カロッテ村・夕刻。  
「…あのね、お兄ちゃん」  
いつものように地獄のにんじんフルコース責めな夕食の後。  
皿を片付け終わったテーブルの前で、いつになく神妙な面持ちの我が妹ヴィオラ−トが、食後の茶をすする俺に話しかけてきた。  
「ん?なんだ?」  
「私、この券を使いたいんだけど…」  
言いながら、ヴィオはおずおずと一枚の紙片をテーブルの上に差し出した。  
むっ。こいつはっ。  
それは、先日俺様がオ−クションで見事優勝を勝ち取った、俺様特製肩たたき券だった。  
…聞いて驚けっ!なんとこの肩たたき券セットは、100万コールの値打ちがある、世界に二つとないスグレモノだ。  
俺も、優勝は確信していたが、…しかしまさか俺の肩たたき券にそれほどまでの価値があったとは、作った俺もビックリだったぜ。  
そういやあ、落札したヴィオの奴、嬉しさのあまり青い顔で「…どうしよう、…お金が、お金が…」と呟きながら、泣きじゃくっていたっけな。  
…ヴィオ、お前はそれほどまでにこの兄に肩を叩いて欲しかったのか、と俺はちょっと感動したぞ。  
「なんだ、ヴィオ、早速ご使用かっ。よーしっ、この俺の拳の威力をとくと味わえっ、我が妹よっ」  
俺は指を組み、ぼきばきと音を鳴らせた。…ふっ、遂にこの俺の真の実力を見せる時が来てしまったようだな…。この兄の偉大さ、とくと思い知らせてくれようっ。  
「ちょ、ちょっと待って、お兄ちゃん。この券って…肩以外の場所でも、使えるのかな?」  
「ん?まあ、マッサージ券だからな。背中でも腰でも疲れてる場所があるんなら、この俺が癒して癒して癒し尽くしまくってやるぜっ」  
「…えっとね、疲れてはいないんだけど…、その、…大きくしてほしいところがあって…その」  
ヴィオはみょーに歯切れの悪い、ぼそぼそした口調で喋った。段々声が小さくなり、顔が下を向いてゆく。  
「なんだよ、さっさと言えよなー」  
「…えっと…、えっとね…、…その…、…………を、…………でほしいの…」  
消え入りそうな声でヴィオが呟いた。  
その顔は真下を向いていて、何故か真っ赤だ。  
俺はちょっとイライラしながら飲みかけの茶を啜った。  
「聞こえねーって。もっとハッキリでかい声で喋れよ」  
ふいにヴィオは顔を上げた。  
何かを決意したかのように、きっと口を結び、瞳を強い意志できらめかせ、真正面から俺を見据えた。  
そして、力強い声で、堂々と宣言した。  
「お兄ちゃん!あたし、立派な胸が欲しい!だから!あたしの胸を揉んで下さい!」  
ぶーーっっと俺は口に含んだ茶を、残らず吹き出した。  
 
「やだもうっ!お兄ちゃんってば、汚いなあっ。何してるのようー!」  
がはごほぐへげへっ、っと咳き込む俺をよそに、ヴィオはテ−ブルを布巾で拭くのに必死だ。  
お前は苦しむ兄よりもテーブルの方が大事なのかあっ、と問い詰めたいところだが、しかし今は先刻の爆弾発言を問い詰める方が先だ。  
…何考えてんだよ、コイツ…。  
「お前な、意味わかってて言ってるのか、コラ。…とゆーか、どっからそーゆー発想が脳に沸いて出てきたんだ、オイ」  
「えっと、それはミーフィスから聞いたの。『男の人に揉まれたら大きくなるかもよー』って。…ちょっとミーフィス酔っ払ってたけど、いつものことだし。それに、他の人にも確認してみたら、みんな大体『…まあ、そうとも言うわねえ』って言ってたよ」  
…密かに頭痛を感じつつ、俺は重ねて尋ねた。  
「…なんで立派な胸が必要なんだよ」  
と、ヴィオは、布巾の端を口に噛み締め、悲しげに俯いた。  
「…お兄ちゃん。ヴィオは、先日カタリ−ナさんとミ−フィスと一緒に、採集のついでに海辺に立ち寄る機会がありました…」  
妙に芝居がかった口調で、宙に視線をさ迷わせつつ、ヴィオは続けた。  
「暑いから水浴びでもしていこう、という話になり、女同士の気安さもあって、お互い裸で水の掛けあいっこなどに楽しく打ち興じ…。…そこまでは、良かったのです。…でも、ヴィオは、はしゃぎ回っているうちに、ふと違和感を感じました…」  
「…………」  
「…なんだか、私だけ、カタリ−ナさんやミ−フィスとは、何かが違っているような…。二人にはある、何かが私には欠けているような…。よくよく二人を観察するうちに、ヴィオは気付いてしまいました。  
…そう、二人の胸は……揺れるのです」  
そこまで言うと、ヴィオは、ううっ、と悔しげな嗚咽を漏らした。  
「二人とも、いかにも『ボンッ・キュッ・ボーン』って感じのないすでぐれえとで、わんだほ−なばでぃ……。…でも、ヴィオには…、ヴィオには、何故かその『ボンッ』が…、………存在、しないのです…」  
「…………」  
ヴィオは、目の端に滲んだ涙をそっと拭った。  
「ヴィオは、なんだか自分だけ置き去りにされたような、いたたまれない、寂しい気持ちでいっぱいになりました…。翌日、ヴィオはクラ−ラさんとアイゼルさんを誘って、再び海へ参りました」  
「なにいっ!?クラ−ラさんをかっ!?」  
「むちむちぷりんなアイゼルさんの事は最初から諦めていましたが、『スレンダ−なクラ−ラさんなら、もしや私の仲間かもっ』と、ヴィオは淡い期待を胸に抱いていました…」  
「ふんふん、それでそれで?」  
俺はぐっと身を乗り出し、一言たりとも聞き逃すまい、と耳を研ぎ澄ませた。  
「『日焼けしたくないから』と断るクラ−ラさんを宥めすかして説き伏せ、半ば無理やり強引に服をひっぺがし…。そして、ヴィオは我が眼を疑いました。  
色白餅肌のクラーラさんの裸身には、ふっくらとした双丘が…。…クラ−ラさん、あなたは着痩せするタイプの人だったのですね…。…クラーラさんだけは、きっとヴィオの味方と信じていたのに…。ひどい…。かわいそうなヴィオは、やっぱり一人ぼっち…」  
「と、ゆ−ことは、クラ−ラさんは、ないすでぐれえとでわんだほ−な『ボンッ・キュッ・ボーン』だったんだなっ!?」  
息を弾ませ興奮した口調で俺が尋ねると、ヴィオはきっと睨みつけた。  
「もうっ!お兄ちゃん、人が真剣に話してるのに鼻の下延ばさないでよっ、このスケベ!」  
「はっはっはっ、悪ぃ悪ぃ。…いやー、しかし、お前もたまには役に立つ事するなあー。そうかあー、クラーラさんは『ボンッ・キュッ・ボーン』なのかあ。ハッハッハッ」  
ヴィオはしばらく俺を睨みつけていたが、諦めたように溜め息をついた。  
「…お兄ちゃんにマジメに相談したあたしが馬鹿だった…」  
「いや、まあそう言うなって。ちゃんと聞いてやっから続けろや」  
ふうっ、と再びヴィオは溜め息をついた。  
 
「傷心のヴィオは、今度はブリギットとパメラさんを海に誘いました。  
『病弱なブリギットなら、きっと…!』『幽霊のパメラさんならもしや…!』  
などと一縷の望みを二人に託し…。…そして、そしてヴィオは三度裏切られました…。…ううっ」  
「………。…………………………」  
「帰宅したヴィオは、ベッドの中で枕を濡らして一人密かに嘆きました。  
『どうしてっ!?どうして神様はこんなにヴィオに意地悪するのっ!?身長がミジンコサイズだけでもすっごく嫌なのに、胸の大きさまでミジンコサイズだなんてっ!何故なのっ!?何故こんな呪われた体に、私は生まれついてしまったのー!?』」  
「………。……………………っ。…………………ぷぷっ」  
涙混じりの告白を終えたヴィオは、体を二つ折りにして笑いをこらえている俺の様子にようやく気付いた。  
「ちょっと!お兄ちゃん、なに笑ってるのよーっ!人がこんなに真剣に悩んでるのに、信じられない!サイテーッ!!」  
「うわはははははっ。いや、悪ぃ悪ぃ。…しっかしお前もウマイ事言うなあ。そうか、お前の胸はミジンコサイズかっ。ぶわははははははははははっ。わはっ。……わっ、わらいずぎで腹がいでーっ。ひーーっ。ぐるじーっ。ぶはははははっ」  
俺はテーブルをバンバン叩いて、思う存分笑い転げ回った。  
「…神様、その上私にこんな兄を押しつけるなんて、本当にヒドすぎます…」  
ヴィオは目に涙を溜めて小さく呟くと、「…もういい」と力のない声で言った。  
「…おい待てヴィオ。ここはひとつ、頼れる兄貴が知恵を貸してやろうじゃねえか」  
ようやく笑いの波が過ぎ去り、涙を拭いつつ、まだ痙攣する脇腹を抱えながら俺はヴィオに声をかけた。  
「お前、錬金術でそういう薬作ったらどうだ?ハゲに効く薬があるんなら、ミジンコサイズに効く薬もあんじゃね−か?店の商品も増えるし、一石二鳥じゃね−か」  
ヴィオはにやにや笑いの俺を見て、小さく溜め息をついた。むっ。この俺様の画期的な意見に何か文句でもありやがるのか。  
「お兄ちゃんにしては、珍しくマトモな意見ね。でも残念、それはもう調べたの。アイゼルさんに質問したら、なんでもアイゼルさんの御師匠さんが人体改造の秘薬にとても詳しい人だったんだって。  
…でも、そいういう方面に深入りしすぎたせいで、…恐ろしい事がその御師匠さんに起こってしまったんだって…」  
ヴィオが深刻な表情で黙り込んだ。思わず俺も息を呑む。  
「…恐ろしい事って…、…し、死んだのか?」  
「ううん。健康には全然問題なかったんだけど、人格に恐ろしい影響が出て…。…取り返しのつかない、破壊されたアブナイ性格の人になってしまったそうよ…。まわりの人は、その御師匠さんに恐れをなして誰も近寄らず、御師匠さんは婚期を逃して今も独身…」  
心底恐ろしそうに肩を抱いて、ヴィオはぶるっと体を震わせた。  
「アイゼルさんから『絶対にやめておいた方がいいわ』って、真剣な顔で忠告されちゃったよ。…だから、胸の大きくなる薬の研究は、危険すぎてできない…」  
ヴィオは暗い溜め息をついてから、顔を赤らめた。  
「…そんな訳で、残された手段は『男の人に揉んでもらう』しかないの…」  
…我ながら恥ずかしい妹を持ったな−、としみじみと思いつつ、俺は釘を刺した。  
「俺は御免だぞ。誰か他のヤツに頼めよな」  
「ええっ!?だってお兄ちゃん、この肩叩き券使えるって、さっき言ったじゃない!」  
俺は立上がり、ふんぞり返ってヴィオに指を突き付けてやった。  
「愚か者がっ!神聖なる肩叩き券とは、純粋に疲労した肉体の健康回復に使用すべきものっ!そのようなよこしまな目的に使用するとは言語道断ッ!天が許してもこの俺が許さぬわっ!  
…ついでに言っておくが、『お兄ちゃん、この券で店番お願いねっ』等の使用も全面禁止だからな」  
「…ううっ、せっかく買うつもりもないのに競り落としてしまったこのおバカな券が、有効使用できると思ったのに…」  
ヴィオはがっくりと肩を落とし、肩叩き券を握り締めて嗚咽を漏らした。…ふっ、この世に悪の栄えた試しはないな、と俺は悦に入った。  
 
「…お兄ちゃんがダメなら、やっぱりロ−ドフリ−ドさんに頼むしかないかなあ…。すごく恥ずかしいけど」  
ぽつりと小さくヴィオが呟いた。  
「むっ。…ロードフリード?」  
俺はヴィオの口から出た名前に眉をひそめた。  
ロ−ドフリ−ドねえ…。…まあ、ヴィオが俺の次に頼る野郎といえば、最初に思い浮かぶのはヤツだろうが…。  
…ちょっと待て。とゆ−ことは、だ。ヴィオがロ−ドフリ−ドのところへとことこ歩いて「胸を揉んでください」などと恥っさらしな台詞をヤツに述べ、了解したヤツがヴィオの乳を思う存分揉みほぐすわけで…。  
俺の頭の中で、むくむくと妄想が展開した。  
 
ロ『…ダメだよ、ヴィオ。もっと、自分を大切にしないと。…だけど、ヴィオがどうしても、って言うなら…。…しょうがないな、断れないよ』  
ヴ『わーい、やっぱりロ−ドフリ−ドさんは、お兄ちゃんより優しいなあっ。じゃあ、早速お願いしまー……………えっ!?…ちょ、ちょっと、何するのっ、ロードフリードさんっ!?やだっ、やめてっ』  
ロ『フフッ。ヴィオ、本当は俺にこうして欲しかったんだろう?大丈夫、俺もヴィオと同じ気持ちだよ。…ほら、もっと足を広げて…』  
ヴ『いやだっ、やめてえっ!…誰かっ、誰かたすけてっ!…おっ、お兄ちゃん!お兄ちゃん、助けに来てえっ!おに……ァッ!…いやっ!いやよ、やめて!いや…。…おっ、おにいちゃぁぁーんっ!助けてえーっ!』  
 
「………………」  
俺は目を閉じ、ゆっくりと深呼吸した。  
眉間を揉みほぐし、脳裏にちらつく無残な映像を追い払おうと努力する。  
「どうしたの、お兄ちゃん?なんかすっごくヘンな顔してるよ?顔面神経痛にでもかかったの?」  
ポケットから取り出したにんじんを齧りながら、ヴィオが不思議そうに俺を眺めた。  
俺は複雑な気持ちで我が妹を眺め返した。子鹿のように無邪気な瞳、つついてみたくなるぷにぷにしたほっぺ。…そして、いつもニンジンを咥えている唇……。  
…ニンジンの替りに別のものを捩じ込みたい、などといった不埒な妄想に耽っていそうな変態に俺は心当たりがある。  
「ヴィオがよくニンジン齧っているのって、アレ、なんだか可愛いよな」  
とサラッと爽かな笑顔で言ってのけるロードフリード…。  
どーこが可愛い。みっともねーだけじゃねーか。  
俺は真剣な顔でヴィオに忠告した。  
「…ヴィオ、ロードフリードはやめておけ。アイツは、ヤバイ。お前は知らんだろうが、実はヤツはものすごい変態だ」  
「お兄ちゃんってば、まーたマジメな顔で適当なこと言って。ロードフリードさんは紳士だよ。お兄ちゃんと一緒にしたらダメじゃない」  
「――くっ。それはっ、お前が男の本性を知らなさすぎるだけであってなっ。  
……とにかくっ。ロードフリードは絶対不許可っ!これは家長命令だ!」  
「ぶー!お兄ちゃんはいっつもあたしにいちゃもんばっかりつけるんだから。じゃあ『他のヤツに頼め』って誰ならいいのよう!」  
「『誰』って言われても、それはその――」  
言葉に詰まった。当然ながら誰でもよくない。  
普通ならこんなお子様に襲いかかるのはごく一部のマニアックな変態のみ、と断言できるが、しかし若い娘の乳を思う存分揉みしだきまくった後で、「ハイ、これで終わり」で済むよーな男がこの世にいるか?……いるわきゃねーだろが。  
「……ヴィオ、その言葉は撤回だ。お前、間違ってもよその男に『胸揉んでください』なんて絶対言うなよ?お前だけならともかく、俺まで恥かかされるんだからな」  
「もう!お兄ちゃん、本当は単にあたしの邪魔したいだけなんでしょ!?」  
ヴィオはふくれっ面をして俺を睨んだ。そうするとますます子供っぽく見える。  
「だいたい、『家長、家長』って偉そうに言うけど、うちの生活費のほとんど稼いでるのはあたしじゃない」  
「うわっ。お前、それを言うか?そこは『……いつも苦労をかけてすまねえなあ、ヴィオ』『お兄ちゃん、それは言わない約束だよ』って、お前の方から優しく朗らかにこの兄をいたわるのが、貧しいながらも仲睦まじく二人で暮らす貧乏兄妹のお約束だろ?」  
「……あたし、お兄ちゃんから『苦労かけてすまないな』なんて言われたことないよう。たまには言ってよ」  
じとーっとした上目遣いでヴィオが俺を睨みつける。  
むっ。そうだったっけか?……まさに墓穴。  
 
とりあえず稼ぎから話を逸らそう。はっきり言って俺の方が分が悪い。  
「……とにかく、だ。胸なんて毎日ミルク飲んでりゃそのうち育つもんなんだから、んな無理にでかくする必要なんてねえだろ。だからそんな気にするなよ、な?」  
兄貴らしく優しい言葉をかけてやった途端、ヴィオの両眼からだーっと滝のように大量の涙が流れ落ちた。  
「……子供の時から、毎日ミルク飲んでるもん……」  
「……そ、そうか」  
陰々滅々とした声音でヴィオが続ける。  
「……昔、お母さんもお兄ちゃんと同じ事言ったよー。あたしが『どしたら背が伸びるの?』って聞いたら、『毎日ミルク飲んでればそのうち伸びるわよー』って。……でも、ミルクが嫌いなブリギットよりあたしの方がチビだ……」  
……いかん、笑うなよ、俺。ここで笑うと話がこじれる。  
「……身長はもう無理だと思うけど、胸ならまだ間に合うと思うから、手遅れにならないうちに努力しないと……。だからお兄ちゃん、くだらない理由でジャマしようとするのはやめよて」  
涙をいっぱいに溜めてうるうるさせた瞳で、ヴィオが俺を恨みがましくみつめた。  
……ジャマ、って言われてもだなー。俺はお前の身を案じてやっているのであってなー。  
「……よその男は、いろいろと危険なんだよ」  
きょとん、とした顔のヴィオ。  
「危険って、なにが?」  
「…………」  
我が家の教育方針により、ヴィオは『赤ちゃんはキャベツ畑から生まれる』と教えられている。ヴィオ的には『なんでニンジン畑じゃないの?』とゆうのがイマイチ不満であるらしいが。  
…つまり、ヴィオは男女の秘め事についてはまるっきり何も知らない。  
嫁に行けば嫌でも分かる事をわざわざ家族が教えるまでもない、とゆう意見に俺も賛成だが、それがこーゆー場合裏目に出るとは……。  
うーむ、と俺は腕組みして思案した。  
ヴィオの乳を揉みしだいても、『まあ、御親切にどうもありがとうございます』『いえいえ、どういたしまして。困った時はお互い様ですよ、ハッハッハ』で済んでしまう人畜無害かつ、安全信頼の紳士が実はたった一人だけいる。  
誰あろう、この俺様だ。  
血の繋がった実の兄貴の俺なら、まちがいなんぞ起こるハズもない。  
だいたい、俺の好みはクラーラさんのようなしっとりした清楚な色香漂う女性であって、ヴィオのよーなチビガキに劣情を催す心配は一切無用だ。  
俺は腕組みを解き、深い溜め息を吐いてヴィオに告げた。  
「ちっ、しょーがない。今回のみの特例として肩たたき券の使用を認めてやろう!」  
「えっ、ホントに?」  
「ただし!一つだけ交換条件がある!」  
俺はヴィオに人差し指を突き付けた。  
「近日中に俺とクラーラさんを連れて海岸に採集へ行き、それとなーく『海水浴したいなー』とクラーラさんを誘う事っ!」  
「……って、それ……。お兄ちゃんなに考えてるのよ、このドスケベ!変態!」  
「……ふっ。なんとでも言え。どうだ、呑むか呑まんか、どっちだ?」  
ヴィオは両手を握って組み合わせると、宙をみつめて祈るように小さく呟いた。  
「……クラーラさん、ごめんなさい。心弱い私を許して……」  
商談成立。肩たたき券の一枚が、ヴィオの手から俺に手渡された。  
 
とゆーわけで。  
食堂の椅子を二つ横に隣合わせ、俺とヴィオは並んで座っていた。  
「それじゃ、よろしくお願いしまーす」  
ヴィオが笑顔でぺこりと頭を下げる。  
「…おっ、おうっ」  
俺は指をべきばきと鳴らしながら、多少うわずった声で答えた。  
ちらっとヴィオに視線を走らせる。ヴィオの奴は最初の顔を赤らめていた風情はどこへ行ったやら、平然としている。  
…ついつい、その胸元に視線が向いてしまう。  
先日偶然目にしたヴィオの裸身が脳裏を過ぎった。下着の下から覗いていた、白い柔らかそうな膨らみ。……あれを…、今からこの両手で、掴んでこね回して揉みほぐしてしまうのか、俺……。  
ごくっと生唾を呑み込む。……何故だ。何故この俺様が緊張せねばならんのだ。相手はヴィオだっつーのに。  
黙々と指を鳴らすばかりで一向に動こうとしない俺に、じれたヴィオが声を掛けた。  
「お兄ちゃん、始めないの?」  
「…ちょ、ちょっと待てっ。男には色々と心の準備が必要なんだよっ」  
……心の準備って、なんなんだよ、と我ながら突っ込みたい。  
「よーし、じゃあいっちょう揉んでやるか」  
動揺を悟られまいと、俺は『こんな事屁でもないゼ』という顔でヴィオの胸に手を延ばした。  
服の上からヴィオの乳をがしっと両手で掴む。……ふにゃっ、とした柔らかな未知の感触が手の平に。  
(……こっ、これがっ、噂でしか聞いたことの無い、女人の乳!!)  
カッと頭に血が昇り、思わず両手に力が籠り、握り締めた。  
ヴィオが、うっ、と声を洩らし、顔をしかめた。  
「……痛いよ、お兄ちゃん」  
「わ、わりぃ」  
慌てて手の力を抜いた。服の下のヴィオの乳を押さえるだけにする。  
……俺の手の平の下で、ヴィオの柔らかな乳房が息づき、ゆっくりと呼吸している。豊か、とは確かに言えないが、しかし決して皆無ではない柔軟な膨らみが……。  
どくどくと頭に血が昇るのを感じた。……何故だ。何故にこうも俺は動揺しまくっているのだ……。  
「もう、お兄ちゃんってば乱暴なんだから。もっと優しくしてよねっ」  
焦り狂っているのは俺の方だけで、ヴィオの方はまるきりいつもと同じだ。  
……それで当たり前なんだが。おかしいのは俺の方だけなんだが。  
「……や、優しく、だな」  
痛みを与えないようにやわやわと柔らかく揉みほぐし始める。  
「……そう、そんな感じ。ふふっ、ちょっとくすぐったいなー」  
ヴィオが身を捩ってくすくすと笑う。  
……あいにく、俺の方には笑う余裕などない。小ぶりな乳房が俺の手の下でくにゃっと形を変える感触に、鷲掴みにして全力で揉みしだきたい衝動を堪えるのが精一杯だ。  
汗が脇から滲み、ひどく喉が乾いた。ごくっと唾を呑み下す。  
……柔らかい。女の乳って柔らかいんだな……。  
息苦しい気分で黙々とヴィオの乳房を可愛がっているうちに、ヴィオの様子が少しずつ変化し始めた。  
最初は軽口を叩いてくすぐったがっていたのが、やがて言葉がとぎれ、黙り込んだ。  
無言で乳を揉む俺と無言で揉まれるヴィオ。時計の針がカチカチと時を刻む音だけが、食堂に静かに響く。  
 
ヴィオの顔を盗み見ると、ぎゅっと目をつぶり、頬を桜色に紅潮させて何かを堪えるように唇を噛み締めていた。  
俺の視線に気付いたのか、ヴィオが眼を開いた。熱っぽく潤んだ瞳が俺を見返す。  
「…お兄ちゃん、目が血走ってるよ」  
「……うるへー」  
言い返して、ヴィオの乳房を揉む手に力を込めた。  
ヴィオの口から、ああっ、と生々しい呻き声が洩れる。  
「……お兄ちゃん、あたし……、なんだか変な気分……」  
喘ぎ混じりの声が呟いた。  
「……気持ち、いいか?」  
ヴィオの乳をこねる手を休めずに囁いた。奇妙な嬉しさと興奮が込み上げてくる。俺の指に反応して声を上げるヴィオが……可愛い。もっと可愛がってやりたい。  
『マッサージだ、マッサージっ』と自分に言い聞かせる。肩を揉む代わりにヴィオの乳を揉んでやっているのだっ。別に後ろ暗い真似をしているわけではないっ。  
「……わかんない…、ふわふわして、変な感じ……。――あ」  
ヴィオが俺の首に細い腕を回してすがりついて来た。甘えるように俺に頬擦りする。ぽよんとした柔らかい頬っぺ。……こいつはどこもかしこも、マシュマロみたいにふんにゃりして柔っこく出来てんだなあ……。  
「……お兄ちゃん、もっと……」  
ヴィオがせがむ。ヴィオの髪に顔を埋めると、甘ずっぱい、いい香りがした。頭がぼうっとなる。ちゃんともっと可愛がってやる。  
「…ヴィオ、小っちゃい胸も、可愛いぞ…」  
「…お兄ちゃんのバカ……」  
鼻に掛かったような声でヴィオが呟き、次いで小声で俺の耳に囁いた。  
「…ねえ、お兄ちゃん……、直に……触って」  
唐突にヴィオの乳を揉んでいた俺の手が硬直した。  
俺の手の平の下で、厚い服の布地越しにヴィオの心臓がどくどくと脈打っているのを感じる。  
そして俺の股間の息子も、ズボンの布地を持ち上げて熱くどくどくと脈打っており……。  
ちょっと待て、オイ。  
何故に元気になるか、俺の息子よ。……相手は、ヴィオだぞっ!?血の繋がった実の妹だぞっ!?なのに、どーしてこうもむらむらと鼻血の吹き出しそうな感情が、脳味噌と下半身の両方でぐつぐつ煮え滾っておるのだ、俺はあっ!?  
「兄妹だから絶対安全、大丈夫」のはずが、俺等二人して、今まさに果てしなくヤバイ方向に激しく爆走中じゃねーかあっ!?  
だらだらと脂汗が額から流れた。  
……マズイ。取り敢えず我が妹相手に反応しているとゆう俺様の今の状況は……とても、ヤバイ。これはあくまで何かの間違いであって、決してヴィオに不埒な行いをしたいなどと俺は考えている訳では無く……。  
しかし……。ごくっと唾を呑みつつ想像する。  
俺の手の平の下に確実に存在するヴィオの、生の乳……。揉みたいか揉みたくないかと言えば、……ものすごーく、揉みてー……。ヴィオの、生のおっぱい……。  
うわあっ、おっ、俺はなに考えてるんだあーっ!?  
「…お兄ちゃん、どうしたの……?」  
硬直停止中の俺をヴィオが怪訝そうな顔で見た。頬を赤く染め、恥ずかしそうに呟く。  
「…続き、しないの……」  
……気が付けばヴィオを力一杯抱き締めていた。骨の細い身体が俺の腕の中できゅっとしなり、ヴィオの体温と香りが俺に密着する。  
……ヴィオは、嫌がらない。「お兄ちゃん」と呟いて俺の首にしがみついた。  
「…すっ、するともっ。…しっ、してやるからっ」  
片手でヴィオを抱き締めながら、もどかしい思いでヴィオの上衣のボタンを外しにかかった。  
……これって兄として正しい行いか?人倫に背く畜生道に突っ走りつつあるのではなかろーか、俺、とゆー後ろめたさがちくちくと心に痛い。  
愛するクラーラさんの面影を思い浮かべて冷静になろうとしたが、しかし密着したヴィオの肢体の柔らかい感触の前に幻ははかなく消え去り行き……。  
クラーラさん、ごめんなさい。男ってこーゆー生き物なんです、しょーがないんです、許してください……。  
……いや、ちょっと待て。ヴィオ相手に『男』の部分が刺激されていると自ら認めてどーする。それがそもそもマズイんだろうがっ。俺は『お兄ちゃん』なんだからっ。  
 
『いや、だが、しかしっ』と俺の心の半分が、後ろめたさを必死で正当化させようと、もがいてもがいて、足掻きまくった。  
哀願する妹を無下に突き放すとゆーのも、兄貴として人として男として不人情ってものではなかろーかっ。  
そもそもが「胸揉んで欲しい」と言ってきたのはヴィオの方であって、それを聞き入れてやる事のどーこに問題があるとゆーのだ、それに直に直接揉みしだいた方が乳がでかく育つ効果が増すかもしれんよーな気もするし……。etc,etc。  
……俺の頭の上では、ミニチュアサイズの小さな白い天使と小さな黒い悪魔がせわしなく口論中だ。両方とも、何故か俺の顔をしている。  
 
天使「何も知らないヴィオをお前は弄ぶつもりかっ!?ヴィオはまだ子供だぞっ!自分の妹に淫らがましい手つきで触るなど不届き千万ッ!即刻その手を離し、清く正しい兄妹関係に今すぐ戻るのだっ!」  
悪魔「なんでえなんでえ、固っ苦しい事言うんじゃねえよ、ちょっとじゃれあってるだけじゃねーか。ヴィオの方だって嫌がるどころか『もっともっと』ってせがんでんだぜ。ここで引き下がったら男がすたる、ってーもんだろーがっ」  
 
天使と悪魔は戦争を始めた。天使は手に握った杖を振り回し、悪魔は二股に先が分かれた槍で、互いに相手の回りをぐるぐる回り、攻撃を仕掛けようとする。  
『……悪魔さん、ガンバレ』と俺は心の中で悪魔を応援した。  
すると、悪魔の手に持った槍が天使を突き刺し、天使は『うおっ!?』と叫んで敗れ去った。悪魔が勝利のVサインを掲げ、俺の頭上でふんぞり返ってニカッと笑う。  
『そーだよなっ!』と唐突に俺の心の迷いがきれいに晴れた。  
ガキの頃にもヴィオと俺は一緒に風呂に入ったり取っ組み合ったりした仲だ。  
久し振りに無邪気な兄妹の肌と肌の触れ合いを堪能したところで、なんら咎められる筋合いも、やましい後ろめたさを抱える必要もあろうはずがないっ!  
良心の声を葬り去るのに成功した俺は、逸る気持ちでヴィオの上衣をはがしにかかった。服の下からこぼれる白い肌に、しゃぶりつきたくなる衝動を必死で抑える。  
上衣のボタンをすべて外したところで、はたと首を捻った。前に見た覚えのある色気の無い木綿の下着がヴィオの胸元を覆っている。……どーやって脱がせりゃいいんだ、これ。  
「……やだ、見ないでよ」  
俺の視線に気付いたヴィオが、顔を赤らめながらはだけた上衣を掻きあわせて胸元を覆った。  
見ないと脱がせらんねーだろが、と言いかける前に。  
「……自分で、脱ぐから。お兄ちゃん、後ろ向いてて。絶対見ちゃダメだよ」  
と俯いたヴィオが恥ずかしそうに呟いた。  
「おっ、おうっ」  
うわずった声で返事をし、俺はヴィオに背を向けた。触られたくても見られるのは恥ずかしいのか、女ってややっこしい…、と椅子の背を握りながら一人ごちる。  
背後からヴィオが服を脱ぐ衣擦れの音が微かに聞こえた。そわそわした気分で拳をぐっ、と握り締める。  
『……ちょっとだけ、すこーしぐらいなら……』と悪魔の囁きが俺の耳元で聞こえた。  
首をねじ曲げ、ちらっとだけのつもりで背後のヴィオを盗み見る。  
真っ白な背中が目に入った。ヴィオは頭から下着を引っ張り脱いでいる真っ最中だ。  
ヴィオの肩胛骨の向こう側に、控え目な円錐形の膨らみと、その先っぽの桜色がちらりと覗き、俺の心臓がどっきーんと跳ね上がった。  
慌ててヴィオに背を向けた。股間で元気に自己主張する息子に目を落とし、こっそりと両手で握り締める。  
(ヴィオ、お前のを揉んでやる代りに俺のも揉んでくれー)  
などという埒もない呟きが俺の頭をかすめた。  
ヴィオの白くて小さい柔らかな手に俺のを握らせたら、あるいは『あーん』と口を開けるヴィオに俺のニンジンを突っ込み、『これは舐めるニンジンだぞ』と言い聞かせて、俺様特製の新鮮なニンジンジュースをたっぷりヴィオに飲み干させたら……。  
……ヴィオは、『お代りー!』と言ってくれるだろうか……。  
あられもないヴィオの姿をひとしきり妄想してから、突然100万tの重量の罪悪感が俺の頭上にドカーン、と墜落してきた。  
――ちがうっ。ストップ、今のは、なしだーっ!!  
……いかん、まるでロードフリードが考えそうな事をうっかり想像してしまったではないか。…ヤツとのつきあいは、考え直した方がいいかもしれん。  
 
俺はただ、兄妹の無邪気なスキンシップをばヴィオと楽しみたいだけで、断じてよこしまな想いを実の妹相手に抱いている訳ではないっ。股間のコレはたんなる生理的現象であって、決してヴィオを相手に使用するつもりなどまるでなく――  
「……お兄ちゃん、もう、こっち向いてもいいよ」  
全身全霊を挙げて自己正当化を猛烈に行使中の俺に、ヴィオの声が飛んだ。  
振り返ると、ヴィオが椅子にちょこん、と腰掛けて俺を待っていた。上衣を肩に羽織る格好で片手で胸元を押えている。  
はにかむような眩しい笑顔で、ヴィオが俺に、にこっ、と微笑みかけた。  
……何故か胸に一筋の痛みが走った。ああ、コイツは本当になーんにも知らないし、わかってないんだろうなあ、だからこんな風に笑えるんだろうなあ……。  
「……お兄ちゃん、続き……」  
『やっぱりやめよう、良くない』と思いつつも、その言葉は口から出ずに、代りにヴィオの胸に手が延びてしまう。……俺って、いったい……。  
無言で服の下に手を潜らせて、剥き出しのヴィオの乳房に触れた。服の布地越しでは味わえなかったすべすべした柔肌の感触に、ぶーっと鼻血が吹き出しそうな興奮が込み上げる。  
手の平の下に、ぽっちりとした小石のような固まりが当たっていた。…ヴィオの、固く張り詰めた乳頭だ。  
手の平を動かすと、乳頭が俺の手の中でころころと転げるような感触を伝えた。濃い薔薇色に頬を染めたヴィオが、眉根を寄せてかすれた溜め息を漏らす。  
……我慢の、限界だ。もう、辛抱たまらん。  
両の指に力を込めて、ヴィオの乳を思いっきり鷲掴みにした。そのまま小ぶりな乳房を全力で揉みしだく。  
ヴィオの顔が苦痛で歪み、抗議の声を上げた。  
「お兄ちゃん、痛いっ!痛いってば!もっと優しくし――」  
ええいっ、揉んで揉んで揉みまくっておれば、そのうち良くなるわっ。  
ヴィオの甲高い声を無視して、その胸元に顔を埋めた。上衣を掻き分け、甘ずっぱい体臭を鼻孔に吸い込んだ。可愛らしい乳首にしゃぶりつく。  
「…ちょっ、やだっ!?お兄ちゃん、なっ、何するのーっ!」  
ヴィオの手が俺の髪の毛を掴み、もぎ離そうとしたところで、あんっ、と甘い声が唇からこぼれた。  
「…やだ…。お兄ちゃん、やめてようー……」  
言葉とは裏腹に、ヴィオの白い腕が俺の頭を支えて胸に抱え込んだ。無我夢中でヴィオの乳を口にもぐりこませる。  
耳元でヴィオのひきつるような喘ぎ声が聞こえた。  
「…おに…いちゃ…ん…」  
(……ヴィオ、お兄ちゃんのこと、好きか?お兄ちゃんが最初の男じゃ、ダメか?)  
ヴィオの乳首をねぶりながら、心の中でに問い掛けた。  
…いったいどーゆー返事を期待してるんだ、俺は。ヴィオに『お兄ちゃんなら、いいよ』って…言われたいのか。  
硬直した下半身がずきずきと痛かった。ヴィオの両足の付け根にある小さなあそこに想いを馳せる。ガキの頃一緒に風呂に入っていた時には、気にもしなかったちっちゃな割れ目。  
ヴィオのあそこには、もう毛が生えてるだろうか?…生えてるよなあ。胸だって真っ平らだったのが一応はふくらんでるんだし。毛の色って、髪の毛と同じ色なんだろうか。  
……ヴィオのあそこが…見たい。ヴィオに足を開かせて、乳首と同じピンク色をしてるのかどうか、確かめたい。…触りたい。そこに俺のコレを埋めて、ヴィオにあんあん言わせて泣き喚かせたい……。ヴィオから『お兄ちゃん、もっと』って言われてー……。  
ああ、俺っていったい……。俺はヴィオのまともで頼りになる優しいお兄ちゃんだったはずなのに……。  
良心の呵責が心に突き刺さりつつも、俺の右手はヴィオのスカートの裾をそっと捲って、その奥へと進んでしまう。  
ヴィオに気付いた様子はない。俺の頭を両手で抱え込んでせわしなく喘いでいる。  
ヴィオのほっそりした太股に右手を置いた。しっとりと汗ばんだ皮膚を撫で回しながら内股へ手の平を滑らせる。  
 
心臓が、どっくんどっくんと爆発しそうに轟いていた。  
これ以上進むと、取り返しのつかないところに行き着いてしまうのが……こわい。果てしなく堪らなく、こわい。犯罪者とか異常者とかゆう単語が俺の頭にちらつく。実の妹に劣情を催して襲いかかる変態兄貴に……、俺はなりたくないのに、なってしまう。  
だけど、でも、取り返しのつかない羽目に……ヴィオと一緒に突き進みたい。  
ヴィオの木綿の下着の中央に中指を滑らせた。  
ヴィオがひっ、と小さく叫んで体が跳ね上がる。  
俺の指が、湿って熱い感触に触れた。薄い布地越しの、ヴィオのあそこ。……ヴィオは、濡れている。  
しゅうっと音を立てて俺の中の理性のかけらがきれいに蒸発した。  
挿れたい。それしか考えられん。  
乳から顔をもぎ離し、ヴィオの両膝を掴んでがきっとこじあけさせた。スカートが捲り上げられてヴィオの白い下着が露になる。  
「…い、いやっ!やめて!」  
抗うヴィオと揉み合いになる。必死で下肢を閉じようとするヴィオと、開かせようとする俺。  
ええいっ。この期に及んで往生際の悪いっ。四の五の言わずにとっとと観念しやがれっ。どうしらばっくれようと足掻いたところで、ここに濡れたお前のパンツがあるのが論より証拠!  
お前は、実のお兄ちゃんからいじられて、気持ち良くなって濡れてしまっている悪い妹なのだっ。そんな恥ずかしい妹には、この兄がたっぷりずっぽりお仕置してやるわっ!  
乱闘する二人の下で、椅子がかしぎ、バランスを崩した。  
「おわっ!?」  
「きゃあっ!」  
横倒れる椅子と一緒に、二人してもつれ合うように床に投げ出される。  
倒れた拍子に椅子の足が俺の股間をまともに直撃した。うおっ、と呻き、悶絶して地獄の苦しみに耐える。  
く…、くそっ。このバルトロメウス様が、この程度の苦しみでくじけてたまるかあっ。  
俺のすぐ隣では、ヴィオが「いたたたた…」と呟きながら半身を起して頭をさすっていた。じんじんと痛む息子が、今すぐヴィオの濡れたあそこの中に入りたい、と俺に命令する。  
再び、俺はヴィオの肢体の上に覆いかぶさった。  
「いやっ!やめてよ!何するのっ!」  
腰のスカートを捲り上げようとする俺に、ヴィオが抵抗する。  
(ええいっ。やっちまえばこっちのもんだっ。すぐに良くなって感じまくるに決まってるぜっ)  
我ながら自分に都合のいい方向に思考をねじ曲げつつ、俺はヴィオのスカートの中に手を潜り込ませた。下着を鷲掴みにし、一気に膝までずりおろす。  
「いやーっ!!」  
叩きつけるようにヴィオが俺の下で泣き叫ぶ。大粒の涙がヴィオの頬を転げ落ちるのを見て、俺の胸を激しい痛みが突き刺した。  
……やっぱり、俺じゃヴィオは、いやなのか?ちっちゃな頃に『ヴィオは大きくなったら、お兄ちゃんのお嫁さんになるー』とか言ってたのは、もう忘れちまったのか?…俺は、覚えてるのに……。  
一瞬生じたためらいを振り払い、慌ただしくズボンのベルトに手を掛けた。とにかくなんでもいいからやっちまえー、と俺の息子が声高に自己主張する。  
ベルトを外している俺に、ヴィオが涙と怒りの籠る激しい瞳で俺を見据えた。  
「…いやだって、言ってるでしょーっ!」  
叫びと共に、ヴィオの強烈な膝蹴りが狙い目掛けたように俺の股間を直撃した。  
……セカンド・ショーック。筆舌に尽くし難い苦痛に白目を剥きそうになる。……お、折れた。今のは、確実に、折れた……。フ、なかなかいい蹴りじゃねえか、などと強がりを言ってみせる余裕は最早ない。  
苦悶の声すら上げられず、俺は息子を掴んだままヴィオの身体の上に崩れ落ちた。  
その俺の肩にヴィオの手が掛けられた。……おお、お前はこの兄を優しくいたわってくれるのか、と思いきや、乱暴に突き飛ばされて押し退けられる。俺の額がごちん、と床にぶつかった。…ヴィオ、お前の辞書には、優しさという言葉はないのか……。  
立ち上がったヴィオが床で身悶えする俺を、ぼろぼろと涙の零れる怒りの形相で見下ろした。  
 
ヴィオの白くて細い手が、俺の背中の襟首を掴む。今度こそいたわりと慰めの手であろうか、と思った瞬間。  
(――へ?)  
俺の体は宙に浮いていた。ちっちゃいヴィオが、その細い両腕で軽々と俺を持ち上げて、両肩の上に俺の身体を抱え上げており――。  
「お兄ちゃんの、バカーッ!!」  
絶叫と共に、俺の体は空を飛んだ。  
盛大な破壊音と同時に食堂の窓ガラスを突き破ると、そのまま高度を全く落とさず、大陸間弾道ミサイルのような勢いで我が家の前に設置されている井戸の支柱に激突。  
もんどり打った俺の身体は腐りかけのニンジンの山の上に墜落した。べちゃっ、と腐ったニンジンの潰れる嫌な音と感触が、俺の首の下で感じた。  
燐家の玄関口から人影が顔を覗かせるのが、全身を襲う苦痛で身動きできない俺の視界の端に映った。隣人のメラニー婦人とその御主人だ。  
「…なに、今ものすごい音が聞こえたけど、泥棒か何かかしら?」  
警戒半分、残りは興味津々、という顔つきでメラニー婦人が隣の我が家の方を窺っている。……腐ったニンジンの山に埋もれた俺の姿は見えないらしい。…た、助けてくれ…。  
我が家の玄関口から乱れた衣服のヴィオが姿を現した。俺のもとへ駆け付けてくれるのか、と思いきや、ヴィオは燐家のメラニー婦人の姿を発見し、そっちの方へ泣きじゃくりながら駆け寄って行く。ヴィ、ヴィオ……。お兄ちゃんを見捨てないでくれ……。  
「お、おばさーんっ」  
「まあまあ、ヴィオちゃん、どうしたの?いったい何が…」  
「…お兄ちゃんがっ、お兄ちゃんが……」  
取り乱したヴィオの様子に、メラニー婦人はただならぬものを感じたようだ。とにかく落ち着かせようとヴィオを懸命に宥めている。  
俺は、メラニー婦人に抱きついて泣きじゃくるヴィオから視線を離し、夜空を仰いだ。呼吸する度に発生する激しい苦痛を、なるべく無視しようと努力する。  
――星が、きれいだ。空気の澄んだカロッテ村の、ニンジン以外の唯一の取り柄だ。夜空を降るような星々の輝きが埋め、星と星を繋ぎ合わせた星座たちが好き勝手な物語を満天の夜空で紡いでいる。  
生ゴミ寸前のニンジンの腐臭に顔をしかめながら、俺は失念していたある事実を思い出していた。  
――そう、我が妹は「カナーラントにこの人あり」とまで詩われた、勇者ヴィオラート・プラターネ……。その数々の武勇伝が人の口に膾炙するようになって久しい。お化けナマズも謎の神船も、ヴィオラート・プラターネにかかればなんのその。  
その名を聞けば泣く子は微笑むが、盗賊悪党どもは「いっ、命ばかりはお助けをーっ」と土下座して命乞いをし、有り金財宝を差し出すという……。  
その小さい体からは想像もつかない豪力で、戦友ブリギットを四方縦横に投げ飛ばして敵を爆砕し、ついでに遺跡も破壊しまくる豪勇の猛者。  
……つまり、筋金入のジャジャ馬。  
(…考えてみれば、あいつをどうこうできる野郎なんて、もう、本当にこの世にいないよなあ…。…あいつ、嫁の貰い手ホントにあるのか?)  
と呟きつつ俺は目を閉じ、安らかな暗闇に意識を委ねた。  
 
 
三日後。  
小鳥が窓の外で囀る寝室。カーテン越しに明るい朝の日差しが、ベッドで横たわる俺の身体に降り注いでいる。  
「…はい、お兄ちゃん、あーんして」  
俺は黙々とヴィオの差し出す粥を咀嚼した。…右肩が脱臼している現状では、ヴィオに食わせてもらわん事にはメシが食えん。  
全身打撲、及び肋骨損傷その他で俺は絶対安静の身の上だ。…息子はどうやら折れてなかったのが、不幸中の幸いと言えば幸いだが。  
……仮に身体に支障がなかったとしても、実は、今の俺には表を歩くに歩けない事情がある。  
「お兄ちゃん、ごめんねえ。痛かった?…でも、お兄ちゃんの方がそもそも悪いんだからねっ」  
屈託の無い笑顔のヴィオを眺めつつ、俺は溜め息を吐いた。  
「……わかった。すべて何も彼も俺が悪かった、と。……これで満足か?」  
「うん!わかればよろしいっ。お兄ちゃん、いつになく素直だねー」  
再び俺は深い溜め息を吐いた。…こいつは悩みがなくていいよな…。  
……俺が表を歩くに歩けない理由を述べよう。  
口さがない燐家の主婦、メラニー婦人が無責任に言い触れ回ったある根も葉もない噂が、今、まことしやかに村のあちこちでひそひそと囁かれていた。  
曰く、実の妹に劣情を催した兄が、両親の不在をいい事に突如ケダモノと化して実妹に襲いかかり、危ういところで妹はその毒牙から逃れた……、等々。  
根も葉もないデタラメ、と言いたいところだが、葉っぱぐらいならあるかもしれぬ、という部分がまさに身から出た錆…。  
そして俺は怪我が治り次第、噂を真に受けたロードフリードからの決闘が控えている。  
血相を変えて、ヤツらしくもなく怒鳴り込んで来たロードフリード。俺の枕元のヤツから叩きつけられた決闘状が、唯一の見舞客の置き土産だ。…さらばだ、我が友よ…。  
…もう一つ、考えたくもないが考えずにはいられないある女性の名が心に浮かぶ。  
クラーラさん……。  
愛するクラーラさんの耳にこの醜い噂が届いていたらと思うと……、目の前が、真っ暗だぜ、ふふふ……。さようなら、俺の恋……。  
ちなみに、ヴィオの奴の村での評判は上昇していた。  
メラニー婦人の「しばらくうちにおいで」という申し出を、  
「いえ、あんなどうしようもないケダモノでも、たった一人の実の兄ですから。怪我をしているのを放っておけないし……」  
と涙ながらに語った様子が、「なんと健気な…」と皆の感動を誘ったという。  
「立派な胸が欲しいので兄に揉んでくれと頼んだ」辺りの部分は全面カットだ。  
……世の中って、不公平だ。  
「そうだ、お兄ちゃん、あのね」  
粥を運ぶ手を止めて、ヴィオが少し頬を染めながら俺に言った。  
「あれから胸のサイズ測りなおしてみたらね、ちょっとだけ大きくなってたの!1ミリ!」  
にこにこ朗らかな笑顔で報告するヴィオ。……密かに頭痛を感じた。  
(…1ミリって、それ、単なる測り間違いじゃーねーのかー?)  
と口に出しかけたが、代りに  
「……そりゃー、良かったな」  
と言ってやった。  
「うん!お兄ちゃん、ありがとうねっ。……それでね」  
言いながらヴィオが服のポケットを探った。……なんか、イヤな予感。  
ポケットから出て来たのは……恐怖の肩叩き券。  
「コレ、あと四枚残ってるんだけどまた使えないかな?……えっと、ヘンなところに触ろうとするのはナシだよっ」  
恥じらいながら俺に持ち掛けるヴィオに、俺は目眩を感じた。  
「…悪い、熱が出て来たみたいだから、俺、寝るわ」  
毛布の裾を持ち上げ、頭からすっぽり覆ってベッドに潜り込んだ。こっそり呟く。  
(ジャジャ馬を妹に持つと、兄貴って苦労するぜ……)  
 
END!  
 
 
 
 おまけ。  
 
依頼人:ヴィオラート・プラターネ  
依頼内容:「立派な胸が欲しいので揉んでください」  
 
ローラントの場合  
「…きっ、貴様ッ!竜騎士隊騎士隊長であるこの私を、愚弄する気かっ。不愉快だっ。失礼するっ」  
(パーティーから離脱。しかし、次に出会った時は何故か友好値20ポイントアップ。二階が宿屋の料亭での食事に誘われる。宿の一室をローラントが予約済み)  
 
ザヴィットの場合  
「…うん?お嬢さん、年寄りをからかうもんじゃあないよ。…え、本気?……ふーむ。じゃあ失礼して、ちょっと胸を拝借……」  
(ワイン蔵に連れ込まれる。友好値2ポイントアップ。処女膜喪失危険率80%)  
 
ダスティンの場合  
「………。え、えーっと…。あ、あははははっ。そーだっ、この前仕入れた杖なんだけど、これ、軽さの割に振りやすくてヴィオに向いてんじゃないかな?どうだ、ちょっとぐらいならオマケしとくよーっ」  
(何気なく話題変更される。友好値変わらず)  
 
パウルの場合  
「おっけー!お姉さん、オイラに任せときなよー。そんなのオイラにかかればちょちょいのちょいさー。この牛の乳絞りで鍛えた黄金のテクを、見せてやるーっ!ヘイヘーイ!」  
(揉み料金として100コール失う。友好値変わらず。しかし効果は一番ありそうだ)  
 
ハーフェンの露店商ナンパ男の場合  
「可愛コちゃーんっ。そんな言い訳を無理に作らなくても、キミの気持ちはちゃーんとこのオレが受け止めてあげるよっ。さあさあ、早速……」  
(処女膜喪失危険率100%)  
 
 

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