「はぁ……やっちゃった」
(まさか二回も転ぶことになるなんて……)
(しかもエッジさんにし、下着を見られちゃいましたし……)
顔が熱い。きっと今の私の顔はトマトのように赤くなっているだろう。
こんな時は無心で仕事に集中するに限る。
(けっこう書類も溜まっちゃってますし……)
もくもくと書類にペンを走らせていると、足音が近づいてくるのがわかった。
ふっと顔を上げると……
「……っ!?」
(エッジさん!?)
こちらに用事があるわけではないらしく、私の前を通り過ぎようとしているようだ。
が、突然エッジさんはこちらに目を向けた。
目を合わせるわけにはいかない。
今目を合わせたら、私はどうにかなってしまいそうだ。
それは、とっさの判断だった。
回れ右。
エッジさんに背を向ける。少なくとも、これでエッジさんと目を合わすことは無い。
向こうからすれば、私は後ろの戸棚から書類を取っているようにしか見えないだろう。
が。
後ろを向いた瞬間、妙な音が。
「ぶっ!」
(ん?今なんか、何かを吹き出したような音が……)
不思議に思い、振り向くと、エッジさんが顔を押さえていて……その指の間からは……血!?
「エ、エッジさん!?大丈夫ですか!?はわわわわわ……えっと……こんな時は……」
私たち受付嬢には、急病や怪我をしたミストルースのための緊急用マニュアルが配られている。
確か、後ろの戸棚に入ってたはずだ。
思うと同時、エッジさんに背を向け、後ろの戸棚へと目を向ける。
その瞬間。
「ぶっ!!!」
また血を吐いたのだろうか。また何かを吹き出す音が。
急いで再びエッジへと振り向く。
「エ、エッジさん!しっかりしてくだ……さ……い?」
(あれ?)
よく見ると。
「エッジさん……えっと……鼻血……ですか?」
肩透かしを食らったような気分だったが、まぁ何もしないわけにもいかない。
(後ろの戸棚にティッシュが入ってたはず……)
思い出し、戸棚に振り向こうとした瞬間。
エッジさんに肩をつかまれた。
「エ、エッジさん?」
「アナ……俺から目を離すな。俺だけを見ていろ……絶対に後ろを向くんじゃない」
その美しい瞳に見据えられ、私は動くことができなくなった。
(え?え?これって……告白?)
頭がついていかない。いったい、エッジさんは何を考えているのだろう。
「アナ、手を腰の後ろへ当ててみてくれ」
「へ?」
(なんなんでしょう……)
そう言いつつも、言うとおりにする。
手にかえってきた感触はスカートのすそだ。
(べつにおかしいところなんて……ん?)
腰に手を当てていて、手に触れたのはスカートの「すそ」。
これはどういうことだろう。
「エッジさん……これっていったい」
「どうやらさっき転んだ時に、腰のリボンに引っかかったらしい。その……早く直してくれると助かるんだが」
(つまり……今私のスカートの後ろ側は腰まで捲れていて……下着が……見え……て)
私が後ろを向くたびにそれはエッジさんの視界に入ったはずだ。
一拍の間をおいて。
「きゅうぅぅぅ」
恥ずかしさのあまり、私は意識を手放した。