【前置き】
公式設定を知らないので、フェニルは一人暮らしって事にしてます。
16歳と19歳が同棲。18歳と15歳が二人旅をしてる世界なので、12歳でも一人暮らし出来ると言う事で。
「んーっ…はぁ。今日も疲れたわ」
あたし…フェニル・ニートはミストルースが居なくなったギルドで大きく伸びをした。
窓から外に目をやるとあたりは夕闇が迫っていて、涼やかな虫達の声が響いている。
夜と夕方の狭間、その幻想的な空間に吸い込まれる虫の声。
あたしの意識は”向こう側”へとトリップしかけていた。
「………ニル。おい、フェニル」
「…へ?きゃっ!」
いつの間にかあたしの傍には赤髪の男が立っていた。
名前はエッジ・ヴァンハイト。
最近名の売れてきたミストルースで、人の事をチビ扱いするむっつり男だ。
今はそのむっつり顔に少し心配の色を浮かべている……様な気がする。
「珍しいじゃないかボーっとしているなんて。どこか悪いのか?」
どうやら予想は当たったらしい。でも、こいつからこんな言葉が出るなんて正直”予想外”だ。
「へー。あんたでも人の心配なんかするんだ。異世界でぷにぷにが異常繁殖しちゃいそうね」
「それだけ言えれば大丈夫だな。昼頃に受けた討伐クエストの報告に来た」
え?もう討伐してきたって言うの!?決して簡単なクエストでは無いはずなのに…
「確かにデスナイトの鎧破片ね…まあまあやるじゃない」
驚きを隠しつつ報酬を用意する。
「はい、これが報酬。しかしなんでこんな遅くに報告に来たのよ。帰ろうと思ってたのに仕事を増やさないで欲しいわ」
「それはすまなかった。イリスが調合にどうしても必要だと言ってな。それで取りに来たんだ」
報酬を確認しながらそう話すエッジ。
「ふ〜ん。で、そのイリス達はどうしたのよ?」
「意外と骨の折れるクエストだったからな。先に帰らせた」
エッジは手を止め、こちらを見た。
「確認した。報酬、確かに受け取った」
「はいはい。それじゃ早く帰りなさいよ。あたしが帰れないじゃない」
そうあたしが言うと、エッジは顎に手を当て何事か考え始めた。
「フェニル。もう直ぐに帰るのか?」
「当たり前じゃない」
「そうか。なら送って行こう」
「……………は?」
一瞬何を言っているのか分からなかった。
「俺が来た時はまだ明るかった。その時であれば問題無いが、今はもう暗いからな。流石に女の子一人では危ない」
うわ。大真面目だ。てゆーか…
「子供扱いしないでくれる!?これくらい慣れてるわよ!」
これは嘘じゃない。後処理等で遅くなる事なんて結構ある。
「俺が納得出来ないんだ。この日にもし何かあったら、悔やんでも悔やみきれない」
な、なんだか今日は”予想外”な言葉が多いわ。
「…しょ、しょうがないわねー!そこまで言うんだったら、送らせてあげなくもないわ!」
「そうか。では表で待っている」
そう言うとエッジはギルド入り口へと歩いて行った。
更衣室へ行き、モゾモゾと着替えを始める。
「あいつ、結構良い所あるじゃない。ただのむっつりでは無いみたいね」
「あら。そんなに急いで着替えてどうしたの?」
「べ、別に急いでないわよ!あいつの為なんかじゃ……ふえ!?」
驚いて視線を更衣室の入り口へと向ける。
ノエイラが壁に背を預け、こちらを見ていた。しかもドア全開で!
「ちょ、ちょっとノエイラ!ドア開けっ放しは止めて!早く閉めてよ!」
急いで持っている制服で体を隠す。
ふふっと笑うノエイラ。
「大丈夫よ。もう殆ど人は残ってないわ。それよりフェニルに聞きたい事があるの。この討伐モンスターについてなんだけど…」
「ちょ、ちょっと!あたしはもう仕事終わってるんだけど!」
「いいじゃない。ちょっとだけ…ね?」
ダメだ。答えるまで開放してくれそうに無いわね…
「…はぁ。しょうがないわね。で、どの件なの?」
「はぁ…やられた…ノエイラのばか…」
あれから仕事をいくつか押し付けられ、気付けば外は真っ暗になっていた。
重い足取りでギルド入り口へと歩て行く。
「あのむっつり、流石に怒って帰っちゃってるよね…」
こんな時は過度な期待はしない方がいい。ショックが小さくて済むから…
ギルド入り口のドアを開けると、そこには……予想通り誰も居なかった。
「…はぁ」
ため息を一つ吐き、帰路につこうとした時、コツンと後ろから頭を小突かれた。
「遅い」
「あ…」
そこに居たのは、赤髪の男…エッジだった。
「流石に待ちくたびれた。早く帰るぞ」
「え?ちょ、待ちなさいよ!」
さっさと歩いて行くエッジの後を急いで追いかける。
黙って歩いているエッジの隣を、あたしは下を向いて歩く。
今まで通り顔を見れない…だって、あたしの想像していた人物像と全然違うんだもの。
他人に興味を示さない朴念仁かと思ってたら、実はちょっと優しい…のかしら?
歩調もあたしに合わせてくれてるみたいだし…
「ね、ねえ…」
「なんだ?」
ちょっとだけ気恥ずかしくて、顔を上げられないまま尋ねてみる。
「ずっと待ってたの…?」
「ああ」
「どうして?」
「送って行くと約束したからな」
「…怒ってないの?」
「ああ」
簡潔ながらも、しっかりと答えてくれるエッジ。
なんか、調子狂っちゃうな…
「そういえばフェニル。アナから聞いたんだが、お前一人暮らしなのか?」
「へ!? え、ええそうよ。あたしはあんた達と違って、自立した女だからね」
突然振られた話題に、バッと顔を上げる。
「一人…か」
そう呟いたエッジは、また顎に手を置き、考え始めた。
「…今度は何を考えてるのよ」
「ん、いや。こんな遅くから料理をするのは大変だろう。どうだ、ウチで食べて行かないか?」
「はぁぁぁぁ!?」
な、何言ってるのこいつ!?
「い、嫌よ!なんであんたなんかの家に行かなきゃいけないのよ!」
「そうか。なら良い」
「うあ!もう引き下がってるし!あんた本気で誘う気無いでしょ!?」
「誘う気がなければ声は掛けないさ。ただ無理強いをしたくないだけだ」
く…!屁理屈を…!でも、確かにお腹すいちゃってるし…今から料理するのメンドクサイし…
「良いわ…あんたの誘いに乗ってあげようじゃないの!その代り、ご飯マズかったら容赦しないわよ!」
「…覚悟しておこう」
そういってエッジはふっと笑った。
「あ…」
なんて…優しい笑顔…
「どうしたフェニル。工房はこっちだぞ」
「!? わ、分かってるわよ!」
ふ、不覚だわ!こんなむっつりに一瞬とはいえ見とれちゃうなんて!
「ただいま」
ガタガタと大きな風車の回る家のドアを開けるエッジ。
ここがイリスの工房。あたしは実際に中に入るのは初めてだ。
「エッジ遅いよー!もうお腹ペコペコー!」
奥からイリスがパタパタと小走りで近づいてくる。
「あら?あなたは…フェニルちゃん!?」
あたしに気付いたイリスが驚き、声を上げる。
「えええ!?フェニルー!?」
さらにその奥からも可愛らしい声が上がった。
またもやパタパタと言う足音が近づき、ネルが姿を現す。
「わ!ホントにフェニルだ!」
「こ、こんばんは…」
そういってペコリと頭を下げる。
いつもギルドの受付越しに見ている顔ではあるが、プライベートで会うとちょっと緊張する。
「ねね、エッジ!一体どうしたの?まさかナンパでもしてきたとか!?」
「ええ!?ねぇエッジ…流石にフェニルちゃんは犯罪じゃ…」
「そんな訳あるか!ご飯を食べないかと誘っただけだ!」
「や、やっぱりナンパだよ!イリス!エッジが人の道を踏み外してるよぉ!」
「エッジ…あのね、自分で言うのもなんだけど、私も結構幼い方だと思うんだ…だけど、ダメなの…?」
「えー!?年齢的に言えば近いのはあたしの方だもん!ね?そうだよね、エッジ!」
「エッジ、そうだったの…?」
「お前等が何を言っているのかさっぱり分からん!」
そうやってワーギャーと喚く一流ミストルース達。
普段とのギャップに笑いが込み上げてくる。
おかしくて、おかしくて、思いっきり笑った。
こんなに笑ったのは久しぶり…
あの後誤解もなんとか解け、みんなで遅い晩御飯を食べた。
おっきなステーキが出て来たけど、おいしかったー。
イリスが作ったらしいから、今度イリスにお肉の仕入先と作り方を聞かなきゃ!
「さて、それじゃそろそろ寝ようか」
「うん、そうだねー」
「…あれ?エッジがいないみたいだけど?」
「あ〜。エッジはいつもお稽古してから寝てるんだよ」
「へー…そうなんだ。ちょっと見てきてもいいかしら?」
「いいと思うけど…邪魔しちゃダメだよ?」
「分かってるわよ。それじゃちょっと行ってくるわ」
「はーい。暗いから気を付けてねー」
外に出るとひんやりとした空気が肌に触れる。
イリスが言うには家の裏手側、風車の下あたりで稽古しているとの事だ。
少し歩くとブンッという空気を切り裂く音が聞こえてきた。
黙々と大きな剣を振り回すエッジ。
時には流れる様な動きで。時には荒々しく大振りな一撃を。
月明かりの下、まるでダンスを踊っているかの様だった。
「ふぅ」
剣舞を止め、近くに置いてあったタオルで汗を拭うエッジ。
あたしはその場から動けず、ずっとエッジに魅入っていた。
「…フェニル。そんな所でどうした?」
「ふえ!?」
き、気付いてたのね…
「あ、あんた、いつもそんな事してるの…?」
「ああ。探索は時に命に関わる。後悔する前に、やれる事は全てやると決めているからな」
なるほどね。この人達がミストルースとして成功しているのも頷けるわ。
弛まぬ努力…他人に対する優しさ…それらを持っているのですもの。
「それでどうしたんだ?イリスとネルは寝ているみたいだが…まさか、お前眠れないのか?」
「そ、そんな訳ないでしょ!ただ、あんたがいないから、何してるのかなーって思っただけ!」
「そうか」
短く答えるとエッジは地面に腰掛け、空を見上げた。
「あ、あのさ…」
「ん?」
空を見上げたままのエッジの隣にあたしも座る。
「今日、誘ってくれて、その…」
「………」
「あ、ありがと…」
恥ずかしい…まともなお礼を言うのは久しぶりだわ…
きっと真っ赤になっているであろう顔を見せない為に下を向いていたあたしの頭に、ぽんっと温かいものが触れた。
ちょっと顔を上げてみると、相変わらず空を見上げたまま、エッジがあたしの頭に手を置いていた。
頭に置かれた手には不思議と不快感はなかった。
いつもなら子供扱いされた事に怒る所だけど、今日は、なんだかとても心地良い。
何故だろう…ずっとこうしていたいと思った。
何故だろう…胸が熱くなってくる。鼓動が早くなる。
でも、とても幸せな気分…
「さあ、体を冷やしすぎると毒だ。そろそろ戻ろう」
頭の上から、温もりが離れていった。
「あ…」
「ん?どうした?」
「な、なんでもないわよ!」
さっと立ち上がり、お尻のあたりの草を払う。
「ねえ」
「なんだ?」
「また…遊びに来てもいいわよね…?」
「ああ。もちろんだ」
夜空が綺麗…今日はとてもいい夢が見れそうだ…
〜 fin 〜