「フェルト!フェルト!!」  
 泣きながら叫ぶフェルトの幼馴染、ヴィーゼ。  
 あの戦争が終わってから約1ヶ月、この少女が私の元にやってきたのだ。  
理由は、もうエデンに帰ったはずのフェルトとの連絡が取れなくなってしまったからだった……。  
 そして、今。私やグレイ、ノインと一緒に、フェルトが向かったと思われるガルドにたどり着いたのだが……。  
 そこにあったのは、石化してしまったフェルトの姿だった。  
 フェルトは、私にとっても大切な人だったのに……涙すら出なかった。  
 皆の前では出すことができたかったのだ。  
「私は……ひどい女だ……」  
 誰にも聞こえないような声で、私は呟いた。  
 
 その日は、皆、教会に泊まることにした。  
 1人につき1室を借り、これまでの長旅の疲れを癒し、フェルトの石化を解くためのアイテムを作るべく、明日、また旅立つための休息をとるつもりだった……。  
「……久しぶりだな、この部屋……」  
 私がとまることになったのは、昔、私がここに住んでいた頃使っていた部屋だった。  
 私がいなくなってから、だいぶ経つにもかかわらず部屋には誇りひとつなかった。おそらくエーゼリン様がいつも掃除してくれていたのだろう。  
 しかし、私はそんなことも気にせずにベッドに倒れこむ。途端、今まで皆の前で抑えていた涙がこみ上げてきた。  
「うっ、うあぁぁぁ……フェルト……絶対会いにくるって言ってくれたのに……なんで……」  
 止まらない涙がどんどんベッドのシーツを濡らしていく。  
 ヴィーゼはフェルトが必ずしも助かるとは限らないと言っていた。  
「うそつき……おまえは……うそつきだ…………」  
 そこまでいったところで、言葉を失ってしまう。  
 こんなになってフェルトばかり責める自分が憎らしかった。  
 フェルトが心配だったら、ガルドまでついていけばよかった。  
 そうすれば、いつかとは逆で自分がフェルトのことを助けられたかもしれなかったのに……。  
 
「私は……ほんとうに……ばか……だ……」  
 枕に自分の顔を押し付ける。  
 そして、フェルトと過ぎした日々のことを思い浮かべる。  
「フェルト……」  
 私は、自分の下着の中に手を伸ばし陰部を指でいじる。  
「……っ、……あっ」  
 フェルトに触られていると想像しながら、少しでもフェルトが石化していることを忘れようとする。  
 しかしそうすればそうするほど、フェルトのことが頭から離れなくなってくる。  
 どのくらい経っただろうか。  
 そして、どのくらい絶頂を迎えただろうか。  
 シーツはグチョグチョになっていて、私は壊れた人形のようにぐったりとしていた……。  
「……フェルト……フェルトォ……」  
 止まることのない涙。  
 結局、私はその日、眠りにつくことができなかった。  
 
「危ない、避けるんだフィー!」  
 グレイの言葉にはっとなり、目の前の敵の攻撃をかわす私。  
 しかし、いつものような戦いは出来そうになかった。  
「フィー、疲れてるんじゃないのかい? 休んだほうが……」  
「大丈夫だ! まだ戦える!!」  
 心配してくれたノインの言葉なんて耳も貸さず、敵のほうへ走り出す。  
 しかし、そこで足がふらつく。  
 すぐあと、グレイが敵を倒したおかげで、私に怪我はなかったが、結局今日はそこでキャンプを張ることになってしまった。  
「どうしたというのだ、今日の戦いはお前らしくなかったぞ」  
「……すまない」  
 グレイの声がなぜか響いて聞こえる。  
 頭が……痛い。  
「大丈夫ですか? 顔色がすごく悪いみたいですけど……」  
 ヴィーゼが心配そうに私の顔を覗く。  
「このくらい……だいじょう……」  
 そこで私の意識がぷつんと切れてしまった。  
 
「……ィー、フィー……」  
 懐かしい、いるはずのない声が頭の中に響く……。  
「フェ……ルト……?」  
「よかった……気がついたみたいだ……」  
 ガバッと起き上がる私。何が起こったのかわからないが、そこにいるのは紛れもなくフェルトであった。  
「さっき、オレの名前を呼んでたから、もう気がつくんじゃないかって思って……」  
「……せ、石化は……?」  
「ヴィーゼが作ってくれたニスダールオーブのおかげで、昨日元に戻れたんだ……」  
「き、昨日? わ、私はどのくらい眠っていたんだ?」  
「大体3日間らしいよ。俺も昨日石化が解けたばかりだから詳しくは分からないけど……」  
 結局、私は何の役にも立てなかったのだ。むしろ、足手まといになったのであろう。  
 あれだけ、精神的にも肉体的にも弱っていたのに休まなかったせいとはいえ、結局いいわけもできない。  
「……フェルト……私……」  
「ホントによかったよ、フィーが無事で……」  
「……っ!」  
 その一言が、どれだけ私を救ってくれただろうか。  
 今まで、抑えていた感情は、瞬く間に引き出され、涙が、流れ始める。  
「……フェルトッ、わたし……やっぱりフェルトがいなきゃダメだ……っ、だから……だからもう……あんな無茶はしないで……」  
「あぁ……ごめんなフィー……」  
 彼は、そういって私を抱きしめると、静かに口付けをしてくれた。  
 
続く  
 

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