何となく、ではあるが…違和感は確かにあった  
自分が一瞬とはいえ、ユーディットに気をやったからではない  
私があの子を気にするわけではないが、あの子も私を気にしていない、そんな感覚  
いや…気になってどうするのよ……あの子が何を考えていようと関係ないはず……  
 
事の始まりは…ヘルミーナががユーディットに一服盛った事に始まる…  
男慣れしていない処女に1つの試薬を試すだけ、それだけのはずだった……  
その試薬は、単刀直入に言うと「媚薬」なのだが  
どこをどう間違えたのか…「惚れ薬」の成分が混じっていたらしいのだ  
(もっともこれはヘルミーナの自意識過剰かもしれないが)  
自分を信頼しきった瞳、自分を受け入れてくれた身体……  
そんなユーディットに一瞬でも気をやってしまったのはヘルミーナにとって「不覚」らしい  
 
たとえ一瞬のもの、薬の効果があったとはいえ…お互いの想いが交錯した、してしまった…  
ヘルミーナが「違和感」を感じたのは…それから間もない、数日後の事である  
 
その日、ヘルミーナは一冊の本に目を通していた…  
いや、その日だけではない…本に目を通すなど日課と言ってもいいだろう  
ヴェルンの図書館、いつものように本を読み漁る……  
一冊の本に目を…通していたのだが、不意にピタリと文字を追うのを止める  
(そういえば、あの子…最近この図書館で見ないわね…)  
一度考えを巡らせると、止まらない…次々とユーディットに関する事が思い浮かばれる  
(図書館だけではない…以前は街中を駆け回っていた姿…ここ数日、見てないわね…)  
採集、買い物、依頼全般の仕事、情報収集、ただ単にぶらぶらしているだけ…  
暇さえあればどこにでも顔を出す…あの人騒がせな子はどこで何をしているのやら…  
 
(あの子も錬金術師の端くれ、調合に忙しいのはいい事よ……)  
…と考えて、すぐにその可能性は消えた  
ユーディット本人から聞いた話だが、彼女はこの時代ではその才能を発揮できないらしい  
というのも…200年前とこの時代では、同じ物を作ろうにもそれすらままならない  
200年前には手に入る材料が、この時代では名前すら聞かない…  
そういった経緯もあり、この時代でのユーディットの錬金術師としてのレベルは  
初心者同然、作れる物をかなり限られていた、はず……  
 
(ユーディットはまだメッテルブルグやアルテノルトを知らない、と思う…)  
(この街に辿り着いて1ヶ月かそこらで、遠方に足を伸ばせる余力がある…?)  
(遠出はまずない……採集は…3日前にあれだけ集めて…まだ採集は必要ない…)  
(ならばこの数日、ヴェルンにいる事は間違いない……)  
(だとすると、自室…? 自室に数日篭もっていなければならない理由…)  
(手が離せない調合か・・・病気か何か…)  
前者は前述の通り、ユーディットの調合品はどれも初級レベルのものであって  
数日も付きっきりにならなければならない物があるとは現状では考えにくい  
だとすると、後者…は、馬鹿馬鹿しい……  
あの騒がしいユーディットに限って病気なんてまず無いと断言してもいいだろう  
 
(しかし……私の試薬を口にした、あの日を境に……)  
 
違和感は時として悪い予感へと形を変える  
決心は早い、迷いは見せない、自分で言うのも変だが行動力がある方だ  
ヘルミーナは読みかけの本を閉じ、ユーディットの部屋へ足を向けた  
 
ユーディットの部屋は酒場の2階、その内の一室を借りて生活している  
これはユーディット本人が教えてくれた事だった  
もっとも…ヘルミーナ自身が聞き出した事ではなく、本人が勝手に喋った事だが  
 
その扉の前にヘルミーナはいた 特別用があるわけではない  
(用は無いのに、足を運ばせて…何事もなかったらどうしてくれましょうか…)  
ふと、自分のやっている事と考えていた事に矛盾を感じる  
何事もなければそれにこした事はないのに 元気な顔を見たいだけなのに…  
馬鹿馬鹿しい…と…ドアノブに手を掛け、回す あくまで「普通」に、部屋に足を踏み入れた  
 
「わわっ! ヘルミーナさん!?」  
一瞬の間が置かれたとはいえ、100%驚きの声  
歓迎でもない、だからといって歓迎してないわけでもない  
ヘルミーナの顔を確認したから驚いた、とでも言うのだろうか? そこに一瞬の間があった  
(酒場の主人や借金取り…こういった来客がまったくないわけではないはず……)  
(私を見て、私だったから驚いた、ってところね……いい度胸してるじゃない……)  
「あ、あの…どうして突然…って、それよりも…何しに…な、な、何か御用が…?」  
来客は何も喋らない ユーディットの顔を見たかと思えば、次は部屋を見まわす  
「そ、そういえば…ヘルミーナさんは私の部屋に来るのは初めてでしたっけ?」  
「ほ、ほら…何もないでしょ…? まだこっちの生活に慣れてなくて…あはは…」  
「いやいや、お金が無いから調合器具も揃わない、調合できないとないないづくしで…」  
何も聞いていないのに1人で喋るユーディット  
ヘルミーナはというと、無言のまま…しかし、頭の中はフル回転で動き始めていた  
 
(この独特の匂い…この子、惚れ薬を作ったわね……)  
 
ユーディットに構う事なく、部屋をざっと見回してみる  
ビーカー、フラスコといった一般の調合器具 開かれたままの基礎参考書  
ワインの空き瓶、黄色い葉とその草の根、中身が消えた処方箋、紙袋に貼られたラベル…  
素人が見てもただ散らかってるようにしか見えないであろう、が…  
「その筋のエキスパート」であるヘルミーナの目には充分な情報だった  
(成る程、有り合わせの物で応用している…伊達に錬金術師を名乗ってはいない…)  
 
しかし、何故よりによって「惚れ薬」なのか…?  
 
「あ、あ、あの…! ヘルミーナさん…!?」  
ヘルミーナの視線が1つの小瓶に向けられたその時、ユーディットの声がかかった  
自然に、ゆっくりと、無表情のまま、ヘルミーナの指が小瓶の中へと伸びる  
味見をする為に指を浸し…それを舐め取る姿は妙に色気が「ありすぎた」  
「ワインで応用するのはいい考えだけど、少し薄めすぎね」  
「これだと口にした瞬間吐き出されるわよ ストレートで混ぜ合わせなさい」  
「それと…少し匂いがキツイわね お目当てに怪しまれるんじゃないかしら?」  
え?という表情をしたユーディットに次々と浴びせられる言葉  
ヘルミーナはユーディットの顔を見ずに…返答が来る前に素早く次の行動に移った  
「どうせアナタの事だから、怖くて試せないでいるんでしょう?」  
片手が、不意に伸びてきた…ユーディットの顔…いや、頬に…  
「フフ、人体実験は初めて?」  
さっきから、何を…と思う前に、何かが流し込まれる……  
 
(堕としてやりましょうか…?)  
ヘルミーナの細い瞳が、また細くなる  
裏切られて、胸がチクチクする感覚 そんなものにはとうの昔に慣れていた  
 
(他人の心配なんて、ガラではなかったわね…)  
誰に何をしようが知った事ではない  
ユーディットが、誰に惚れ薬を使おうと、だ  
 
「さて……」  
間が、空く  
ユーディットが小瓶の中身を飲み込み、咳き込み、頭の中を整理して…  
状況を分析して、自己に何が起こったか判断して、ヘルミーナの顔を覗き込むまで…  
「この手の『惚れ薬』の副作用として、誰彼構わず好きになってしまうものだけど」  
ユーディットが硬直する 思わず呼吸を忘れるくらい  
バレていない、と思っていた…いや、思い込もうとしていたのか…  
自分が惚れ薬を作っていたのが見抜かた、恥ずかしいという想い…  
赤くなって俯くユーディットに対し、ヘルミーナの言葉が続く  
「これで、アナタは私の事を好きになってくれるのかしらね?」  
ユーディットは俯いたまま、ヘルミーナの顔を見る事ができなかった  
だから…接近に気がつかなかった  
「私は、アナタの事どうとも思ってないのにね?」  
はっとして、ヘルミーナの顔を見ようとする、と…目の前に、いた…  
 
(ヘルミーナさん!?)  
不意に唇が重ねられる…ユーディット自身の唇と、ヘルミーナの唇が…  
クチュ、と1つ音を立てる…ユーディットの、ファーストキス  
(唇!?)(やだ、初めてなのに…)(何!?柔らかいの…)(離れなきゃ!)  
(まだ、くっついてくるの!?)(動いてる…)(あ…何か、来た…)(変な感じ…)  
(気持ち悪い…)(どうして…?)(やだっ、こっち見てる!?)(また、唇が…)  
(今度は優しい…)(あ……)(何回目だろ…)(見られてる…)(恥ずかしい…)  
クチュ、クチュ、と…何度も何度も唇が触れ合い、重なり合い…  
ヘルミーナの唇がユーディットの唇を蹂躙していく  
不快感は、あった が、それを消し去るものも確かにあった、と思う  
 
ファーストキスがディープキス それがヘルミーナのやり方だった  
唇と舌先で時間をかけて奪う、その方が印象に残ると思っていたから  
 
「フフ、美味しい…ファーストキスを女に奪われた味はどうだったかしら?」  
ユーディットのキスはファーストキス、というのはただの予想でしかなかったが  
唇から解放されて…俯いたままのユーディットを見ると、おそらくは間違いではないだろう  
…予想? それは願いではなくて…? まさか、ファーストキスを貰いたかった…?  
自分の中に残る甘ったるい考えを振り払うように、ヘルミーナは口を開く  
「薬のおかげで、今は私の事を好きになってるんでしょう?」  
(…違う! 私は、普通です…)  
「好きな人にファーストキスを貰われて、アナタも本心は喜んでるんじゃない?」  
(そ、それは…ヘルミーナさんが急に…)  
「私はアナタの事好きでも何でもないんだけど 惚れ薬って怖いわねぇ」  
(!?…………)  
 
キスの最中に、何時の間にか身体が寄せられている  
胸と胸が重なり合って…自分より少しだけ小さな胸を、圧迫していく……  
自分の胸に当る、小さな感覚を見つける…狙いを違えずにヘルミーナの指が「それ」を摘んだ  
「あら、キスだけで興奮させちゃったかしら? 案外、大きい方なのね…」  
服の上から、乳首を弄る…コリコリした感触を指先で楽しむように…  
(ヘルミーナさん、そこ、ダメです…!)  
何も言おうとしないのか、言えないのか…ヘルミーナにとってはかえって好都合なのだが……  
指先で突起を摘んだまま、手のひらで胸を揺すられる…ヘルミーナの手にも徐々に力がこもる  
「ほぅら、柔らかいわね…誰かに触られるのは、初めて?」  
(ああぁ…そうです、ヘルミーナさんが初めてなんです……)  
「もう何も言えないくらい、薬が効いてきているのかしら?」  
まだ口を開こうとしない ヘルミーナは構わずに、次のステップに進み始めた  
 
「私の事、好きなら……全部貰ってもいいわよね?」  
腹部から、その下…ヘルミーナの手が、服に滑り込んできた……  
 
手の位置と、「貰う」という言葉……女の子ならすぐに連想してしまうよね?  
服と、下着…その下……秘所の目の前まで、ヘルミーナさんの指が伸びてきた  
 
「薬を飲んでるから、私の事好きなんでしょ?」  
何度目かの、同じ内容の問い掛け 私、まだ何も言えない  
「どうせなら、アナタだって好きな人に捧げたいでしょう?」  
指が陰毛に絡め取られる…もう、すぐそこまで来ている・・・伸ばせば、届く……  
「アナタのバージン、私が貰ってもいいわよね?」  
その単語が出て…私の鼓動が早くなった……自分でもわかる……  
……ヘルミーナさんは……? 冷静なの……?  
「私は、好きでも何でもない子のバージン貰っても…何とも思わないけど、ね」  
ドキッとした 思わずヘルミーナさんの顔を覗き込み…口が開いた  
「なぁに?」  
「何も言わないなら、了承よね?」  
指が伸びる…入り口に当てられ、曲げられる……指先が尖っていく感覚がわかる……  
まだ、言えない…本心、本当の想い……  
ヘルミーナさんの指に力が入ってきているのが、わかる……  
どうして言えないの? まだ間に合う? このままでいい? いいの? ヘルミーナさんなら?  
 
何も言えないなら行動で示そう  
目を閉じて、身体を預けて…ヘルミーナさんを、受け入れよう……  
怖いのは多分、一瞬……好きな人となら、あっという間だよね……  
 
 
後は、本当にあっという間だった  
身体が離れ、衣服が正され…髪を撫でられて……すっと出ていって……  
「本当に好きになった人に捧げるものよ」  
その言葉だけが、まだはっきり耳に残ってる……   
 
調合器具と、参考書と、材料の残りの後片付け  
まさかあの人が急に来るとは…次は綺麗な部屋を見せたいからこそ、今片付ける  
随分と時間がかかったのは、今日1日の事が頭から離れないせいだろう  
「やっぱり、嫌われてるのかなぁ…」  
採集での例の一件があったとはいえ、普段はそっけない態度が当たり前  
「でも、あの時…優しかったな……」  
本当は優しくて頼りになるヘルミーナさん…私だけが知ってるあの人のあの姿…  
「こーいうの使っちゃおうとする事自体が間違っていたんだよ、ね?」  
自分自身に言い聞かせながら…机の上の小瓶…中身は空のものに目をやる  
「怒らせちゃったかな…? やっぱり、ストレートに行くべきだったよね」  
片付け終了、ベッドで丸くなるユーディット 目を閉じて、姿を思い出す  
「明日明日…明日からいつも通りに、ね……プラス思考が私の持ち味なのよ」  
まだ、今日の事が頭から離れない、らしい……自然と指が自分自身に伸びてくる……  
「ヘルミーナさぁん…私、ヘルミーナさんだったら、よかったんですよぅ…♪」  
 
 
「自分から委ねてくる子を堕としても、面白くないのよ…」  
(と、いうことにしておきましょうか…)  
さすがにやり過ぎたか……失敗だったか……どう思われてしまったのか……  
そして…あの惚れ薬は、誰に使われる物だったのか……  
頭から離れない 本に目をやっても、すぐに浮かんでくる……  
「馬鹿馬鹿しい ああいうムードは昔から苦手なのよ」  
イニシアチブは自分にある、生殺与奪、全て自分の手の上で思い通りにならないと気が済まない  
しかし、あれでは…相手の望む展開そのものではないか……  
私が望むのは、可愛いあの子を思い通りに……!? 可愛い、と感じた……?  
「また出会ったら、いつものようにそっけない態度を取るのが1番ね」  
(誰に対して1番なのよ ったく……)  
こういう自分自身とのやり取りは馬鹿馬鹿しい こういう感覚も馬鹿馬鹿しい  
 
読みかけの本を読破してから寝るつもりだったが、それにはまだ時間がかかりそうである  
違和感にケリをつけるのは自然に出会ってから 本を読みながらとりあえず問題の1つは片付けた  
 
(おしまい)  
 

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル