イリスを取り戻してから、俺たちはノイアールの工房で平穏な暮らしをしていた。  
時々、枢機院からの依頼でベルクハイデに出掛ける事もあるけど、おおむね2人の側にいたつもりだった。  
イリスは何にでも興味を持つ年頃の様で、見た事のないものを見掛けると好奇心に揺れる瞳で質問してきた。  
俺もイリスに触発されて正錬金術士になると決めてから、夜更かしをして机に向かう時間も増えた気がする。  
 
今夜も本を読んでいたのだが、集中力も途切れてきたこともあり、そろそろ寝ようかと思って階段を登り寝室に向かうと、3つのベッドが視界に入る。  
小窓から入る月明りだけで充分に部屋は見渡せる。  
そのうちの2つは既に持ち主に占拠されて、その存在意義を存分に発揮しているようだった。  
俺は2人を起こさない様に息を殺しながら自分のベッドに向かう。  
その途中でほんの少しだけ、2人の寝顔を眺めたいというイタズラ心に火が着いた。  
俺と2人のベッドの間には簡易的な仕切りがあって、普段ならその仕切りを踏み越える事はない。当然だ。  
だが、今日は顔をのぞかせ2人を眺める。穏やかな寝顔…やっぱり可愛いな、ヴィーゼ……イリスも、少し背が伸びたかな?  
 
そんな事を考えながら、更に細心の注意を払い1歩1歩奥に踏み出す。  
はだけた毛布をイリスに掛け直してやり、頬にキスをする。  
そして俺はヴィーゼの方に向き直った。片膝をつき、間近で息遣いを感じる。規則正しく繰り返されるリズムに瞳を閉じた。  
 
…フェルト…  
 
その声に心臓が止まりそうになる。思わず目を見開き、ヴィーゼに何て言おうか必死で言葉を探そうとした。だがその必要はなかったみたいだ。  
どうやらヴィーゼの寝言だったらしい。それよりもヴィーゼの閉じられた双眸から流れる一筋の涙に、心は揺さぶられ容赦なく奪われた。  
また新たに一筋の涙がこぼれてゆく。  
…彼女は一体どんな夢を見ているのだろうか…  
俺は彼女の手に俺の手を添える様に包み、その涙のために祈る。  
もし夢の中のヴィーゼが哀しみを抱えているのなら、俺が吹き払ってみせる。  
たとえ一時的に家を離れても、必ず側に戻って来る。泣かないで!  
その想いが通じたのか、添えた指を逆に軽く握ってきたかと思うと、穏やかに眠りに落ちたようだった。  
俺はヴィーゼの耳元で「愛してる…ヴィーゼ」と、  
そう囁いてから、起こさないように自分のベッドに戻って眠りにつこうと…  
 
「ズルイね、フェルト。…ところで、今のはホント?」  
「!?…起こしちゃったか、ゴメン」  
 
まさかヴィーゼから返事が返ってくるとは思ってなかったために、  
とっさに謝ったものの、いたたまれなさを感じてしまう。  
 
「確かに少しビックリしたけど、そんなのは良いの。それより…フェルト、私はさっきの言葉は本当か聞いたんだけど?」  
 
…しかも、そこを突っ込むか…  
月明りで、ヴィーゼの顔が期待と不安に満ちているのが分かる。  
…これじゃ、答えない訳にはいかない…だろうなぁ。  
 
「…愛してる…ヴィーゼ」  
「嬉しい…。でも私が眠ってたからって、卑怯じゃない?」  
「…ああ。だが面と向かっては、ちょっと恥ずかしいからな…」  
 
イリスに配慮して俺のベッドに腰掛け、ヴィーゼと話をする事になり、  
そこでヴィーゼをどれだけ待たせていたのかを思い知った。  
 
俺はヴィーゼを膝の間に座らせ、後ろから抱き締めると、  
待たせていた時間を埋め合わせるかの様に、耳元で「愛してる」と繰り返した。  
するとヴィーゼは振り向くように顔を向け、キスをしてきた。  
ずっと昔、まだ幼さを多く残す頃に触れて以来、久しく感じていなかったヴィーゼの唇。  
 
あの時の味は、こんなにも甘いものだっただろうか?  
その甘さを味わう内に、俺のスイッチは完全に入ろうとしていた。  
髪を梳くように撫でながら、お互いの息が上がるまでキスを繰り返す。  
最初はただ触れ合うだけのキス。  
唇を舌でノックすると、ヴィーゼの動揺が伝わってきた。  
 
…少し早まったかな?  
そう思っていると、ヴィーゼも少しだけ唇を開いて応えてくれた。  
時間をかけてヴィーゼの緊張を解く。  
無論俺も同じくらい、心臓が高鳴っているけれど、  
愛しいという気持ちと虚勢を張らなければムリだ。  
 
お互いの唾液が混じりあい、口の周りがベタベタになる頃になって  
ようやく俺とヴィーゼは離れた。  
 
…至近距離にヴィーゼの顔がある。  
双眸に俺の顔が確認出来るほどの至近距離。  
その目は潤みきっていて、月明りを反射して、  
艶のある宝石を彷彿とさせるほど澄んでいた。  
 
そして同時に湧き上がる、より強く黒い衝動。  
今まで意識して気にしないように努めてきた欲求。  
 
…ヴィーゼに触れたい…  
…ヴィーゼと結ばれたい…  
 
そして、俺はヴィーゼの胸に手をあてる。  
そしてアイコンタクト。  
…ヴィーゼはそれに応えてくれた…  
 
胸を揉み、口に含む。  
舌で転がし、唇ごしに甘く噛む。  
念入りに念入りに。  
愛しいヴィーゼの身体に触れられる喜びと、  
内からあふれ出る欲求に身を任せ、執拗なまでの攻撃を続ける。  
 
ヴィーゼは片手で俺の頭を抱え込み、もう片方の指を咥えて何かに堪えている。  
特に甘噛みすると、強く首を振る。  
まるで「イヤイヤ」としているかのようだ。  
 
ヴィーゼは気付いているのだろうか、  
さっきから自分が腿を擦りあわせている事を。  
 
俺はそれが示している意味を理解していながら、  
その余りにも蠱惑的な姿に、攻撃を更に激しくしてゆく。  
そして遂に咥えていた指を離し、酸欠に喘ぐヴィーゼの唇を  
トドメとばかりに1回だけ強く吸う。  
そしてヴィーゼの大切な場所に手を伸ばした。  
 
お互いの息遣いにも匹敵する水音に、途端にヴィーゼの顔は限界まで赤くなる。  
あ、枕で顔を隠しちゃったよ。  
 
「可愛いよ、ヴィーゼ」  
「…見ないでよぅ…」  
 
枕ごしに涙の滲んだ半目でにらんでくる。  
その顔がまた可愛くて、手を動かす。  
慌てて足を閉じようとしたみたいだけど、ゴメン。  
それじゃ手を締めつけるだけだよ?  
 
 
頃合をみて耳元で囁く。  
「…ヴィーゼが欲しい…」  
 
その意味を理解したのだろう。  
嬉しさと不安の交じった表情になり、  
ヴィーゼはゆっくりと頷いてくれたのだった。  
そして穏やかに優しく一言。  
「私、ようやくフェルトに奪われるのね」  
 
それは静かに時間をかけて、俺に浸透してゆく魔法の言葉。  
惹かれ合いながら、より深く繋がる事に恐怖していた  
お互いの時間を象徴する一言。  
…暗に、腑甲斐なさを責められている気がしないでもないけど…  
 
それでも、ヴィーゼを「奪う」瞬間に流れた彼女の涙をキスで拭い、  
その表情を、涙の味を心の奥底に記憶した。  
 
その後、朝までの事はよく覚えていない。  
たが、ひたすらヴィーゼと抱き締めあい、求めあい、  
何度も何度もヴィーゼの中で果てた気がする。  
 
翌朝、ヴィーゼは珍しく俺より遅く起きた。  
その間ヴィーゼが俺の腕を占拠しているものだから、身動きが取れなかったのだが、  
ヴィーゼが起きても、ベッドの中にでキスを繰り返し、  
結局ロクに動いていなかったけれども。  
そして時間を忘れてベタベタしてたら、イリスに見つかったのだった。  
 
…後で知ったが、イリスは途中から覗いていたらしい…  
無垢な質問からその事を知ったのは、既に噂が広まった後だった。  
 

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