俺はただ、妹の命を救いたい。それだけなのに……。
封印の遺跡最深部。俺はそこに立っていた。目の前には台座と、それに刺さっている一振りの剣。
どうして……。
こんなところまで来たのに、なぜ……。
「なぜだ!?なぜアゾットが抜けない!?」
台座に軽くはまっただけに見えるアゾット。しかし、何故か俺には抜くことができなかった。
どんなに全力で引いても、まるでアゾット自信がそれを拒んでいるかのように。
「お兄ちゃん……もういいよ」
後ろから声がかかる。
リエーテだ。最愛の妹。俺の生きる、意味そのもの。
「……お兄ちゃん、わたし、もう十分生きたよ。わたしだけのことを想って身を削ってくれた。わたしは満足だよ」
「そんなこと言うな!」
意味が分からない。リエーテが死ぬ?こんなにも愛しているのに?
「でも、もう間に合わないよ。自分の身体のことだもん、自分が一番よく分かってるよ。」
「だ、だがエリクシールさえあれば……んん!?」
言葉の続きを唇で遮られた。
驚きで自分の目が見開かれるのを感じる。
一瞬の口付けの後に離れたリエーテは、こちらを見上げて告げた。
「わたしからの……最後のお願い……お兄ちゃん、わたしを抱いて……」
「…何?」
疑念の視線を返すと、リエーテは肩をすくめて続ける。
「好きだから。お兄ちゃんが好きだから。お兄ちゃんがわたしのこと、妹としてしか見てないの知ってるけど……せめてお兄ちゃんの恋人として、終わりたいの」
終わり、という言葉にどきっとすると同時に、リエーテがどれ程の覚悟をもって告げたのかを痛感する。
涙を流しながらこちらを見つめるその瞳を見据え、俺は静かに頷いた。
今、俺の腕の中には下着姿のリエーテが横たわっている。その目はきつく閉じていて、頬は林檎のように赤くほてっている。
「……怖いか?」
呟いた言葉に、リエーテは薄く目を開け、首を横に振った。
「ううん。その……恥ずかしくて……」
そのまま身体ごと横に向けてしまう。
「大丈夫だ。……俺を信じろ」
そう言って再び身体を正面に向けてやり、今度はこちらから口付けた。
先程のフレンチキスとは違い、長い、舌を絡ませたキス。
一瞬リエーテは全身をこわばらせ、しかし同時に強く抱き締めると、ゆっくりとその身体は弛緩していった。
「ん……んふっ……んんっ」
小さく声を上げながら、おずおずと舌を絡めてくる。
ぴちゃ、くちゅ、という卑猥な音が室内に響きわたる。
しばらくキスを堪能し、口を離すと、互いの唇が銀色の糸で繋がり、切れた。
その光景を目に焼き付けながら、俺はリエーテの下着に手を掛ける。
「やっ……そんな……」
小さな悲鳴があがるが、もう遅い。
片手で上下の下着を抜き、自身も素早く服を脱ぐ。
リエーテの視線が一瞬こちらのモノに注がれ、釘付けになったかと思うと、はっと思い出したように目をそらした。
そのの反応に苦笑しながら、産まれたままの姿に手を伸ばす。
左手は決して大きいとは言えない未発達な乳房へ。右手は足の間へ。
「んあっ……お兄ちゃ……ダメ……そんなとこ……んんっ」
リエーテから動きが減り、逆に声と汗が同じ分だけ溢れた。
相手に逆らわない、純粋な反応だ。
「……可愛いな」
普段なら口に出せないような言葉が出る。
そんな自分を感じつつ、俺はリエーテの中心に顔を寄せた。
指と、舌で存分に愛撫する。
「ひあぁ!?……お兄ちゃん、それ激し……んぅ……!」
声を無視して続ける。
「はぁっ、んくっ……んああっ!あぁぁぁ!!」
俺の腕のなかで、リエーテが今まさに絶頂への階段を昇ろうとしたとき、俺はピタリと指を止めた。
「はぅ……?お兄ちゃん……?」
その残念そうな顔を見つめ、俺は告げる。
「リエーテ……そろそろ……」
言うと同時、俺は自分のモノを当てがい、リエーテを一気に貫いた。
荒っぽいと言えるかもしれないが、余計な恐怖を与えない方法としては、今俺が出来る最善の方法だ。
「え……?んっ!!んぐうぅぅ!!い……った……お兄ちゃ……うあぁぁ!」
泣き叫ぶリエーテの声。だが俺はそのまま腰を進めていく。
そして最奥にたどり着き動きを止めると、リエーテは泣き腫らした目をそっと開き、荒い息で呟いた。
「お兄ちゃん……。お兄ちゃんが入ってるのが、わかるよ……」
「ああ、痛かっただろう?すまない…………頑張ったな」
そう告げて頭を撫でてやると、リエーテは、くすぐったそうに目を細めた。
あれから先は無我夢中だった。
一気に腰を振って。
放出と同時にリエーテの体が跳ね上がったところまで覚えている。
そして今、リエーテは俺の腕のなかで眠っている。
安らかな寝顔。
それはどう見ても健康な少女そのもので。
死期が近付いているとはとても思えないほど可愛らしくて。
でも、それが哀しくて。
そんなリエーテに、俺は口付けた。
「ん……」
弱い刺激に、リエーテが小さく息を漏らす。
「……お兄ちゃん?」
「なんだ?」
呼び掛けに反応すると、リエーテは目を閉じたまま、えへへっと微笑み、告げてくる。
「好きでもないわたしのこと、抱いてくれてありがとう」
その言葉に、自然と苦笑が浮かぶ。
「そのことだけどな……」
「……」
「俺がいつお前のことを好きじゃないと言った?」
「……え?え?」
戸惑うリエーテをしっかりと見据え、告白する。
「俺は……リエーテ、お前を愛している。妹としてではなく、一人の女として」
頬が熱くなるのを感じながら、俺はリエーテの表情がめまぐるしく変化するのを見た。
困惑から驚き、そして歓喜の表情へ。そして歓喜の表情は、一瞬のうちに崩れた。
「よか……た……わた……うれ……し」
閉じたままの瞳から大粒の涙を流す大粒の涙を流すリエーテを、強く抱き締め、俺は少し強引に、もう一度口付ける。
「んぅ……はぅ……」
数秒、その時間を以って離れ、見つめ合う。
それを見て俺は愕然とした。
目を開けたリエーテの瞳。涙を浮かべたそれが、何も映していない。
「リエーテ……お前……」
「……うん……もうだめみたい……お別れだね……お兄ちゃん」
もう何も見えぬ身で、淡々と。
「いやだ!」
「……お兄ちゃん?」
「リエーテが死ぬだと!?耐えられるか!」
今まで生きてきて、こんなにも激しい慟哭を経験しただろうか。
……プライドも命も惜しくはない。リエーテが救われるならば、どんな地獄でも甘んじて受けよう。
だから……!!
「死なないでくれ……リエーテ!」
「……お兄ちゃん」
呟きが聞こえると同時、強く抱き締め返された。
「……愛してる」
はっきりと告げ、ふっと俺に掛る重さが増した。
「リ……リエーテ?」
震える口で言葉を紡ぎ。
しかし。
少女は、その言葉に答えることはなかった。「リエーテえぇぇぇ!!」
あれから何日経っただろうか。
俺はリエーテの亡骸を胸に掻き抱き続けた。
そしてその時は来た。唐突に。
それは、もう涙も枯れ果てた頃だった。
『お困りですか、マイマスター』
「っ!?誰だ!?」
突然背後から掛けられた声に、驚いて振り返る。
声は隣室からのようだった。
急いで向かうと、これまで何の反応も示さなかった真紅のアゾットが、強い光を放っていた。
『お困りですか、マイマスター』
再度同じ言葉を投げ掛けてくる。
「お前は……」
息をのむ。
「お前は、俺をエデンに導くことができるか……?」
『マスターの、お望みのままに』
「……そうか」
俺は、一歩を踏み出した。
そして。
アゾットの柄に手を掛け、一気に引き抜いた。
運命の歯車が、回り始めた。