工房で一人リフュールポットを手にしながら、イリスは屈辱と悲しみに肩を震わせる。  
白い肌に色濃く残る蚯蚓腫れを見るたび、辛い記憶が甦る。  
震える手でそれを塗りこもうにも、涙が邪魔をして一向に手当てがはかどらない。  
本来であれば傷口に塗った途端染みて痛みを感じるはずだが、今のイリスにはそれすら感じられなかった。  
ただ、エッジには知られたくない、その気持ちだけで手を動かすのだった。  
 
今日は風邪っぽいと嘘をつき、エッジには一人でクエストに行ってもらっていた。  
それほど難しいクエストではない。予定通り彼は明日帰ってくるはずだ。  
それまでにこの傷を何とかしなければ・・・。  
 
今なお自分を苛む悪夢と穢れてしまった自分、そして耐え難い孤独に絶望し、イリスは何度目かの嗚咽を漏らした。  
工房のドアが優しくノックされたのは、そんなときだった。  
 
「イリスさん、いらっしゃいませんか?この前お話しした錬金術の本を持ってきました」  
落ち着いた柔らかい声がドア越しに響いたが、今は誰にも会う気分ではない。  
息を潜めようと顔に手を当てようとして、イリスは近くのテーブルに思い切り手をぶつけてしまった。  
ガタリと大きな音がする。  
「どうしたんですか?具合でも悪いんですか?誰か呼んできましょうか」  
いるはずなのに一向に開かれない扉に、幾分強くノックが繰り返される。  
このまま放っておいて本当に誰か呼ばれたら余計困ることになる。それに、大人の彼ならきっと秘密を守ってくれる。  
意を決して立ち上がり、青いストールをしっかりと肩にかけてドアに向かうと、ほんの少しだけそれを押し広げた。  
「ごめんなさい。ユアンさん。傷の手当てをしていたんです」  
 
傷の手当てというにはあまりにも雰囲気が変だ。最初呆然とイリスを見つめていたユアンは、ふと我に帰ると  
きょろきょろと後ろを振り返り、道からイリスの姿が見えないように体の向きを変えた。  
その僅かな気遣いに、イリスがまた嗚咽を始める。それほど彼女は優しくされることに飢えていた。  
「入ってもよろしいですか?話をするだけでも楽になれるかもしれない」  
穏やかな声にイリスは無言で何度も頷く。たった一人で背負うにはあまりにも酷すぎた。  
懲りずに繰り返されるデートの誘いには困っていたが、基本的にイリスにとって、  
ユアンは困ったときに手を差し伸べてくれる大人の男性だった。  
ドアが一瞬開かれ、閉められる。ユアンがイリスを優しく抱きしめるのとイリスがわっと泣き出すのは同時のことだった。  
 
しばらくイリスを泣かせるに任せ、落ち着いてきたときを見計らって、ゆっくりと背中を撫でさすってやる。  
ユアンの手がストール越しに傷口に触れ、イリスがびくんと体を震わせた。  
「あ・・・、ごめんなさい。ここを怪我したんですね」  
怪我であればどんなによかっただろう。そんなイリスの内心を知らず、ユアンが軽やかに言葉を継ぐ。  
「背中じゃ一人では薬を塗れないでしょう。エアちゃんを呼んできたほうがいいですね」  
ユアンの言葉にイリスがはじかれたように顔を上げ、真っ青になって何度も首を振る。  
ただならぬ様子にユアンの目が見開かれる。一体何が起こったというのだ?肩を掴み、真剣な表情で問い詰める。  
「見せてください。決して誰にも言いませんから」  
イリスを促し、部屋の奥まで連れて行くと、後ろ向きに立たせてそっとストールを取り外した。  
白い肌に縦横に赤い痕が走っている。  
女性経験の豊富な彼には、それがどのようにしてつけられたかは一目瞭然だった。  
「ひどい・・・」  
傷に触れるのにも構わず、ユアンが後ろから強くイリスを抱きしめる。ぎゅっと目を瞑り、上を仰いで辛そうに声を振り絞る。  
やり場のない憤りから細かく震える腕の温かさに、イリスの目からまた涙が零れ落ちた。  
 
背中が大きく開いたイリスの服は、着たままでも薬を塗りこむのに支障がない。  
ここまで見せたらもう同じだ。2階のベッドにうつぶせになり、ユアンに傷の手当てをしてもらう。  
女好きである事が信じられないほど、イリスの背中を伝うユアンの手つきは優しく紳士的だった。  
そっと薬が塗りこまれるごとに、イリスは体の傷だけではなく、心の傷まで癒されるような、そんな気分に陥っていた。  
「さ、できましたよ。これでもう大丈夫です」  
あくまで軽くにこやかな口調は女性を気遣うというより、子供の世話をする調子に近い。  
「ありがとうございます、ユアンさん」  
ベッドの端に座ったユアンを見上げると、イリスは初めて弱々しい笑みを見せる。  
ユアンが慈愛に満ちた眼差しでしっかりと彼女に頷き返した。  
 
そこが治療に一番適切だったとはいえ、ベッドの上に異性と二人でいるのは決して好ましいことではない。  
イリスは素早く立ち上がってそこから降りる。  
しかし、ユアンはベッドに腰掛けたまま、先ほどとは打って変わって暗い表情で俯いていた。時折深く息を吐き、頭を横に振る。  
「体の傷は薬で治すことができても・・・。それでもあなたの心に残る傷は癒えてない」  
痛ましそうにイリスを見あげ、その手をそっと取って自分の右に座らせる。  
おずおずとその頬に片手を伸ばし、壊れやすい宝物に触るように手を触れる。  
まるで自分が責めを受けたかのような痛々しいユアンの表情に、イリスはすっかり警戒心を解いていた。  
「かわいそうに・・・。どんなに辛かったことでしょう」  
しかし、イリスが辛いのはそれだけではない。乱暴にされただけなら相手を恨めばすむ。  
イリスを本当に傷つけたのは別のことだった。  
「私は・・・!」  
(それでも感じてしまったんです。もうどうしようもなく汚れてしまったんです)  
口には決して出せない懺悔。  
悲痛な叫び声をあげるイリスを優しく押し留め、ユアンはゆっくりと首を振った。  
「何も言わなくていいですよ。自分を追い込むことはない」  
自責の念に駆られる青い瞳をじっと見つめ、ユアンは真面目な口調で告げた。  
「あなたは綺麗です。ボクが保障します」  
イリスの体の中にその言葉が染み込んでいく。闇に閉ざされた心に一点の明かりが点る。  
ユアンは頬に置いていた手を横にずらし、イリスを見つめながら、艶やかな黒髪を何度も撫でてやる。  
そして、やおら頭の後ろへとさらに手を伸ばし、ぐいとイリスの頭を抱き寄せると、ユアンはそっとその額に口付けた。  
そのままユアンの胸に抱かれると、甘く軽い香りがイリスを包む。  
優しく肩に置かれた手にまた泣きたいような気分になり、ぎゅっと口を引き結ぶと、すがるようにユアンを見上げる。  
真剣な表情で見つめ合った後、どちらからともなくその目が閉じられ、二人は引き寄せられるように唇を合わせていた。  
 
一度のキスであれば戯れですむ。  
もし女性がその後顔を背けるようであれば、それ以上強く踏み込んではならない。  
もし女性がその後見つめ返してきたら、そのまま押しても大丈夫だということだ。  
果たしてイリスはその目で自分をこの地獄から連れ出してほしいと訴えてきた。  
ユアンは余裕のある大人の表情から一転して少年のように照れた笑みを見せ、次いで熱っぽく口説き始める。  
「こんなに美しい花なのに・・・。蕾のまま手折られ、散らされるなんて見過ごしておけない」  
優しいだけだったユアンの目に男の色気が宿る。  
「・・・ボクが綺麗に咲かせてあげますよ」  
イリスの頭に添えた右手に力を込め、ユアンはイリスに深く口付けた。  
 
バージゼルに一度口内を犯されただけのイリスと、ゼー・メルーズ中の女性に手を出しているユアンでは  
経験に天と地ほどの開きがある。   
甘く熱く絡められる舌。逃げようとすると追われ、絡み返そうとするとすっと解かれて歯茎を舐め上げられる。  
くすぐられ、吸い上げられ、余すところなく犯されるその感覚は、例えようもなく甘美だった。  
思わず腰が引けそうになるイリスを、ユアンは体をずらし左手でしっかりと支えてやる。  
イリスの手が救いを求めるかのようにそろそろと上へ伸ばされ、やがてしっかりとユアンの首に回された。  
「・・・くふっ・・・ん・・・」  
イリスの口から悩ましげな声が漏れると、その声につられたかのように、ユアンの舌の動きが更に勢いを増した。  
項を撫で上げられ、髪の毛を指に絡められる。その刺激が更にイリスを煽る。  
窒息しそうなほどのその快感に、頭の中が真っ白になり、腰ががくがくと震えだす。  
さすがにまずいと判断してか、ユアンは徐々に動きを緩め、最後に舌を巻きつけて静かにイリスの口に別れを告げた。  
かといってすぐに体を離すのではなく、名残惜しそうに何度か唇を優しく押し当て、時には歯で唇を甘噛みしながら、  
イリスが落ち着きを取り戻すまで待ってやる。  
薄目を開けたイリスを甘やかに捉え、右手をイリスの項で遊ばせたままそっと上体を立て直した。  
今まで経験したことのない激しい口付けに、イリスは怯えにも似た表情を浮かべ深く肩で息をする。  
ユアンを見つめる熱っぽい瞳は涙で潤み、体はまだぴくぴく震えている。  
ユアンはそんなイリスににっこりと笑いかけると、今度は微かに触れるだけの優しいキスを落とした。  
 
唇を離すと、ふとユアンは首をかしげ、イリスの顔を真剣な表情で覗き込む。  
「背中・・・大丈夫ですか?」  
何を意図して言われたかはイリスにもすぐにわかった。  
イリスが関係を拒否できるとしたら、これが最後のチャンスだっただろう。  
しかし、大切に扱われることに全く免疫がない上に、体の悦びだけは知っているのだ。  
先ほどのキスでぽーっとのぼせ上がった頭は、イエス以外の選択肢を持たなかった。  
「・・・はい。大丈夫です」  
恥ずかしそうに小声で言われた言葉。それはイリスがムードに流されたわけではなく、  
はっきりと自分の意志でユアンとの関係を望んだことを意味していた。  
 
いとおしそうにふっと笑いかけ、今度は啄ばむように何度もキスを繰り返す。  
そっとイリスの胸に手が伸ばされ、ゆっくりと愛撫が開始される。  
ぞくぞくする快感にイリスが身を震わせ首筋をのばすと、つとそこを舌が走った。  
「ひゃあん」  
思わず声を上げ、力が抜けたところをそのままゆっくりと押し倒される。  
慣れた手つきで服を脱がされ、みずみずしい肌が露にされていく。  
イリスが戸惑ったようにユアンを見ると、何度も目だけで「大丈夫だ」と告げられる。  
その度ごとにイリスははにかんだように笑い、異性の前に裸体を晒す羞恥心と快感に体を震わせるのであった。  
やがてイリスの体を纏っていたものを全て取り去ると、ユアンは手早く自分も生まれたままの姿になった。  
左肘をイリスの右肩の上につき、右腕で額にかかる髪の毛を押し上げて、青い瞳をしっかりと捉える。  
目の前の少女に愛しさがこみ上げ、首を細かく振りながら感極まった口調で言う。  
「綺麗です・・・イリス。あなたは汚れてなんかいない。こんなに美しいんですから」  
自分を求めてやまない男の目にイリスの心臓がぎゅっと掴まれる。  
この人がわたしをあの地獄から助け出してくれる―  
イリスの頭の中から想い人の姿が消え、彼女はただ目の前の救いに身を任せるのだった。  
 
 
口付けの合間に頬や鼻を舐められるのも、背中を撫で上げられるのも、耳元で囁かれるのも、全て初めての経験だった。  
男性のエクスタシーは一つだけだが、女性のそれは一つではない。  
いくら体の悦びを知っていても、心が満たされるのはまた別の快感だった。  
優しく包まれる感覚に今までの辛い記憶が溢れてきて、イリスはいつのまにか嗚咽を始めていた。  
そんなイリスにユアンは愛撫をやめ、しばし両腕でしっかりと彼女を抱きしめてやるのだった。  
 
イリスの気持ちが落ち着くのを待って、またユアンはイリスを愛し始める。  
ユアンの口が、イリスの唇に、首筋に、鎖骨に落とされていく。  
羽のようにそっと触れられたかと思うと、舌だけで淫猥に舐めあげられる。  
快感にイリスが体を震わせると、すかさず強く吸われて紅い痕を残す。  
変幻自在に与えられる愛撫の間にも、ユアンの左手が一定のリズムを保ってイリスの右胸をまさぐり続ける。  
やがてユアンの舌がイリスの心臓の上を捉える。華奢な体の中で一番柔らかなそこは、やや小ぶりながらも張りがあり、  
つんと尖った桜色の突起が快楽を知った大人の女であることを主張していた。  
それでも彼女を愛撫する男のほうがずっとうわてで、ユアンは周りにキスを落とすばかりで一向にそこに口を寄せてくれない。  
しかし決して忘れているわけではない証拠に、時折ぺろっと側面を通過するものがある。  
そのたびにイリスは快感ともどかしさに苛まれるのであった。  
ユアンの舌がだんだん頂点に近づいていき、とうとうその部分を捕える。  
強く吸ってほしいのに、じっくり舌を這わせたり、舌先でちろちろと舐めたりして散々に玩ばれる。  
嬲られているのはあの時と変わらないのに、どうして泣きたくなるほど幸せなんだろう。  
指と舌で両胸を刺激され、イリスは快感の波にたゆたいながらだんだんと高められてゆく。  
ようやく待ち望んでいた刺激がもたらされたとき、イリスは軽く極まってしまった。  
「んんっ・・・はぁん」  
快楽に溺れつつもずっとどこかで嫌悪感を感じていた自分の声。喘ぐことがこんなに気持ちがいいなんて知らなかった。  
イリスが声を震わせるごとに、ユアンの手と舌が熱を帯び、その結果イリスの声が更に艶めく。  
二人の息がだんだん上がってゆき、ずっとイリスの胸に置かれていたユアンの左手が下へと伸ばされた。  
 
そっとその部分に触れられただけでくちゅり、と水音がした。恥ずかしさに目を瞑り顔を背けるイリス。  
胸を舌で舐め回しながらも上目でイリスの様子を窺っていたユアンは、一度愛撫を中断し、  
右手で優しくイリスの顎を掴むと、その顔を彼のほうに向けさせた。  
「だめです。ちゃんとボクを見て」  
いたずらっぽく、しかし有無を言わさぬ調子で言われた言葉にイリスがおずおずと目を開く。  
その先にはにっこりと微笑んだユアンの顔があった。  
「可愛い。イリス」  
そう言ってわざとチュッと音を立て、イリスにキスをする。  
自分よりずっと年上の男性があどけない表情を見せて戯れる姿に、イリスの胸がきゅんと鳴った。  
「ね?ほらリラックスして。ボクに全て預けて」  
音楽のように軽やかに紡がれる声。左手だけ再開された動きに体がふわふわ浮くような感じがする。  
溢れ出る泉は留まるところを知らず、先ほどよりずっと大きく卑猥な音を立てているのに、それが何だかとても心地がいい。  
掬われ、敏感な部分へと塗りたくられ、捏ねくりまわされる。  
あの恐怖の時間の中でも自分を魅了した感覚が全身に甦ってくる。  
もっと聞きたい・・・もっと感じたい。なのに時々抑えきれずに漏れてしまう声がとっても恥ずかしい。  
羞恥心と快楽がせめぎあうイリスの表情を見、ユアンは最後の後押しをする。  
「声出して・・・聞きたい」  
耳元で囁かれたぞくりとするほど色っぽい声音に、イリスの羞恥心は粉々に砕け散り、ただ快楽に身悶える。  
体も心も全て砂糖で出来たみたいに甘く、それが熱せられて溶け出していく。  
「やっ・・・ああん・・・わた、わたしおかしくなるぅっ!はぅん!」  
ユアンは答える代わりに右の胸に吸い付き、左手の指を秘所に潜らせて抜き差しを繰り返しながら  
右手で巧みにもう片方の胸を揉みしだく。  
嬌声と共に雫がシーツに滴り落ち、広がっていった。  
 
絶頂へと導かれ、涙目になりながら荒い息を繰り返すイリスに、ユアンは優しく微笑んでやる。  
傷ついた少女を癒すには、何よりも相手が大切だと心と体で伝えてやらなければならない。  
煽る、苛める、迫る。いずれも今までの努力を無にしかねない誘い文句だ。  
ユアンは慎重に言葉を選びながら、キスの合間に言葉を紡ぐ。  
「ねぇ、イリス。あなたをもっと感じたいんです。いいでしょう?」  
普段の柔らかな物腰はそのままで、視線だけは淫猥にねだる。  
それが女性にどのような効果を及ぼすか、彼は十分に知っていた。  
 
慈しむようにユアンがイリスの中に入ってくる。重なったその部分が焼けるように熱い。  
一番奥まで差し込むと、イリスをぎゅっと抱きしめ、そのままその全存在をいとおしむ。  
中でちょんちょんと動かしてやると、イリスが恥ずかしそうに嬉しそうに笑みをこぼし、  
そのまま二人はまた長いキスを始める。  
舌を絡ませたままゆっくりと抽送を始め、イリスにたっぷりと愉悦を味わわせてやる。  
ちょっと体をずらし、左手と右の肘で体重を支えて半身だけ触れ合うような形をとる。  
耳朶を甘噛みし、耳の裏に息を吹きかける。  
優しく首の下にもぐりこませた右手でそっと項を撫でる。  
前後する動きに合わせて胸板全体でイリスの胸を擦る。  
全身にくまなくもたらされるその刺激にイリスはなすすべもなく翻弄されていく。  
部屋中に二人の息遣いと喘ぎ声、そして絶え間なく打ち付ける力強い音が響き、  
しなやかで均整の取れた二人の体から発散される熱で空気が段々とこもっていった。  
 
十分にイリスが高まってから、ユアンは体を起こし、イリスの両膝を立てて責め続ける。  
円を描くように中を掻き回すと、イリスも声を高くあげ、腰を揺らせて応えてきた。  
繋がって捲りあげられた部分に指を当ててじっくりと先端へと沿わせ、その腹で挟んで揉む。  
その耐え難い刺激にイリスが甲高い声を一声あげて、体を弓なりにそらせ、細かく震わせた。  
それは彼女の内側にも顕著な反応を及ぼし、殊更にユアンを締め付け、撫で上げた。  
二人は一点で繋がったまま、しばし目を強く瞑って天を仰ぐ。  
イリスは絶頂の余韻に浸るために。ユアンは射精感を抑えるために。  
前後して普段の呼吸を取り戻すと、ユアンは両手をつき、一転して激しく律動を開始した。  
打ち付けるごとに蜜が溢れ、引き抜こうとすると柔らかく絡み付く肉がある。  
今までの行為で達しやすくなっていたイリスがまた頂上に近づき、体が強張ってゆく。  
四方から押し寄せるあまりにも強い締め付けに、さすがのユアンも欲望を我慢しきれなくなっていた。  
「もう限界です・・・。抜きますね」  
体内から去ろうとするユアンの背にイリスは必死でしがみつく。  
「はあっ・・・あん!・・・だめぇっ!中に、中に出してぇ!」  
今までのように強制されるのではなく、今日のように求められるのではなく、イリスが初めて自分から口に出した願い。  
最後まで愛されたかった。この目の前の男に。  
技巧を尽くされ、その体の虜となっていた純粋な少女は、この瞬間心までも落としたのだった。  
「イリス・・・」  
掠れるユアンの声に、もはや今までの余裕はない。  
しかし、その呟きはそれがしっかりとユアンの心にも届いたことを意味していた。  
その願いに答えるべく、最後に向けて更に狂ったように突き動かすと、イリスも急激に昇りつめていく。  
「・・・っ、ぁぁああああっ!!イクッ!!イ、イっちゃう!!!」  
声が段々高く強く上げられ、臨界点に達する。  
今までとは比べ物にならない激しい絶頂を迎え、体が跳ねるようにびくびくと痙攣する。  
彼女に悦びを与えたものを引きちぎるかのように強烈に収縮するその更に奥に、  
ユアンは今まで抑えていたものをたっぷりと注ぎ込んだ。  
 
じんと痺れる頭でも、温かいものが自分の中に広がるのがわかった。  
イリスがこの感覚を経験するのは初めてではない。  
しかし、恐怖と絶望をもたらした相手と、かりそめでも心を交わした相手とでは、  
想い人とは異なる男性によってもたらされたという点では同じでも、その効果は正反対だった。  
初めて男に愛された。それは辛い記憶に苦しむ彼女にとって何よりの慰めだった。  
 
どさりと自分の上に倒れこんだ体の熱さと重みに、イリスは体の余韻だけではない喜びを感じる。  
普段の穏やかさからは想像もつかない荒い息遣い。大人の余裕を保っていた彼の早い動悸がただ嬉しかった。  
やがて甘美な時間から覚めた二人は、互いの姿と現実を認め、照れくさそうに笑いあう。  
この人とこんな風になるなんて思わなかったけど・・・でも、しちゃった、のだ。  
むず痒いような恥ずかしさがこみ上げ、イリスが思わず顔を逸らす。頬にそっと、上を向くよう促す唇があった。  
「すっごく綺麗です、イリス。ね?ボクの言ったとおりだったでしょう?」  
「ユアンさん・・・」  
乱れた髪をいとおしそうに梳る手に、二人の瞳が甘やかに絡まる。  
「ずっとこの関係を続けてくれますね?」  
微笑みながら言われた言葉に、イリスは恥ずかしそうに、しかししっかりと頷く。  
青い瞳に恋情にも似た熱が宿るのを確認し、ユアンはイリスの頬を両手で包んでそっと口付けを落としてやった。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
イリスがそのまま満ち足りたまどろみに落ちるのを待って、ユアンは今まで身に纏っていた雰囲気を一変させる。  
億劫そうに上体を起こし、フン、と一つ息を吐く。  
「やれやれ、あっけないものですね。もう少し手ごわいほうが落としがいがあるというものですが」  
ちらりとイリスに蔑みの視線を落とした後、ふっと笑って髪をかき上げる。  
「まあ、ボクならこのくらい当然、ということですかね」  
稚拙な少女に合わせた行為は女ったらしの彼には物足りなさすぎる。  
ユアンは手近なガールフレンドの家を頭の中で確認しながら、ベッドから抜け出し服を着始めた。  
 
身支度を全て整えると、大切にされたと信じ込んでいる人形のようなあどけない表情を、この上なく冷酷な目で見すえる。  
「これからはボクの人形になってもらいますよ、イリス」  
にやりと笑ってそう呟くと、ユアンは身を翻し、工房を後にした。  
 

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