夜の悪戯  
 
 
 
外はどうしようもなく寒い。冷たい風が次々吹いてくる。  
「お〜寒みっ…」  
学校帰りのユズヒコ風の冷たさに耐えられず、家路を急いでいた。  
やっとの事でエレベーターの前まで辿り着く。  
扉が開いたとたん、急いで飛び乗り、ボタンを押して戸が閉まるのを待つ。  
 
「ふ〜っ…」  
やっと寒いところから逃れられたユズヒコはホッと一息ついた。  
エレベーターが着き、自分の家の前まで行く。鍵を取り出し、ドアを開けた。  
「ただいま〜!!」  
「お帰りユーちゃん、今ごはん出来たから着替えてきなさい」  
「はぁい…」  
言い、自分の部屋へ歩いていく。  
 
ふと視線をリビングへ移すと、姉が真剣にテレビを見る姿があった。  
(なに観てるんだ…?)  
しかしすぐまた視線を戻し、自分の部屋へ駆けていった。  
部屋へ入り、着替える。  
 
「ユーちゃん、ごはーん!」  
「はーい!いますぐーッ!!」  
ハンガーにかけられなかった制服、そのまま放り投げ再びリビングへ駆けていく。  
「ほら、席について。食べよ食べよ」  
母が上機嫌にそう言う。  
「みかーん!テレビなんか観てないでごはん!」  
「…あ、はい」  
母に呼ばれ、やっとテレビから離れたみかん。  
(ホントに何を観てたんだろか…)  
 
しばらく食卓で家族との会話が続く。  
そして思い出したかのように母はイキナリ口を開いた。  
「そうだみかん。食べ終わったら押入からお母さんのセーター出してくれない?」  
「えー?ユズに頼んでよー!」  
「何でオレ?」  
「そうよ断る理由なんてないでしょ?」  
 
そう言われて黙り込んでしまったみかん。  
「もー、いつもならイヤでも行ってくれるのに」  
「わかったよう…」  
言い、みかんは残りのご飯を口へ運んだ。  
飲み物を飲み干すと、カチャカチャと食器を片づけ始めた。  
 
後の者はゆっくりと食事を続けた。  
そして数十分後、皆が食事を終えた後…。  
 
「あれ?ねーちゃんセーター取りに行った?」  
「え、まだだけど」  
「行かないの?」  
「今すぐ行かなくても良いでしょ?」  
ピシャリときつい口調でみかんは言った。  
(???オレなんかしたか?)  
首を傾げながらユズヒコはその場を去った。  
 
「何してるのみかん、お母さんがお風呂から出る前にセーター出しておきなさいよ!!」  
「わかってるってば!もーっ」  
父は明日出張のため早く寝床についた。  
母はこれから入浴ということでリビングから出ていく。  
ため息をつき、みかんはセーターをとりに押入のある部屋へ向かう。  
 
だか、その部屋を通り過ぎ、弟の部屋へ向かった。  
みかんはゆっくりと部屋の扉を叩く。  
「どーぞ」  
中からの返事を確認し、みかんは部屋へ入った。  
「あ、あの〜」  
 
「何?」  
「やっぱりさ、ユズ行ってくれない?セーターとりに」  
「なんでだよ〜オレ今宿題やってんだからー」  
言い、ユズヒコはまた机へ顔を向けた。  
 
「じゃっ、じゃぁユズやらなくていいから一緒にきて…?」  
「は!?」  
聞き間違いじゃない。確かに一緒に来いと言われた。  
一瞬驚いたが、我に返りユズヒコは口を開いた。  
「一緒に行っても何にもなんないだろー?何言ってんだよー!!」  
 
「お〜ね〜が〜い〜っ!さっき…テレビで怖いやつ観ててさ…」  
みかんはユズヒコに事情を話し始めた。  
「その…怖くて一人で行けないの…だから、ねっ?」  
ユズヒコはやっと状況が読み込めた。  
同時に呆れたように口を開く。  
 
「…バッカじゃねーの?」  
「………」  
あんまりにも恥ずかしいのか、返事がこない。  
まぁ、気持ちは分からなくもないから、  
「いいよ」  
一緒に行ってやる事にした。  
 
「しっかしめずらしーな。そんなに怖かったの?その番組」  
「あ〜やめて!思い出すだけでもイヤだよー!」  
「はいはい」  
怖がる姉がなんだか面白くって、一緒に行くことを喜んだ。  
そして二人は押入のある部屋へ入る。  
 
「…あれ?これ、電気切れてるみたいだ。付かないぞ?」  
「え〜〜?やだー、余計怖い〜っ」  
「…なんのためにオレがいるんだよ?」  
仕方なく明かりなしで取ることになった。  
椅子を使って、上の方の扉を開く。  
 
「んっしょっと…」  
「大丈夫か〜?」  
「な…なんとか…」  
足を踏み外さないようにバランスを保つ。  
やっとの事で、セーターの入っているケースを取り出せた。  
ケースを持ち、降りようとしたその時。  
 
「う…わぁっ…!」  
ケースのせいで足下が見えず、椅子からケースごと落ちてしまった。  
洋服の入った重いケースが落ち、やかましい音を立てる。  
「いたたたた…」  
「だ…大丈夫か?」  
 
何とか下で椅子を支えていたユズヒコが落ちそうになった所を受け止めてくれたおかげで、みかんは無事だった。  
「あ〜、やっちゃった〜…」  
ユズヒコの腕の中でそう呟いた。  
「ねーちゃんは無事?」  
「ああ、うん。ありがと」  
 
そう言い、みかんはユズヒコから離れようとした。  
「実はコレ、幽霊の仕業だったりして〜?」  
「いやぁっ、もう!やめてよ〜」  
「…相当怖かったみたいだな…」  
 
ちょっとした冗談なのに、みかんは飛び上がってまたユズヒコの腕の中にうずくまる。  
「ほーら。今ねーちゃんの後ろに何かいるぞ〜!」  
「やめてったらもー!!」  
「今まで言わなかったけど、オレ幽霊見たことあるんだぜ?」  
「〜〜〜っ!!!」  
 
すべて冗談だと分かっていても、思い出せばやっぱり怖い。  
みかんは自分の弟の腕の中から抜け出せなくなっていた。  
「ユズのバカ。今夜寝れなかったらユズのせいだよ!」  
「何とでもおっしゃいませ」  
 
やっぱり怖がる姉が面白くて、  
なんだか可愛くて、  
ちょっとした悪戯も、エスカレートしていく。  
 
「…!?ひゃっ!」  
突然みかんの体に冷たい何かが触れた。  
「なっ…何!?」  
「さー?なんだろうね?」  
言いながら、ユズヒコはより深く両手をみかんの服の中に入れる。  
 
「ちょっ、やだやだ!手抜いて、冷たいよ…っ」  
「すぐ慣れるだろー?」  
「慣れたくなんかないっ!!」  
体中を撫で回す手。背中の方まで伸びてくる。  
「や…いや…」  
 
しかし自分が言う事とは裏腹に、冷たさにだんだん慣れていった。  
撫でられるたび、快感が体中に広がる。  
「ひっ…う…ん」  
「気持ちいい?」  
「……っ……」  
「コレが幽霊の手だったらどうする?」  
「!!?」  
 
相変わらず冗談が耐えない。  
しかしみかんは初めて味わう感覚に酔い、自分を保つのが精一杯だった。  
「よいしょ…っと」  
ユズヒコは少々身を乗り出し、みかんの首筋を舐める。  
「んんっ…!」  
急な事にみかんは驚き、ユズヒコにしがみついた。  
 
「ごめん、びっくりした?」  
自分の耳元で聞こえた声。  
周りが暗く、よく見えないが、声でだいたいどこにいるのかは分かった。  
「やめて…よぉ…」  
相変わらず手が服の中で踊る。そこから生み出される快感を必死でこらえながらみかんは言った。  
「ホントに?やめてほしい?」  
 
ユズヒコのその問いかけに、みかんは戸惑った。  
「やめていいの?」  
もう一度ユズヒコは聞く。  
それでもみかんは答えなかった。  
そしてみかんが戸惑っている間にユズヒコは服から右手を抜き、みかんの左肩の服をずらした。  
ずらした所から、肩が露わになる。  
 
そしてそこをユズヒコが舌でなぞった。  
「ひっ…」  
またそこで生み出された感覚に驚き、ユズヒコの服をギュッと掴む。  
そしてそこにユズヒコはキスを落とす。  
「やめてほしくないだろ?」  
 
そう言い、また首筋にキスをした。  
「う…ん」  
頷きながら、みかんは言った。  
一度覚えた快感は、もう頭から離れない。  
みかんは服を掴んでいる力を強めた。  
(もう…どうしようもないよう…)  
 
「ほら、こっち向いてくれなくちゃ」  
そう言われ、ゆっくりとみかんは顔を上げる。  
そしてユズヒコは額にキスを落とす。  
(あーもー…自分勝手なんだからっ…!)  
みかんはそう頭の中で言うが、やっぱり逆らえなかった。  
 
「ハイ、口開けて」  
「えっ…!?」  
「だーら口開けろっての…」  
開こうとしないから、体を刺激して声をあげさせた。  
声をあげた時、口が少し開く。そしてそこへ人差し指を滑り込ませた。  
 
「う…んっ…ん」  
指を避けようとするが、ユズヒコはわざと指を舌に絡ませる。  
「ひ…んぅ…」  
何とも言えない感触が舌を伝う。もうしばらく指を中で踊らせた後、ゆっくりと引き抜いた。  
「んぁ…」  
指の先に、細い糸がが引かれる。  
 
もう完全に酔わされていて、頭の中がボーっとする。  
されるがままになっていて、もうどのくらい時間が経ったか分からない。  
ただ、同じ所を何度も刺激され、体が言う事をきかなくなってしまっている事だけは分かっていた。  
あともう少しだけこのままでいたいとも思うけど…。  
 
ガララ…  
 
 
脱衣場の戸が開かれる音が耳にまで届き、みかんはハッと我に返る。  
「今の…お母さん…?」  
「そうみたい」  
「う…そ、ここにきちゃうよ…私お母さんが出るまで洋服出さなきゃならなかったから…」  
酔いきった体をなんとかユズヒコから引き離しながらみかんは言った。  
「だって今ここにお母さん来られたら、まずいでしょう…?」  
 
「みかーん!まだなの?どこにいるのー!?」  
母が自分の事を呼んでいる。これではいつここに来られてもおかしくない。  
 
え?え?、って事は今日はここでお開き?  
 
ユズヒコが自分に問いかける。  
 
こんな事なら焦らさなきゃよかったなぁ…。  
 
頭の後ろをかきながら、すこし後悔するユズヒコ。だが今更悔いても、後の祭り。  
「えっと…その…」  
みかんはケースからセーターを二、三枚取り出しながら言う。  
そして顔をあげ、ユズヒコの方へ視線を向け、  
「ごめんね」  
と一言残し、みかんは部屋を出た。  
 
ごめん?ねーちゃんが謝った??何で???  
 
普通、謝るべき立場は悪戯をし始めた自分なのに、何で?  
最後まで出来なかったから?だから謝ったのか??  
疑問を抱えたまま、ユズヒコもその部屋から出た。  
 
 
〜次の日〜  
 
 
ユズヒコはリビングのテーブルで読書をしていたところを、姉に止められた。  
「あのね…」  
耳もとでみかんは話し始めた。  
「今日、お母さん達出かけるから、夜まで留守番だってさ…」  
そう言い残し、みかんはさっさと自分の部屋へ行ってしまった。  
 
え?もしかして今のってお誘いですか???  
昨日できなかったから?そうなの???  
頭の中でそう言うが、誰も聞こえるはずがない。  
 
とにかく早く両親が出かける時刻にならいか、待ち遠しい気持ちになるユズヒコだった。  
 
 
終。  
 
 
 

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