「いやあっ!はあ・・・あぁ・・・」
叫んだ自分の声で起き上がった。時計を見ると2時半をさしている。
白銀の鎧に身を包まれた、赤毛の男性がモンスターの餌食になる場面。
ノエイラは自室のベッドの上で荒く息をついた。
この夢を見るのは初めてではない。むしろ、ここ数年何度も自分の眠りを妨げてきたと言ってもよい。
恋人が目の前で亡くなったのだ。それは遺された者の神経を蝕んで当然と言えた。
あれから何年が経過しただろう。彼の遺志を継ぎ、ギルド長になってからもあの悪夢は絶えずノエイラを襲ってきた。
それでも、ここ最近はその夢を見ることもだんだん少なくなくなってきていた。
特に、彼が遺した剣を処分してからは、意識的にも彼の存在を消してきていたのだ。
(なんで、今になって・・・)
答えが明白な問いをノエイラは自分に問う。
昔の自分と同じ目を持つようになった人間。昔の自分が惹かれたのと同じ雰囲気と容貌を持つ人間。
自分よりずっと年下の、自分に向くはずがない人のことを考えて眠りについたことが原因なのだ。
一つため息をつき、気持ちの悪い汗を流すために、ベッドから抜け出した。
「ん・・・」
湯を浴びながら自分の体を慈しむようにすっと撫でると、今でも恋人に愛された記憶が甦る。
その後男性を受け入れたことがないわけではない。
亡くなった人を忘れようと、半ば積極的に関係を持ったことすらあった。
しかし、その度に感じた昔の恋人との違和感は、ノエイラを異性には縁のない、厳格なギルド長の顔のままに閉じ込めたのだった。
タオルで長い金髪を包んでいると、脇の大きな鏡が目に入った。
豊かな胸。優美な腰。引き締まった尻。すらりと伸びた脚。
友人のエバほど肉感的ではないにせよ、男を虜にするには申し分のない体がそこに映し出されていた。
ノエイラが最後にその体を武器にしたのは、もう数年も前のことだというのに。
親から結婚をせっつかれていようとも、酒を片手に冗談交じりに友人と愚痴をこぼしながらも、今の生活には満足していた。
それでも、一人佇むこんな夜は、ふと弱気に襲われる。
初めて見たとき、似ている、と思った。
言葉を交わすうち、やはり違う人物だとつくづく思い知らされたし、相手に心に決めた人がいるのもわかった。
だからずっと、弟のような気分にさせられていたのだ。年齢差もあいまって。
その相手は今大切な人を失い、心を闇に閉ざしている。昔の自分と同じように。
恋に落ちたのか、幻影を追っているだけのか。同情なのか、共感なのか。
年齢への焦り、単なる体の慰め、傲慢な気まぐれ。若さへの郷愁。
理由などいくら考えてもわからなかったし、もはやそんなことはどうでもよかった。
ただ、彼に抱かれたい。それが今のノエイラの真実だった。
睡眠薬代わりにリキュールをあおり、ノエイラはもう一度ベッドにごろんと横になる。
僅かに疼く体を鎮める術を知ってはいたけれど、もっと自分が寂しくなりそうで、やめた。
せめて夢の中では幸せになれるように願い、ノエイラはそっと目を閉じた。