最初会った時は何とも思わなかったのに・・・  
 
私は彼の事をどう思っているのだろう・・・  
 
 
・・・もしかしたら私は・・・・・・  
 
 
 
 
 
『面影』  
 
 
 
 
 
 
「シャアァァッ!!」  
「・・・ハッ!」  
 
 
そう気合を込めながら私は手に持っていた剣を相手に向かって思いっきり落とす。  
とたん叫びにも似た、耳を塞ぎたくなるような声と普段聞くことのない、何かが砕けるような音がした。  
後ろでは若いミストルースが地面に腰を突かせ、足を震わせながらただ何かを叫んでいる。  
・・・何を叫んでいるのかは知らないが、少しは静かにして欲しい。・・・戦闘に集中できない。  
そう心の中で思いつつ、もう何体目かもわからない魔物に剣を食い込ませる。  
 
・・・まったく、守りながら戦うっていうのはなかなか骨が折れるな・・・。・・・兄さんもそうだったんだろうか・・・  
 
っと、こんなことを考えている場合じゃない。早くこの状況を打破しなければ・・・!  
しかし・・・、一体これで何体目だ?まったくキリがない。  
 
そう考えながら私は、何故このような事になってしまったのかを冷静に確認することにした・・・  
 
・  
 
・・・  
 
・・・・・・  
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  
 
街中の殆どが水の上にある都市、ゼー・メルーズ。その中心に位置する所にその建物がある。  
ミストルースギルド・・・、通称ギルドは、私達ミストルースにとっても、  
そして、この街の人々にとっても今では無くてはならない場所だ。  
 
そのギルドに私、クルメーナ・ネジュは今日も一般受付近くにあるクエスト掲示板をただ何気無しに眺めていた。  
 
さて、今日はどんな仕事を請けるか・・・・・・・・・、うん?これは・・・  
 
 
【綺麗な水晶を探しています】  
 
・どなたか異世界にある、透き通るような水晶を取ってきてもらえませんか?報酬は弾みますので、宜しくお願いします。  
 
 
水晶・・・、クロム水晶の事だろうか。  
水晶の類ならダカスクス水晶谷かな。あそこなら水晶の一つや二つ、すぐ取れるだろう。  
簡単なクエストみたいだし、報酬も難易度に関わらずなかなかのものだった。  
 
・・・兎に角、まずは依頼主に会ってみよう。依頼主の場所は・・・、酒場か。  
ということで、私は酒場に行くため早々とギルドを出ることにした・・・  
 
・  
 
・・  
 
・・・  
 
・・  
 
・  
 
ギルドを出るとそこには見覚えのある三人組の若者がいた。  
一人は清楚な感じが印象的な、それでいてその見た目からは計り知ることの出来ない、芯がしっかりした少女。  
その少女の反対側にいるのはいかにも活発そうな、元気が取り柄の女の子。  
そして二人の真中で佇んでいるのは、少し黒みがかった赤い髪に、  
私が背負っている『それ』とは比べ物にならないくらい大きい『それ』を平然と担いでいる、現在街中でも評価の高い青年。  
 
この三人は現在このゼー・メルーズにて、ミストルースとして一目置かれる存在だ。  
彼らを知らないという住民はもう殆どいない事だろう。  
彼らの働きぶりはそれはまさに他のミストルースより的確で迅速だ。それは私だってよく知っている。  
実際、私が出したクエストを何回か請けてもらったことがある・・・  
 
・・・本当にあの時の私は兄の事を考えるだけで精一杯だった。  
毎日夢に見るあの出来事から開放されたくて、ただただ兄の死から逃げていた。  
しかし、彼らのおかげで、私は兄の死を真っ向から受け入れることが出来た。今でも、本当に感謝している。  
今思えば・・・、彼らが私のクエストを請けてくれて本当に良かった・・・  
っと、感傷に浸っている場合ではないな。  
 
なにやら話し込んでいるみたいだが・・・、ふふ、楽しそうだ。  
・・・私も混ぜてもらうとしよう・・・  
 
 
「やあ、エッジ。イリスにネルも」  
「あ、メーナさん。こんにちは」  
「ふふ、こんにちは」  
「メーナはこれから仕事?」  
「ああ、ちょっと依頼主の所までね。・・・エッジ達も今から仕事かい?」  
「・・・ああ」  
「そうか・・・。頑張ってね」  
「はいっ、有難う御座います!・・・メーナさんもお仕事、気を付けてくださいね」  
「ふふ、有難う。それじゃ、また・・・」  
 
 
そう言って私は三人と別れる事にした。  
後ろから聞こえる「頑張ってくださいね〜」という言葉が私の心にいつまでも響いてくる。  
 
本当に感謝してもし足りないくらいだ・・・  
 
・  
 
・・・  
 
・・・・・・  
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  
 
・・・・・・  
 
・・・  
 
・  
 
依頼主の話では、急遽水晶類の鉱物が必要になったとの事だった。  
それを何に使うとか、どうしようとかは聞いていない。  
聞いてもしょうがないし、そういう事には何かしら事情があるのだろう・・・、口を挟まない方がいい。  
 
依頼主の話を聞いた後、出来るだけ早く持ってきて欲しいという要望から、  
簡単な支度をしてさっそくダカスクス水晶谷の方へ向かうことにした。  
 
・・・ダカスクス水晶谷。ここには何度も足を踏み入れてはいるが、この美しさには来る度、目を奪われてしまう。  
他の異世界でもそうなのだが、ここは一際目に映るもの全てが綺麗で・・・、実に神秘的だ・・・  
それも偏にこの世界の殆どが水晶で構成されているからだろう。  
 
・・・探索し始めて一時間位。水晶が沢山ある、ここら辺では比較的広い場所に着いた。  
 
さて・・・、この辺りでいいか。  
依頼主は去ろうとする私に、『あと出来るなら純度の高い水晶を取ってきて欲しい』と言っていた。  
なのでここいらにある中で出来るだけ純度が高い水晶を選ぶ事にする。  
 
・・・これなんか良さそうだな・・・  
 
それは大きさこそ少し小さかったが、この場所の中では一際透き通った水晶だった。  
さっそく水晶を切り取るため、慎重に作業に取り掛かることにした。  
 
・  
 
・・  
 
・・・  
 
・・  
 
・  
 
無事切り離した水晶を、腰に付けた革製の小箱の中へ丁寧に入れる。  
あとは戻って依頼主に渡すだけだ。・・・さっさと戻ることにしよう。  
そう思い、歩き出そうとした・・・、その時・・・  
 
 
「た、助けてくれーっ!!・・・」  
「・・・・・・うん?なんだ・・・」  
 
 
何やら誰かの叫び声が聞こえる・・・  
しかし辺りを見渡しても特に何も見つけることはなかった。  
気のせい・・・、って訳でもないだろう。この耳でちゃんと声を聞いたわけだし・・・  
少し早足で歩きつつ周りの様子を窺う。  
少しして、その叫び声の主はすぐ発見することが出来た。だが・・・  
 
 
「あれは・・・」  
 
 
そこにはトカゲみたいな容姿にザラザラとした鮫肌が特徴的で強靭な肉体を持つ。  
常に群れで行動し、手には様々な武器を持っている。  
ここら辺では珍しくない魔物、リザード族がそこにいた。  
 
 
襲われているのか・・・?  
 
 
そう思ったとたん、  
私は背中に背負っていた『それ』を引き抜くとその場所に向かって勢いおく走りだしていた。  
 
機械剣の性能は種類によって様々だ。一撃に重点をおいたものや、剣の重さを軽量化し素早い攻撃を可能としたもの。  
相手に向かって炎を出せるものがあれば氷、雷など、実に戦いに関してはバリエーションの多い武器といえる。  
私の機械剣は機動性重視の造りになっており、それ故一つ一つの攻撃力こそ低いが扱いやすく、  
またその攻撃力の低さを補う、様々なものをこの剣には搭載してある。  
 
走りながら剣を平行に保ち、  
今まさに男に切りかかろうとするリザードを私は薙ぎ払うようにして剣を相手の体に食い込ませ、そのまま横に力いっぱい振り切る。  
とたん相手の胴体は真っ二つになり、そのまま地面に崩れ落ちた。  
 
 
「シャアッ!?シャアアアァァッ!!」  
「あ、あなたは・・・?い、いや兎に角・・・、た、助け・・・」  
「・・・・・・下がって」  
 
 
そう言って男を後ろに後退させる。  
 
・・・少し、数が多いな・・・  
私一人だったらなんとかなるだろうが・・・  
だが、そうも言ってられないか・・・  
 
・・・さて  
 
 
「シャアアァァァァッ!!!」  
「・・・容赦はしない・・・、いくぞッ!」  
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  
 
・・・・・・  
 
・・・  
 
・  
 
そして冒頭に戻るわけだ。  
 
・・・さすがにもう小一時間は戦っただろうか。  
例えそのぐらい経ってなかったとしても、何だか時間の流れが速く感じる。  
 
 
「シャアアアァッ!」  
「・・・くッ!」  
 
 
まったく相手の数が減らない・・・。一体倒せば一体現れの繰り返し・・・  
さすがに私も体力の限界が近づいてきた・・・  
 
そのとき不意に一体だけ、体の大きさも色も違う、リーダー格みたいなリザードが、  
手に持っていた剣で私の剣目掛けてもの凄い力で攻撃してきた。そのとたん・・・  
 
 
キィーーーーーンッ!!  
 
 
・・・剣は勢いおく弾かれ、そのまま空へ優雅に飛んでいった・・・  
 
 
「しまったっ・・・!」  
「シャアアアアアァァァッ!!!」  
「ッ!?ぐぁっ・・・・・・」  
 
 
剣に気を取られていた隙に一体のリザードが私目掛けて渾身の突進を仕掛ける。  
突進は見事私の腹の中心にヒットし、私はそのまま地面に腹を抱えて蹲った。  
 
幸い吐きはしなかったが、くぅ・・・、凄い吐き気だ・・・。あとお腹にかなりの痛みが走る・・・  
 
・・・まずい・・・。相手はまだ五、六体位いるだろうか・・・  
・・・ああ、リーダー格の奴も含めると七体位か・・・。ってそんなことはどうでもいい。  
くそっ!武器が無ければこの状況を打破することは出来ない・・・。このままでは・・・  
 
 
「シャアッ!シャアアアァァァッ!!」  
 
 
そういう叫び声と共に奴らは一斉にこちらに向かって走り出してきた。  
 
ああ、もう、駄目なのか・・・  
最後に、できれば最後に彼らに会いたかった・・・。エッジ・・・、兄さん・・・、ゴメン・・・・・・  
 
 
「奥の手・・・、行くぞッ!!!」  
「・・・えっ・・・?」  
 
 
その時声と共に何か、回転する何かがリザードの胴体を一瞬にして引き裂いていた。  
後で気付いたがあれは私達機械剣を使用する者にとってその殆どが剣の中に仕込んでいる、  
四方に分かれた両刃の剣。いわば機械剣特有の仕込み武器・・・。  
 
あ、あれは・・・。それにこの声・・・・・・  
 
 
「メーナッ!!大丈夫かッ!?」  
「・・・・・・ああ、何とか、な・・・。しかし、なん、で・・・?」  
「話は後だ。イリス、治療を頼む」  
「うん、任せてっ!・・・待っていてください。今お薬を出しますから」  
 
「ここはあたし達に任せてッ!行くよ、エッジッ!!」  
「ああッ!」  
 
 
・・・それからは怒涛の反撃だった。エッジ達は近くいるリザードを蹴散らしつつ、  
中央にいたリーダー格のリザードを撃破。  
その後のリザード達はリーダーが倒れたことを知ったとたんチリチリになって逃げ出していた。  
 
 
「すごい・・・」  
「メーナさん、ここ、傷が・・・。?メーナさん、・・・メーナさんッ!」  
「・・・・・・・・・」  
 
 
そんな彼らの戦いとイリスの呼び声を聞きながら、私は自然と意識を失ってしまっていた・・・・・・  
 
・  
 
・・  
 
・・・  
 
・・  
 
・  
 
何だろう・・・、妙な浮遊感を感じる・・・  
でも、決して嫌じゃない・・・。何なんだ、この感覚は・・・  
そう感じながら、私は少しずつ目を開けていく。そこには・・・  
 
 
「ッ!?エッ、エッジッ!!い、一体何を・・・」  
「目を覚ましたか。・・・身体の方は大丈夫か」  
「身体・・・?・・・う、そういえばまだ痛むな・・・。ってそうじゃなくてっ!」  
「?」  
「エッジ、一体何をしているんだ」  
「何って、ただ運んでいるだけだが・・・」  
「い、いや、そうではなくて・・・」  
 
 
・・・驚くのも無理はなかった。何故か私の目の前には、エッジの顔がすぐ近くまで迫っていたからだ。  
 
・・・じょ、状況を把握してみよう。ここは・・・、まだダカスクス水晶谷みたいだな。  
身体は今現在・・・、浮いてるみたいだ。  
何だか、背中の部分と太股の部分に妙な感触があり、私の前にはエッジの顔がある。  
これに該当するものって・・・・・・、まさかっ!!  
じゃ、じゃあ、私は今いわいる・・・・・・、お、お姫様抱っこっ、というものをされているのか?そ、そうなのか?  
・・・急激に顔の部分が熱くなっていることに気が付く。・・・凄く恥ずかしい。  
 
 
「?メーナ、どうかしたか?」  
「い、いやっ!・・・何でもない・・・」  
「そうか・・・」  
 
 
・・・昔、まだ兄さんがいた頃、こういう事はしょっちゅうあった。  
私が怪我をすると兄さんは何も言わずおんぶをしてくれた。あの時の私はおんぶされて街に帰る時間がとても好きだった。  
しかし、兄さんがしてくれた時はあくまでもおんぶだけだったけど、お姫様抱っこというのは生まれてこの方、・・・初めてだ。  
何故だろう・・・、すごくドキドキする・・・  
 
 
「・・・・・・」  
「・・・・・・」  
 
 
うっ、なんか・・・、気まずい・・・  
 
 
「なっ、なあ、エッジ・・・」  
「ん?なんだ」  
「その・・・、私、重くないか」  
 
 
・・・会話がないからって何聞いているんだろう、私は。  
こんな時、自分にボキャブラリーが無い事を少し恨む。  
しかし、エッジは真顔で、  
 
 
「いや、そんな事はない。後ろの二人より全然軽いぞ」  
「そ、そう・・・」  
「エッジ〜っ、それってどういう事!」  
「そうだよっ!イリスは最近間食ばっかりでしょうがないと思うけど、  
あたしは最近、全然間食してないからメーナより重くないもん」  
「・・・ネ〜ル〜ちゃ〜ん。ちょ〜っとこっちで秘密のお話しましょうね〜」  
「え・・・。や、やだな〜、冗談だよ、冗談。だ、だから、・・・うわぁ〜んっ!!御免なさーいっ!」  
「待ちなさいっ!ネルちゃんっ!!」  
「おい、あまり遠くまで行くなよ・・・、って聞いてないか・・・」  
「んふふ・・・」  
「?どうした、メーナ」  
「いや、何でもない・・・。ふふ」  
「?変な奴だな」  
 
 
そう言って、再び彼は無言のまま前を見上げる。  
 
何だろうな、この感じは・・・  
 
久しぶりに・・・、本当に久しぶりに・・・  
 
幸せな、気分だった・・・・・・  
 
・  
 
・・・  
 
・・・・・・  
 
・・・  
 
・  
 
ここはギルド前。あの後なんだかんだで無事、元の世界に戻ることが出来た。  
身体の痛みも前より随分と引いてきたが、まだだいぶ痛む。  
しかし、さすがに街中でお姫様抱っこというのもいかないのでエッジに無理を言って降ろしてもらった。  
 
太陽はすでに東の空へ姿を隠そうとしている。  
私がダカスクス水晶谷に出かけたのはまだ太陽がその光を自慢するかのようにキンキンと光っていた時だ。  
 
・・・ずいぶん時間を掛けてしまったな・・・  
 
そう思いつつも私はどうしても聞いておかなくてはならない事を口にした。  
それは、何故彼らがダカスクス水晶谷にいたのか。・・・彼らの話を要約するとこういう事である。  
彼らは私と別れた後、ギルドで討伐クエストを請けた。  
討伐場所はもちろんダカスクス水晶谷。  
彼らはその帰り道、遠くから男の叫び声が聞こえた。  
一体なんだと思いそこへ行ってみれば、そこには私が丁度剣を弾かれ、体当たりを食らった所だったそうだ。  
 
 
「もう、エッジったら凄かったんだよ〜。メーナが倒れた瞬間、いきなり走り出してさ〜」  
「そう、だったの・・・。有難う、エッジ」  
「・・・・・・」  
「あっ!エッジったら、照れてる」  
「別に照れてない」  
「そんなこと言って〜、本当は嬉しいんでしょ」  
「・・・ネル。・・・今度は俺が話相手になってやろうか」  
「えっ!・・・遠慮しときます・・・。ご、御免なさ〜いっ!!」  
「こら、待てっ!・・・まったく」  
「ふふ」  
「あっ!そういえば」  
「どうした、イリス」  
「メーナさん、実は・・・」  
 
イリスの話はあの若いミストルースの話だった。  
彼は低ランクにも関わらず奥の方まで進んでしまい、そのまま魔物と遭遇。  
逃げていくうちに逃げ場所と体力を無くし、おまけに魔物まで多く引き連れてしまった。  
何度か助けを求め、もう駄目だと思った矢先に丁度そこへ私が彼の目の前に現れた・・・。という事だった。  
ちなみにその若いミストルースは私が気絶している間に時間がきてしまったらしい。  
 
 
「彼、消える前に言ってました。  
『済まない事をした。心から反省している・・・。あと助けてくれて、あ、有難う御座いましたッ!!』って・・・」  
「そう・・・」  
「『もう二度とこんな無茶な事はしない』とも言っていたぞ」  
「あと、『あなたに惚れました〜。付き合ってくださいー!!』とも言ってたね」  
「え・・・」  
「それは言ってない」  
「もう、ネルちゃんっ!!」  
「ご、御免なさい・・・」  
「ふふ、いいよ。・・・そうか」  
 
 
・・・ほんと、この三人といると楽しいな。ついつい時間を忘れてしまう・・・  
ずっとこの空間にいたい。だが・・・  
 
 
「今日は有難う。助かったよ」  
「別に礼を言われる事はしていない」  
「そうですよ。困った時はお互い様です」  
「そうそう」  
「ふふ。・・・なら、ここでお別れだ。私は依頼主に依頼品を届けなくてはならないから」  
「・・・そうか」  
「まだ、クエストの途中なの?」  
「まぁね」  
「そっか〜、残念だね・・・」  
「傷口は大丈夫ですか?あと気分も・・・」  
「うん、有難う・・・。大丈夫、イリスの薬が良く効いているみたいだから・・・。  
それじゃ、今日はこれで・・・。さようなら」  
「ああ・・・、じゃあな」  
「さようならー」  
「じゃあね〜」  
 
 
そう言って彼らはいつまでも私に手を振ってくれた。  
・・・一人は手を振ってないけれど・・・  
 
それにしても時間が掛かり過ぎたか・・・。早く依頼主に水晶を渡さなければ。  
 
 
そういえば・・・  
 
今思えばエッジって兄さんに似てるな・・・。外見ではなく内面的な所が何処となく・・・  
でも・・・、エッジはエッジだ。兄さんじゃない。だから・・・  
一瞬、ほんの一瞬だけ、私はエッジの事を・・・  
 
 
私はそう思いながら静かにその場を立ち去ったのだった・・・・・・  
 
<完>  
 

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