャイムが胸に染み入る。
「あら、いけない」
鐘の音が鳴り止んだのと同時に先生は何かを思い出したようにベッドから上体を起こした。
ばさっと長い髪を払い時計の方へ目をやる。
先ほどまで先生の胸に触れていた僕の手が空しくその場を漂っていた。
「今日は約束があったんだわ」
先生はうわごとのように呟くとおもむろにベッドから立ち上がり、何事も無かったかのように入り口の扉の方へと歩き始めた。
あっけにとられその様子を呆然と僕は見送っていた。
扉の前で先生は立ち止まりこちらに振り返りざま
「しっかりその娘を送って帰りなさいよ」
と言い残してこの部屋を後にしてしまった。
「......」
すぐには言葉を発することができなかった。
なんとも言えない喪失感、行き場の失った期待感...
しばらく先生が消えた扉を眺めていたが、背後から突き刺さる視線を感じ僕はそちらに顔を向けた。
「.........」
視線の主は眠っていたはずのフィロだった。
その顔は怒ってるようにも思える。
「フィ、フィロ...」
「......」
彼女はまだ声を出すことができないのか黙って僕を責めるような眼差しで睨み付けていた。
「あ、あの...大丈夫?ほら...きゅ、急に倒れたから...」
「ヴェインくん!」
「...はい」
ベッドに寝たままの状態でフィロは僕を呼ぶ。
その声色からも表情からも彼女が怒っているのは分かっていた。
緊迫のあまり辺りの空気が凍る。
「ご、ごめん...途中までそういうつもりじゃなかったんだけど...」
僕はただ謝るしか怒っている相手をなだめる方法は知らなかった。
成り行きとはいえ彼女を裏切るような行為をしたのだから謝って当然といえる。
「......ヴェインくん。...ありがとう」
フィロの言葉が胸に痛く刺さる。
「ごめん、僕はフィロを...」
確かに彼女を救ったものの、その後の行為は礼を言われるようなものではない。
「ううん、ヴェインくんはわたしを救ってくれたもの」
「でも、僕はフィロを裏切ってしまった...いけないことをしてしまった...ごめん」
彼女の声より大きく被せるように僕は訴える。
そうしなければ罪悪感に自分が押しつぶされてしまいそうだったから。
こうして僕はいつも自分の逃げ道を探っていたのかもしれない...
「じゃあ許してあげる代わりに...」
「代わりに?」
彼女の言葉をオウム返しで繰り返す。
「ヴェインくんが欲しい♪」
彼女はベッドから上半身を起こし、笑って言った。
卑怯にもその笑顔は僕にだけ見せる特別なものだった。
「だ、だめだよ。さっき倒れたばかりだから」
「え〜ヴェインくん、そんなことになってるのに説得力ないよ」
彼女は僕の股間を指差して言い放った。
フィロの指摘どおり僕の股間のものはズボンを押し上げ、欲望の滾りをアピールしていた。
先生とのまぐわいの熱が覚めやっていなかったのだ。
「でも今日はダメだよ...フィロにもしものことがあったら...」
「...」
「......」
フィロはすねるように口を歪めたまま無言のやり取りが続いた。
やがて彼女は何かを思いついたように手を打ち屈託のない笑顔で僕にこう告げた。
「じゃあ、ヴェインくんのお口でしてあげる♪」
「え?」
「だって男の子はそれがそのままだと辛いって話を聞いたことあるし、無理しないから...ね?」
突拍子のない言葉に僕は唖然としてしまった。
確かに彼女の言うとおりいつまでもこのままというのは身体的にも精神的にも辛いものがあった。
判断をあぐねる僕は助け舟を求めサルファに意見を聞こうと彼を頼ろうとした。
しかし、彼は厄介毎に巻き込まれないようにと棚の上に上がって居眠りを決め込んでしまっている。
マナ同士意見が合うのかどうかはしらないけど、風のマナも彼の隣りで惰眠を貪っていた。
「ほら、ヴェインくん♪」
フィロは嬉々とした声で僕を手招きしていた。
もはや全てを丸く治めるには彼女の提案を呑まざる得ない。
覚悟を決めて僕は彼女の待つベッドへと歩み寄って行った。
「...ぁ...ふわぁ......んはぁ......」
僕達は初めてのときのみたいにキスで歯をぶつけることはなくなっていた。
互いの唾液を交換し、味わうような口付け。
僕は積極的なフィロに対して受身になりがちだった。
やがてどちらとも無く離れた唇は十分な潤いを帯び、窓から差し込む月明かりで光って見えた。
ガチャガチャ...
ベルトのバックルをはずそうとフィロの手が動く。
その動きはぎこちなく、僕が初めて彼女の制服を脱がしたときのことを思い起こさせていた。
彼女に手を差し伸べその手伝いをする。
僕の手でいとも簡単に今まで彼女の邪魔をしていたベルトは外れ落ちる。
フォックをはずし、ファスナーを下げると中から元気良く男の象徴が布越しに姿を現した。
彼女は細い指でそれを握り、上下に動かしていく。
「...すごい......」
布越しで刺激されるだけでもすごく気持ちよかった。
たった一枚の布、僕にとってはそれがとても邪魔なものに思え、自らパンツを脱いでしまった。
直接触れた彼女の手はとても冷たかった。
それが返って熱を帯びた僕のモノには心地よいものに思える。
フィロにとっては男のそれは物珍しいのだろう。
顔を近づけてまじまじとそれに見入っている。
「フィロ?」
コクリ、彼女の喉元が唾を飲むように動いた。
「すごいね...ヴェインくんのこういう風になってるなんて...」
そうやって改めて見つめられると羞恥心がこみ上げてくる。
「フィロ、ちょっと恥かしいよ......」
「ヴェインくんだってわたしをじっくり見てたことあったじゃない。これでおあいこよ♪」
確かに身に覚えがあったがいざ逆の立場になると恥かしいことこの上ない。
「ちょっと辛いよ...」
「あ、ごめん...」
別段苦しいとかは無かったがそう言うことで彼女が奉仕活動を行ってくれると見据えて言葉にする。
案の定、フィロは僕の期待に応えて手にした僕のモノを舌先でつついた。
先端から滲み出る透明な粘液を舐めては吟味している。
「......」
表情から察するにあまり良い物ではなかったようだ。
それが終わると形を指で確かめながらゆっくりとした刺激を僕に与えてくれた。
「ん......」
そして意を決したように彼女はぱくりと僕のモノを銜え込む。
それは指では決して得ることのない一味違った快感が伝わる。
彼女は僕のモノを銜えたまま手と同じように頭を上下に動かして僕を刺激してくれる。
くちゅ、ぐちゅ...ちゅぱ、ちゅぱ......じゅぱ...
淫靡な音をたてて彼女は一心不乱に僕のモノを奉仕してくれていた。
水気を帯びた髪が淫らに彼女の体に絡みつく。
表情、仕草、行為、全てが普段清純な彼女とのギャップを生み、僕の情欲を駆り立てていく。
「げほ、ごほっ、ごほっ!」
奉仕に夢中になっていたフィロは喉の奥まで僕のモノを咥え込んでしまい咽返る。
「だ、大丈夫?」
心配で顔を覗きこんだ僕に彼女は抱きつき激しい口付けを交わしてくる。
先ほどまで僕のモノを銜えていたという事実に少しばかり抵抗しそうになるが
求めてくる彼女を拒む理由にはならなかった。
「あ...はぁぁ......あぁん」
熱い接吻に彼女の漏れる吐息は喘ぎと言っても良かった。
口付けの最中も彼女の手は僕のモノをしごいて離そうとしない。
「フィ、フィロ...」
それ以上は言葉にせずとも彼女は僕の思いを読み取ったようだった。
再び滾るモノを口に銜え、激しく頭を上下に動かし僕に快楽を提供してくれた。
僕のモノは彼女の口の中でビクビクと脈打ち、自分でも限界が近いことを悟り始めていた。
「あむ......んぶ.........んん......」
「フィロ、フィ...ロ......フィロッ!」
名を呼ぶ言葉に力を込める。
僕は彼女の頭を掴み、自ら腰を動かしてしまっていた。
グプ...ジュルル......チュプチュプ...じゅるるる...
水音が響き、涎がシーツの上に零れ落ちる。
「あ、あぁ...い、イキそう......フィロ、フィロォ」
「ん...んんん......んぅぅん」
言葉にはならない呻き声で彼女は僕の訴えに応えていた。
程なくして僕は彼女の口へと欲望の断片を放った。
ドビュ、ドクドクドクン!
喉の奥をめがけて白濁液が吐き出された。
彼女は僕の腰を掴んだまま受け入れ、その洗礼を最後まで浴びていた。
フィロは最後の一滴まで搾り出すように自ら吸い付いて離そうとしなかった。
やがて離れた彼女の口の周りにはべっとりと涎が付着していた。
おそらく僕の吐き出した欲望の塊が彼女の口腔内に残っているのだろう。
フィロはしばらく躊躇っていたが意を決しそれを飲み込んでいた。
よほど難のあるものだったのか、その後何度かえづくのを堪えていた。
「フィロ...その…ありがとう」
「ううん、ヴェインくんの美味しかったよ♪」
彼女はぺロリと唇を舐めると無理に笑顔を作って微笑んだ。
そのまま上目遣いに僕を見つめるとゆっくり目を閉じて口付けをせがんでくる。
......
その時の口付けの味は妙に生臭く感じとれた...
夜の廊下を僕とフィロは手を繋いで寮へと歩いていた。
校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下、吹き抜ける風が火照った体に当たりが良かった。
あまり多く会話は無いものの僕達は通じ合っていると思っていた。
寄りかかる彼女が愛おしくもあり、可愛らしくもある。
「ねぇ、フィロ」
「ん?」
呼びかけに応えて僕の顔を見上げるフィロ。
「フィロは僕のどこが好きなのかな?」
やや照れながら僕は気になっていた質問を投げかける。
「ん?別に好きとかじゃないよ。わたしのわがままを聞いてくれるから…こうやって♪」
意外な言葉に僕は困惑してしまった。
「あれ?僕達恋人同士だよね?」
その言葉にフィロは慌てて僕から離れ、それを否定する素振りを見せた。
両手を左右に振り、首もブンブンと左右に振る。
「わたし、恋人作るとか絶対ないし。ヴェインくん何か勘違いしてる?」
「え?フィロ、それってどういうこと?」
驚いた表情の彼女は冗談を言っている様子ではなかった。
「ヴェインくんは相談にのってくれるし、お願いも聞いてくれるからみんなより話やすいっていうか...」
「でも...ほら、エッチなこととかしたのは?」
彼女の言葉に疑問を抱いた事を僕は訴えかける。
今の心境は夢を見ている所へ冷水を掛けられ起こされたようなものに近かった。
「ん〜興味あったし、ヴェインくんなら良いかなって思ったから」
「普通女の子はそういうのは特別な人とだけするって...」
「でもニケちゃんも初エッチは恋人じゃないって言ってたし、エッチしたら恋人ってヴェインくんのほうがおかしいよ」
フィロの僕を見る目は奇特な物を見るようだった。
「フィロ...」
「やだ、ヴェインくんが恋人欲しいなら他の女の子に言ってよ。わたしそんなんじゃないから!」
彼女はその言葉を残し僕から逃げるように駆け出した。
「待って!」
彼女は僕の制止を聞き入れず走り去っていく。
その後を風のマナがけたたましく追いかけていった。
今は遠いフィロの背中を掴むために延ばした手に夜風が冷たく撫ぜる。
「どうして...、どうして......」
その冷気は僕の心まで届いてるようだった。
□第三話へつづく□