「マルローネさん、いますか」  
 職人通りの片隅にある赤い屋根の工房をクライスが訪れるのは昔からある光景だ。  
 今日もクライスはマルローネたちの工房へ依頼に訪れる。  
 七月のザールブルグの熱気はまるで火竜がブレスでも吐いたかのようだ。クライスは額に滴る汗を拭った。こんな暑い日でも、神経質に日焼けを嫌う彼は長いローブを脱がない。  
 アトリエのドアが開き、看板が揺れる。「マリーとエリーのアトリエ」と書かれている手作りの看板は見慣れたもので、クライスはその看板がまだ「マリーのアトリエ」だった頃から彼女の工房へ通っていた。  
「はーい」  
 返事と共に現れたのはマルローネ。長い金髪がまばゆいグラマラスな美人だが、服は調合の汚れでよれよれ、その顔は睡眠不足なのか憔悴している。……いつものことだ。きちんとしていれば誰もが振り向くほどの容姿なのに。  
 見慣れた姿だが、もうちょっとどうにかならないか、と思ってしまうのは不可抗力。  
「なーにクライス」  
「マルローネさん、目にくまが出来ていますが、また徹夜ですか」  
「しょーがないでしょー、酒場の依頼が三件締め切りぎりぎりで……ふわあああ」  
 クライスの――仮にも異性の前だというのに、遠慮の無い大あくび。  
 クライスは内心ため息をついた。色気の欠片も無い。  
「じゃあ私の依頼は無理ですかね。中和剤緑を七個ほどなのですが」  
「あ、その程度ならだいじょぶ。今取ってくるね」  
 
 と、マルローネが工房に戻った時だ。  
 工房の中が見えた。  
「……マルローネさん」  
「ん?」  
 クライスは思わずマルローネを呼び止めた。マルローネは怪訝そうな声を出したものの、中和剤を探している。  
 ……とてもとても汚い工房の中で。  
「中和剤緑……えーっと、この辺だったかな」  
 がさごそがさごそ。  
 ゴミなのかメモなのか分からない紙切れがいっぱいとっちらかる中を手探り。  
 たくさんの薬ビンが無造作に置いてある中を確認。  
 飲み干した栄養剤の空瓶がごろごろと転がるのに転びかける。  
 試薬の作成中なのか、試験管やビーカーが無造作に床に放りっぱなし。  
 まして、その実験器具の近くにフラムや燃える砂が平気で置いてあるのはどういったことか。  
「…………マルローネさんっ!」  
「なによー!」  
 クライスの眼鏡がぴくぴく揺れる。神経質な青筋が浮かぶ。  
 これが、賢者の石をも作り上げた伝説の錬金術師の生態なのだというから、信じられない。  
 
 研究者が持たなければならない繊細さというものを微塵も感じられない。  
 ほこりや塵は実験結果を変えるかもしれないというのに、がさつ極まりない。  
 そして、こんな部屋で平気で生活していられる神経が許せない。  
 彼女のがさつさは知っていたが、今日はまた特にひどかった。  
「……どれくらい掃除していないのですか?」  
「え? えっとー、二ヶ月くらいかな」  
「貴女という人は!」  
「へ?」  
 クライスは工房にずかずかと踏み込んだ。マルローネが怪訝そうな顔をするのも気にせずに、眼鏡を直して嫌味に言う。  
「依頼の締め切りがどうとか言う前に、掃除をしたらどうですか! こんな部屋ではどんな調合も成功しませんよ!」  
「そんなこと無いわよ! だってもうこの状態になってから一月近くだし」  
「自慢げにそんな事を言わないでください!」  
 言い切ると、クライスは手近なほうきを手に取った。多分、生きてるほうきの悲しき死骸だ。このほうきは、あまりにもあまりなこの汚い部屋を掃除しきることもできず、泣く泣く死んでいったのではないだろうか。  
 クライスはほうきの無念を受け止めるように強く握り締めた。  
「掃除しますよ」  
「は? 締め切り抱えててそんな暇どこにもな……」  
「そっちも手伝いますから、掃除します! 全くこれだから貴女という人は……っ!!」  
 青筋を浮かべながら掃除を始めるクライスに、マルローネは妙な気迫を感じ、反論が出来なかった。うー、と暫く唸ってから、  
「わあかったわよ! もうっ」  
 と、随分と使ってなかったはたきに手を伸ばしたのだった。  
 
 工房は、まさに腐海もいいところだった。  
「マルローネさん、このどろどろとした液体はもしや……」  
「あー、液化溶剤零して放置してたかも」  
「……っ!! こっちに零れてるのは……ガッシュの木炭の失敗作ですか!」  
「あはははー、ガッシュの枝触ってたらうっかり調合中に寝ちゃって大失敗」  
「三種の中和剤がブレンドされたような謎の液体が……」  
「あ、それねえ、結局どの属性の中和にも使えないのよね。不思議で不便よねえ」  
「……腐った卵の匂いがするんですが、黄金色の岩はせめて密閉して保存してください」  
「違う違う、それ千年亀の卵のなれの果てっぽい」(作者注:千年亀の卵は確かエリーにしか出てこないですが)  
「尚悪いです!! 貴女という人は……っ!!」  
 今日二度目の「貴女という人は」を青筋を浮かべながら吐き出しても、マルローネには全く反省の色が浮かばない。  
 マルローネがはたきを動かす手際の、なんて悪いこと。掃除しようとして、別の場所を散らかしたりするのはお約束だ。ほこりが飛ぶが、そのほこりの色が目に悪い。赤い煙幕みたいなほこりが立ち上ったのにはぞっとする。一体どんなおぞましい汚れを吸っているのだろうか。  
「エルフィールさんやアニスさんもこれじゃ苦労しますね」  
「……そういえばアニスに前怒られたなあ。『先輩はどうして掃除が出来ないんですか!』って。アニスと一緒にいると工房がなぜか汚れないし」  
 それはアニスがマルローネの分まで掃除をしているからだ。  
「……どうして掃除が出来ないんですか」  
 繰り返したクライスに、マルローネは、  
「だって苦手だし、妖精さんがやってくれるしね!」  
「それが駄目なんです!」  
 あっけらかんと自分の駄目なところを言う。頭を抱えるクライス。  
 いつものやり取り。  
 彼女と出会って、工房に通うようになって――あの頃から、変わらない。  
 変わらずに、あの頃から、ありのままに生きるマルローネ。  
 
「はあ……」  
 ついたため息は、いったい何が原因だろう。  
 この工房のあまりの汚さへの呆れか、それとも変わらない彼女への安堵か。  
「どしたのクライス?」  
「なんでもありません。ほら、手を休めない!」  
「えー!」  
「『えー』じゃありません。大体、帰ってくるエルフィールさんをこの腐海で向かえるつもりですか!」  
 何かあるとサボろうとするマルローネに嫌味をいいつつ、手早く手を動かすクライス。  
 その手際はなかなかこなれている。根が神経質な分、綺麗好きなのだろう。  
 窓を熱心に拭いて、桟をこすって汚れがついていないのにちょっと笑顔を見せる。  
 綺麗になるのは良いことだ。研究は、誤差が入らないように清潔な場所で行うべきなのだ。  
 と、クライスの手が床に無造作に散らばっている紙くずに伸びた。  
「これは……メモですか?」  
 捨てようとして、中身を見て呟くとマルローネが慌てた。  
「あー! それは捨てちゃ駄目!! あたしの旅の成果!!」  
「ほう」  
 捨てられたくないくせに、扱いがひどすぎてくしゃくしゃになっている紙を丁寧に伸ばすクライス。  
 乱雑な文字の並びを良く見ているうちに、クライスの顔は――みるみる真剣になった。  
 先刻までの嫌味さが消え、真に高みを目指す怜悧な光を目に宿す。  
 錬金術師としての業が、彼の目をメモから離させない。  
「これは……」  
 クライスの表情の変化に、マルローネははたきを放り出して満足そうに言った。  
「分かる? さすがクライス」  
「……貴女という人は、どうしてこれをゴミと一緒にしておくんですか!」  
 メモに書かれていたのは――マルローネの研究の切れ端だった。  
 彼女が異国で得た様々な情報が書き留められている。ザールブルグやケントニスで得られる情報に通じていながらも、新しい風と観点を宿す智識。物質の本質の、新しい見方。  
 炎と、風と、水と、緑。水銀と黄金色の岩と。哲学者の卵。マグヌム・オプスへ至る道への新たな解釈。  
 
 クライスがまだ見たことがない種々のタブレットの暗号の解読理論まで記してある。大雑把な字とは裏腹に綿密な計算式が並び、先人が苦悩と共に書き記したであろう、深き智恵の端々を確かに解読していた。  
 思わず掃除を忘れてしまうほどに、そのメモの記述は興味深かった。眼鏡を直して、まじまじと読みふける。  
「……トリスメギストスに通じる誰かによる記述の解読ですか」  
「恐らくはね。あたしもね、それを見たときは寒気がした」  
 三重の敬称をつけて敬われた錬金術の始祖――トリスメギストス。  
 実在が定かではないトリスメギストスだが、その智識の切れ端は多くの錬金術に夢と希望と欲を与えた。  
 全ての錬金術師が抱く幻想へ至るきっかけを切り開いた始祖の一人。  
 その少ない軌跡を、旅の最中に得ていたとは――クライスは改めてマルローネという人間へ感心を覚えた。  
「貴女という人は……」  
 今日何度目かとなるその台詞を、今度は感嘆を持って呟く。  
 がさつで、大雑把で、掃除が出来なくて、平気で徹夜明けの顔を人にさらせて、生活力もないのに。  
 ――錬金術に対して抱く情熱の激しさを、こうしてさらりと見せ付けてくる。  
 彼女の瞳は自分が得た未知への扉に冴え冴えと光り、どこまでも高みを目指す力を宿してクライスを見つめる。その姿もまた、マルローネという人間の本質のひとつだ。  
「あたしも、ケントニスを出てからサボってたわけじゃないわ。いつだって、クライスとは違う方向で自分の錬金術を探してる」  
「……そのようですね」  
 認める言葉は素直に零れた。喧嘩ばかりしていても、クライスはマルローネを認め、またマルローネもクライスを認めている。  
 優れた錬金術師として、同じ高みを目指すものとして。  
 ――だからこそ……彼女をずっとずっと好きなのだ。  
 ふいに心臓の辺りが熱くなった気がした。  
 こうして再び彼女と共にあると、ふつふつと、新たな刺激を受けて彼の心臓は鼓動を増す。一人で研究していては決して得られない新鮮な喜びは、いつだってマルローネによってもたらされてきた。  
 
「ケントニスを出て得たものは多かったようですね」  
 彼女と離れていた時間は決して短くなかった。  
 そしてクライスもまた、彼女と離れている間は自らの研究に深くのめりこんだ。マルローネと離れたことはさびしかったが、クライスもまた孤高なまでに研究者気質を忘れられない人間だ。  
 マルローネのことを想いながらも、研究に打ち込む日々。ケントニスの設備はザールブルグよりもはるかに充実している。才能を存分に生かせる環境で、彼は思う存分に己が知識欲を満たしてきた。  
 その間、マルローネはマルローネなりの錬金術を旅や工房で求めた。  
「ええ。あたしはあそこを出てよかったって思える。クライスと離れたのはちょっとさびしかったけどね」  
 違う時間を生きた二人は、正反対の方法を用いて、錬金術の高みを目指している。  
 その道は、いつも交わるわけではないけれど、今みたいにこうして時折重なり合う。  
 近くない、遠くない。正反対、でも目指す場所は同じ。  
 それが、今の二人の関係だ。  
 クライスはふと、力を抜いて笑っていた。  
「……さびしいと思ってくれてはいたんですか」  
「まーね」  
 クライスの言いたいことを感じ取ったのか、マルローネも笑った。  
 その顔は、今度は珍しく、少し薹が立ってはいるものの――研究者としてのマルローネではなく、女としてのマルローネだった。  
「……あたしみたいなのをずっと好きでいてくれるのって、あんたくらいじゃない。これでもあたし、クライスのこと好きなのよ。錬金術の次くらいに」  
 ひどい言い方だ。クライスでは、彼女の心を繋ぎ止められない。  
 彼女を真に魅了しつなぎとめておくのは、錬金術という先の見えない学問だけ。  
 そう思うと、錬金術が少し憎らしくて――ふと、錬金術もマルローネも自分にとって同じ感覚で自分を支配していることに気がつく。  
 突き詰めようとしても、一度手中にしたと思っても、結局すり抜け彼を突き放す。錬金術もマルローネも、どうしてそうなのだろう。  
 そして――錬金術よりマルローネの方が、自分にとって存在が大きいから、より始末が悪い。  
 
「……ずるいですね。私は、錬金術と貴女なら、貴女の方が好きなのに」  
 ほうきを放り出して、手を伸ばす。  
 引き寄せて、抱きしめる。  
「クライス」  
 マルローネは抵抗しなかった。  
 柔らかい彼女の身体。長い金髪に指を差し入れて、ゆっくりと梳く。細くて綺麗な髪は、彼女がどれだけ不摂生をしてもその輝きを失わず、クライスの手の中でほどけていく。  
 久方ぶりの感触だった。以前彼女をこの胸に抱いたのは、彼女がケントニスを出る前の話だ。  
 再会は予期せぬ形で訪れ、こうしてまた、ひと時彼女の傍に居られるときが来るとは。  
 ――本当はひと時などでは、物足りないが。  
 ずっとつなぎとめられないなら、つながっている今をせめて貪りたい。  
「マルローネさん……」  
 口付ける。一度目は浅く、二度目は深く。舌を差し入れて、彼女のそれを絡め取る。  
「んっ……んんっ……クライス……っ」  
 甘い唾液を味わうと、長い間満たされなかった情欲に火がついていく。  
 こんなことをしたいと思うのは彼女だけ。  
 離れても、ケントニスアカデミーで多くの女性に言い寄られても、彼はマルローネだけを想い続けていた。  
 マルローネと自分の思いが等価ではないと知ってはいても、彼女以外の女性を愛することなどできない。  
 時が経ってもハリを失わない彼女の胸元に手を伸ばし、反応をうかがいながらもみしだくと、マルローネの顔に上気の紅が差した。  
「はあっ……やっ……、だめ……」  
「やめていいんですか?」  
 意地悪く言って、服の中に手をもぐりこませ、すっかり固くなっている先端に触れようとして――  
「だめだめだめだめ!! ほんとに駄目!! 今それ以上されると依頼の締め切りがパーよパー!!」  
「!」  
 
 どんっ、と思いっきり突き放されてクライスは思わずよろけた。  
 そこに、片付けきれていなかった栄養剤のビンがあり、足が思いっきりもつれる。  
 倒れそうになって、身体を支えようとして、腕を伸ばした途端――  
「あ! クライスっ!」  
「……っ!!」  
 棚にバランス悪く手を突いてしまい、がっしゃーん、と落ちた中和剤赤が頭を直撃。  
「…………マ・ル・ロ・ー・ネ・さん……っ」  
 銀色の髪から血の涙のように赤い雫を滴らせ、さっきまでのいい雰囲気など木っ端微塵に消え飛んで、クライスは怒りとむなしさで肩を震わせた。  
「……いくらなんでもこの寸止めはひどすぎやしませんか!」  
「ごめんごめんごめんごめーん!! 今拭く物持ってくるから!!」  
 流石に謝るマルローネがバタバタとタオルを取ってこようとして、同じようにつまづいて、さっき掃除した場所がまた散らかってしまい、泥沼。  
 そんなマルローネを見て、クライスは高ぶってしまった自分をどうしようと思案してため息をつくが、それでも……  
(こういうところこそがマルローネさんなのだから仕方ない)  
 と奇妙な安心を覚えて、微苦笑が漏れた。  
 マルローネは今、ここにいる。  
 暫くはこの工房で彼を迎え入れてくれる。  
 そして――自分をまだ、好きだと言ってくれる。  
 それが確認できただけでも、今日は上々だ。  
 だから、焦ってつなぎとめようとしなくても、まだ大丈夫だと信じられる。  
 落胆と安堵に少し呆けて、ごしごしと乱暴にタオルで髪の毛をかき回されるのに身を任せていたクライスだが――  
「……さっきの続きは、依頼をこなしたらね」  
 ……随分な不意打ちに、クライスの胸は安直に高鳴ってしまった。  
「分かりました。その言葉、お忘れなきよう」  
 クライスは眼鏡を直すと、早速掃除の続きに取り掛かった。  
 
 
「あ、あっ……クライスぅっ……」  
「もうこんなに濡れてますよ、マルローネさん」  
 後ろから抱きしめられる形でクライスに弄ばれているマルローネの身体は既に上気に染まっていた。  
 依頼を見事な手際で片付けたクライスは早速彼女を脱がし、その身体を求めたのだ。  
 服を全て脱がすのももどかしいとばかりに、中途半端に乱れた着衣のまま、事に及んでいる。スパッツを脱がし、すっかり熟れた花びらを愛撫していた。  
 クライスの指はマルローネの秘所に差し入れられ、中をかき回している。指が動くたびにつぷつぷといやらしい音が響き、マルローネを耳からも犯していく。  
「あんっ……はあっ……ああっ……!」  
 マルローネの反応をうかがいながら、彼女の声が高くなる場所を集中的に攻める。  
 片手は休まず胸を弄っていた。桜色の突端をつまはじくと、まるで楽器のようにマルローネが啼く。量感ある柔らかさと、コリコリとした先端の感触のギャップ。  
「久しぶりだというのに、随分と感度がいいですね……それとも久しぶりだからこそ、ですか?」  
「そ、そんなの知らなッ……ひあんっ!! だ、だめ、あ、あ、あああ」  
 軽くつねると背筋がびくんとのけぞった。昔から、彼女は胸が弱い。  
 こういうことは、何年経ってもしっかり覚えているものだ。  
「だ、だめ……む、むね……ああ、やぁっ……」  
「私と会えない間、こうして慰めていたのですか?」  
「ち、ちがっ……」  
「嘘はいけませんね」  
「あっ……」  
 つぷり。  
 指が中からさし抜かれると、マルローネは潤んだ瞳で後ろのクライスを見上げる。  
「……く、クライスぅ……」  
「ちゃんと言わないと続きはしません」  
 胸を弄っていた手も、敏感な場所を避けて焦らすようにゆっくりと動かした。  
 すっかり感度が上がっていたマルローネにとって、これは辛かった。  
「あ、や、ひどい……そんなあ……」  
 もどかしい指の動きに、マルローネの瞳から涙がこぼれる。  
 その雫を舐め取って、耳元で囁く。  
「……教えてください。それとも……」  
 こんなに感度がいいなんて、他の男と付き合っていた?  
 その言葉を何とか飲み込んで、クライスは焦らしを続ける。  
 
「そんな、恥ずかしいこと……っ」  
 正直、自分の方も挿れたくて仕方なかったが、どうしても聞き出したかった。  
「せ、切ないよぅ……ずるい……おかしくなっちゃう……!!」  
 桜色の先端に触れるか触れないかの場所をこすり、秘所の敏感な場所の周囲を円を描くように弄る。  
 先に根負けしたのは――マルローネだった。  
「……し、してたよ……クライスのこと思い出しながら……しちゃってたよ……!」  
「どれくらい?」  
 答えられた彼女にごほうびのキスをして、焦らしていた先端をまたつねり上げる。  
「ひあああん!! あっ、あっ……週に、二回くらいっ……!!」  
 マルローネが自分の名前を呼びながら自慰にふけっていた想像に、クライスの体温が跳ね上がった。  
 指先で、秘所の蕾をすりあげる。  
「はああああん!!」  
「自分でするのとどっちがいいですか?」  
「クライスがイイっ!! ああぁぁ!」  
「じゃあこれからは週に三回は抱きましょう。お互いの精神安定のためにもね」  
 嬉しい言葉に、もう我慢出来なかった。  
 マルローネを四つんばいにさせると、ついに後ろから貫く。  
「あああ!!」  
 久しぶりの侵入は、少しの抵抗のあと、すんなりと進んだ。  
 熱い。  
 彼女と一つになる。  
 待ち望んだ瞬間だった。  
 一番奥まで貫いて、すぐに思い切り動きたいのを堪えながら腰を使った。  
 ずぷずぷと、クライスのモノがマルローネの中をかき回した。  
「ふあっ……! 熱いよ……」  
「マルローネさん……」  
「ああっ! あああんっ……!! もっと激しくしていいよっ」  
 
 久しぶりの行為に、マルローネも高ぶっていた。中は適度にクライスを締め付け、射精をいざなってくる。  
 長くはもたなそうだった。  
「はあん、はあん、はあん! 奥がイイよぉっ……! ああん!!」  
「マルローネさん……!!」  
 気がつけば、もう一心不乱に腰を振ってしまっている。  
 愛する人とひとつになっている――久しぶりのマルローネの感触に、最初こそ彼女を気遣おうとしていたものの、たがは簡単に外れてしまった。  
 気持ちよくて、どうにかなってしまいそうだった。  
「ああ、イっちゃう……!! んああ、あたしもうだめえっ!」  
「いいですよ、私ももう出ますっ……!」  
「来て! ああ、出してっ! あああああああああああ!!」  
 ひときわ強く奥にたたきつけると同時に、白濁を解き放つ。  
 マルローネの身体もびくびくん、と大きくふるえた。  
 二人一緒に絶頂を向かえていた。  
「あっ……出てる……いっぱい……」  
「当たり前じゃないですか。何年分溜まってると思ってるんですか」  
 なかなか終わらない射精に、マルローネが呟くとクライスは少しだけ恨みがましく言った。  
「……しょーがないなー、もう」  
 熱い感触の余韻に浸って、少し蕩けた瞳のマルローネ。  
 こんな顔を見るのも久しぶりで……また自身が元気になってくる。  
 それを見たマルローネは、  
「あたしも溜まってるから、つきあったげる」  
 と彼にキスを返してくれた。  
 

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